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ゲーム世界へ

 街の中央広場に降り立った俺たち30人は、そのリアルな世界にただただ圧倒されんばかりであった。

「すっげー!!」

 誰かが感嘆の叫び声を挙げる。恐らく、ここに降り立った30人皆が同じ気持ちであろう。石造りの街並みは区画ごとに整然としていて、リアルな質量を持って目の前に広がっている。俺たちはそんな街の中央の広場に30人一斉に降ろされたらしい。みんな、現実の姿が再現されている。

「すごい!! すごい!!!」

 興奮極まって、誰かが言葉にならない叫び声をあげた。中には、静かにぎょろぎょろと周りを見渡している奴もいるが、皆気持ちは同じだろう。


「修学旅行なんて古いよ! こっちを選んで正解だったね!!」

 女子の誰かがそう叫んだ。そう、きっとほとんど全員が同じ気持ちだっただろう。この時は。




 *****




 修学旅行の代わりに、「ファンタスティック・アドベント」の世界に行くのはどうかという案が職員会議で持ち上げられたと担任から伝えられたとき、俺たちクラスはすぐにその案に賛成した。

 こうして、山手やまのて高校の2年1組の積み立て金は、現実の名所ではなく最新のゲーム世界へと貢がれることになった。

「ファンタスティック・アドベント」は大手ゲーム会社が満を持して開発した初の完全VRゲームで、現実の体を仮想世界へ投げるという夢が適った世界初のゲームであった。ただし、それだけに特殊な扱いを受けており、今現在個人や家庭における所有は一般的でない。プレーする場合は大体一度の貸出による体験プレーが主流だが、その場合でもかなりのお金がかかる。また、ゲームの貸し出し申請に対しても、許可が降りるのは会社側が認可した団体か個人に対してのみなので、現在ではまさに幻のゲームと化していた。


 だから、1年時からの積み立て金を崩し、更に通常の修学旅行よりもやや高い費用を要する課外活動として体裁を整えることでようやく可能になったらしい。それぐらいだから、俺たちクラスメートの喜びも尋常ではなかった。


「ファンタスティック・アドベント」はMMOではない。ではないが、同じ場所からの同時ダイブによって疑似的にMMOのようになることができる。オンラインではないので、正確にはMMRPGだが。

 ゆくゆくは離れた場所からダイブしても同じ世界を共有できるようにするためか、同時ダイブは現在オフラインでも50人まで可能らしい。まさに俺たちにうってつけのイベントだった。



「ファンタスティック・アドベント」を所蔵している施設の一つであるそこは、大きな体育館のような半球状の建物だった。バスで施設までやってきた俺達は、窓から見える大きな建物に誰もが興奮を抑えられなかった。

 施設の人に案内されて通されたのは、教室程度の大きさの一部屋で、布団のような薄いマットが人数分と、その枕元にごつい大昔のパソコンのような機械がそれぞれ置かれていた。これが「ファンタスティック・アドベント」専用のゲーム機である。黒い機械で、大きさは段ボール箱くらいある。


 初めにこれを見たとき、この黒い機械を30台も借りるのに、果たして修学旅行の積立金だけで賄えたのだろうか、とチラっと疑念が浮かんだ。

 しかし、体を横にして頭と体の各種を電極でゲーム機に繋いだ状態でスタンバイすると、たちまちワクワクした気分が全身に回り疑念など吹っ飛んでしまった。まるでゲームをするというよりも、昏睡状態に陥った病人のようだとみんなは浮き浮きしながら笑い合っていた。

 確かに、30人が同じ部屋に同じように横になっている光景は少しばかり異様ですらあった。


 潜る寸前に、担任教師が怖い顔をして皆にこう言った。

「お前たち、これは課外活動なんだからな。ゆめゆめ、それを忘れるなよ」

 この先生は職員会議で1組がこのゲームをすることに最後まで反対していたらしい。しかし、当事者である俺達クラスメートの圧倒的賛成を前にしてついに折れたのであった。


 先生のあまりに真面目くさった忠告は、この楽しい雰囲気と合わなくて少し滑稽ですらあった。


 ゲームをプレーすることの何が課外活動なのかとクラスメートたちは笑っていたが、それからも担任は伝達事項をくどくどと言っていた。

 ログアウト機能はなく、ステータス用紙と言われる作中アイテムに残り滞在時間がバー状で記載されていること、そのバーが全て白くなったら強制ログアウトになること、などの説明を受けた。

 そのほか、ゲーム世界のチュートリアル的説明もダイブ前に施設の人と担任によって話されたが、正直それをまともに聞いているのは30人中数人いるかも怪しい。大半のクラスメートは「いいから早く潜らせろ」と言わんばかりにそわそわしていた。


 担任の教師はゲーム世界へは行かず、現実からゲーム内は見えないらしい。

 正真正銘、俺達だけの世界が始まるのだ。


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