悪魔侯爵、旅に出る
「ただいまちゃーん」
「お帰りなさい!」
アモンが帰ると、マーリンが出迎えた。
「早かったですねー、まだ三時間位しか経ってないよ?」
「ん、我は三ヶ月向こうにいたから、一ヶ月で一時間って事か」
「楽しかった?」
「まあ、それなりにな」
荷物やお土産をマーリンに渡しながら、アモンは自分の部屋に向かう。
「わふっ!」
「おー、ペス。ただいまー。いい子してた?」
「くーん」
「しーざーと遊んでたんか、良かったのー」
途中で子犬サイズのペスを拾い、自分の部屋の扉の前に立つ。
扉を開けた瞬間、部屋に置いてある黒電話が鳴った。
「はいもしもしこちら我ちゃん探偵事務所でっす!」
次の瞬間、アモンは受話器を取っていた。
あまりのスピードに腕の中のペスに強烈なGがかかり、グッタリしている。
「はい!はい!依頼!はい!ありがとうございます!それで依頼内容は⁉︎はい、アモンという輩の拘束依頼!チョット知らない子ですね!はい!では失礼します!はい!」
ガチャン!
ジリリリリ!
ガチャ!
「はいもしもしこちら我ちゃん探偵事務所!」
『大量の書類仕事を押し付けてやろうか?』
「はいすいませんルシファー様!」
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「で、何だよう。わざわざルリっちとこっちまで来てさ!仲良し夫婦か!」
「そんな、夫婦だなんて♡」
「違う違う。ルリエルはおまえを拘束する時のためについてきて貰ったのだ。用はコレだ」
そう言ってルシファーはアモンに一枚の紙を手渡す。違うと言われたルリエルは若干落ち込んだ。
「えー。面白くなかったらお前の晩飯のおかずをカニ味噌だけにするからな?どれどれ……あー、これかー」
紙に書いてあったのは、「地獄一メイド武道会」。
「これなー」
「それだ。毎度毎度参加を拒んでたし、今回もそうだろうと思ったが、一応な。まあ、これは強制ではないから『うん、出るわ』特に罰は……今何と言った?」
「いや、だから出るって」
よほど予想外だったのか、呆気にとられた表情のまま固まるルシファー。
しばらく待ち、アモンが顔に落書きしてやろうかと思っていると、再起動したルシファーが質問をしだす。
「ほ、本当に出るのか?嘘じゃないだろうな?というかメイドだぞ?いるのか?まさかマーリン殿じゃないよな?ダメだぞ彼女は!強すぎて圧勝してしまう!せめてテトラだ!いやでもテトラでも強いし、いやでも」
「ルシちゃん、うるさい。ちゃんといるから、メイド。最近雇ったの」
「本当か?メイドを雇えと何度言っても雇わなかったお前が、どんな心境変化だ?」
「お前は我の母ちゃんか」
バンバンと机を叩いているルシファー。
対してアモンは耳を手で押さえている。うるさいアピールである。
と、そこに。
「失礼します、お茶です」
セラが入って来た。
「あ、これです。こいつがメイドちゃんです」
「ほ、本当にいた……」
「?何でしょうか?」
「セラ、お前これ出ろ。命令な」
「え?メイド武闘会?ええええ⁉︎」
紙を受け取り、驚きのあまり絶叫するセラ。
「む、無理です!私、ヴァンパイアですよ⁉︎弱いんですよ⁉︎勝てません!」
「これの結果次第でお前の望みを叶えるかどうかを決める、って言ったら?」
「うっ、ううう!それを言われたら……」
「ま、頑張れ」
そう言ってお茶をすするアモン。
セラはアモンの様子から、どう足掻いても出場する事になりそうなので、どうしようかと頭を悩ませる。
「で、ではルール説明を……」
「ああ、ルリエル。それはいい。アモン、最初からルールは変更無しだ。覚えているな?」
「まーねー」
ショックから立ち直ったルリエルがルールの紙を渡そうとするが、ルシファーがそれを遮る。
「よろしいのですか?」
「だいじょーぶだよルリっち。自分で決めたルール位覚えてる」
「え?」
