10 ハーレムルート突入?
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それから俺とエリスは、モンスターと遭遇することなく無事に森を抜けることができた。
その頃にはエリスも歩けるようになっていて、エリスをおぶった姿で街に戻らなくて済んだと安心したんだけど、本当に大変だったのはそこからだった。
テッサ姉が家事の手伝いを終えていつもの訓練場所に行くと、そこには当然俺たちの姿はなく、しかも街の外に向かったエリスを見たという人がいたものだから、それは大層な騒ぎになっていたのだ。
俺たちは当然、大目玉。
帰ったらテッサ姉の前で俺とエリスは床に正座させられた。
「ユーリにエリス。何かお姉ちゃんに言うことあるんじゃない?」
そう言ったテッサ姉の顔は今まででいちばん怖い顔をしていた。
「ねぇエリス……お願いがあるんだけど」
「何?」
「いっしょにテッサ姉に謝ってくれない?」
「そうね……」
俺たちは即座に平謝りしたが、許されるはずもなく、それから小一時間ほどテッサ姉の説教を受けたのだった。
* * *
「それで? どうしてユーリは森に入ったの?」
説教が終わって正座から解放されたものの、テッサ姉はそこに言及した。
そりゃそうだ。そこは誰でも気になることだろう。
「あ! それ、アタシも知りたい!」
テッサ姉に便乗する形で、エリスも声を上げる。
「最初は錬金術の素材を探しに行ったのかなー、って思ったけど、違うよね? モンスター倒してたし」
「モンスター?」
「あっ……」
「ユーリ! モンスターを倒したってどういうこと!?」
エリス……余計なこと言わないでくれ。
さて。どうしたものか。
さっきエリスに理由を聞かれた時も思ったけど、まさかテッサ姉とエリスの寝取られを回避するためだなんて本人の前で言えるはずもない。
でも、何も言わずにこの場を切り抜けられるとも思えない。
それに、俺はこれからもモンスターを倒してレベルを上げていく必要がある。
だから俺は――
「理由は……言えない」
「ユーリ!」
「だけど、俺はレベルを上げなきゃいけないんだ! それも、できるだけ。だから……」
言い切る前に、頬に衝撃を感じた。
それがテッサ姉に平手で打たれたのだと気づいたのは、テッサ姉の泣きそうな顔を見た時だった。
「モンスターって危ないのよ! 死んじゃうかもしれない! ユーリが死んじゃったら、私…………」
テッサ姉のあまりの剣幕に、隣に座るエリスもひるんでいた。
当然だ。俺が前世の記憶を思い出したこの半年でも、その前の記憶でも、テッサ姉がここまで激情的になるところは覚えがない。
いつも穏やかで、俺たちがケンカしたりして怪我しても「しょうがないわね」と優しく笑って回復魔法をかけてくれていた。
そんなテッサ姉が本気で怒って心配している。
それが打たれた頬の熱さから、テッサ姉の表情から、痛いほど伝わってくる。
「ねぇ、ユーリ。ずっと守ってくれるって言ったよね。だからレベルを上げて強くなろうって思ったのかもしれないけど、レベルを上げなくても一緒にいてくれればお姉ちゃんはそれでいいの。もしユーリが死んじゃったら、私……」
テッサ姉が涙目で俺に訴えかける。
「お姉ちゃんをひとりにしないで……」
「ごめん、テッサ姉……テッサ姉をひとりにしないためにも、必要なことなんだ」
テッサ姉の言葉に、俺は少し怯んだけど、それでも結論は変えられない。
今はまだ何も話せないけど、一緒にいるだけじゃ守れないことがあるんだ。
「テッサ姉には心配かけるかもしれない……けど、約束するよ! 俺は、絶対に死なないし、絶対にずっとテッサ姉を守るって!」
「そう……どうしてもユーリはモンスターを倒しに行くのね?」
「うん」
テッサ姉の言葉に、俺は頷く。
それを見て、テッサ姉は諦めたように大きく息を吐いた。
エリスはというと、ずっとあわあわしていた。
……嫌われちゃったかな。
理由は言えない、心配はかける、だけど必要なことなんだって言われたら呆れられてもおかしくはない。
でも、それもいいかもな。
ここで俺が嫌われたら、きっとテッサ姉は俺が【剣の勇者】に選ばれてもついてこないかもしれない。そうしたら肉欲のゴーシュに目をつけられて魔族に堕ちることもない。
ハーレムルートに進むことはできないが、そこでテッサ姉が幸せを見つけられるなら俺は満足だ。
だけど、
「わかったわ、ユーリ。それならお姉ちゃんもついていきます」
「え!? テッサ姉!?」
どうしてその結論になったの!?
「待ってよテッサ姉! 森の中はモンスターがいて危ないんだよ! 死んじゃうかもしれないんだよ!」
「ユーリ、それテッサ姉がアンタに言ったことと同じじゃない……?」
そうだけどさ!
「ねぇ、どうせユーリは、お姉ちゃんが反対しても森に行くよね?」
「…………」
テッサ姉のその問いへの答えは、当然YESなんだけど、それを堂々と言う度胸は俺にはなかった。黙っていると、かまわずにテッサ姉は続けた。
「ユーリが森にひとりで行って、もし何かあったら私はどうすればいいの? そんなの耐えられないよ。だから、私も一緒に行く。ユーリが怪我したら回復魔法で助けてあげられるし、それに、万が一、ユーリがモンスターに殺されたら、私も一緒に死ぬ」
「えっ……」
ちょっと、テッサ姉?
