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ぐーたら悪魔さんの日常  作者: くもりのちはれ
6/11

眷属、ヘビ娘さん

テスト、嫌い。(´・_・`)


 

 今から1426年前……。




「ここどこー?」


 森の中で一人の少女が迷っていた。

 家族とピクニックに出ていたのだが、一人迷子になってしまったのである。

 辺りはすっかり暗くなり、右も左も見えない。


「うー、おかーさまー、おとーさまー、どこー?」


 本来ならはぐれても、少女の両親と少女自身の能力でお互いどちらかがすぐ探し出すのだが、今日は何故かその能力が上手く働かない。

 理由は、この森に認識阻害の結界が張られているからなのだが、この時の少女には分かるはずもない。

 少女は突然何も出来ない状態になった事で、今まで味わった事のない不安と恐怖が押し寄せてくる。


「ふぇぇ、うっく、うえぇぇん!」


 心細さで泣き出してしまう。

 と、その時。


「シャー」

「ふぇっ⁉︎うぇぇぇ…あ、ヘビさん?」


 ツンツンと少女をつついて驚かせたのは、緑の蛇。


「ヘビさん、ここどこ?」

「シャー?」

「えっとね、あのね、おかーさまと、おとーさまとはぐれちゃったの。おかーさまとおとーさま、迷子になっちゃったの」

「シャー…」

「もう、会えないのかな……」


 そう呟くと再び目に涙をためる少女。その様子をじっと見ていた蛇は不意に後ろの茂みを振り返る。そしてチロチロ、と舌を出した。


「?ヘビさん、どうしたの?」

「シャー」

「え?探してくれる人を呼んだの?ほんと?」


 すると、ヘビが向いていた茂みから、人影が出てきた。


「センセー、どうした?って、誰そのラミアの子?」

「シャー」

「へー、迷子か」

「迷子じゃないもん!迷子なのはおとーさまとおかーさまだもん!」

「あらそうなの?ごめんごめん」


 迷子と言われて不満だった少女は、目の前に現れた金髪の男を涙目で睨みつける。

 男が苦笑いをしながら謝ってきたが、全く悪いと思っていなさそうなのがまた不満だった。


「それで、君のお名前は?」

「知らない人に名前を名乗っちゃいけないっておかーさまが言ってた」

「おや、それはごめん。我はアモンって言うんだ。この子はセンセー」

「シャー」

「私は、えっと、サルバトーレ、えっと……テトラ!」

「ふふ、元気がいいね。宜しくね、テトラ」


 これが、大侯爵アモンと後のペット兼眷属、サルバトーレ・ヌメル・テトラ・ノー二・クエル・トヨ・タネク・ラミアの最初の出会いだった。


 ちなみに蛇であるセンセーとテトラが話せるのは、彼女が下半身が蛇のラミアだからである。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「本当にありがとうございます!なんとお礼をしたらいいのか……この先の森の中では私達も能力が使えず探すのが困難でして……」

