シャイボーイの冒険。
重い体を引きずり、何とか朝のLHRまでに間に合った。危ない危ない。
クラスには湊と美月も来ていて、他のクラスメートと溶け込んでいるようだった。
そういう俺も席が近くの人と話はするのだが
クラスメート女「あ、これ配布プリント後ろに回してくれる?」
俺「あ、わかった。」
こんな業務上の話しかできない。
ていうか、あまり親密じゃない人と話す時に発語する「あ」は何なの?外国人なの?
さらに見知らぬ女子なのが余計に話しづらくさせる。ほら?いきなり知らない女子と話すのはかなり勇気じゃん?下手に仲良くは仲良く話そうとしても、俺では不自然さを全開にだしてしまい、
「何?あの人妙に話してくるんだけど?」
なんて陰口を言われた日には、引きこもる自信がある。
そもそも、なぜ俺が女子とばかり話すことを考えているのかというと、俺の席がクラスの一番後ろで窓際だからだ。さらに、その俺の席の横がなぜか空いており、俺と接点のある席が前しかない。おかげで席の近くは見知らぬ女子しかいない俺は、しゃべることなく昨日は寝てしまっていたのだ。
まあ、こういう場合は無難に過ごして、なんとなくクラスに溶け込めればいいや。そんなことを考えながら、窓から外の桜を見ているとガラッと教室の扉が開き、担任の先生が入ってきた。
そして、出欠をとり全員がいることを確認すると、転校生の紹介をすると言い教室の扉の外に向かって声をかけた。
すると、また扉がガラッと開き、一人の少女が入ってきた。
「はじめまして。七霧 鏡花です。これからよろしく。」
そう淡泊に言いながら、軽く頭を下げた後前を向いた。そのたたずまいは、凛としており儚くも可憐なものだった。肩まで伸びた真っ黒なロングの髪。それと相対するような澄み切った白い肌。芸術と思えるような端正な顔立ち。
やばい……これはかなりスペックをお持ちのようだ。生まれて初めて人を注視してしまったかもしれない。しかし、それはどうも俺だけではないようだ。
男子のボルテージが一気に上がっていくのを感じるし、女子のほうでも「え、何?モデル?」というささやきが聞こえてくる。
そのクラスのざわめきの中、先生は七霧に後ろの席が空いているからそこに座れと言った。七霧も確認し席へ向かう。
あれ?俺の隣の席じゃないですか。なるほど、だから空いていたんですね。
七霧は席に到着すると、俺なんかには一瞥もせず着席する。
しかし、俺のほうはまだ目が離せない。席に座るという当たり前の行為でも、何か様になって見えてしまう。
朝のLHRも終了し、1限の授業までまだ少し時間がある。チラッと七霧を見てみると、なんか話しかけにくいオーラをバシバシ感じる。
でも昨日の帰りに美月とも話してたけど、この娘にも不安とかあるんだろーな。俺なんてクラス替えで、前の席に見知らぬ女子がいるだけで話せないし不安になる。こういう時は、たわいもない事を話しかけてもらうと不安も和らぐし、溶け込みやすくなる。ソースは俺。話しかけられる相手が女子なら惚れるまである。
問題は俺自身がクラスに溶け込めていないことだが、そこは置いておこう。偶然にも俺の隣になったんだ。少しぐらい、クラスの役に立とう。シャイボーイ、冒険をする!だ。
「はっはじゅめまして。」
やってしまった。盛大にかんでしまった……RPG一面の雑魚キャラにすら手こずる感じか…前途多難だな。
しかし、こうなったら勢いで行くしかない!
「ゴホッ。えー菱形大河って言います。これからよろしく。」
よし。今度は成功した。七霧は一瞬こちらを見て
「ええ。こちらこそよろしく。」
「………」
まずい。このまま終わってしまうと、話しかけないほうが良かったどころか、ある程度時間がたっても気まずい間柄になる可能性大。ここは、もう少し会話を続けた方がいいだろう。
「えーと、そういえば七霧さんって何処から引っ越してきたの?あとどの辺に引っ越したの?」
今の俺が出来る精いっぱいの質問をぶつけた。(勇者シャイボーイはマダンテを唱えた。)
さあ、どう対応する?
「東京のほうからだけど、なぜ会って数秒の人にそこまで細かく言わないといけないのかしら。やっぱり見た目が無骨だからデリカシーなんてないのかしら。あ、もしかして私に好意があるの?ごめんなさい。あなたとはお付き合いできません。」
全俺が泣いた。まさか告白してもいないのに振られてしまう俺って一体?
(勇者シャイボーイの冒険は魔王の前にして終了を迎えた。…The END)
この事件は一瞬にしてクラス内広まり、転校生にいきなり告白して振られたという面白キャラが定着してしまうのであった。
はあ、これからは冒険しない人生を生きよう。