悪魔侯爵、一人でお散歩に行く
今年初の投稿。
今年もよろしくお願いします!
セラの朝は早い、と思わせてそんなに早くもない。7時起きだ。
朝起きたらメイド服に着替えて、朝食を作る。そして主人であるアモンと、自称愛人で居候であるマーリン、そして6匹のペットを起こす。食事は皆で食べるのがアモン家のルールなので、メイドであるセラも皆とともに食べる。
「今日は主人どうするの?」
「お散歩」
お散歩というアモンのセリフにペットの6匹が反応する。
「ワンワン!」
「ホー」
「シャー?」
「ゴガァ」
「ニャオン」
「はい!はい!ワタクシも!」
上から順に紹介しよう。
黒いオオカミのペス。
銀のフクロウのルリ。
緑色の鱗を持ったヘビのセンセー。
赤いドラゴンの3号。
三毛猫又のしーざー。
青い美しい髪を持つラミア族のサルバトーレ・ヌメル・テト………長いので、テトラ。
「?何だか今雑に扱われた様な……?いけない、興奮してきましたわ」
この通り、ドMであるため、アモンは眷属というよりペットと呼んでいる。むしろそちらの方がテトラは喜んでいる。
「気のせいだろう、死んでいろクソ蛇」
「ああっ!やはりご主人様の罵倒は格別です!全身に響き渡りますわっ!もっとお願いいたします!」
「テトラ、今食事中なんだから、静かにしててよ」
「あら、ごめんなさい、マーリンさん」
基本的に聞き分けの良い娘である。
セラもテトラを紹介された時、「ドMさえなければ良い嫁さんになれる」と女に興味が無いと噂のあのアモンがそう言った程だ。
「ちなみに今日の散歩は誰も連れて行かないよ?長くなるから」
「?…あ、もしかして開いてたの?」
「うん」
「そっかぁ。ちゃんと帰ってきてよ?」
「モチのロン。まだ我溜まってるガン○ラあるし、帰って来たら塗装しなきゃいけないからね」
「また塗るの?」
「そりゃあな。我、パーソナルカラーは青紫って決めてるから、全機体を染めなきゃな。あ、でも黒にしてツヤ消ししてもいいな!どうしようかな!」
「そんなキラキラした目で言われても…」
会話について行けないセラ。
「あの、開いてたとは?」
「あー…ゴメン、まだ秘密。また教えてあげるから」
「そうだね、まだセラちゃんには早いかな」
はぐらかされてしまった。
「さて、さっさと行くかぁ」
「そうだね、行ってらっしゃい。気をつけてね」
「あ、行ってらっしゃいませ」
「おう」
食事を済ませたアモンは、すぐに出かけてしまう。
「あの、アモン様はどちらに?」
「秘密。さてセラちゃん、さっさとお掃除して、お薬作るの手伝って頂戴ね」
「あ、はい。何のお薬なんですか?」
「性転換する薬。主人に頼まれたからね」
「え⁉︎」
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「ここだな」
今アモンがいるのは、城から少し離れた場所にある樹海である。そして目の前にあるのは、穴だった。
「ふむ。今度はどんな世界なのかな?」
それは空間に空いた穴。木々の生い茂る空間に浮かぶ、人一人が入れる位の真っ黒な穴。
アモンはこれを、「世界の穴」と呼ぶ。
たまに世界には穴が生じ、別の世界と繋がる時がある。アモンがいるこの世界はその穴と繋がりやすいのだ。
(まぁ、自分で穴が空きやすくしたとはいえ、毎度毎度正直面倒なんだよな。でもこれは我の役目だしな)
ふう、と息を一つつく。
「行くか」
そう呟くと、アモンは穴に入っていった。
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「えーと、あとは…蟹味噌?あれ?蟹味噌でいいんだっけ?何味噌だったっけ?あっれー?」
