一つ年上のお姉ちゃん
私にはお姉ちゃんがいる。
一つ年上の渚お姉ちゃんだ。
お姉ちゃんと呼んでいるけど、正確には従妹だ。
私のパパとお姉ちゃんのパパが兄弟だ。
でも、みんな一緒に暮らしているし姉妹として育てられている。
だから姉妹と言っても構わない。
お姉ちゃんの名前は渚。
私のママの名前も渚。
お姉ちゃんの名前は私のママから取ってつけたもの。
お姉ちゃんのママ、律子ママから聞いた。
私のママが、生まれてくる前のお姉ちゃんを守った。
だから、お姉ちゃんはこの世に産まれて来られたって。
なので、律子ママが頼んでママから名前を貰ったって話。
お姉ちゃんは私が大好きだ。
お姉ちゃんは私を可愛がってくれる。
私もお姉ちゃんが大好きだ。
だから、私はいつもお姉ちゃんに甘えている。
お姉ちゃんは私をたっぷり甘やかしてくれる。
遊びたいおもちゃはいつでも貸してくれる。
ほしいお菓子も、欲しいといったら必ずくれる。
だけど食べすぎはダメって言って、食べ過ぎると過酷な運動が待っている。
そして私は学習して食べすぎないようにしている。
お風呂にもお姉ちゃんと一緒に入る。
お風呂に入るとお姉ちゃんは私を頭のてっぺんから足の先まで綺麗に洗ってくれる。
ちょっと恥ずかしいけど前も後ろも隅々までピカピカにしてくれる。
だから、お返しに私もお姉ちゃんを綺麗に洗ってあげる。
お姉ちゃんも喜んでくれる。
お姉ちゃんと二人でお風呂に入るのはとっても楽しい。
お風呂から上がったら、髪の毛をドライヤーで乾かして貰う。
次にお姉ちゃんの髪の毛をドライする。
ただ、一つだけ理解が出来ないことがある。
お姉ちゃんは、お風呂であひるを浮かべて遊ぶのが大好きだ。
これだけは私には分からない。
もちろん、あひるを浮かべて遊ぶのは楽しい。
けど、ひたすら、あひる軍団を浮かべて無心に遊ぶお姉ちゃんは少し怖い。
あひる軍団は、暁伯父さんが買ってくれたものだ。
暁伯父さんは、私のパパとお姉ちゃんのパパのお兄さんだ。
むかしから、あひるは暁伯父さんが沢山用意してくれたらしいけど、買い足されて、いまでは無数といっていいくらいある。
オレンジ色のあひるで広い湯面が覆いつくされる光景は夢に出てくると、うなされる。
ところでママも律子ママに私と同じように身体を洗われている。
私がママのお腹に居たときからで、延々と続いているそうだ。
ママも恥ずかしいらしいけど、律子ママのいうとおりにしている。
でもってママも律子ママを洗ってあげているらしい。
ママと律子ママは物凄く仲がいい。
ママと律子ママも姉妹だ。義理だけど。
だから私はお姉ちゃんと仲良くする手本にしている。
私はお姉ちゃんと同じ布団で寝ている。
生まれたときからと言ってもいい。
私に初めてチューしたのは、お姉ちゃんだそうだ。
ママが私にチューする前に、お姉ちゃんが突撃したらしい。
私が生まれた直後に起きた出来事だ。
ママは呆然としたって言っていた。
ママが産まれたばかりの私を抱っこしていた。
お姉ちゃんは暁伯父さんに抱っこされていた。
お姉ちゃんは、私が産まれて、お姉ちゃんになったんだよと言われても、いま一つよくわかっていなかったらしい。
お姉ちゃんは暁伯父さんに抱っこされた状態でママの頭をなでなでしていた。
で、私を見て、何を思ったのか身体を伸ばしてチューした。
その場にいた家族はみんな固まったそうだ。
お姉ちゃんの行動の理由が分からなかったからだ。
まあ、お姉ちゃんが私を気に入ってくれたということで終わったけどね。
でも、その後、ママは私に無茶苦茶チューしたらしい。
ついでにお姉ちゃんにもママはチューをしまくったらしい。
お姉ちゃんはそれはそれで嬉しそうだったそうだ。
今でもお姉ちゃんは私によくチューをしてくれる。
お姉ちゃんは、ママとも律子ママともよくチューをしている。
お姉ちゃんとママは仲がいい。
お姉ちゃんが生まれたあと、ママはお姉ちゃんのオムツを替えて、抱っこして可愛がっていたそうだ。
同じ名前だし、分身みたいに思っていたそうだ。
まあ今も分身にみたいに思っているけど。
