悪魔侯爵、拾う
タイトル間違えたw ので、修正(11/23)
アモンの城には、現在2人と6匹の住人がいる。
6匹の事はまた機会があればお話ししよう。
今、城にある一室で一人の女の子が鍋を煮込んでいた。
「このバジリスクの皮は…後でいいかな?蠍の毒は今入れちゃえばいいか」
緑色の肩まで届く髪を後ろに束ねた顔を傾けて言う。
背丈は子供程の背しかなく、丸メガネをかけている。
ブカブカの白衣を着て鍋をかき混ぜる姿は、さながら母親を手伝う子供のそれだ。しかし容姿とは裏腹にスムーズに作業をこなす。事実、彼女は何百回もこの作業をしているので不思議では無いのだが……。
「ふぅ。後は暫く放置、と。……それにしても主人はまだかな〜?」
とそこに。
「ただいまちゃーん」
「あ、帰って来た!」
部屋の扉を開け、走って玄関に向かう。
そこにはアモンがいた。
「おかえり主人!運動会はどう………って、その小脇に抱えたモノは何ですか?」
「ああ、これ?」
ヒョイ、とそれを持ち上げて見せるアモン。
「さっき道中拾ったの」
「返してきて下さい」
「や!ウチで飼う!」
抱えられていたのは、若い女だった………。
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女は目を覚ました。
何かガヤガヤとうるさい音が聞こえたからだ。
「もうちょい長く…そうそう、それ位。いやあ、それにしてもこれは凄いな!まさか伸縮自在で太さも変えれるとは……」
「ただの竹じゃなかったんですね!見た目はただの竹なのに!」
「うむ!しかし、これどこで見つけたんだあいつら?異様に重いし……」
「長さ太さが変えれて、かなり重い……何処かで聞いたことあるような……」
「いや、まさかあの斉天大聖の棒じゃないだろ。竹だし。切れたし」
徐々に覚醒していく意識。
最初に目に映ったのは知らない天井。
そして体は暖かいふかふかに包まれている。
この状況は……。確か私は……。
「あ!主人主人、目を覚ました様だよ!」
「ん?おお、本当だ」
女の目に映ったのは、男の顔と、心配そうな女の子の顔。
「ええと、私は…」
「君ねー、森で倒れてたの。それを我が拾って連れてきた。オーケー?」
確かに自分の最後の記憶は、森の中で途切れている。
男は嘘は言っていないだろう。
そう判断し、女は起きて、居住まいを正した。
「ありがとうございます、助かりました」
「ん、いいのいいの、んで、何があった?」
そう聞いた男の顔は、今までの優しい顔から一転、一瞬で真剣な顔になった。
女は答えづらそうに俯く。
「………」
「いや、答えづらいかもしれないが、答えてくれると助かるな。何が起こったのか把握はしておきたい。それに強制的に答えさせることは出来るけど、なるべくしたくないしね」
「…いえ、そうではなく…」
「?」
「その、道に迷ってしまいまして……」
「「………」」
絶句してしまう男と女の子。
「す、すいません、本当は森を抜けてアモン様にお会いしたかったのですが……本当にダメですね、私は」
「………彼にあってどうするつもりだったんだ?」
「……それは」
再び俯いて黙ってしまう女。
「何か重い訳が?」
「い、いえ、そういう訳では……」
「……ふむ。まぁいい。急ぎの用でないなら後でもいいだろう。体は動くか?」
「あ、はい……大丈夫です。動きます」
「そうか。よし、なら飯食うか?」
「……いいんですか?」
「おう、食え食え。二人で流しそうめんしてもつまらないと思ってたんだ。という訳でマーリン、スタンバーイ!」
「アイアイサー!」
男が指示すると、女の子は先ほどの竹を準備しだす。
「あ、君名前は?」
「あ、も、申し遅れました、セラ、と申します」
「セラさんね。我はアモン、そしてあれはマーリンだ」
「………え?」
さりげなく衝撃の事実を暴露され、固まる女、セラ。
そしてアモンはなんでもない様にマーリンを手伝うのだった。
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「いやぁ、久々の流しそうめんだなぁ。最後にしたのは何時だったか…」
「………」
「お?セラさん、食べなよ、さっきから箸が進んでないよ?」
「スイマセン」
「あ、もしかして箸の使い方が分からない?それはごめんね、配慮が足りなかったか」
「トンデモゴサイマセン」
「……そんなに緊張しなくても」
「モウシワケゴサイマセン」
緊張でカッチカチな動きや話し方しか出来なくなっているセラを見て、ダメだコリャと箸を置くアモン。
マーリンも心配そうにセラを見ている。