「あ、その能力ってもしかしてピット器官のこと?ごめん、多分それ我の所為だわ」

「は?」


 アモンはあっさりと少女の両親を見つけだした。

 森と森の境目でウロウロとしているのを見つけると、テトラを連れて行き、会わせてあげた。

 父親がアモンにお礼している間、テトラは母親に抱き締められていた。


「本当にこの子は!もう会えないかと思ったじゃない!」

「ご、ごめんなさいおかーさま」

「本当に心配かけて!お母様の手を離しちゃダメって言ったでしょ!」

「ごめんなさい……」

「もう…本当に、良かった…」

「おかーさまぁ…」


 ぎゅっと抱き締められて少し苦しかったが、同時に嬉しいテトラだった。


「さて、帰るかぁ」

「えっ、そんな、お礼をさせて下さい!」

「いらないってば」

「それなら、せめてお名前と住んでいる場所だけでも!我々は受けた恩は忘れない種族なのです!村長である私がそれを破る訳にはいきません!」

「えー…ラミア族メンドくさ」


 親子の様子を見て一つ頷き、退散しようとするアモンだったが、父親のその言葉に呆れてしまう。

 この様子だと、放っておいても根気よく探し続けるだろう。面倒になる前に正直に教えることにした。


「アモンだ。君たちが迷う森に住んでるよ」

「え?アモン……それにあの森に住んでいらっしゃるということは……まさか、大侯爵アモン様⁉︎」

「あ、うんそれ」


 アモンの名を聞いた途端、跪こうとする父親。


「すっ、すみません!娘のご無礼はどうか、どうか御許しを!」

「いやいや、別にっていうか全然気にしてないから大丈夫だって。いらんてそういうの。ほら顔上げろ、奥さんとテトラが目ぇ丸くしてるぞ」

「許していただけるのですか…?」

「いや許すも何も迷惑してないから大丈夫だって。自業自得ならともかく、子供が困ってたら助けるだろ、普通」

「あっ、ありがとうございます!」


 父親を立たせると、アモンは用は済んだとばかりに背中から白い翼を広げ、飛び立とうとする。


「じゃ、今度こそ帰るわ」


 しかしそこにテトラが声をかける。


「もう行っちゃうの……?」

「うん?ああ、我は帰るよ、今度は迷わないようにな?」

「うん……また会える?」


 目を潤ませ、「行っちゃうの?」と寂しそうに目で訴えるテトラ。

 その視線に負けたのか、アモンは翼を一度たたみ、ふう、とため息を吐く。


「子供に弱いのかなぁ、我。参ったなぁ」


 そう言いながら懐に手を突っ込み何かを探す。


「えーと、コレでなくてー、コレでもなくて……あ、あった」


 懐から出てきたのは、コンパス。

 それをテトラの手を取り、乗せた。


「また我やセンセーに会いたかったら、このコンパスに頼るといい。あの森に入っても、この針の向く先に我の家があるからな。今度は他の子にも会わせてあげよう」

「ほんと?約束だよ?」

「ああ、約束だ」


 今度こそ飛び立つため、翼を広げる。


「じゃあ、またな」

「うん!」


 羽ばたくとすぐにアモンは宙に浮き、一気に飛び去っていく。

 その姿が見えなくなるまで、テトラは手を振り、両親は頭を下げていた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あれからテトラは頻繁にアモン邸に顔を出し、センセーや他の眷属達とも遊び、身を守る手段も鍛えられた。

 自分に妹が出来てからもそれは変わりなく、むしろ妹も一緒にアモン邸に連れて行く事が多かった。



 そして300年の月日が経ったある日のこと。


「今日は沢山採れたわね、姉さん」

「そうね、今夜はご馳走よ」


 立派なラミア娘に成長したテトラと妹ことアトラ。アモン達に鍛えられた事で、村で一番二番と言われる程には強くなった二人は、好物である卵を取りに森に来ていた。

 さあ帰ろうと帰り道を進んでいると、ふと妹が気付く。


「あら?あの煙は……」

「私達のタネク村の方からだわ。何かあったのかしら……」

「急ぎましょう、姉さん」


 急いで村に向かう。いつもより遠くまで出ていたので、どうしても到着が遅くなってしまうことにイラついてしまう。

 やっとの思いで到着した時には遅かった。


「……これは」

「………嘘」


 村は崩壊していた。

 火がついてパチパチと燃える家。

 村人が丹精込めて作っていた作物も燃えている。

 ラミア族共通の好物である卵を産んでくれる鶏たちも火に包まれて死んでいる。


 そして……。


「あ、アレは……何?」


 上空には巨大な鳥。ゆうに50メートルはあるであろう。

 深紅の羽を広げ、悠々と空を舞っている。村を見渡し、まだ動ける者がいないか探しているのだろう。くちばしには大量の血糊が見られる。よく見れば、村人だったモノがそこらじゅうに落ちている。頭、尾、腕、他にも沢山………。それはつまり。