そしてお姉ちゃんはママからおっぱいも貰っていた。
私が生まれて、ママからおっぱいが出るようになってから、私が飲んだあとだけど、お姉ちゃんはママからおっぱいを飲んでいた。
だから、お姉ちゃんと私は乳姉妹。
でもって逆に、私は律子ママにおっぱいを貰っていた。
律子ママは、私が生まれたときには、あまりおっぱいが出なくなっていたそうだけど、それでも出るおっぱいを、お姉ちゃんと私に分けて飲ましてくれていた。
だから、私はお姉ちゃんと、ママと律子ママの二人を通じて二重の乳姉妹。
普通の姉妹より繋がりは深く硬い。
私は寝るときはお姉ちゃんに抱きしめて貰っている。
私はお姉ちゃんに抱き着いていたら安心して眠れる。
夜にトイレに行くときも、お姉ちゃんについてきてもらう。
独りでトイレに行くのは暗くて静かだから怖い。
お姉ちゃんはトイレの中までついてきてくれる。
最初はトイレの前で待つからって言われたけど、独りで怖いからっていったら、中まで入ってきてくれた。
お姉ちゃんの前でするのは恥ずかしいけど、怖いよりマシ。
お姉ちゃんは後始末もきちんとしてくれる。
お部屋に戻ったら、お姉ちゃんにまた抱きついて寝る。
暗いところと言えば、お姉ちゃんは何かを恐れることがない。
お姉ちゃんは何があっても顔色ひとつ変えない。
お姉ちゃんは平然としている。
怖いからって怯えていたって仕方がないじゃない。
相手をよく見て、隙をついて一撃必殺を繰り出すの。
私はお姉ちゃんの言っていることが、少し分からない。
お姉ちゃんは、剣の達人か何かなのだろうか。
でも真剣な眼つきで夜道で出会った野良犬を睨んでいた。
お姉ちゃんなら本当に斬れそうだった。
お姉ちゃんは素手だったけど。
お姉ちゃんが言ってくれた。
あんたを守るのが、わたしの役目だからね。
私は嬉しかった。
お姉ちゃんは、人からよく表情がないって言われる。
あるいは、常に不思議そうな顔をしているって言われる。
それはそうだと私も思う。
お姉ちゃんはいつも少し不思議そうな柔らかい顔をしている。
でも私はお姉ちゃんのすました顔が好きだ。
私の頭を撫でてくれるときの顔が大好きだ。
だけど感情がないわけじゃない。
嬉しいとき、楽しいとき、悲しいとき、怒っているとき。
いつも不思議そうな顔だけど、私には区別がつく。
これは激怒している不思議な顔。
これは号泣している不思議な顔。
これは激笑している不思議な顔。
これは歓喜している不思議な顔。
私を含めた家族には分かる。
だけど分からない人にはわからない。
お姉ちゃんの友達でも分からない人は多いらしい。
お姉ちゃんは、いつでも冷静沈着で動揺しない人と思われている。
そんなことないんだけどなあ。
コオロギを見て、ごきぶりだって泣き叫んでいたお姉ちゃんは可愛かったもんなあ。
まあ家のそとでは、猫被っているみたいだしね。
これは内緒。
お姉ちゃんと律子ママの間には目に見えない何かが繋がっている。
律子ママが何かを頼もうとしたら、お姉ちゃんがすっと手伝う姿勢になっている。
お姉ちゃんが困っていたら、律子ママが助けにはいる姿勢になっている。
聞いてみたら、声が聞こえる気がするって、律子ママもお姉ちゃんも言う。
二人はエスパー? それとも人外。
でも距離に影響されるみたい。
同じ部屋にいるときしか繋がっていないようだ。
それと以心伝心は家の中での限定。
以前、お姉ちゃんと律子ママが公園で喧嘩していた。
「どうしてママにバニラアイスを分けてくれないのよ。」
「これは渚のもの。」
お姉ちゃんが珍しく律子ママに譲らない。
手に握っているのは、お姉ちゃんのパパの聡が買ってくれたバニラアイス。
娘vs妻の仁義なき戦い。
バニラアイスを巡っての殺人?事件。
当然、この場合の犠牲者は聡パパだ。
お姉ちゃんと律子ママの意見は一致している。
バニラアイスを1個しか買わなかった聡パパが悪い。
でも私は不思議だった。
律子ママは要らないって言ったじゃない。
律子ママは言った。
気が変わったのよ。
それが分からない聡が悪い。
