表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
贋作の火  作者: gojo
17/18

インサート④

+ + + + + + + + + + +



薄暗い応接室。カゲがソファに座っている。向かいの席にはカゲの父親がいて、穏やかな表情を浮かべている。



父親:また不合格だったみたいだな。


カゲ:うん。これで全部の大学を落ちたよ。


父親:せっかく美術予備校にも通ったのだから来年頑張れば良い。


カゲ:駄目だ。浪人なんか認められないよ。


父親:美大に行きたいのだろう?


カゲ:違うんだ。優しくしないでくれ。


父親:意固地にならないで良い。お前はやれば出来る子だよ。


カゲ:僕は駄目な奴だ。自分が何者なのかさえ分かっていない。だからとりあえず美大を目指してみただけなんだ。お陰で芸術の才能はないってことが分かったよ。次は別のことを試す。いつかは本物の僕のままでいられるよう、自分を探して、探して、探すんだ。たとえ見つかった本性がクズだったとしても僕は満足だ。もう嫌なんだよ。嘘をついて、偽物の自分として生きるのは。


 カゲは、虚空に向かって手を伸ばした。その手は揺らめく小さな赤い点を握った。赤い点は熱を帯びている。この熱でもって炎を起こせば、身体を覆う偽物の皮膚を燃やせるのではないだろうか。そう思い、淀んだ臭気を漂わす山に向かって、赤い点を投げた。


 立ちあがった炎は瞬く間に身の丈ほどに成長し、肢体をくねらせて踊る。その先端は蛇のように空の端をチロチロと舐め、吐息に似た白煙を吹く。眩い光と共に炎熱を浴びせられ、熱い。それはサトルにしても同じはずであるにもかかわらず、彼はカメラを構えたまま恍惚とした目で一歩二歩と前に出た。


 肢体が、踊っている。


 けれども舞い降りる金色の火の粉はこの身を焦がしてはくれない。


――こんなの地獄の業火とは言えないな。


 呟くと、サトルが振り返った。彼の顔は炎の光を反射して赤く染まっている。同様にカメラのレンズも赤く輝き、こちらを睨んでいる。


 その獣の目を勢いよく指差し、声を張ってさらに述べる。


――贋作地獄変。なかなか良いタイトルじゃないか。


 大袈裟な素振りと大袈裟な台詞回しを気に入ったのか、サトルがカメラを構えたまま笑みを浮かべ、役者だねえ、と冗談めかして述べた。


――ああ、演じてるんだ。演技ならば誰も死ぬ必要なんてない。


――それは芸術と呼べるのか?


――芸術にするんだよ。


 言い切ると、サトルはゲラゲラと笑いだした。一緒に、同じように笑う。


 離れた場所に立っていたリホは、その様子を見つめながら呆れたように肩をすくめ、すっかり傷の癒えた口元で、意味が分かんない、と愚痴を零した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