「そ、そんな、みんな……」

「っ、姉さん、もしかしてあいつ……」

「…。食べたの、ね……」


 射殺さんばかりに目に力を込めて鳥を睨みつける。するとその視線に気付いたのか、鳥がこちらを向き姉妹の存在に気付いた。

 新しい餌がいた、そう思ったのか。


「キョエエエエエ!」


 嬉しそうに鳴き、姉妹に突っ込んでくる。


「アトラ、アモン様に匿って貰いなさい!私があいつを引き付ける!」

「姉さん⁉︎そんなこと出来ないよ!姉さんも一緒に!」

「一緒だと捕まってしまう!早く行きなさい!」


 アトラに例のコンパスを押し付けると、テトラは鳥に向かって行く。


「こっちよ!来てみなさい!」


 餌が自分から来た!と思った鳥は更にスピードを上げる。

 そして当たる瞬間、テトラは全力で素早く避ける。


(!避けれる!これならアモン様の方が速かった!)


 今までのアモンとの訓練で身を守る術を学んだテトラはかなりのスピードにも反応出来るようになっていた。しかし、全力で回避し続けることにも体力を使う。何時までもつのか。


(アトラがアモン様の所に着くまでは、必ず……!)


 妹がアモンの森まで急いで逃げて行くのを横目で見ながら、テトラは再び鳥に向かって行く。


「さあ、今度はこっちよ!」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ……何時間たっただろうか。いや、実際には一時間も経っていないのかもしれない。しかし、テトラは限界が近くなっていた。


(もうあとニ、三回で動けないでしょうね……アトラ、逃げれたかしら)


 肩で息をしながら、テトラは鳥を睨みつける。


(……来る!)


 今度も素早く避けようとする。

 が、しかし。


(っ!)


 足元には元村人の身体が沢山あった。それにつまづき、テトラはバランスを崩してしまう。

 それを見て鳥は不快に笑い、急加速してくる。


「キョエエエエ!キョエエエエエエエ!」

「まさかっ、おびき出されたの⁉︎」


 気付いた時にはすでに遅く。

 猛スピードで鳥は迫って来る。


(ああ………もう終わりかぁ………せめて初恋くらい………)


 生物は死の危険に陥った時、世界がスローモーションで見えるという。テトラもまた、迫るクチバシをスローモーションで見ながら、そんな事を考えていた。

 故に気がつかない。自分の背後から迫る影に。


「元気でね、アトラ……アモン様……」

「別れを言うのはまだ早いぞ」


 ドゴン。

 そんな音を立てて鳥が吹き飛ぶ。

 そしてテトラの目には、幼い頃から見て憧れた背中が映る。


「すまない、遅くなった」

「………アモン様」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 アトラがアモンの城についた時、アモンは居なかった。しかし、眷属の1匹である、センセーが留守番していた。センセーはアトラの話を聞くと、すぐにアモンに連絡を取った。

 当時は携帯電話はない為、アモンの最初の眷属であり、アモンから生まれたペス、ルリ、センセーにしか出来ない念話で連絡を取る。

 センセーから姉妹の村が襲われた事を聞いたアモンは、キレた。アモンがキレる事は滅多にない。


 一番近くて400年前、西暦で約600年頃だ。マーリンを求めて追いかけて来たアーサーにキレた。今でこそ1年に一度になったが、約100年ほぼ週に3回の割合で押しかけて来たので、いい加減しつこくなったのであろう。マーリンの前で一瞬で身体を細切れにした後、地下室に連れて行き復活した所を更に半日かけて拷問した。

 その時のアモンはまるで別人の様に冷酷だったと言う。


 久しぶりにキレたアモンは、本来なら手続きが必要な人間界と魔界を繋ぐ門を眷属を連れて強行突破。そのまま村に飛んだ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「珍しい奴がいるな。あれは……ロック鳥か。ある大陸では『空の王者』とか呼ばれていたっけ?」