ママから聞いたことがある。
律子ママは聡パパに遠慮のえの字もしないって。
無茶苦茶は昔から。
聡パパ、骨は拾ってあげるね。
ママから律子ママの聡パパに対する無茶ぶりは色々きいた。
紅茶が飲みたいというから、アイスティーを買ってきたら、なんでコーラを買ってこないのよと言い出して、コーラを買ってきたら、なんでポテトが付いてないのよと言ったとか。
彼女の飲みたいものが変わったことや、お腹を空かせていることぐらい言わなくても察して、買ってくるのが気が利く彼氏ってもんよとか。
眼の前で見ていたママは、聡パパが不憫だったらしい。
でも聡パパは、「気が利かなくてごめんね、律子。」と言いながら、律子ママを宥めていたそうだ。聡パパって何者。
律子ママは、綺麗で可愛い姿をした暴君だったとは、ママの感想。
でも可愛いから大事にしていたって、ママの回想。
ママと聡パパで通学電車で律子ママが誰にも触れないようにしてたって。
聡パパに聞いたら、「律子は我侭を言って相手がどれだけ受け入れてくれるかで、自分が愛されているかを確認していたからね。」と笑って言っていた。
聡パパは律子ママが大好き。律子ママも聡パパが大好き。二人が言い合う姿はあっても喧嘩している姿は見たこと無い。
律子ママと聡パパは、いつも二人で一緒に仲良く寝ている。
お姉ちゃんが、私と寝てくれるというか、私と寝たがる理由かもしれない。
でもお姉ちゃんと聡パパも仲がいい。
仲がいいというのとは少し違うかもしれない。
お姉ちゃんと律子ママは見えないなにかで繋がっている。
お姉ちゃんと聡パパは物理的に繋がっている。
お出掛けしたとき、聡パパはお姉ちゃんをずっと抱っこしている。
そしてお姉ちゃんは黙って指差すだけ。
聡パパは何も言わず、お姉ちゃんの指差す方向へ向かう。
お姉ちゃんの指の動きのままに、お菓子やおもちゃを買っている。
私は、おすそ分けにあずかるから嬉しいんだけど。
聡パパは、お姉ちゃんの欲しいに、否とは絶対に言わない。
ただお姉ちゃんも、あまり無茶苦茶には買わない。
本当に欲しいものだけを欲しがる。
実際のところお姉ちゃんはあまり物欲はない。
私のパパやママは割りとお金がないからダメと私に言うことがある。
私は聡パパのどこにそんな潤沢な資金があるのか不思議だった。
からくりは、ある日分かった。
律子ママのパパとママだった。
お姉ちゃんのジジババだ。
無限とは言わないけど、お姉ちゃんが欲しがるものは、たいてい買い与えることが出来る程度の軍資金が常備されていた。
お姉ちゃん専用の資金だ。
律子ママも、その存在を知っているけど、聡パパに買うなとは言わない。
それだけは何も言わない。
ママが言っていた。
お姉ちゃんが生まれてくるときから、生まれて1歳になるまでの時間の贖罪だよな。
人間、生きていくのは辛いよな。
仲良くするのも努力が要るんだよ。
ママが少し遠い眼をしていた。
律子ママと、ジジババは、ものすごく仲が良いとは見えない。
けども、普通の人間関係だ。
ジジババと話しをしているときの、律子ママは幸せそうだ。
お姉ちゃんも普通にジジババと話しをしている。
ジジババも楽しそうだ。
ただ聡パパが加わると、少し硬い会話になっている。
仲が悪いというより、お互いに遠慮しているという印象だった。
その場の人間の間では、律子ママが聡パパにやるような無慈悲な暴挙は絶対にない。
むずかしいことなんだろう。
私は幼くて理解が出来ないことだった。
お姉ちゃんは暁伯父さんと仲がいい。
もちろん律子ママはお姉ちゃんにべったりだ。
聡パパも、お姉ちゃんを溺愛している。
だけど、なんていうか親娘じゃないのに、仲が良いのは暁伯父さん。
少なくとも私のパパは、お姉ちゃんとは、べったりという感じじゃない。
暁伯父さんは結婚が遅かった。
いや、全然遅くない。普通だ。
私のパパや聡パパが早かっただけだ。
いや、結婚したのが早いのじゃなくて子供を作るのが早かった。
聡パパなんて、高校二年生のときに、渚お姉ちゃんが生まれた。
律子ママは高校三年生、実際には休学していたから、二年生のままだったらしいけど。
