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ぐーたら悪魔さんの日常  作者: くもりのちはれ
7/11

下級世界:契約 崩壊

お待たせしました。

アモンさんの異世界でのお話です。



後書きに重要な解説を書いておいたので、それも読んで頂けるとより楽しめると思います。

 


 穴から抜けた先には、一人の少年が狭い部屋の中にいた。


「やった!成功だ!」

「?え、何こいつ怖い」


 いきなり目の前に人が現れたらビックリするだろう、普通は。そう思ってのアモンの発言も、目の前の少年の耳には入っていない。驚くどころか大喜びだ。


「これであいつを倒してやれる!待ってろ、今すぐ…」

「おい少年、何なの君」

「俺は隆貴、お前の主人だ!さあ、最初の命令だ、今から言う奴を倒してくるんだ!」

「やだ」


 そう答えると、何故か少年、隆貴は目を見開く。


「何?主人の命令が聞けないのか⁉︎」

「いや君我の主人違うし」

「え?」

「え?」


 二人揃って首を傾げる。

 焦った隆貴は近くにあった勉強机から一冊の本を取り出し、パラパラとページをめくり出す。


「そんな……この本の通りに魔法陣も描いたのに……何処が間違ったんだ?」

「魔法陣?」


 アモンが足元を見ると、部屋の床一杯に描かれた魔法陣があった。そしてその中心にアモンが立っている。

 なるほど、とアモンは頷く。どうやらこの少年、何らかのモノを召喚しようとしたら、丁度アモンが世界の穴を通って魔法陣の上に出てきたから、召喚に成功したと勘違いをしたようだ。


「ヘイ少年、この魔法陣間違えてるぞ。この部分」

「え⁉︎そんな、この本の通りに……あ、本当だ!ちょっと違う!」

「ちなみにこの部分の模様は『容姿固定』の文字みたいだから、これで召喚していたらドロドロのスライムみたいな生物かどうかも怪しいナニカが召喚されてただろうな。まあ、完璧な魔法陣じゃないと普通は召喚不可になるんだが」

「そ、そっか、危なかった……って何でそんなことこいつに言われてんだ俺!何なんだよお前!召喚ミスしてるならどこから出てきたんだ!」

「親切に教えたのに何故キレられたし」


 理不尽だ、と嘆くアモンだったが、すぐに立ち直る。


「我はアモン。とある偉ーい悪魔であーる。と言うわけで、死にたくなければちょっと居候させろ」

「……は?」


 こうしてアモンの異世界生活が始まった。




 ーーー三ヶ月後ーーーーーーーーーー




「ほー。今日のニュースもロクなことがねーなー」


 アモンは隆貴の部屋でテレビを見ながらベッドの上でポテトを齧っていた。


「……おい、その手の中にあるジャガイモはなんだ?」

『馬鈴薯』

「あ、漢字そう書くんだー……じゃねーよ!何故ジャガイモ生食いなんだ、何故筆談なんだ、しかも何で習字なんだ!てかいつ書いた⁉︎」

『一昨日』

「結構前から用意してたのな⁉︎だから何故習字!そしてジャガイモ生食い!ポテトチップスじゃなくて何故ポテトそのまま⁉︎」

「もう無くなったから」

「嘘だろもう食い尽くしたのかよ俺のコンソメ味ぃぃぃ!」

「うるさい。近所迷惑だろ」

「お前のせいだろぉ……!」


 項垂れる隆貴を横目にテレビを見続けるアモン。

 三ヶ月でこの世界の大体の情報は得れた。



 この世界は「科学発展型」に分類される世界。文字通り、科学が発展している世界だ。代表例は「地球」などが挙げられる。が、更に細かく分類されると「地球」が「完全科学発展型」なのに対し、この世界は「混合科学発展型」なのだ。

「混合科学発展型」。魔力や魔法が存在しながらも、科学が発展している世界の事だ。この型の世界では大体の神や悪魔、「人外」を科学に深く関わりを持っている事も多い。

 この世界もその例に漏れず、科学を使って人間が神や悪魔と契約を結び、使役する。

 魔力や魔法があるのに、何故科学が発展したのか疑問に思われるだろうか。答えは単純で、世界全体の魔力が少ないからだ。普通の人間が使う魔法では精々小さな火を灯す事で精一杯。使えない魔法より誰でも使える科学が発展するのは当然の結果だろう。

