16 剣の紋章
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旅の支度をすると言うマリアンヌ姫より一足先に、俺は城を出た。
「「ユーリ!」」
そこへ、聞き慣れた声が耳に届く。
エリスとテッサ姉だ。
2人は俺が国王陛下に召喚されたと聞いて、心配になって来てくれたらしい。
これもゲーム通りだった。
「エリスから聞いたんだけど、聖剣に選ばれたって本当なの!?」
「うん、そうみたい。これが聖剣」
そう答えて聖剣を見せると、テッサ姉はふらっと体勢を崩した。
それを俺は慌ててテッサ姉を支える。おっと、危ない。
「ユーリ……じゃあ、魔王と戦うの?」
俺に支えられながら、潤んだ瞳でテッサ姉はそう言ってくる。
「ちょうど国王陛下とはその話をしてたんだ。聖剣に選ばれて【剣の勇者】になったからには、魔王を倒さないと。世界の平和のために」
世界の平和のために。
テッサ姉たちとのハーレムを作るという目的もあるけど、これは俺の嘘偽りのない本心だ。
この世界は今の俺にとっての現実だ。
それが、魔王によって脅かされるなんて許せない。
俺に魔王を何とかする力があるなら、全力で立ち向かいたい。
「じゃあ私も行く!」
「テッサ姉……」
「お姉ちゃん、12年前にも言ったよね? お姉ちゃんはユーリと一緒に生きるし、一緒に死ぬんだから!」
そう言って、テッサ姉は涙目で俺にしがみついてくる。
「アタシもついていくわよ」
「エリス……」
「ユーリが【剣の勇者】なら、ううん、【剣の勇者】じゃなくても、アタシはユーリと一緒に戦ってユーリを守れるように強くなったんだから」
俺の目をしっかりと見て、毅然とした様子で伝えてくるエリス。
本当なら、危ないからついてこないでくれと言うべきところかもしれない。
でも、2人の言葉に俺は、胸が温かくなるのを感じた。
ここで2人が魔王討伐の旅についてくると言い始めるのはゲーム通りだ。
だけど、そのセリフは微妙に違ってきている。
やはり、現実になったことと、これまで2人と絆を作ってきたことで、良い方向に変化が生じているのだろう。
「でもテッサ姉は留守番してたら? 教会のシスターなんて、魔王討伐の旅には向いてないんじゃない?」
「私は回復魔法があるからユーリが怪我してもすぐに治せるわ。でも、物理戦闘職なら【剣の勇者】のユーリがいるんだし、むしろエリスこそ残ったら? 騎士団で隊長になったんだからお仕事忙しいでしょう?」
かと思ったら、ニコニコと互いをけん制しあう2人。
互いの視線の間にバチバチと火花が散っているように見える。
ゲームから変化が生じてるのはいいけど、12年前からこういう小競り合いというか、俺をめぐっての諍いが絶えないのは困ったものだ。もうちょっと仲良くしてほしい。
……はぁ。こんな言い方はあれだけど、2人とのフラグ管理、間違えたかな。
「お待たせいたしました、ユーリ様」
俺が人知れずため息をついていると、着替えてきたマリアンヌ姫が城から出てきた。
先ほどまでのきらびやかなドレスとは違い、今の装いは円錐形のとんがり帽子とローブ、そして大きな杖……魔法使いのそれだ。
マリアンヌ姫のゲームの初期装備として親友がデザインした通りの格好だ。
マリアンヌ姫の職業は賢者だと言っていたが、賢者は魔法使い系統であり、基本的には同じものを装備できる。
そういう意味では、現実になったこの世界でも、賢者も魔法使いも初期装備は変わらないのだろう。
俺的には先ほどの胸が開いたドレスもいいけど、親友が力説してたな……普段露出が低い子が寝取られて露出が高くなるのが最高なんだって。まぁわかるけど。
「ユーリ……その人ってまさか」
「マリアンヌ姫殿下!?」
現れたマリアンヌ姫に、テッサ姉とエリスが驚いて跪く。俺も同じく跪いた。
2人が驚くのも無理はない。
いきなり国の姫が現れて、俺に声をかけているのだ。
「ユーリ様、そちらのお二方は?」
「私の義姉と、幼馴染です。義姉のテスタロッサは教会のシスターを、幼馴染のエリスは騎士団の小隊長を務めています。どうやら俺を心配してきてくれたようで」
「そうでしたか。ご家族とご友人に恵まれているのですね、ユーリ様」
「はい。この2人は、私のかけがえのない存在です」
「「かけがえのない存在……」」
後ろから、テッサ姉とエリスの感動しているような声が聞こえた。
「ふふ……でしたら、魔王を一刻も早く倒さなければいけませんね。顔をあげてください、ユーリ様。わたくしはあなたの仲間なのですから」
「しかし……」
「わたくしたちは旅の間、姫と国民という立場は忘れ、ただの【剣の勇者】とその仲間として過ごしていただけませんか?」
そのマリアンヌ姫の言葉に、黙っていられない者たちがいた。