律子ママは聡パパの一つ年上。
姉さん女房だ。
お姉ちゃんが生まれたあと、私のパパ、聡パパのお兄さんで暁伯父さんの弟、や暁伯父さん、私のママが、お姉ちゃんを可愛がった。
そのうち、私のママが私のパパとくっついた。
ママとパパが仲良くなって、暁伯父さんだけが独りだった。
独り身同士ということなのか、暁伯父さんは、お姉ちゃんを更に溺愛した。
お姉ちゃんは独り身というか、0歳児だったけど。
だけど、お姉ちゃんも暁伯父さんに懐いた。
聡パパと律子ママが居ないとき、寂しさから泣き叫ぶお姉ちゃんを宥めることが出来たのは暁伯父さんだけ。
我が家の伝説だ。
暁伯父さんはお姉ちゃんにとって、伝説の勇者様だったらしい。
そのお姉ちゃんが言う
「あたし、暁おにいちゃんのお嫁さんになる。」
暁伯父さんは、伯父さんなのにお姉ちゃんに、暁おにいちゃんと呼ばせている。
暁伯父さんが独り身時代に教え込んだそうだ。
それが今も引きずっている。
「渚、それは3つの理由で無理だ。」
だけど暁伯父さんが真面目にダメだと答える。
でも、お姉ちゃんは諦めない。
「どんな理由?」
「まず俺には妻が居る。」
暁伯父さんは結婚している。
だから奥さんが居る。当たり前か。
ところで暁伯父さんは、今は私たちとは一緒に住んではいない。
結婚する前は一緒に住んでいた。
一緒に住んでいたときには、私も暁伯父さんによく抱っこして貰った。
おもちゃも沢山買ってもらった。
暁伯父さんは気前が良かった。
結婚してから気前が悪くなったわけじゃないけど、奥さん第一になった。
私はお風呂に暁伯父さんと一緒に入ることは少なかった。
でもお姉ちゃんは暁伯父さんとよく入っていた。
何時間も、何時間も。
暁伯父さんが、茹蛸のようになって倒れたこともあった。
お姉ちゃんは不思議そうに倒れた暁伯父さんを見ていた。
聡パパが暁伯父さんに謝っていた。
「すまん、兄貴。渚の長風呂につきあってくれて。」
暁伯父さんは結婚したときに家を出て行った。
いや表現が悪いけど、普通に言えば独立した。
別に悪いことじゃない。
私のパパや聡パパのように家にいるほうがおかしい。
おかしいというわけじゃないけど、普通じゃないほうだ。
だから今は暁伯父さんと伯父さんの奥さんは私たちと一緒には住んでいない。
だからじゃないけど、私たちは暁伯父さんの奥さんとはあまり親しくない。
出会う度に声を掛けてくれて仲良くしてくれようとしているのは分かるけど。
律子ママを呼ぶときみたいに、ママって呼ぶのは無理。
まあ実際は暁伯父さんの奥さんだから、伯母さんなんだけど。
律子ママを一度、叔母さんと呼んだことがある。
ニコニコ、ニコニコ、ニコニコとした律子ママが言った。
「彩渚。もう一度いってくれるかな。よく聞こえなかった。」
私は怖かった。律子ママが般若に見えた。
思わずお姉ちゃんに抱きついた。
お姉ちゃんが耳元で囁いてくれた。
「ママって呼んだら大丈夫だから。」
「ママ。」
少し引き攣った声になったけど、ちゃんと呼べた。
笑顔に戻った律子ママは私を抱きしめてくれた。
そのとき、私は固く決心した。
もう二度と律子ママのことを叔母さんとは呼ばない。
まあおっぱいも貰ったしママで間違いない。
ちなみに聡パパも聡パパと呼んでいる。
聡叔父さんと呼ばない。
私も学習するんだ。
律子ママの事件の影響は大きかった。
聡パパが同じことをするとは思わなかったけど、律子ママに聡叔父さんだと夫婦なのに変な感じになるから、二人ともパパとママと呼ぶことで統一した。
お姉ちゃんは、私のママのことはママって呼んでいる。
律子ママと間違わないのかと思うのだけど、呼び分けられている。
ママか律子ママかどっちか一人なら問題ないと思う。
だけど、二人とも居ても、お姉ちゃんがママと呼ぶとどっちのママを呼んだのか、ママと律子ママには分かる。
不思議だ。
ママと律子ママは、お姉ちゃんが呼んだら、自分が呼ばれたって分かるっていう。
お姉ちゃんは何か人類じゃないんだろうか。
私のパパのことは、お姉ちゃんは誠伯父さんって呼ぶ。