「仕方ない、マーリン、飯は後だ。セラさんも一回そこのテーブルに座ろうか」
アモンはさっさと席に座り、マーリンは動かないセラの背を押してアモンの対面の席に座らせる。自身はアモンの隣へ座った。
「さて、改めてだが…アモンだ。まあ、侯爵なんて爵位も一応持っている。よろしく」
「は、はぃい!セラです!ヴァンパイア族です!よ、よろしくお願いします!」
頭をテーブルに打ち付ける勢いでセラは頭を下げる。
「いやそんなに緊張することか?」
「し、しますよぉ!アモン様を前にして緊張しない訳がないじゃないですか!ルシファー様の右腕とも名高いあのアモン様ですよ⁉︎」
呆れた様にアモンが問うと、セラはいきなり顔を上げ熱弁しだした。
「天界戦争の時には真っ先にルシファー様の元へ駆けつけ大活躍!そしてルシファー様がこの地獄の地に降り立った時にもそのお隣に控え、地獄統一にも一役買ったアモン様を前に!緊張しない訳無いじゃ無いですかぁ!」
拳を握りしめ熱弁し終わり、肩で息をするセラに、若干引いているアモン。
対してマーリンは…。
「分かってる!この子イイ子だよ主人!飼おう!」
同志を見つけた!という目でセラを見ていた。
「いやいや、待てマーリン。セラさん、とりあえず我に用事があってきたんだろう?何の用だ?」
「あ、ええっと、それはですね……」
先程までの興奮を一気に冷まし、今度は言いづらそうに口を噤む。
アモンはそれを不思議に思ったが、そのまま黙って次の言葉を待つ。
やがてセラは意を決して口を開けた。
「ア、アモン様にお願い申し上げます。どうか、どうか私の村を救って頂けないでしょうか!」
「………うん?救う?」
その言葉に、首を傾けるアモン。
「救ってほしいのなら、天使にでも頼めばいいんじゃ無いか?あいつらも地獄に住んでるからって差別はしない奴が多いぞ?多分助けてくれる」
「ですが、ある日私の村を訪れた旅人さんが、言ってたのです。『この村の呪いを解きたいなら、悪魔侯爵アモンに相談してみなさい。彼ならばきっと解決してくれるでしょう』って」
「……旅人?誰だ、それは?」
「確か、マリア、と言う人間の方でした」
マリア、と言う名に固まるアモン。
「…彼女の性格は?」
「え?ええと、無口でしたが、優しい方でした。方向音痴だそうですけど、旅が好きで、私の村にも旅中に迷って迷い込んでしまったそうで」
「なるほどね……確かヴァンパイア族って一つの村にしか今はいないよな?」
「は、はい。昔はもっと一族は繁栄していたんですが、私のお祖母様が子供だった頃から急激に衰えてしまったらしくて。今では寿命も身体能力も人間と同等以下になって、出生率も低くなったから人数も減ってしまって。このままでは、一族皆滅びゆく一方です」
セラの目には涙が溜まり出した。悔しいのだろう。
昔はヴァンパイア族も数こそ少ないが、地獄でも強力な力を持つ種族として名を馳せていた。ところが、最近では何故か力が最低クラスまで落ちてしまった。それにより、周りの種族からも馬鹿にされ、奴隷の様な扱いを強いられてしまっていた。自然に彼らは見を寄せ合って生きる様になり、今では村単位の人数が残されるばかりとなってしまっていた。
「ふむ。無口、旅好き……。ベタニアの方のマリアちゃんかな?」
そう言ってアモンはスマホを取ると、電話を掛け始めた。
「あれ?主人、マリアさんの方は携帯持ってるの?」
「ん?ああ持ってるぞ、GPS付きのお子様携帯だがな。あ、つかながった。もしもし、マリアちゃん?今いい?聞きたい事があってな。……今合コン中?…待て、合コンの意味分かってるかマリアちゃん。男女が良人を見つける為の場だぞ?教義に反するだろう……あ、やっぱり知らずにいたか。今すぐ抜けなさい。……え?偉い神様がいるから恐れ多い?どこの神様だ?………は?ゼウス神にフレイヤ嬢?よし分かった我に呼び出されたって言って抜けなさい。後で二人には言っておくから。うん。………うん?ああ、そうだった、君に聞きたい事があったんだ。君、ヴァンパイア族の村に行ったことは?ある?ならその時、我の名出した?あ、出したのね、分かったよ。ああいや、別に良いよ、うん、ただ次から後からでいいから報告はして欲しい。うん、そういう事で。はーい」
携帯を切ったアモンは、ふぅ、と一つ溜息をついた。
「大変そうだね、主人」
「ああ、うん、ちょっと説教しなきゃいけないな。という事でセラさん、暫く我抜けるから、マーリンと一緒にそうめん食べて待っててくれ」
「あ、はい」
そう言うとアモンは踵を返し、部屋を出ていった。
残されたのは、マーリンとセラ二人。
「……セラちゃん、そうめん食べる?」
「…ご馳走になります」