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27話

 皆の変化についていけていない。日直は黒板に書いていたチョークを手に持ったまま棒立ちしている。


「あんた達って何がしたいの!」


 変化は簡単に起きて、都合など考えず選択肢をよこす。ヒントもくれないから若いうちは何度も失敗する。準備している時間こそ変化は来てもらいたいが、今日のような昂りは検討つかない。

 視線と、静粛と、騒動の終わりも、鳥越の手にある。


「前は私の愚痴を言ってたじゃん。付き合いが悪いとかセンスがないとかさ。楓にもう付き合うのやめなよって言ってたの知ってるよ」

「は? てめぇ、何様のつもりだよ。キモイのが悪いんだろ」

「キモイのはお前。自分のキモイを他人と共有するなし」


 相手も口では負けていない。見てる場合ではないと、椅子から立ち上がり、仲裁に行く。


「ならそこの幼馴染と好き勝手やってろよ。引っ付いてきて変な事言うだけだったら誰でもできるんだよ。わざわざ遠回しで付いてくるなって言ってるのに」

「お前は周りに人を引っつけるだけで何もしないじゃん。文化祭だって飾り付けを買って終了。ストーリー見たけど何も活躍してないじゃん」

「そういうお前はなんなの? いまさら言ったところで変わらなくない? 自分が正しいと思ってるわけ。親が外人だからって調子乗るなよ」


 身体が動いていた。右肩にしみるような痛みが走り、手の甲が赤くなっている。

 言い合いしていた男子が地面に落ちていた。椅子は派手な音を立てて落下する。

 俺は人を殴っていた。


「お前、何も知らねえくせによく言えるな」


 自分の声とは思えないほど冷たかった。頭は冷静に見ているけれど、感情が勝手に動いている。


「俺にも非があるし、鳥越も悪いことがあるかもしれない。だからって変わらんもんを出すなよダセエな」


 目線が傾いた。右足で踏ん切りをつけ、殴られたことを理解する。体を鍛えているから痛くないところを当てられた。


「お前らキモイんだよ! 親に問題があるか知らねえけど負け犬くせえし、周りに迷惑ばかりかけてんだ」


 彼が言うのは最もだったし、クラスの総意だった。俺と北野は佐々木をおかしくさせ、楓には怪我をさせている。ここは本人の気持ちより、周りの偽善が最優先されていた。


「お前らって自分のことばかり見てるだろ。だから、友達も彼女もできねえんだよ。いや、出来ねえほうがいいのか」

「ねぇ、ちょっと言い過ぎだよ」


 楓は男子の腕を捕まえ、北野も同調した。二人共手が震えている。


「邪魔だよ」


 男子が腕を振るう。


「イッツ……」


 その肘は楓の額にあたり、頭を抑える。肩から風が吹いた。月子が男性の胸ぐらを掴み、宙に浮かせている。


「謝れよ」

「離せ、おい!」

「楓に当たってんだろうが!」


 彼女の怒声が教室に響いた。目線を感じて振り返ると、他クラスが覗きに来ている。俺は目立っていた。皆、悪く目立っている。


「転校生に関係ねぇだろ!」


 彼も引けないところまで来ていた。傍観者は誰も助けないけれど、誰も二つを関わろうとしない。


「浦賀はセックス狂いの親に見捨てられてんだろ。今は更生して働いてますってのが嫌いなんだよ! 月子は虐待されてたんだっけ。てめぇは言われたぐらいで虐待とか、弱いんじゃねえの」


 頭が真っ白になった。

 俺はどこまで知られていて、周りは情報を鵜呑みにするのか怖くなる。周りに他クラスの人間がいた。またあの目に晒される。

 可哀想だから、愛されていない子供だって訴える目だ。


「ふざけるなよ! お前!」


 鳥越は月子を無視して男子を殴った。やり返されて、止めに来た女子を蹴る。その女子も愚痴を言った人間だ。彼女は見えない敵に怒りをぶつけていた。目立つグループで目立たないようにしていたのに、今年で誰よりも話題に上がろうとする。原動力がわからなかった。


「浦賀良のことを何も知らないくせに、私以外で悪く言うな! ムチャクチャにしていいのは私だけだ!」


 鳥越は美しかった。誰よりも羽ばたける鳥のようだ。純粋で未来を見据えない可愛げがある。彼女は空気が読めないくせに、周りに同調していた。結局、高校なんて枠組みで鳥越は収まらないようだ。


「たかが一年半で知った気になるな! 何も知らない奴が適当を言うなよ!」


 遅い先生の登場だった。乱闘になった人々を引き離す。美しい騒ぎが終わってしまいそうだ。

 彼女は先生に腕を掴まれて取り押さえられた。その青春の清らかさが汚らしい圧力で絶命しそうだ。すべてはまだ目に入れていたかった。永遠に衝突が飾られたらいい。かの純粋は誰からも汚してはならなかった。誰かが汚すなら、俺が延命させるしかない。


 その手を伸ばした。先生の腕と鳥越を力任せに切り離す。静止をすり抜け、えなの手を無理に握る。


「行こう」

「え?」

「逃げよう! すべてから!」


 泣きそうな顔をしていた。まるで小学生の子供をあやしている気分だ。


「うん」


 本当に幸せそうに頷いた。俺達は群衆を無視して走り出した。靴を手にしただけで履き変えない。先生はダンジョン仕込みのふたりを止められなかった。

 俺達は戦いから逃げる。鳥越のことが好きだって知って、瑞々しく色づいた。灰色の車が赤信号で止まり、黒と白の道を歩く。白色の太陽が寒さを和らげて、俺たちの髪は風に流されている。

 どこまでも行ける気がした。プライドも、将来も、好きも嫌いも。

 時間の快楽に浸りたかった。たとえ続かないとわかっていても。

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