12 【剣の勇者】
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俺は晴れてエリスのいる騎士団に入ることができた。
入団テストの時に副長を倒した俺だけど、騎士団の規定ということで最初は下っ端からのスタートだ。
そして、さっそく俺は最初の任務で出撃することになった。
王都の近くにある古い神殿にモンスターが目撃されたからそれの退治だ。
ゲームではそこで俺は聖剣を見つけ、【剣の勇者】になる。
ここまではゲーム通りだからいいんだけど……。
「おい、アイツが例の……」
「ああ。アンバー副長を一撃で吹き飛ばしたって奴だろ?」
「エリス隊長の幼馴染で、ずっと一緒に訓練してたらしいぞ」
「あの鬼神と!?」
「嘘だろ、それじゃあどんだけ強いんだ……」
やっちまった……。
この世界では、ゲームのようにステータス画面を開いてレベルやスキル練度を知るようなことはできない。
当たり前だ。現実なのだから。
だからこの世界ではレベルやスキル練度を知るには鑑定スキルが必要ってことになっていた。
だけど、自分よりもレベルが高い人を鑑定するには、相当な練度が必要なんだ。
俺の街にも鑑定スキルを持ってる人はいたけど、みんなレベル1だったし、そこまで練度が高くなかったからなぁ。本来、鑑定スキルはレベルを調べるためのものじゃないっていうか、むしろレベルを調べるのは珍しいほうだ。日常生活で使われるのがほとんどだった。
俺が鑑定スキルを持って自分で調べればよかったんだけど、それより錬金術スキルの練度を上げるほうを優先させてた。
そのせいで、俺は自分のレベルがどれくらいなのか知らないまま、このタイミングまで来てしまったんだ……。幸い、騎士団には練度が高い鑑定スキル持ちがいたから、調べてもらえた。
エリスも、2年前に騎士団に入団した時に自分のレベルが周りよりもだいぶ上だってことに気づいたらしい。
当時のエリスでもレベル99。ってことは、テッサ姉もたぶん99だよな……。
ちなみに俺がゲームで設定した最高レベルは99だ。つまりカンストしてる。
……もうこれ普通にクリアできるんじゃない?
いちおうテストプレイした時は魔王倒したのレベル40くらいだよ。
肉欲のゴーシュなんてレベル20で楽勝ってくらいのバランス。
それなのに俺カンストしてんじゃん。
これなら最初の負けイベントでゴーシュを倒しちゃうって計画もいけるんじゃないか?
もしゴーシュを倒せなかったとしても、レベリングは必要ないし、テッサ姉の寝取られルートは確実に回避できる。
周りからめちゃくちゃ注目されて視線が痛いっちゃ痛いけど、当面の目標はクリアできたんだ。
あとは【剣の勇者】になってヒロインの3人を守りながら魔王を倒すだけだ。
「初陣ね、ユーリ」
そんなことを考えていると、エリスがやってきた。
これもゲーム通りだ。
騎士団の中にいくつもある小隊のうち、エリスはそのひとつを任されている。
俺が入った小隊とは別の小隊だが、初任務ということで心配して声をかけにきてくれたというのがゲームのシナリオでの出来事だった。
「何かあったら、ユーリが隊のみんなを守ってあげてね」
「ははは……了解」
どうやらこの世界だと心配してくれない様子だ。
まぁ心配されるほど俺のレベルが低くないのは確かだけど。
「ただ、ちょっと不思議なのは、どうしてこの神殿にこんなにモンスターが現れるようになったかなのよね……」
「そうだね……」
エリスの手前、俺はそう返事をするが、その理由は知っている。
この神殿に眠っている聖剣を恐れて、魔王がモンスターを送り込んでいるのだ。
「ユーリは大丈夫だと思うけど、妙な状況に変わりはないから気を付けてね」
「わかってるって。エリスも気を付けて」
そう言って、俺たちは別れて持ち場についた。
ついに【剣の勇者】になる時が来た。
* * *
俺の所属する小隊は神殿の中を慎重に進んでいた。
小隊ごとに神殿のあちこちでモンスターを狩ることになっていて、俺たちは神殿の中の南側のあたりを担当している。
神殿のあちこちの部屋を見て回り、モンスターがいないか確認し、いたら倒すというのが仕事だ。
なつかしい……というのも変な話だが、ついにこの場所に来たか。
ここは聖剣を手に入れる場所であり、また、ゲームのシステムを説明するためのチュートリアルをする場所でもある。
チュートリアルの場所なだけあり、出てくるモンスターはスライムとゴブリンだけの設定だが、もしかしたら他の強いモンスターがいるかもしれない。
それに、レベルが高い俺はともかく、他の隊員のレベルは低いからモンスターに襲われないように気を付けないと。
しかし、そんな俺の懸念をよそに、出てくるモンスターはスライムやゴブリンばかり。
