1.チートスキルは突然に
ここはエルドラント王国。
「近くの人の話では、そうですね」
王都エルチェスター近くにある森の中。
「入り口は、そうですね」
で、お前は誰?
「【基礎】というスキルです。コンゴトモヨロシク、ノエルさん」
深くは突っ込まないことにした。なぜならば、僕の方が深い所に突っ込まれているからだ。というか地面の中にいる。
「いいえ、入り口からこちらは異次元ですから、正確には地面の中ではありませんよ」
……よーし、整理しよう。
僕の夢は、S級冒険者になって世界中を旅することだ。うん。
ようやく昨日10才になり、冒険者ギルドに登録できると喜び勇んで王都に行く途中だった。うん。
村と王都の中間にある森を歩いていたら、突然光に包まれて、気付いたらここにいた。うん。
「いやー、突然踏まれてびっくりしましたよー」
どこにいるのか自問したら、この変な声が聞こえて今に至る、と。
「変とは失礼な。もはやあなたと二心同体分離不可なんですからねー?」
……どうやら疲れているらしい。ちょいと森の木陰で夢を見ているだけだと思いたい。うん、そういうことにしよう。
脳内から響いてくる声を一時締め出して、あたりを見てみることにした。
小さな部屋の中央に水晶状の青い光を放つよく解らないものがプカプカと浮いており、唯一の通路は見慣れた森に通じているようだ。
よし、帰る。森まで行けば多分目は覚める。脱出だ。
おそるおそる、洞窟を出てみた。
ぎゃーっす!?
痛いぞ、これ。外に出ただけで、なんで手が消えたの? そもそも夢の中で痛いってどういうこと?
「うかつに外に出ると本当に死にますよ? 私が幽体をダンジョンで保護して、かろうじて生きてる状態ですよ?」
え、何? 僕死ぬの? いや、幽体って、微妙に生きてるの? ……ここ、ダンジョンなのー!?
「ええ、気が不安定な状態の私を踏んだもんだから、ちょいと爆発しましてね。肉体は雲散霧消しましたよ。幽体が無事だから、ギリセーフ」
どこから見てもアウトだよ! ダンジョンから出たら幽体も雲散霧消じゃねーか! 手が消えたよ!
「まあまあ。肉体なら私の能力で何度でも再生できますからね。物質の操作は私に任せろー!」
……室内にバリバリと稲妻が走ったかと思うと、自分の周りに肉体が戻っていた。
「おお、体が戻ったのか。じゃ、俺はこれで」
「おおっと、今の状況理解してます? あなた、今ダンジョンの一部なんですよ? このダンジョンコアを壊されたら死ぬんですよ?」
「いろいろ死ぬの多いな! ……はぁ、で、そのダンジョンコアってやつを守ればいいんだな? あの部屋の真ん中のやつ?」
「それです、それ。よろしくお願いしますね」
よろしくお願いされてしまった。
……よーし、整理しよう。
王都に出かける途中、森の中で死んでしまった。うん?
【基礎】というスキルだと名乗る何かが、ダンジョンを作って、幽体になった僕を取り込んだ。うん?
僕はダンジョンになってしまい、【基礎】という謎スキルと二心同体分離不可の状態になった。うん?
幽体のまま外に出たら雲散霧消してしまうので、【基礎】が肉体を作ってくれた。うん?
ダンジョンになった僕は、ダンジョンコアが壊されたら死ぬので、必死で守らないといけない。うん?
「いろいろとおかしいだろ! あと守るってどうするの、こんな目立つもん! 冒険者が来たらお宝として持っていかれるよね?」
「え? 罠とか作って隠せばいいし、魔物とか作って守らせればいいよね?」
「そんな当たり前のように言うなよ。【罠作成】とかのスキルなんか無いからね?」
「物を作るなら、私ができますよー。そういうスキルですし」
「はぁ?」
なんというか、めちゃくちゃだった。
【基礎】は『気』と言っていたが、要するに僕達がいう『魔力』を使って、いろいろな物を作るスキルらしい。
なぜダンジョンになったかといえば、魔力を集め易い形だからだそうな。王都近辺のダンジョンでも、魔力が集まるから魔物やマジックアイテムが出てきたりするわけなので、それを意識的にやってると考えれば解り易い。
「まあ、このダンジョンは出来立てでそんなに気……じゃなくて魔力の方が解りやすいんでしたっけ? 魔力なんか集まってませんし、私が保持してた魔力も爆発とダンジョン構築とこの肉体構築でほとんど残ってませんけどねー」
「おい、何にもできねーじゃねーかっ!」
「やだなー。外の草を結べば人を転ばせるくらいできますよ」
「それ、魔力関係ないよね!? あと転んでもすぐ起き上がってくるよね!!!???」
「まあまあ。人生七転八倒ですよ」
「それは僕のことだっ! 侵入者なんとかしろよ!!!」
だめだこいつ、はやくなんとかしないと……。
そうだ、ドアを付けるのはどうだろう? 流石に人の家に侵入する冒険者はいないと思いたい。
「ドアはオススメしませんよー。かえって盗賊ホイホイになりますからねー」
おい、思考を読むな。
「私はあなたのスキルですから仕方ないでしょ。あ、あとコアを埋めるとか通路を完全に塞ぐとかすると、魔力循環不全で腐って死にますんでよろしく」
最後の手段と思っていた方法までダメ出しされた。
もうあのでっかいコアを背負って歩くしかないですかね!? 弱点さらしまくりで襲ってくださいと言わんばかりの見た目ですが。ここに置いとくよりはまだ自分で守れるだけマシという究極最終手段だけど。
「ああ、ならペンダントにでもしときますか? 表面積が小さくなるんで、ほとんど魔力収集できなくなるんですが」
「できるならすぐにしとけーーーっっっ!!!」
かくして僕は、胸に付けてるペンダントはダンジョンコアですよという秘密を抱えながら、王都の門をくぐることになったのであった。