俺の周りスペック高すぎだろ・・・
「よっ!また同じクラスになったな。」
話しかけてきたのは俺の親友である吉田湊。
高校一年の時に同じクラスになり、妙にウマが合ってよく一緒につるむようになった。
「ホント一緒でよかったよ。あんまり知り合いがいなくてどうしようかと思ってた。」
そんな俺は菱形大河。コミュ力はそんなに低くないと思うが、初対面の場に放り込まれるとあまり自分を発揮できないシャイボーイである。
「たしかに俺ら以外には1年と同じクラスの奴はいないみたいだな。」
湊はあたりを見回しながら確認した。俺らが通う高校は1学年400人の高校だ。しかも進学校の為クラス替えは成績順に振り分けられる。ちなみに俺の成績は良いほうだったので一番上のクラスに配属された。湊に至ってはかなり優秀(そんな風には見えないが)なので当然と言えば当然か。
「しかし、みんな頭よさそうだな?」
湊が茶髪の髪をかきながら苦笑いをしてこちらに振り向く。
いやいや、おそらくお前より勉強できるやつあんまいないぞ。
あと少しで定刻というところで扉がガラッと空き、一人の少女が息を切らして入ってきた。
「マジやばい、マジやばい。進級初日から遅刻なんてシャレにならないって。」
そう言いながら、セミロングぐらい栗色の髪をほっそりとした指先で掻き揚げながら呼吸を整えていた。てか、あれ美月?
俺が訝しげな視線を送っていると
「あー大河がいるーあと湊もいるじゃん」
なんてアホっぽい呼び方。この一之瀬美月は俺の幼馴染であり、友人の一人である。
昔から知っているせいか,美月にあまり女性としての魅力は感じないのだが、ほかの同級生からはかなり人気があるようだ。確かに顔はかわいいと思うが中身はアホだからな……
1年の時には美月とクラスは違ったが、俺との付き合いはあったのでその関係で湊とも友人になっていた。
「初日から重役出勤とはさすがですね、美月さん?」
「ほえ?ジュウヤクシュッキン??麻雀かなんかの役?」
俺の皮肉をおよそ女子高生とは思えない返しを真顔でしてくるあたり、さすが美月と言っておこう。
そうこうする間にLHRが開始され、始業式などのイベントは無事に終わった。
「ねー二人とも一緒に帰ろうよ」
「でもお前は自転車通学だろ?俺たちバス通学だしあんまり一緒に帰れないぞ?」
うちの高校は校門前にバス亭がありバス通学者が多い。港は家が遠いのでバス通学しないと時間的に厳しい。俺と美月は小学校から一緒であり学校までそう遠くはないのだが美月は自転車、俺はバスで通っている。その理由としては、学校がかなりきつい坂の上に建設されていて坂を自転車で上るのはホントに体力が必要となる。別名気合の坂。今でもこの坂を一度も自転車を降りずに登れた奴には、周りから拍手がもらえるてちょっとした英雄になれるらしい。その坂を毎日美月は上ってくるのだから恐れいる。
「それなら大河たちが歩いて帰ればいいんじゃない?」
キョトンとした顔で言ってくる。いやいやちょっと待ちなさい。俺達のメリット無いし、なぜそこまで自分勝手に提案できるのか。昔からこういう所ある子ですが幼馴染みとして僕は悲しいです。
「いや、さすがに俺は家が遠いしちょっと用事があるから難しいな。まあ大河は付き合ってあげなよ。俺は先に帰るからまた明日。」
湊はそう言うと颯爽と身支度をすませ教室を出てしまった。美月は手ふりながらじゃあねーをしている。これは完全に面倒事を押し付けられた形だ。
「ほら、私たちも帰るよ!」
そう言いながら、俺の腕を持ち上げ教室を出ようとする美月。この辺は昔から変わらないが、俺たちもう高校生だし少しは変わってもいいんじゃないですかね。
しぶしぶ身支度を済ませて岐路に着くことにした。まあ、気合の坂を下るのは別にいいか……
一度美月は駐輪場に自転車を取りに行くので、校門前で待ち合わせることになった。俺は先に行って待つことにした。俺たちの高校は厳しい坂の上にあり、何故かちょっとした遊歩道としても整備されている。特に今の時期には桜並木が立ち並ぶスポットとして、近所では有名だ。特に高校は坂の頂上にあり、そこから下まで続く桜並木は絶景だ。
「おまたせ。さあ帰ろっか?」
美月が自転車を押して校門前まで来た。それから二人で坂を下り帰宅することにした。
「うまいことクラス替えで一緒になったねー」
「ああ。また湊と一緒になったしな。しかしお前とも同じクラスになるとは。」
「なんか嫌そうなんですけど。中学3年生以来なんだから少しは嬉しがりなさいよ!」
自転車を押しながら俺にタックルしてくる美月。危ないからやめろって。
「でも、3人とも成績上位クラスなんてみんな出来がよろしいですなー」
美月がニヤニヤしながら俺の顔を見つめてくる。
「まあ、俺は正直ぎりぎりだろうな。お前と湊はトップクラスだから当然だろうけど。」
そう、美月はアホだが勉強できるのだ。高校受験で成績がぎりぎりだった俺は、美月に勉強を教えてもらって何とか合格することができた。だから、今回のクラス替えの件もうまく一緒になったのではなく、俺がギリギで2人と同じクラスに滑り込んだといったほうが正しい。いつもギリギリなのは、俺はKAT〇TUNの歌か何かなのか?
