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5話

 ダンジョンを過ぎた翌日の俺たちは学校に到着していた。


 数式が黒板の上に重ねられていく。その一つ一つを咀嚼できなかった。ノートはミミズのような文字で滑りつつ、頭は鳥越の声をうるさいほど再生している。


『このことは誰にも言わないで』


 偶然の北野に彼女は冷たく言い放つ。今後の関係なんてお構いなしに一方的だった。何も言わせない態度だ。彼女は幼馴染みの関係を隠したっている。


 机の上に虫が乗ってきた。橙色の大地に戸惑いながら歩行している。その足は来た道を戻ったり、ノートの線を道しるべにしていた。やがて、もう一匹の虫が同じ机に到着する。そしたら、先ほどいた虫は羽を広げて、薄い血管を空に任せて舞い上がった。来ることを分かっていたように飛翔する。


 隣の女子は虫に悲鳴をあげ、前の席にいた男子が虫を叩いて殺す。


「そこまで避けなくても良いじゃないか」


 チャイムの音が退屈な授業の上を鳴り渡った。生徒は弾かれたように背伸びをしたり、携帯をポケットに移動させている。


「よし、授業を終える」


 先生は形だけの合図をした。生徒たちは先生の合図を待たずに既に用意している。


 聞き慣れた挨拶。気怠げな対応。廊下が慌ただしくなってきた。


「浦賀。次の授業は体育だぜ」


 北野の馴れ馴れしい持ち味は落ちていない。昨日の脅しを忘れてしまったのか。それとも、屈辱で演技を続けているかもしれない。


「ああ、分かった」


 横の体操服入れに手を突っ込む。それを片手に教室を出た。廊下は俺たち以外にも出てくる人がいる。


「今日は2組で体育するんだって」


 北野は2組に知り合いを持っている。まるで手柄のように語ってきたことがあった。俺は鳥越と北野以外に話せる人がいない。


「北野には知り合いがいるんだろ」


「いるよ。今日の自由時間は一緒に行動しようぜ」


「おう北野」


 聞いたことある声だった。北野の華奢な肩に、焦げ茶で骨張った手が置かれる。


「佐々木、か?」


 佐々木。入学当初に話しかけてきた男子だ。中学生の頃は野球部に属していたが、肩を壊してしまった。高校の彼は筋肉質な身体を残しているだけだ。彼は陽気で目立つ人間を好み、日陰者で友達の居ない俺のような人間を嫌っている。


「うん。佐々木だけど、お前は何?」


「そう喧嘩っぽくなるなって」


 北野を挟んで俺たちは進む。今日は憂鬱な授業のトップに君臨した。佐々木とは馬が合わない。彼は俺の攻撃性を引き出すために煽ってくる。心とのぶつかり合いが正確だと勘違いしていた。興味ない人にエネルギーを使いたくない。


「北野。コイツ置いて、俺とやろうぜ」


「それは浦賀が可哀想だろ」


 「えっ」と声を漏らし、友人を睨んだ。北野は多数決で俺を捨てられる。今までも俺を置いて、他のグループに混ざっていた。それなのに、今回は俺を仲間はずれにしない。


「ちょっと通るね」


 鳥越だった。俺と佐々木の間をわざとらしく素通りしていく。


「今、鳥越は俺を見たぞ」


 佐々木の頬は紅潮し、鼻息が荒くなっている。北野は何を考えて俺と合わせるつもりだ。


 体育の授業は三人でバトミントンをのハネを回した。運動神経が悪い俺はよく落としてしまう。そのたびに、佐々木はそうじゃないだろや失笑を聞こえる大きさで言ってくる。腹は立つけれど、喧嘩しても勝ち目はない。それどころか、スクールカースト上位者は戦い後の処理が上手だ。授業が終わるよう、頭の中を白色で埋めた。



 今日の授業も終わった。鳥越はまた俺の机に手紙を入れていた。


『今日もダンジョンに行きましょう。東京の駅はいっぱいで乗り換えが大変です。なので、そのお金も稼ぎましょう』


「北野。俺は一人で帰る」


 隣に北野はいなかった。その代わりに、扉から聞きたくない笑い声がする。


「おい帰るぞ陰キャ」


「佐々木……、お前とは帰りたくない」


「何でだ?」


 北野も遅れて横に立つ。二人して俺に接近し取り囲んだ。


「北野。俺に何をさせたいんだ」


「まあ。まあ。帰ろうよ」


 一緒に帰らないと損するよ。彼は俺にだけ聞こえる距離で耳打ちした。


 三人で靴箱に向かって履き替える。彼女の手紙はポケットの奥に押し込んだ。


 佐々木と北野はバス通いで、自転車を押しながら幅を合わせる。自転車置き場から裏道に進み、湿った地面を踏む。ここは生徒が近道として使う細道。庭を雑草で詰めた家が目立つ。


「北野。答えろ」


「浦賀。お前はまだ鳥越にオンブされているのか?」


「何?」


 自転車を道の横に立てかける。佐々木が二人に写る。俺の拳は震えていた。


「鳥越はお前が虐められないよう話をそらしているんだぜ。男が女に世話焼かせて恥ずかしくないのか?」


 鳥越は何なんだ!


 俺を遠ざけたり、距離を詰めてきたりする。高校生になって彼女の思考が迷路になっていた。彼の告発を知りたくなかった。でも、耳にしてしまった。佐々木は続ける。


「お前、鳥越の幼馴染みなんだよな」


「だからどうしたんだよ」


「好きなんだろ?」


「そんなことお前に言われる筋合いがない」


 胸ぐらを掴まれた。彼の額に青筋が立っている。足が浮いてきた。


「陰キャの癖に意地張るなよ。お前は鳥越に突っ込みてえんだろ」


「は?」


「俺は純粋にアイツが好きだ。お前みたいな小バエがアイツの邪魔をするな!」


 そこからヒドいものだった。彼の妄想が爆発し、俺をまるでDV夫に仕立てた物語を展開する。


「キモッ」純粋な感想だった。


「お前、殺すわ」


 力が強くなってくる。


 そのときだった。


「へ?」「な」「おっ、またか」


 後方から透明な糸が伸びてくる。佐々木の手首、足に巻き付いて持ち上げた。彼は事態を飲み込めなくて無表情だ。その糸は後ろに戻っていく。


 俺が佐々木に押しつけられていた場所は廃墟だった。


「やばい! 逃げないと……」


 糸は俺たちの逃避を見逃さなかった。その一つ一つが北野と俺を絡み上げ、家に引きずり込んだ。


俺含め三人はダンジョンに入ってしまう。鳥越を除いて。



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