「ああ、知らなかったのかルリエル。この大会の発案者はな、このアモンなんだ」
「……え?」
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夕食。
「しゅーじーん。カニ飽きたー」
三日前からのカニばかりの料理に流石に飽きたマーリンが駄々をこねる。
「黙りなさい!お残しは許しまへんで!」
「でもまだ大量にあるんでしょー?飽きたよー。薬作りの材料を間違えてカニ味噌にしちゃうくらいには飽きたよー」
「カニ美味しいだろカニ!ほらハサミのとこあげるから!」
「さっき測ったらまだ200kgはありました……」
「そんなにあったのセラちゃん⁉︎食べ切れないよ主人!何処から採ってきたの!」
「え、大量発生してたから乱獲したの。ルシちゃんの城の中庭の池で」
「なんで⁉︎」
ルシファーの領土となる土地はかなり大きい。地平線が見えるほどだ。というか地球の土地面積に例えると北海道くらいある。
が、ルシファー自身が使用しているのは自分の城だけである。後の領土はルリエルを始めとするルシファーの眷属達が管理している。
そしてルシファーの城の池は何処ぞの平安貴族のように、幾つかの島とそこにかかる橋がある。ボートで遊泳も可能だ。
しかし、生物は釣りなども楽しめるよう少数の魚などしかいない筈なのだが、なぜかそこからカニが大量発生していたようだ。現在ルシファーは原因解明に頭を悩ませている。
「いやー、カニうめー」
「絶対主人だ。絶対主人がなんかしたんだ。ボクには分かるよ」
「いやー、なんでカニー。あ、間違えた、なんでカナー」
ジト目のマーリンとシラを切るアモン。
カニが食べたいが為に池にカニの卵を放流したなんて、そんなことあるわけが無いのだ。
そんな二人を見ていたセラに、3号が赤い羽をパタパタさせながら飛んで近づく。
「肉おかわりー」
「あ、はい。……え?3号さんが、しゃべった?」
「あ、3号さんは喋りますわよ?」
「そ、そうなんですか……」
テーブルの上にちょこんと座り、早く早く、と尻尾をふりふりする腕一抱えサイズの3号。ドラゴンとはいえ、小さなその姿は子供がせがんでいるようにしか見えない。セラは萌えながらも新たな肉を与える。
「ありがとー」
「い、いえ、メイドですから」
「武闘会でるのー?」
「え?あー、はい、そうですねー」
「ふーん」
肉をはぐはぐと咀嚼しながらセラをじっと見る3号。
「じゃあきたえなきゃねー」
「鍛える、ですか?」
「うん。今のままじゃまともに戦うことすら出来ないだろうねー」
「そんな……」
(アモン様はいい結果を出せば望みを叶えて下さるとおっしゃった。いい結果とは、つまり優勝⁉︎優勝しなければ村は救えない⁉︎)
「ど、どうしましょう……私勝てませんよ!」
「うーん……あ、そーだ」
良いこと思いついた、とテーブルを一つ叩く。
「僕いい人たち知ってるよー。その人たちにきたえてもらおー」
「ほ、ほんとですか!ありがとうございます!」
「うん、いっしょに行こー。……ダメ?」
そう言って小さく首を傾ける3号。
「も、もちろん『いいぞ』……え?」
後ろから声が聞こえて振り向くセラ。そこにはアモンにが立っていた。3号の疑問はアモンに対するものだったのである。
「まあ、ついでに俺も行くがな!」
「「え……」」
「あ、ボクもー!」
「「ええ……」」
「なんでボクの時だけ嫌な顔するんだい、3号!そして主人も嫌な顔しない!」
こうして、アモンと楽しい仲間たちの眷属巡りの旅が始まる!
「あ、アモン様、そろそろお米が無くなりそうですわよ」
「マジすかテトラさん!仕方ない、修行より米だ!米買いに行くぞ!」
「「おおー!」」
「ええー(泣)」
そんなことより先に大事な大事なお米ちゃんを買う旅が始まる!
セラがそんなこと扱いされて泣いていても知らないふりをするアモン!ノリノリなマーリンと3号!果たして無事にお米は買えるのか!