悪魔侯爵、布教する
たいっへん、いやホント大変お待たせしました。え?待ってない?いやいやそんなまたまた……。
指摘されたことがあったので、後書きに追記(9/23)
「という訳でやって来ました高天ヶ原」
アモンがやって来たのは神の国。
主に日本という島国の神が集う、高天ヶ原である。
「いやー、しかし……あいつら連れてけないのは忘れてたなー」
神の国や天国には、神気という神の力やその恩恵を受けた者が発する気がそこらかしこに存在している。地獄などにいる大抵の悪魔たちはこれに耐性が無く、触れれば消滅してしまう。
それにより、アモンはマーリンやセラなどの眷属たち(一人の例外を除く)を連れてくる事が出来ないのだ。そのことをノリで入国しようとしていた直前で思い出し、危うく消滅させるところだったのだ。
「うし、さっさと米買って帰るかね」
アモンは翼を広げる。高天ヶ原は広い。目指す場所には飛んでむかう事にした。
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「ついたついた」
アモンが降りたったのは辺り一面に稲穂が揺れる田んぼが広がる農村の様な場所。ポツリポツリと茅葺きの民家が見える。
そこでアモンは田んぼの様子が少しおかしい事に気がつく。
「ん?稲が……弱ってる?」
稲になる実の数がいつもより少なく、若干穂の反りが悪い。
「お気づきですか、流石ですね」
「ん?おお、お久しぶりです、クシナダさん」
「ええ、お久しぶりです、アモン様」
アモンに声をかけたのは櫛名田比売。奇稲田姫とも書く。かの須佐之男命の妻であり、八岐大蛇の生贄に選ばれた事もある不遇の姫である。
実は彼女、名に「田」の字がある様に、田んぼと稲作の神である。
アモンはいつも彼女とその従女たちの作る米を食べているのだ。
「今年は不作ですかね?」
「そう……ですね。今年は害虫が沢山発生してしまいまして……」
いきなり発生した大量のイナゴが田を襲ったという。今まで害虫は発生しても少量で、神の作物を食べるなど恐れ多いと思ったのか、食べずにいることがほとんどだった様だ。
「ふむ……原因はなんでしょうね?」
「それがさっぱり……」
「調べてみましょうか?」
「え?そんな、お忙しいでしょうし……」
「ああ、大丈夫ですよ、そーいうのに詳しい知り合いを呼ぶだけですので」
失礼、と懐からスマホを取り出し、知り合いに電話するアモン。
「……ああ、もしもし、イシスかい?今暇?ちょっと調べて欲しいことがあってさ。アヌビスと一緒に高天ヶ原まで来れるかい?うん、ありがとう。では、また後でね。…………お待たせしました、すぐ来てくれるそうです」
「あ、ありがとうございます……ええと、イシス様と、アヌビス様とですか。確か……」
「エジプト神界における豊穣の神がイシスですね。アヌビスは犬です」
「ええ……?」
「あ、お米あったらください」
「え、あ、すいません、いつもより少なくなりますが……」
そんなこんなで10分後、二人の神が高天ヶ原にやってくる。
「「お待たせしましたアモン様!」」
「早いなおい!」
「「アモン様を待たせるわけにはいかないので!」」
「さっすが義理とはいえ親子、息ぴったり、てかいい加減跪くの止めれ」
背中に鳥の翼が生えた女性がイシス、ジャッカルの頭を持つ背の高い男性がアヌビスだ。
「はいはいそんな事より。この方がクシナダさん。我にお米を売ってくれる人だ」
「こんにちは。お米……ですか。前から興味はありましたが……」
「食ったこと無いと申すかイシス!けしからん!」
「申し訳ありません!」
「罰として米俵二俵をアヌビスが担いで持ち帰る事を命ず!」
「ありがとうございます!」
「ええ⁉︎義母上⁉︎」
「……漫才ですか、これ?」