「高校2年生で一緒のクラスになるとかホントタイミングいいよね。文化祭に、修学旅行もあるし色々楽しめそうじゃん。」
「そうか……そういえば修学旅行は今年どこに行くのかな?」
何となく美月を見ると、すごく呆れられた表情をしながら、
「大河はLHR中に何を聞いてたの?今年の修学旅行は北海道だって担任の先生言ってたじゃん。」
ついでに『あんた、ばかぁ?』くらい付け足されそうな勢いで怒られてしまった。
いや、その少し眠くて……はい……
「その調子じゃ、明日転校生が来るって話も聞いてないね?」
「え?マジ?全然覚えてない。男?女?」
さすがにオネェはないでしょ?
「はぁー。これだから男子は…女の子って言ってたよ。しかもお嬢様って噂だし。」
「そっかー楽しみだなー」
おそらく俺の顔は少しだらしない表情になっていたのであろう。すると美月が、
「でも、噂通りなら大河は相手にされないかもね?」
にっこりと満面の笑顔で暴言を吐かれてしまった。こいつ…ちょっと自分の顔と頭とスタイルが良いからって、身長・頭脳共に平凡・完全無欠フツメンの俺をバカにするとは……あれ?俺コールド負けしてない?
「ばか!本当にお嬢様なら下々の民にも、慈愛を持って接してくれるはず。そうじゃないと俺は泣く自信がある。」
「うわぁ…めっちゃみっともない…」
やや本気で引いている。うるさい。お前がそういう流れにしたんだろうが。
「でも、どんな子か不安だけど、新しい友達ができるかもって思うと、やっぱり楽しみだよね。」
気を取り直したような笑顔で俺のほうを見てくる。確かにこの時期に転校してくるのだから、転校生も不安があるだろう。それを少しでも減らして、早くクラスになじませてあげる手伝いぐらいするか。
……ん?
シャイボーイな俺にはおそらく不可能だな。そういうのは湊に任せたほうが確実。
そんな話をしているうち、気合の坂を下りきっていた。話すのに夢中であまり桜並木が目に入らなかったが、少し花が散りかけており、アスファルトの上に花びらが落ちていた。
「さあ、後ろに乗って。」
自転車のサドルをポンとたたきながら美月が俺を手招きする。
「何に乗るんだ?」
俺が不思議そうな顔で質問すると
「そんなの自転車しかないでしょ!」
ちょっと待ってください。高校2年生にもなってそれはなんというか恥かしいですよ。
「いや、それはちょっと……大丈夫か?」
「何が?あ、重さの事なら心配ないよ。毎日あの坂を漕いで登ってるから。脚力には自信あり。」
腕に出もしない力こぶを作りながら力説する美月。いや、俺が心配しているのは体力面だけでなく、世間様の目といいますか…
それより、女の子に自転車をこがせて男が後ろに乗るのもおかしいですし。
「と、いうことでさっさと乗る!」
無理やり腕を引っ張られたので、しぶしぶ自転車に乗る。
「行っくよーしっかり捕まっときなさいよ」
はて、どちらに捕まったらいいのでしょう?肩?肩だよね?そう思って肩を掴もうとすると、
「ほら?おなか掴んどきなさい。」
そういうと美月は俺の手を握り、自分のおなかを持たせる。
「さあ、出発!」
そういうと美月は自転車をこぎ始める。無理やり持たされたおなかは、かなり引き締まってほっそりしていた。おなかより上の方は結構盛り上がっていそうだが、気のせいかな。
思春期真っ盛りの俺は、終始微動せずに自宅に着くまで自転車に乗っているのであった。