 科学を使えるなど当たり前。魔法に関しては契約した「人外」に任せればいいのだ。その思考により、契約した「人外」の強さがその人間のステータスという考えがあった。


 

 さて、アモンの隣にいるこの隆貴だが……彼は魔力を持たない人間の一人であり、科学での「人外」との契約も何故か出来ない珍しい人間だった。そのため科学では無く、魔法的方法で「人外」を召喚しようとしたのだが……魔法は魔力が無いと使う事が出来ないので、当然召喚する事が出来無かった。

 代わりに幸か不幸かアモンが現れたが……。




「我がお前と共に戦ってやったからお前は復讐出来たんだろう?これくらい大目に見ろよ」

「そうだけどもさぁ……」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 隆貴は学校でいじめを受けていた。理由は「人外」と契約が出来ていないから。この世界では「人外」と契約出来ない人間は落ちこぼれ確定なのである。

 が、別にそれをどうにかしたかった訳ではない。彼には救いがあったからだ。

 幼馴染の琴葉。容姿端麗な学校の人気者である彼女がいつも隆貴を庇っていてくれていた。

 しかしついに限界が訪れる。彼女より強い「人外」と契約したいつも隆貴をいじめている一人の男が、暴挙に出た。琴葉を捕らえ、男は隆貴にこう言った。

『この女を俺の女にするぜ!悔しかったら、取り返してみろや。まぁ、落ちこぼれ確定のお前には無理だろうけどなぁ。ぎゃははは!楽しみだぜ、お前がボコボコにされて絶望するこの女を好き放題するのがよぉ!』

 決して琴葉が弱い訳ではない。琴葉は学校でもトップ3には入る「人外」ーー「フェニックス」と言うーーと契約している。ただ、その男が契約した「人外」の格が違っただけだ。

 今まで守ってくれていた幼馴染を見捨てるほど隆貴は落ちぶれてはいない。ゆえに隆貴は男に殴りかかった。しかし当然、人間の身で男の契約する「人外」ーー「ロキ」と呼ばれているーーに太刀打ちは出来ず、呆気なく返り討ちにあう。

『次は心を折ってやるよ。その時までこの女はお預けにしといてやる』

 そう言って男は琴葉を乱暴に投げると笑いながら立ち去る。


『隆貴が気にすることないよ。私が弱いのがいけないんだから』


 そう言って力無く微笑む琴葉を見て、隆貴は決意した。

 必ずあいつから琴葉を守る、と。

 しかし「人外」と契約出来ないとどうしようも無い。それでも隆貴は諦めなかった。

 過去の文献を必死で漁り、一週間後ついに魔方陣による契約法を見つけた。

 喜び勇んで試してみる事にした隆貴。しかし彼は、自分に魔力が無いことを知らなかった。


 彼の前にアモンが現れた事は、正に救いだったのだろう。その時の彼にとっては。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふぁ。さて、ちょっと外出てくる」

「お、おお。コンソメ味よろしく」

「え、やだ」


 窓から羽根を広げて飛び立つアモン。

 それを見送った後、隆貴も外に出かける隆貴。

 琴葉とのデートだ。


「さて、俺も行こう。楽しみだな」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 あれから四日経った後も、自分の部屋で男、佐島は、「ロキ」が負けた事に未だ困惑していた。

 あのクソ隆貴が、あの「ロキ」に勝てる「人外」と契約なんぞ、ありえない、と。

 紛いなりにも神の名を司る「人外」。弱いはずが無かった。それなのに何故、と。


 何故、手に持った鎌の一振りで神を倒せるのか、と。


 圧倒的だった。勝負にすらならなかった。

 自分達が、いや自分が最強だと思っていた。なのに、何故。


 世界人外決闘祭、少年の部。世界中の強い人外と契約した奴らが集まる大会。そこに出場した佐島の目の前にあの隆貴が現れた。ゴミが目に映った事もイラついたが、出場者としてその場にいた事がもっとイラついた。琴葉にまとわりつくゴミが生意気にも自分と同じ場所に立てるのがおかしい。

 そう思っていつも通りいたぶろうとしたが、いつものように怯えた目で自分を見てこない。むしろ睨んで来た。ムカつく。

 だから殺そうと思った。幸い大会のステージで決闘中に死人が出ても、殺意がない限り罪にはならない。さりげなく人外が言う事を聞かずにやりすぎた、という事で殺す。


 それなのに。あいつは死ななかった。むしろ俺が殺されかけた。

 許さない。絶対許さない。許さない許さない許さない!絶対殺してやる、琴葉をあいつの目の前で犯して絶望させて殺してやる!俺を最強の座から引きずり落としたあいつを殺さなきゃいけないんだ!当然さ、俺が最強じゃなきゃいけないんだから!殺されて当然だろ⁉︎あいつがいけないことをしたんだから!