コトコトと鍋を煮込んでいるマーリンが首を傾げている間に、セラは薬草を擦っていた。
「ごめんなさいね、手伝って貰って…」
「いえいえ、メイドの仕事ですから!」
その隣にはテトラがいる。彼女が傷薬を求めてマーリンの部屋まで来たのだが、マーリンは今手が離せない。なので、自分で作ることにしたのだ。ついでに手の空いていたセラにも手伝って貰うことにした。セラにとっては仕事の上に勉強になるのでいい機会なのである。
「いつもマーリンさんはお忙しそうですから、自分で作っているのです。そしたらいつの間にか傷薬を作るのばかり上手くなって…」
マーリンは実験や薬作りばかりしている。しかし、大体爆発しているのでボロボロだ。それでも諦めずにすぐまた繰り返している。それを見ているテトラは邪魔をしない様に自分で簡単な薬は作ることにしたのだ。
ちなみにテトラはセラが来る前、食事から掃除洗濯など、家事のほとんどをこなしていた。ドMさえなければ本当にいい女なのである。
「テトラ様、傷薬が必要ということは、誰か怪我をされたのですか?」
「あらセラさん、テトラ、でいいですわ。ワタクシはペットですし」
「ええと、では、テトラさん、と」
本っ当にドMさえなければ……。
「先程庭でしーざーとペスと遊んでいたのですが、ペスが少々手加減を間違ってしまって…しーざーにちょっとした怪我をさせてしまいましたの」
ドカン!
「ぎゃーー!」
「あら、また爆発しましたわね」
「だ、大丈夫ですかマーリン様⁉︎」
「うう、大丈夫。やっぱり蟹味噌は違ったや…今度こそ」
ボロボロになりながらもまた鍋の前に行くマーリン。また薬を作り始めた。
「やっぱりマーリンさんはかっこいいですわね。あの不屈の精神が素晴らしいですわ。出来るならばあの爆発を代わって差し上げたいのですが……痛そうですし(ハアハア)」
善意7割、ドM3割で代わりたいテトラである。
「大丈夫なんでしょうか、マーリン様」
「大丈夫でしょう、いつもの事ですし。あ、次はそこの薬草を擦って下さいません?」
「え、あ、はい」
「ここで暮らしていくなら、色々なことに慣れなくてはいけませんわよ?先程の爆発もその一つ。まあ、追々分かって来ると思いますが、諦めも重要ですわ」
「は、はぁ…」
ご主人様は常識が通じないお方ですから、と呟やきながら薬を作り終えるテトラ。
「さて…セラさん、ワタクシ戻りますが…セラさんもご一緒にどうです?」
「え、でもマーリン様のお手伝いが…」
「マーリンさん、セラさんをお借りしてもいいですか?」
「ん?あー、いーよー、正直もう手伝って貰う事ないしね」
「と言うわけですけど、どうします?」
「…じゃあ、折角なので」
いってら〜、と手を振るマーリンに手を振り返すと、テトラとセラは部屋を出る。
「では、戻りましょうか」
「はい。あの、テトラさん、お聞きしてもいいですか?」
「何をです?」
「テトラさんはどうしてアモン様の、その…ペットに?」
ここに来てから、セラは遊んでたり散歩したりしかしていないアモンしか見ていない。どう見てもぐーたらしている様にしか見えないのだ。
「……ああ、なるほど。アモン様がニートにしか見えないのですね?」
「そ、そこまでは思ってません!」
しばらく目をパチクリした後、納得した顔になったテトラはさりげなく毒を吐いた。
折角オブラートに包んだのにぶち壊しやがったこのアマ。
「うるさいですわ」
あ、はい、すいません。
「す、すいません」
「あら失敬。セラさんに言った訳ではありませんからお気になさらず。さて、何故ワタクシがご主人様のペット、正確には眷属になったか、ですか。少々長くなると思いますが、よろしいですか?」
テトラは微笑んで語り出した。