「私はユーリとずっと一緒に生きるし、死ぬ時も一緒よ。いいわよね? だって、ずっと守ってくれるって言ってたもんね」
そう言うテッサ姉の目はマジだった。
「それじゃあアタシも行くからね、ユーリ」
「エリス!?」
突然の横からの飛び火に、俺は驚いて声を上げる。
「さっき言ったじゃない。アタシも一緒に戦いたいって」
「それは……」
え、それって訓練で強くなるって話じゃなかったの?
レベル上げに一緒に来るって話だったの?
「アタシだって、ユーリがいきなりいなくなったら嫌なの! 今はユーリのほうが強いけど、それでもアタシはユーリを守りたいの! だから一緒に行く!」
「だから危ないって!」
「大丈夫よ。だって、ユーリはアタシのこと、絶対に守ってくれるんでしょ?」
「それは……」
あまりの展開に、俺は思考が追い付かない。
12年後、ゲームのストーリーが始まった時にテッサ姉とエリスもレベルが上がっていれば、すごく助かるかもしれない。けど、そのために危険にさらすというのは……。
俺はいいんだ。死んでもそれまでだから。
だけどテッサ姉とエリスは違う。
もしゴブリンに捕まりでもしたら、死ぬまでゴブリンの巣で……。
どうやって2人を説得しようかと考えるが、それこそテッサ姉が俺に言ったように、反対しても俺が森に行けばついてくるだろう。
俺と離れている間に襲われたりするなら、最初から俺と一緒にいてもらうほうが守れるし、いい……のか?
「……わかったよ。2人とも、一緒に行こう」
俺は悩んだ末、そう答える。
すると、テッサ姉とエリスの2人は揃って頷いた。
「うん……お姉ちゃんもずっと一緒だよ」
「ユーリはアタシが守るからね」
モンスターとの戦いは危険だし、本当は俺が圧倒的に強くなることで、テッサ姉もエリスもマリアンヌ姫も守れるようになろうと思ってたんだけどな……。
遅かれ早かれ、12年後にはテッサ姉もエリスも俺と一緒に魔王討伐の旅に出るんだ。
そのために、連携ができるようになっておくのも悪くない……と思うようにしよう。
本当は危険に晒したくないんだけどな……。
そんなことを考えていると、
「ところでエリス? さっき、ちょっと聞き捨てならないことが聞こえたんだけど」
「なぁに、テッサ姉。何を聞きたいのかはだいたいわかるけど」
な、何だ? なんだかテッサ姉とエリスの間の空気がピリピリし始めたぞ?
2人とも、顔は笑ってるのに目が笑っていない。
「ユーリはね、私のことを守ってくれるって言ったのよ。エリスには言ってなかったけど、ユーリは私が奴隷商人に奴隷にされそうになった時に守ってくれたのよ。カッコよかったわ」
「へ、へー……そうなんだ。でも、テッサ姉ってユーリのお姉ちゃんでしょ? 家族だから守るってだけなんじゃない? それより、アタシはね、ゴブリンに襲われてる時にユーリが守ってくれたのよ! ゴブリン相手に戦うユーリ、カッコよかったな~」
「…………」
「…………」
言い切ると、2人してにらみ合う。
俺はその様子をおっかなびっくり見ていたが、いきなり2人は俺のほうを向いて、
「「ユーリはどっちを選ぶの!?」」
そんなことを言ってきた。
こ、これは……!
忘れもしない、純愛ルートで好感度が高いヒロインたちが複数いる場合に起きるイベント――告白イベントのセリフだ!
なんてことだ。
ゲームが始まる前から告白されてしまった。
ゲームならここでどちらかを選ばなければならないわけだけど……え? 俺、ハーレムルートを目指すんだけど? ここで選んだら詰みじゃない?
「ユーリはお姉ちゃんのこと、選んでくれるわよね?」
「テッサ姉はユーリのお姉ちゃんでしょ! 姉弟は結婚できないってお父さん言ってたよ!」
「あら。実は私とユーリは血がつながってないのよ。だから結婚できるの」
「えー! 何それ! ずるい! それなのに一緒に住んでるの!?」
「テッサ姉、エリス……ちょっと落ち着いて」
「「ユーリは黙ってて!」」
「はい……」
結局その日は、6歳なんだから恋愛なんてわからないよねという結論にテッサ姉とエリスが落ち着き、もっと大人になったら選んでねという話になった。
うわー、やっべ……俺、ただのクズムーブじゃん。
* * *
それから俺たちは、ちょくちょく大人たちの目を盗んで森に行き、モンスターを倒すようになった。
最初こそ、集団で行動するゴブリンは避けたり、奇襲で倒すなど、できる限り危険を減らしていたが、俺たちがレベルアップしていくにつれて集団相手でも勝てるようになっていた。
やはりこの森にはゲーム通り最弱レベルのモンスターしかいないらしく、3人で互いにカバーしあってモンスターを倒し、どんどんレベルを上げていった。
そして、俺が前世の記憶を思い出してから12年が経ち……
ついに俺は、ゲームの始まりの日を迎える。
これにて「幼少期編」は終了です。
当初の予定では幼少期編は1万文字くらいでさくっと終わらせる予定だったんですがね……。
次回から「旅立ち編」です。ついにゲームが始まります。
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次回は明日(7/17)の午前7時に更新予定です。
【こぼれ話】
このあたりの時期から、街の若い独り身の男どもはテッサを狙うのをやめてます。
ユーリラブなのが丸分かりだからです。