侵入と狙撃と三人目
話終わると同時にカイトが立ち止まる。
「ここからは隠密行動だ、敵に見つかってもおかしくない距離だからな」
「いやここの近くにアジトになりそうな場所なんてあるんですか?ど田舎ですよここ…あっ」
角を曲がるかと思いきやカイトはそこでしゃがみこみ、曲がった先を見ろとナギサを促す。
そこには大きな小学校があった。門には明らかに警備員のそれとは違うアウトローで世紀末な格好をした男が二人。『アサガオ小学校』と言う看板の近くにモヒカン二人、なかなかにシュールな光景である。
「まぁ、そう言うことだ。ここはかつて金持ちの坊ちゃん達が通う巨大な学校だったんだが、校舎が移ってからは廃校となった。そこに目をつけたのがこのバンディット集団ってわけだ。セキュリティーには万全の対策をとっており侵入経路は門からのみ。打って付けなんだよ違法な連中にとっちゃ。」
小声で説明するカイト。
「まぁ侵入経路がないからこその異能だろ?」
そう言うと、耳についていた無線イアホンに指を当てる。
「頼んだユウキ」
だからこその異能とか言いながら丸投げかよ、と心の中で突っ込むナギサ。
数秒後、小学校の壁に転移ブラックホールによく似た穴ができるた。だがこれはその向こう側を見ることができる。壁に擬似的な穴ができているようだとナギサは思った。
「んじゃ侵入すっぞ」
サクサク進んでいることに安心感を覚えつつもナギサはカイトについていく。
校舎の横にあるサッカー場を通っていると、二つの影が二人を阻んだ。
「あ?なんだテメェラァ、人の庭荒らしてんじゃねぇヨォ!?」
「あぁん?あぁん!?」
最初に喋ったのは体が3メートルはあるパンチパーマのマッチョ。次に喋ったのはぷかぷかと体が宙に浮かぶ小柄なスキンヘッドのマッチョ。二人とも明らかにバンディットだ。
「あ?穏便に行ってるはずだったんだけどなぁ、ラスボスだと思ってた異能持ち二人が最初からお出ましだぜ!」
好戦的な笑みを浮かべるカイトと唐突に挙動不審になるナギサ。
「え、えと、ドドドドウスレバイインデスカ!?!?」
「落ち着けーー」
カイトがいい終わる前に、ナギサは咄嗟にジャンプする。彼の真後ろにあったゴールポストが、『何か』によって綺麗に横に斬られている。
目の前の異能持ち二人が能力を使った形跡はない。
「カイトさん、情報に誤りがあります。校舎内3階に、もう一人遠距離タイプがいるようです。」
「こりゃ厄介だなぁ…よしナギサ、校舎内の一人は任せた。ここは俺に任せろ」
そう言って、カイトはスーツの内ポケットから二丁の拳銃を取り出す。
「ユウキからの預かりもんだ、お前の武器だろ?」
ナギサは使命感を帯びた瞳で二丁を受け取り、校舎へと走っていった。
走りながらも『何か』はナギサへと発射されるが、どれも彼の体を掠ることすらしなかった。普通の肉眼では捉えることのできない超スピードにも完璧に対応しているのだ。お返しと言わんばかりに、薄暗い部屋の中遠距離攻撃を繰り返す異能使いの位置を特定し、ハンドキャノンの超火力をぶっ放す。反動でよろめくが、考慮して撃てばバランスを完全に崩すことはない。
飛び込むように校舎の中へと入っていき、三階へと駆け上がる。当然の如く校舎内には大量のゴロツキがいたが、攻撃を全て紙一重で躱しながらも階段をのぼる。3階に到達した瞬間、追撃が止んだ。ピタリとゴロツキの姿も見なくなった。
ゾクッ、とナギサは体を震わせる。そうさせるほどに異様な雰囲気を、この階は孕んでいたのだ。
男がいたのは理科室だった。彼は窓際に近いテーブルの上に座っていた。頬と肩には大きな傷ができている、ナギサが放った弾丸によるものだろう。だが、男が気にした様子は微塵もなかった。それより彼は己の右手首を紅潮した頬で見つめていた。
その手首からは、ダラダラと血が流れていた。既に包帯が巻かれており、包帯の上から左手で持つカッターナイフを使い切ったのだろう。
嬉しそうに血が流れる様子を見つめる異様な光景を見て、ナギサは動じなかった。一歩また一歩と、男との距離を縮めていた。
「あんたの能力はもう割れてる。どうせ血を操作する、とかそこらへんだろ?」
「あらら、バレちゃった?」
男は初めてナギサを見た。テーブルから立ち上がると、スラッとした高身長が露わとなる。
「そう。ご名答、僕の能力は自分の血を自在に操ることだよ♪」
あっさりとタネを明かし、手首から滴り落ちる血液を宙に浮かばせる。
「素敵な能力だよねぇ!自分が傷つけば傷つくほど自分が有利になる…たまんないよねぇ!!」
男はーー変態だった。