俺は見つけたそばからモンスターを倒していった。
「す、すごいな、お前……」
「もうお前ひとりでいいんじゃないか?」
「こら、お前たち! ユーリだけに丸投げするんじゃない!」
「ははは……」
軽口を言う隊員が小隊長に怒られるけど、それは俺もそう思う。
そんなふうにモンスターを倒しながら進んでいくと、突き当りの扉に行き当たる。
ここだ。
この扉の向こう側に、聖剣が封じてあるはずだ。
俺たちは慎重に扉を開ける。
そこは祭祀場のような部屋だった。
何かを捧げるような台と、使われなくなって久しいだろう燭台が部屋の中にいくつも並んでいる。
そして部屋の奥には、古びた剣が祀られていた。
「モンスターは……いないようだな」
小隊長が言う。
この部屋の中にモンスターがいないのは、部屋に入った瞬間にわかった。
そこは神聖な気配に満ちていた。聖なるものを嫌うモンスターが入れるはずがない。
その気配を放っているのは、間違いなくあの剣だ。
「あ、おい! ユーリ!」
俺は吸い寄せられるように祀られている剣に近づく。
――勇者よ。待っていた。さぁ、その剣を取るがいい……。
頭の中に声が響く。
「な、何だよこの声!?」
どうやら他の隊員たちも聞こえているようだ。
――魔王が復活した。この剣を取り、かつての【勇者】のように魔王を倒してくれ。
「ま、魔王!?」
「魔王って、あの大昔に【剣の勇者】と【槍の勇者】によって倒されたっていう、あの魔王か!?」
「た、大変だ! 国王陛下に報告しないと!」
ゲームのシナリオ通りだ。
ここで他の隊員もこの声を聞いたことで、俺が聖剣に選ばれたということや魔王が復活したことが報告され、俺は魔王を倒すための旅に出ることになるのだ。
そういえばこの声の主が何者だったのか、シナリオで回収するの忘れた……。
ま、まぁおそらくは神とか聖剣の声とかそういうのだろう!
俺は細かいことを気にすることはやめ、声の通りに剣を手に取った。
「…………っ!」
すると、錆びだらけだった剣が光り始める。
そして光が収まると、そこには金色に煌めく一振りの剣があった。
これが……聖剣。
俺が【剣の勇者】となった瞬間だった。
* * *
よし。あとは戻ればいいだけだ。そう思って祭祀場を出ると、
「ソノ剣、ヨコセ!」
さっき俺たちが通ってきた廊下に、異形の影があった。
「モンスター!?」
「しかも、言葉を話してる……!」
「まずい! 上級のモンスターだ!」
「グゲゲ、ソノ剣ハ魔王サマノ邪魔トナル。破壊スル……」
「ま、魔王!」
「さっきの声の言う通り、本当に魔王が復活したのか!」
あー、そういえばいたな。ボスモンスター。
最初は苦戦するっていうか全くダメージを与えられないんだけど、途中で聖剣を使えって声がして、聖剣を使うと一撃で倒せるんだ。
いわゆる、チュートリアルの仕上げ的な戦闘だ。
にじり寄るモンスターの姿を見ながら、ふと疑問を持つ。
……レベル99でも倒せないのかな?
ダメージを与えられなかったのはゲームのシステム的な都合だ。
このモンスターはちょっと話が進むとそこらへんで出てくるモンスター……ミドルゴブリンだから、このイベント以外では普通にダメージが与えられる。もちろんそれなりのレベルが必要だが。
それなら、現実になってるこの世界でなら、聖剣を使わなくても倒せるんじゃないか?
これは一種の実験でもある。
旅立ち直後の、肉欲のゴーシュとの戦闘。
これはゲームでは負けイベントで強制的に負けてしまうけれど、俺はその戦闘の前にレベルを上げて負けイベントを覆そうと思っている。
だけど、もしこの戦闘でゲームの都合が優先されてダメージが与えられないのであれば、きっとゴーシュ相手でも同じように強制的に負けてしまうだろう。
もっとも、そこで負けても今の俺たちならすぐにゴーシュの居城まで行って倒せるとは思うが。
よし。試してみるか。
俺は剣――聖剣ではなく騎士団で支給されている普通の剣だ――を抜くと、おもむろにミドルゴブリンとの間合いを詰める。
「お、おいユーリ!」
「危ないぞ!」
そして、剣をミドルゴブリンめがけて一閃。
「グゲッ……!?」
一振りで首を切り飛ばされたミドルゴブリンは、呻き声を出して消えていった。
素材である角を残して。
おー、いけたいけた。よかった。
これで肉欲のゴーシュも倒せるんじゃないか?
あんぐりと開いた口がふさがらない小隊のみんなと対照的に、目論見が成功した俺は安堵するのだった。
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次回は明日(7/19)の午前7時に更新予定です。
あっさりと偵察役がやられた魔王サイドのお話です。