 思わず床を拳で殴りつける。殴った痛みすらも感じない程、佐島の脳は怒りに満ちていた。


「おーおー、見事にぶっ壊れておりますなー」

「っ⁉︎」


 と、そこに声がかけられる。


「お前は!あいつと契約した人外!」

「はいはーい、みんな大嫌いアモンちゃんですよー。突然ですが君は死ぬ事になりましたー、残念っ!」


 ケラケラと笑いながら窓から部屋に入って来たのは、アモンだった。その手には鎌を持っている。


「馬鹿な……人外は専用の結界内でしか動けないはず!何故顕現している⁉︎」

「我ちゃんは君達の言う『人外』じゃねーもん。知らねーな」

「……隆貴の命令で俺を殺しに来たのか?」


 次の瞬間、気が付けば佐島は床に倒され、その上にアモンが鎌を肩に乗せ、あぐらをかいて座っていた。


「違うよ。我はただ、君の魂が真っ黒く濁っていて美味しそうだから食べに来たんだ。罪に穢れた魂は実に美味だからねぇ」

「なっ!テ、テメェ、何を……言ってやがる?」

「我は悪魔なんだよ。だから……いや、どうせ死ぬ餌に何言ってんだろ、我」


 チャキ、という音と共に鎌を首に当て、すぐにでも首を狩れるようにする。


「さあ、いただきます」


 そうして佐島の首は……。


「あ、ごめんその前に一個聞かせて?」

「は?」


 ……まだ飛ばなかった。

 アモンは鎌を一度離し、懐から手帳を取り出す。


「えーとね、只今アンケート行っておりまして、はい。今まで抱いた女の人数を聞く、というものでして、はい。お聞きします、何人ですか?」

「……三人」

「なるほどなるほど、三人ですか。普通に抱かれたので?」

「あ、ああ……」

「なるほどなるほど、アブノーマル派では無いと、なるほどなるほど。はい、分かりました、ありがとうございます」


 手帳に書き込むと、アモンは再び鎌を持ち……。


「じゃ、今度こそ、いただきます」

「は⁉︎ちょ、今のは……!」


 今度こそ、佐島の首は胴体から離れた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「♪」


 上機嫌に空を飛ぶアモン。

 美味しそうなご飯を手に入れ、ご機嫌だ。


 しかしそこに、乱入者が現れる。


 背後から複数の青白いボールが飛んできて、アモンに着弾する。


「にゃっ⁉︎」


 しかし驚いただけで、アモンにダメージは無い。

 アモンが振り向くと、そこには数人の人外が立つように浮かんでいた。


「ちっ、無傷かよ。それなりに本気だったんだが」

「どうやら本気を出すしか無いようだな」

「力がしばらく落ちるから嫌なんじゃがなぁ」

「仕方あるまい。こやつを倒さねば、世界が危ういのだからな」


 上からオーディン、ハリハラ(ヴィシュヌとシヴァの合体神)、天照大神、ゼウス。


「おおー、最高神の皆さんお揃いで。いや、こちらからご挨拶に伺う手間が省けましたよ。どもどもアモンと申します」

「本来人間達の行うあの戦では、『人外』は本当の意味では死なぬ筈。しかし、お主と戦った者達は本当に死んでしまった。それにお主は『アモン』と名乗った。この世界のアモンはお主に殺された。つまりお前はこの世界の法則にはまらない、別の世界の者、という事だな?」