「仲間!? それに、ユーリ『様』!?」
「ちょっと、どういうことなのよ、ユーリ!」
「姫殿下と一緒に旅をするの!? お姉ちゃん以外の女の子と2人っきりなんてダメよ! それならお姉ちゃんもついていく!」
「アタシだってユーリの仲間でしょ!? 一緒に行っていいわよね!」
言うまでもなく、テッサ姉とエリスだ。
そんな2人の言葉に応えたのは、俺ではなくマリアンヌ姫だった。
「いけませんわ! 危険すぎます!」
「それならば姫殿下も危険ではありませんか? 失礼ながら、騎士団の小隊長の自分のほうが適任ではないでしょうか?」
「わたくしはいいのです。こう見えても賢者の職業についていますわ。魔法にはそれなりに自信があります。それに、わたくしは【剣の勇者】の仲間として選ばれたのですから」
「選ばれた……と言いますと?」
聞き慣れない言葉に、テッサ姉が首をかしげる。
「かつて魔王を倒した【剣の勇者】様と【槍の勇者】様には、それぞれ心を通じ合わせる仲間がいました。その仲間たちには、体のどこかに紋章があったと伝えられています。そして、わたくしには剣の紋章が浮かび上がっているのですわ」
「……剣の?」
「紋章……?」
「ええ。ですから、わたくしはノナリロ王国の姫ではなく、【剣の勇者】であるユーリ様の仲間の賢者として、一緒に魔王を倒す旅に出るのです。他にも紋章が浮かび上がっている仲間がいるはずですわ、ユーリ様。まずはその仲間を探しましょう」
マリアンヌ姫の言葉に、テッサ姉とエリスが反応する。
「あのー……マリアンヌ姫殿下」
「何でしょうか?」
「それって、こんな紋章でしょうか? いつの間にか体にあったんですが」
テッサ姉がシスター服のワンピースのボタンを外し、胸元をはだけさせる。
そこには、マリアンヌ姫の太ももに浮かび上がっていたものと同じ紋章が浮かんでいた。
「なっ――! あなたも【剣の勇者】の仲間ですの!?」
「やっぱり! ユーリ! これでお姉ちゃん、ついていけるよ!」
驚くマリアンヌ姫と、はしゃぐテッサ姉。
それをよそにエリスが俺に耳打ちする。
「ねぇ、ユーリ……ちょっと来て」
俺はエリスに引かれて路地裏に入る。すると、エリスはホットパンツを脱いだ!
「ちょ、エリス! 何を――!?」
言いながら、俺はエリスが何をしようとしているのか……いや、何を見せようとしているのか察していた。
彼女のお尻には、マリアンヌ姫やテッサ姉と同じ紋章が現れていた。
っていうか、エリスってやっぱり現実でもゲームと同じでTバック穿いてるんだな……すげぇエロい。
「これは……あなたにも剣の紋章が!?」
「なんだ、エリスにも出てたの……」
「きゃあっ!」
いつの間にかマリアンヌ姫とテッサ姉も路地裏に来て、エリスの紋章を見ていた。
慌ててエリスはホットパンツを穿き直す。
「こ、コホン……ユーリが聖剣を見つけた後、いつの間にか現れてたんだけど、やっぱりこれが剣の紋章なのね」
「ええ……わたくしの体に現れた紋章と同じですわ。ということは、エリス様とテスタロッサ様もわたくしと同じ、【剣の勇者】様の仲間ということですわね」
「やった! これでユーリと一緒に行けるんだね!」
嬉しそうにテッサ姉が抱きついてくる。
「ああ……でも、この旅は本当に危ないんだ。それでもついてきてくれる?」
「当たり前じゃない! お姉ちゃんはユーリとずっと一緒なんだから!」
「アタシだって。ユーリが剣ならアタシがユーリの盾になるんだから!」
「テッサ姉、エリス……うん。俺たちで魔王を倒そう……そして世界を平和に導くんだ! そのために、力を貸してくれ」
「うん!」
「よろしく!」
「2人のこと、俺が絶対に守ってみせるから! そしてマリアンヌ姫。あなたのことも、必ずお守りすると約束いたします」
「ありがとうございます、ユーリ様」
ついにここまで来た……。
聖剣を見つけて【剣の勇者】になり、ヒロイン3人が仲間になる……。
ゲームのシナリオと多少の違いはあるものの、ここまでは基本的に一本道だ。
しかし、ここからプレイヤーは主人公たちを操作してエンディングを目指す。
ここからはヒロインたちが寝取られるのも、寝取られずにハーレムを作るのも、俺の動き次第なのだ。
モンスターの危険から3人を守るのはもちろん、寝取りキャラの毒牙からも守ってみせる。
本当の勝負はここから始まる。
ついに3人のヒロインがユーリくんの前にそろいました!
女の子が3人もいると会話が華やかになります……。
よかったら感想で「テッサ姉かわいい!」などと褒めて下さると嬉しいです!
次回は明日(7/23)の午前7時に更新予定です。
マリアンヌ姫と仲良くなるお話です。
【こぼれ話】
各紋章はそれぞれの「弱点」に浮かび上がります。