パパとは呼ばない。
私が聡パパと呼ぶのとは違う。
お姉ちゃんにはパパは一人らしい。
律子ママが教えてくれた。
命を守ってくれた、私のママと聡パパがお姉ちゃんにとって大事なんだって。
詳しい話は大きくなったらねって言われたけど。
だから、お姉ちゃんにはパパが一人でママが二人居る。
私にはパパが二人、ママが二人いる。
人に説明したら複雑な家庭環境なんだねって言われた。
話を戻さないとダメだ。
そうお姉ちゃんが暁伯父さんと結婚するといった話だ。
暁伯父さんは奥さんがいるから結婚できないっていった。
それに対する、お姉ちゃんの答えは格好良かった。
「奥さんと別れたらいいじゃないの?」
お姉ちゃんは平然と言った。
暁伯父さんは愕然としていた。
その場に暁伯父さんの奥さんが居なくてよかった。
いきなり修羅場になるところだった。
修羅場になっても、たぶんお姉ちゃんは負けなかっただろうけど。
「渚と奥さん、どっちが大事?」
その言葉、愛人の決めセリフじゃないかな。
暁伯父さんは、身に覚えのない浮気で窮地に落ちていた。
いや、身に覚えはあるだろうけど、浮気じゃないだろうね。
「どっちも大事だ。どっちが上ということはない。」
暁伯父さんは耐えた。だけど、それは卑怯者の逃げ口上。どっちかを選ばなきゃ。
「ふーん。分かった。なら私も奥さんになれるよね。」
同列なら、お姉ちゃんも奥さんになれる。
一夫多妻制度はこうやって出来たのかなあ。
ともあれお姉ちゃんにとって、障害にはならなかったようだ。
「二つ目の理由は?」
一つ目の理由が決着は付いていない。
だけどお姉ちゃんは次に移っていた
暁伯父さんは仕方なく答えた。
「俺とおまえは、伯父と姪の関係だ。結婚は出来ない。」
お姉ちゃんは、パーッとした笑顔で答えた。
「愛があれば可能だよ。乗り越えられる。」
うん、可能かも知れないね。
世間の常識とはかけ離れていると思うけどね。
暁伯父さんも、お姉ちゃんに理解してもらうのは無理だ、とは理解したようだった。
「三つ目は?」
お姉ちゃんを説得できない暁叔父さんは三つ目を聞かれていいよどんでいた。
だが、お姉ちゃんの追及はゆるむことはない。
どうしようもなくなっていた。
「渚、俺がおまえの告白に応えたら、おまえの両親に何を言われて何をされるかわからん。それと、おまえに名前をくれた渚にバットで殴り殺される未来しか見えん。」
暁伯父さんは、恐怖に怯えながら、お姉ちゃんに答えていた。
既に、聡パパ、律子ママ、私のママが、暁伯父さんの後ろに立っていた。
聡パパと律子ママは、暁伯父さんの両腕を捕まえていた。
暁伯父さんは身動きできなくなっていた。
ママはバットを構えていた。
暁伯父さんの顔が引き攣っている。
「やめてくれ。」
ママはソフトボール現役時代、柵越を連発するスラッガーだったそうだ。
ママがバットを振れば、暁伯父さんの頭は、スイカが破裂するような出来事になるだろう。
合掌。
「俺は何もわるくない。」
暁伯父さんの最期の言葉だ。
まあ死んではいないけどね。
ママにくすぐりの刑に処せられていただけ。
笑い死にって、つらいだろうなあ。
でもって当時、お姉ちゃんは、暁伯父さんと結婚が出来ないと言って泣いて泣いていた。
今になってみれば、暁伯父さんと結婚するなんて、何をバカなことを言ってたんだろうねとお姉ちゃんは笑って言う。
そして、わたしが好きなのはあんたなんだからね、って私に言ってくれる。
私もお姉ちゃんが大好きだ。
今も一緒にお風呂に入っている。
今も一緒のベットで寝ている。
トイレにも付き合ってもらっている。
残念ながら、わたしはママに良く似た姿形だ。
対して、お姉ちゃんは律子ママにそっくりだ。
ママが律子ママのことが可愛いいという気持ちが良くわかる。
お姉ちゃんが一つ年上だけど、私と身長は同じくらいになっている。
でもって、私がお姉ちゃんを守るようになっている。
懐かしい思い出。幼稚園時代の他愛ない記憶と現在のわたし達。 by 彩渚
誤字脱字、文脈不整合等がありましたら御指摘下さい。