「おっと正解ハリハラさん。我はこの三ヶ月、この世界の神や悪魔を狩りまくってましたが、まさかこの世界のアモンがあんなに弱いとは……」

「狩りまくったでは無い!私ら以外の名のある神も悪魔も天使も全て殺したでは無いか!」

「あれ?そうだったんですか天照さん。もうあなた方だけですか。なら尚更丁度良かった」


 アモンはニヤニヤしながら鎌を四人の神に向ける。


「あなた方でお仕事終了。そろそろ家が恋しいんで、帰らせて貰いますよ」

「最早話す言葉は無い、か……。最後に聞こう、何故我らを滅ぼす?」

「あ、やっぱ聞きたい?聞きたいっすか?」


 にゃはは、と少しだけ笑い……。

 次の瞬間には一切の笑いも無い、四人を見下す様な目に変わっていた。


「ならば、答えよう。我の目的は魂の回収。世界が崩壊する前にその世界の重要な魂を回収し、新たな世界の礎にするのだ」

「「「「⁉︎」」」」


 予想外の答えに全員が驚く。

 アモンが悪魔の名なので、よくいる悪魔の様に遊びで世界を滅ぼそうとしているのだと思っていたのだ。


「まあそれ以外の魂も回収するがそれは世界が終わった後だ。沢山ある中から探すのは面倒なのでな、先に回収している。お前らもまた……重要な魂だ。その魂、我に還すがいい」

「……まるで神の様な言い草だな」

「そこはどうでもいいだろう、オーディン?我々上級世界の者とお前ら下級世界の者、どちらの格が上なのか位分かるはずだ」

「上級世界、だと?この世界は下級世界だと?」

「そこもどうでもいい。重要なのは格の違いだ。それ以外はお前らが知る必要は無いのだ。どうせすぐ忘れる」


 一貫して説明をする気が無いアモン。


「……仕方あるまい。生憎と得体の知れない者に降る尻尾は無いのでね」

「最高神が四人じゃ。流石に負けんじゃろう」

「行くぞ」

「我々の世界を汚させるか」


 四人の神はそれぞれ武器を構え、アモンに向ける。

 アモンはそれを見ても、ただただため息を吐くだけだ。


「……予想の範囲内だ。まあ我がやる事は変わらないしな」


 そう言うと、鎌を構える。


「行くぞ?格の違いを味わって死ぬがいい」


 その言葉を合図に、四人の神はアモンに襲いかかった。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 次の日。


 再び開いた「世界の穴」を前にして、アモンは新聞紙を開いていた。


「『世界人外決闘祭少年の部優勝者、恋人を庇って死亡』、か」


 その記事によれば、昨日、恋人と共に道を歩いていると、居眠り運転のトラックが突っ込んで来た。彼は恋人を突き飛ばし、恋人は無傷で済んだのだが、彼本人はそのまま引かれて死亡した、との事だった。


「くくっ、良かったな、恋人は無事な様だぜ?」


 そう言うと、腰についた袋を軽く叩く。

 すると、袋がガサガサと揺れる。


「ん?いや、我は誘導してないぞ?だがな、あの大会が近づいた時に我は君の願いを叶える為に協力すると言った時、対価を請求したよな?覚えてないか?君の願いは『琴葉を守りたい。その為の力を寄越せ』だった。対して我の対価は『我がこの世界から消えるその前日、君の魂を貰う』だった。結果、君は彼女を守り、我はこの世界から去る前日に魂を貰った。ほら、何にもおかしいところは無いだろう?」


 アモンは新聞紙を放ると、ゆっくりとした足取りで穴に入っていく。


「何を悲しむ?どうせこの世界は滅び、皆死ぬ。遅いか早いかの違いだよ。大した事はない、誤差みたいなものだ。おいおい、あんまり罵るなよ。最初に言ったろ?我は悪魔だって。人間がどうこうしてどうにかなる訳じゃないのさ。騙されたと思うなら、最初から騙されなければ良かったじゃないか。恨むなら己のバカさ加減を恨むんだな、隆貴」


 アモンの姿が穴に完全に消える。それと同時に、神のいない世界が至る所から崩壊を始めた。



「ジ・エンドだ、ってな」



誤解なきよう解説しますと、アモンは本当に世界の崩壊とは関係無いです。


崩壊の原因はその世界の創造者が死んだからです。崩壊すると、全てが消えてなくなります。その世界にいる全ての魂は消滅してしまうのです。(例外も確認されている)その世界の魂を回収する為、アモンは穴を通って行くのです。


また新たに想像される世界の糧にする為に。


ちなみに異世界に行っている間のアモンが元いる世界の時間は異世界の時間により進行したり停滞したりしています。今回はどうやらゆっくり進行していたようで、異世界の一週間で一時間だったようです。



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