 そう呟くとアモンは後ろを振り返り、テトラを見やる。


「おーおー……可哀想に、ボロボロだな。城に行って傷を癒してこい」

「アモン様、あの……ごめんなさい、私……」

「………今は喋るな。後で沢山聞いてやる。だから……」


 アモンはテトラに近づくと、頭に手を乗せて撫でる。


「よく頑張ったな。後はやっておくから、ゆっくり休め」

「…………はいっ…….」


 テトラの胸に先程まで溜まっていた不安と恐怖が一気になくなる。安堵で目に涙が溢れてくる。


「キョエエエエエエエ!」


 吹き飛んだロック鳥が怒りの声をあげ、戻ってくる。狩りの邪魔をされ怒り心頭だ。しかし……。


「あ?」

「⁉︎」


 アモンがロック鳥に視線を動かす。それだけでロック鳥は動けなくなる。

 感じたのは恐怖。目を向けられただけで死んだと思う程の恐怖。気を失う事を耐えたのは、正に奇跡だった。

 逃げる。ロック鳥の頭の中はその事で一杯になった。震える翼を何とか広げ、飛ぼうとするが何度もバランスを崩す。


「……ただの鳥風情が調子に乗るな」


 斬撃。アモンが手にした鎌を振るだけでロック鳥の右翼は細切れと化す。

 痛みにのたうち回るロック鳥を尻目に、アモンは二人の眷属に命令を下す。


「マーリン!シェヘラザード!」

「「ここに」」

「姉妹と村の事は任せた。我は少しあれで遊んでくる」

「「我が王の仰せのままに」」


 いつもと違い、圧倒的な覇気を纏うアモン。

 その眷属である緑髪の少女と赤髪の女は跪き頭を下げると、テトラに近づく。


「ごめんね」

「ちょっと寝ててちょうだいね」


 首に軽く衝撃を受け、テトラは意識を失う。直前に、アモンの見たことがない獰猛な笑みと、それに怯えるロック鳥の姿が見えた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「姉さん!」


 目が覚めて最初に目にしたのは自分の妹だった。

 テトラは2日も寝たきりだったと言う。


「大体大丈夫になったけど、安静にしてなきゃダメだよー」


 マーリンには止められたが、どうしても礼が言いたいテトラはアトラの手を借りてアモンの元へむかう。


「お?もう動いて良いのか?」


 いつもの自室にいたアモンは二人をソファに座らせる。


「どうしてもお礼が言いたくて、抜け出して来ちゃいました」

「おいおい、それ我が怒られない?………ま、良いか。ところで礼、と言ったな?」

「は、はい」

「ふむ。礼……か。悪魔を使ったんだ、高くつくぞ?どうするつもりだ?」

「……それは」


 テトラはアモンに頼ることの対価を考えていなかった。あの状況で頼れるのがアモンしか思いつかなかったのだ。


「私達には何も残っていません。なので2日間考えました。……私では、ダメでしょうか」

「アトラ……それは」


 確かに妹の言う通り、自分達には何も残っていない。だから、妹がその結論に至るのも分かる。だが。


「アトラ……足りないわ。私も勘定に入れなさい」

「姉さん……でも」

「水臭いわ、姉妹でしょ……一緒よ、私達は」

「姉さん……」


 姉妹なのだから、自分達は一緒にいるべきだ。それに何より………それでは、アトラだけがアモンのモノになってしまうではないか。それは我慢出来ない。

 しかし、それは表に出さない。妹に嫉妬などしたくない。


「……アモン様、どうか私達二人を」


 ポリポリと頭を掻くアモン。


「……いや、まぁ、うん、正直あんまりそれは考えてなかったけど、いいか。……二人とも、我の眷属になるかい?」

「「はい!」」


 差し出された手を取り、二人はアモンの眷属になることを誓ったのであった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「と言うわけで、ワタクシはアモン様の眷属になりましたのよ」

「ええっと………辛い思い出を思い出させてしまって、すいません」

「もう吹っ切れたから大丈夫ですわ」

「な、なら良かったです……あの妹様は?」

「ああ、アトラならタネク村で村長として元気してますわ」

「えっ、タネク村ですか?」

「ええ。実はあの事件、ワタクシ達以外にも生き残りがいまして……その方々の子供達とワタクシ達の子供達が復活させたタネク村ですの。ワタクシの自慢ですわ」

「良かったですね!本当に……良かったです……」

「あらあら泣いちゃって。でも、ありがとうございますね。ほら、もうすぐペスとしーざーに会うんですから、涙を拭いて下さいな」






テストやだー( ;´Д`)

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