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マジメとロマンと空の旅

「えぇ…」


ポツリと、気の抜けた声を出したのは棒立ちの店員だ。


「少年、もうちょっと強く握れる?」


「あ、はい」


言われるがままにギュッと手を握る。すると天使はその大きな翼を広げ、超スピードで上空へと飛んだ。


死ぬ


少年の心を一つの言葉が埋め尽くした。地面の上に立っていると思ったら、次の瞬間には東京を上から見降ろしているのだ。咄嗟に片手持ちだった手を両手に持ち替え、必死に落ちないように手を握る。


「ちょ、まっーー」


そんな声は風の壁に虚しく阻まれ、上昇は止まらなかった。


「酸素がッ!?」


心臓の鼓動が鳴り響く、死を目の前にした本能の足掻きだ。温度も0度を到達しようとしていた。


ふと上を見上げると、そこにはブラックホールのようなものがあった。


「あの中に入る」


上昇の中でも何故かはっきりと聞こえる声に少年は安堵する。目的地がわかれば精神的に楽なのだ。


ーーいや、なんでブラックホールの中に?


それこそやばいんじゃないのか?どう見ても禍々しいオーラしか放ってないんだけど絶対死ぬよね!?


弱気な思考が脳内を運動会のように駆け巡る。


「飛び込む」


「うわぁああああ!!!!!」




恐怖の叫び声を上げながらブラックホールの中に突撃すると、気づいた頃にはコンクリートの床と壁、どうやら地下のような場所にいた。


「し…死ぬかと思った…テレポート…?」


「ここが私たちの基地。さっきのは世界各地に設置されてるワープゲート、一番近くにあったのが上空だった。」


淡々と説明する天使を見て少年は呆れたような声を出す。


「はぁ、もう何が起こっても驚かないわ…で、そのワープゲートやら翼やら、あのやたら機敏なゴリラはなんなんですか」


「戦いはあなたからかなり離れていたはず…目視は不可能。やはりあなたは特別」


質問に答えない天使にイライラしていると、その地下室の重そうなドアから男が入って来た。眼鏡をかけ、白衣を着ているいかにも研究員といった感じの服装だ。


「君が件の少年ですか。うちの隊長に唐突に連れてこられたんでしょう、本当に申し訳ない」


「はぁ、やっとまともな人が来ました…まぁ一応手を取ったのは自分ですから。それより、この状況を説明してくれると助かります。」


「あぁ、そうですね。というかその前に自己紹介を。私の名前はユウキ、そんでこっちの無表情がアリアです。」


超展開のせいで自己紹介すら忘れていたことに気づくと、少年は途端に申し訳なくなった。ユウキのマトモパワーによって頭が覚めたのだろう。


「こちらこそ申し遅れました、ナギサって言います。中学三年生です」


「ナギサ、ですね。それでは少し話が長くなるので、こちらへどうぞ。隊長は戦いで疲れてるでしょうから休憩でもしててください」


メガネをクイっとしながら喋る姿はまるで常識人のお手本だ。

唐突にフィクションの世界に引き込まれ、ホームグラウンドから大幅に離れてしまった感覚に陥っていたナギサにとってユウキの存在はかなり安心するものだった。


ユウキはポケットからカードキーを取り出すと、地下室の壁に当てる。すると、ただの壁だった場所が機械的な光に照らされガシャガシャと開いていくではないか。ロボット系の大ファンであるナギサにとってこれ以上ロマンに溢れた『開けゴマ』はなかった。


壁が開いた先にあるのは小さなモニターのようなものだった。モニターは九つのマスでできており、その一つ一つを触ると点滅するようだ。ユウキが素早くなんらかのパスワードを入力すると、地下室全体が揺れ始めた。


「じ、地震ですか!?」


「違います、この部屋自体が移動しているんですよ」


ニコッと笑いながら説明するユウキと、それを聞いて目を輝かせるナギサ。


ガシャンと音がなり、揺れが収まる。すると、先ほどまで重そうな扉だった地下室からの出口が木製のものに変わっているのだ。


「いつの間に!?」


驚きながらもユウキについていき、扉を通る。


すると、カフェのようなバーのような場所に繋がっていた。広々としたその空間にはいろいろな人がいた。

猫耳を生やした美少女、ムキムキな坊主頭、執事服で見たことのない黒色のタバコを吸う男。それらの特徴的な視線がほぼ全て、ナギサに向いた。


「えーと、ここは…」


「我々のアジトの一部です。隊員たちはここで任務からの疲れを癒すのに酒を飲んだり、マスターの絶品コーヒーを飲んでくつろいだりします」


異能、隊員、アジト。これらの言葉が揃った時点で状況にはある程度の察しがついていた。

カフェを通っていき、ユウキはそのまた奥にある高級感漂うドアを開けた。すると、白色で統一された清楚感溢れる客室があった。


「どうぞおかけください。それじゃ、説明と行きますか。これは誰も知らない、狂った世界の話です…」

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