第8話:慈悲のない信頼。
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さっきの所を出発して、一時間ほど経った。
漸く、カファイドという街(多分)が視認出来る距離に来た。
いやー、馬車、良いですねー。
車と違う、生き物の感じが、良い。
手綱を引く感じも、良い。
……ん?
『何で普通に乗れてるんだよ。』
ってか?
簡単に言えば…
最初は四苦八苦してたんだよ、滅茶苦茶。
馬全然落ち着かないし。
傍から見たら、戦いだよ、あれは。
でさ、凄い疲れる訳よ。
ハッキリ言って、盗賊と戦うより疲れた。
(全く…あの馬は…)
とか思いながら休憩してた訳よ。
少し斜面になってる草の上に寝っ転がって。
風が気持ち良かった。
まあ、そんな感じで周りを眺めてた訳よ。
そしたら…
「あっ、馬車だ。」
遠くの方にチラッと馬車が見えたんですよ。
ほんと、もう、一瞬。
説明終了。
いやマジで。
マジでそれで、乗れるようになった。
元々長い間馬車に乗ってた気がしてくる。
まあ、気のせいだけども。
何も言う事を聞かなかったあの暴れ馬も、今は指示通りに歩いてくれる。
悪口言ってスイマセンでした。
俺が悪かったです。
きっと【完全模倣】のお陰だと思う。
俺自身の見学スキルはそんなに高くない。
にしても、このスキルは凄い(確信。
これからもお世話になりそうだ。
今回のは勝手に発動しただけだけどさ。
何時かは、自由に使いこなせる様になりたい。
そのあとは【物質変化】を使ってみてた。
【完全模倣】を使って無かったら、完全に忘れてた。
土を鉄塊にしたり、鉄塊を棒にしたり。
空気を鉄塊にする事も出来た。
但し落下注意。
しかも空気が薄くなった。
因みに形も変えられた。
実験結果。
大体
(アレをコレにしよう)
な感じで出来た。
色々やってみた結果、『構造が難しいもの』は造れなかった。
パソコンを思い浮かべても何も起きない。
造っても、ネットは出来ないけど。
そもそも電気無いけど。
可能なのは、板とか棒とか円の組合せくらい。
頑張れば凄いのが出来る(かも知れない。
あと、実験のついでに、盗賊を拘束しといた。
足に枷、腕には手錠を。
手と足に直接造ったから繋ぎ目の鍵穴も無い。
壊さない限り外せない。
完璧である。
因みに鉄製。
そのあと、盗賊を一緒に連れて行く為に、荷台を造った。
どう見たってただの箱だけど。
気にするな。タイヤは付けたから。
機能に問題は無い。
振動は凄いと思うけど。
頑丈かどうかは知らない。
因みに荷台は『錆びない』と言う事でステンレス製。
最初は木で造ろうと思ってたけど、出来なかった。
構造は一緒のはずなのに。
何故だ。
あの女の子は俺の隣に座らせておいた。
まだ寝てるけど。
彼女、結構可愛い。
そんじょそこらのアイドルなんて敵じゃない。
ですが、何もやらしい事はしてません。
アイアム紳士。
因みに、隣に座らせた理由。
A.荷台は荷物が多すぎた。
あれは乗せられない。
そもそも二人乗りだろうし、この馬車。
荷台もう一つ造ろうかとも思ったけど、繋いだら馬が動かなくなった。
重すぎるらしい。
それに、盗賊入りの箱は、仕方ないとしても、
『起きたら荷台が二台増えてる!?』
駄洒落じゃないけど、これ、おかしいでしょ絶対。
一台でも同じだと思うけど。
「…んっ、あれここは?」
「ああ、やっと起きた。
ここは、あなたが襲われてた所から王都に向けて一時間位行った所です。」
結局一時間も寝てたのか。
盗賊の方を起こして正解だった。
「えっと、君は?」
「私は、襲われてるあなたが見えたから助けた、ただの通りすがり。」
「そっそうなんだ。
あ、あの、もう一人、男の人が居た、と思うんだけど…
見な、かった?」
肩が震えてるし、多分もう察してる。
隠す事は……出来ない、か…
「…男が一人殺されていたから、多分その人がそう、だと思う。」
非情かもしれないけど、死体は置いてきた。
自分は状況からして、その人とこの子は仲間だと思ったけど、本当は違うかも知れない。
盗賊同士の仲間割れだったかもしれないし。
それに、もし、この子の親だったとしたら、あの姿は見せられない。
「そう、なんだ。
有り難う、私を助けてくれて。」
「礼なんて……
私はその人を、助けられなかったんだから……」
「いいよ。別に。
あの人は、そうなっても仕方なかったと思う。」
「…………え?」
…ええ?
…えええ?
「あの人一応お父さんの弟、つまり叔父さんなんだけどね。
働いた事無いんだよ。人生で一回も。」
「で、お父さんの所によく来てた。お金を貰いに。
そのお金の使い方がまた……
賭場に行ったり変な物買ったりとかばっか。
仕事探しなんて全くしない。」
「お金使い果たしたら、お父さんの所に来る、この繰り返し。
滅多に怒らないお父さんも、この前は
『お前もそろそろ仕事しろ。次また来ても、もう金はやらんぞ絶対。』
って言ってたし。完全に怒ってたし。
メッチャ怖かった。」
前世ニートやっててスイマセンでした。
本ばっかり買っててスイマセンでした。
この人生ではしっかりお仕事、努めさせていただきます。
「ま、でも一人で逃げたとかじゃなくて良かった。
あの人、何するか分からないし。
もしかしたら、犯罪に手を染めるんじゃ。
それでお父さんに迷惑でも掛けるんじゃ。
とか考えてた。」
信頼がある意味高いですね、はは…
「……でも……あの人、
死んじゃったんだなぁ……」
「…」
(2014;3/12改稿)