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「で、どうよ」
「あ、はい。やはり微力ながら呪いがかかってますね。内容は恐らく『不作になれ』程度ですが」
「ふーん。呪力の質は?」
「何度か嗅いだことのある方の匂いがしますね。恐らくギリシャかと」
「ふむ。女性か?男性か?」
「男性です」
「やっぱりあの方?はぁ……。解ける?」
「いくら格上の方の呪いでも、この程度なら簡単ですよ」
「さっすがアヌビス。いつもピラミッドの呪いを維持してるだけあるな。……あ、後でクシナダさんに解呪法教えてあげて」
「はい。そのクシナダ様はどちらに?」
「今イシスとおしゃべり中。やっぱ農業関係の神同士、気が合うみたい」
本来アヌビスはミイラ作りの神である。しかしミイラの守護神も務めているので、墓場泥棒対策で墓に呪いを仕込んだりする。代表例はピラミッドの呪い。ピラミッドを荒らし、呪いを受けた者が長く生きたことは無い。
その呪いを維持するためにアヌビスは呪いを独学で研究し、今や神々の中でも指折りの使い手になっていた。
「終わりました。それにしても……なんでこんな幼稚な呪いをかけたりしたんでしょう?」
「さあな。だが……ロクな理由じゃないだろうよ。うし、クシナダさーん、イシスー。終わったよー」
アモンが声をかけると、少し離れた場所で何か話していたイシスとクシナダと喋るのを止め、イシスは手にしていたメモ帳を閉じた。
「ん?なにそれ」
「クシナダ様にお米の作り方などを少々。うちでも作ってみようかな、と」
「おお、出来たらくれ」
「もちろんです。種も頂きましたし、帰ってさっそく育ててみようかと思います。それでは、これで失礼します」
そう簡易な挨拶をすますと、イシスは早足で帰って行く。
「おお、農耕魂に火がついたか。こういう時の行動は早いねぇ。アヌビス、サンキュな」
「いえ、お呼びとあらば、何時でも……では、失礼します。義母上、お待ちを!」
アヌビスもまた、アモンに持たされた米俵を担ぐとイシスの後を追って行く。
アモンとクシナダはその後ろ姿に手を振るのだった。
「フッフッフッ。ハーッハッハッハッハ!これで我の計画はまた一歩近づいた!」
「え⁉︎どうしたのですか⁉︎いきなり笑い出して、ご病気ですか⁉︎」
「いえいえ正常ですよ。我の計画が順調に進んでいるので思わず、ね……フッフッフッ」
「はぁ……その、計画とは?」
「『お米で世界征服』ですよ」
「……はい?」
「我は思ったのです。どこの神界もパン主食の神々が多いな、と。奴ら調子乗ってるよ絶対、と」
(そんなこと無いと思いますが……)
「そこで!米の美味しさを全世界に伝え!米主食の神々を増やすのです!そして我はお米の宣教師として君臨し!パン主食派の奴らを駆逐してやるのだ!なーにがパンが至上だあの馬鹿堕天使!米の素晴らしさをその身をもって実感させてやるわ!口に米詰め込んでのたうち回れ!それ動画撮って拡散したるわ!」
「……喧嘩は良くないですよ?」
「大丈夫喧嘩じゃないです。布教活動です」
「そ、そうですか……(目が怖い……)」
「クハハハハ!今に目に物見せてやる!待ってろルの付く堕天使!」
この後元凶はエライことになりました。
具体的にはアモンにど突かれたり奥さんにど突かれたり。
アモン「で?やっぱりいつものアレすか?一目惚れして告ってフラれたんすか?その腹いせに田んぼに呪いをかけたんすか?え?」
ゼウス「後悔してない」
アモン「でしょーねー!でなかったら何度も同じようなことしませんよねー!」
ゼウス「反省もしてない!」
アモン「そろそろ心臓に蛇入れていいすか?」
ヘラ「やって良し」
ゼウス「すいませんでした!(即土下座)」