第64話:旅をしていると、美しいモノが実に多い事に気付かされた。
遅くなった。何か筆が乗って長くなったんだ、仕方ないね。
=2694字=
今回は別視点、この小説上で1年半ぶりの事である。
…………別作品で一昨日書いたけどね。
因みに次回も別視点の予定。
視点変更[フール]→[ルク・ケンファー]
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俺は戦場に居る。
戦場と言っても未だ一滴の血も流れていない長閑な場所だ。
「今日はいい天気ですね、洗濯物がよく乾きそうだ。」
「あら、お早いご起床で。もう少しゆっくりと寝ていていいんですよ?
朝御飯の準備もまだですし。」
顔を洗いに裏にある井戸まで来てみると、昨日村長に宿はないかと頼んでいた時に、はたと現れて快く家に上がらせてくれた女性が居た。
名前は『レイナ』だと聞いた。
「いえ、個人的に散歩がしたかっただけなのでおきになさらず。
1時間ほどブラブラとしてきますので。」
「そうですか、じゃあ帰ってくる頃に朝食を用意しておきますね?」
「はい、有り難うございます。」
井戸から水桶を引き上げ、袖で汗を拭いでいる姿が彼女には実に似合っている。
活発な女性と言う者は普段から見てきたが、陰険とした争いから離れている彼女の方が美しく映る。
何の飾りもない布の服が、黄金の鎧に勝るとは。
普段から外に足を運ぶ事をするべきだったな。
ずっと眺めていては彼女も気分が悪いだろう。
ああ口に出したからにはそろそろ散歩に行こうか。
散歩に行くと言っても此処は只の農村、大都市ではない。
色々な店舗を見て回る訳にはいかない。
しかし折角此処まで来たのだ、人工物ではなく自然を見よう。
少し歩くと森に出る。
聞く所によると此処の、『ユカ』と言う村の人々は普段から薪や猟の為に入っているらしい。
中々に奥が深く、踏み込みすぎるとあらゆる危険生物がばっこする地帯に踏み入ってしまう。
「この『結界柱』が役に立っているとは聞いていたが、当事者から聞くと喜びも一入だな。」
三方に杭を打つのみで危険生物をある程度まで防げる『結界柱』。
全国の農村に配られているが、実際に使われているのを見るのは初めてか。
コレは量産する為に強度は程々故に、城壁には使っていないからな。
…………しかし、この辺りは未開拓地に隣接している、場合によってはどうなるか。
毎月報告される危険生物による死者は、この結界柱が配られた事により激減こそしたものの、未だ大勢居るのだ。
城壁級の結界柱も資金があればできるだろうが、些か国も金がない。
やはり昨年、一昨年の改革が負担になるか。
「……いや、そんな事今考えてもどうしようもない。」
深く考えに耽ってしまった。
時計を見るともう1時間が経とうとしている、早くレイナさんの所へ戻らねば。
少し急ぎ足でユカ村を突っ切る。
彼女の朝御飯が待ち遠しいのもある、昨日の晩御飯も旨かったからな。
鍛練しているお陰で息も切らさず玄関まで辿り着き、身嗜みを整え家に入る。
家に入るとエプロンを羽織り、台所の鍋を混ぜているレイナさんが見えた。
「あら、散歩は終わりましたか?
何もない所ですけどお楽しみになれましたか?」
「此処は良い所です、謙遜するべきじゃない。
街で育った私にとっては、この森から来る涼風が気持ち良い。
住んでみたいくらいだ。」
「そうですか?
ずっと此処で暮らしていた私にはコレが日常なんです、良く判らないですね。」
何とも羨ましい、金銀財宝より贅沢だ。
幸せとはこう言う者が言うのだろう。
所で、この鼻孔を擽る良い香りは、少し運動して小腹の空いた俺には些か耐え難いものだ。
「良い匂いだ。」
「この村の自慢なんて取れたての野菜くらいですから、どうぞ好きなだけ食べてください。」
そう言って机に上に置かれた椀のスープは透き通っており、煮えて柔らかくなった沢山の野菜を俺の口に入れようとしていた。
椅子に付き、すぐさま置いてあった木のスプーンを手に取った。
「頂きます。確か此処等の地域では食前にそう挨拶をするんでしたね。」
「ええ、そうですね。どうぞお召し上がりください。」
そう言われると勝手にスプーンがスープを掬った。
開けて待機していた口に入ったそれは実に旨い。
自然の味とはこう言う事か。
成程、あのコックが言っていた事が理解できた。
俺としては味わって食べていたつもりが、何時の間にやら椀が空になっている。
お代わりを頼んでもすぐに消え失せる。
腹が一杯になる頃には、もう5、6回お代わりをしていた。
「良く食べましたね、沢山作っておいたつもりだったのだけれど。」
俺の前に座り、一緒に食べていたレイナさんにそう言われる。
「ええ、俺でも驚きですよ。
このスープはそれだけ美味しかった。」
「……何だかこんなに何度も褒められると照れますね。」
レイナさんは頬を赤くして目を逸らす。
…………うん、良いな。
しかし、一時の休息もこれまで。
名残惜しいが俺はもう旅立たなければ。
すべき事を忘れてはいけない。
間借りしていた部屋から全ての荷物をリュックに入れて持ち出す。
玄関まで来た所でレイナさんが見送りに来てくれた。
「もう行かれるんですか。何だか一瞬に感じますね。」
「ええ、良い体験でした。」
「ふふ、私はSランク冒険者の旅路を体験してみたいですけど。」
「別に良いものでもないですよ。
ギルドから高難度の依頼を催促され、失敗すれば責任は重大。
正直Aで丁度いい。」
俺はSランクになっても何時でも隠れられるから良いが、AとSでは責任の重さが違うからな。
Sは名誉だ、ランクアップも自分の意思で決められる。
まぁ俺としてはこんな肩書きなど如何でも良いのだが。
「そうは言っても自分が望んでSランクになったのでしょう?」
「…………まぁ、そうか。」
冒険者である時くらい『完全な独立権』を使って国から解放させてくれと言う願望もあったが、主題は人助けで間違いない。
偽善ではないと思っているが、政府にも回収しきれないモノを駆逐するにはコレが丁度良いと前々から考えていたのだ。
いざ行動してみれば戦争が始まると言う不運からして、前途多難な旅になりそうだがな。
「危険な旅でしょうが、お気をつけて。」
「俺が負ける時には人類は絶滅してますよ。」
「ふふ、じゃあルクさんを皆で守らないと。」
「ははは。」
村を出てから少し歩いて後ろを見ると、レイナさんは村の入り口でずっと手を振り続けてくれていた。
手を振り返すとニコリと笑ってくれる。
陽気な雰囲気での別れになったな。
うん、一期一会に陰気は不要だ。
ユカ村が見えなくなるほど離れても、私の思考の中心は未だユカ村にあった。
この青々と深々と広がる空を仰ぎ見ながら、考え込むのは良いものだ。
しかし、1つの轟音と共に俺の思考は吹き飛ばされ、草原の只中と言う現実が視界に入り込んできてしまった。
「…………何だ、この音は。」
轟音とは言え、爆心地はかなり遠くだ。
感じた方向は俺の後方、…………つまり先程出発したユカ村だったな。
1週間後8/23(日)[第65話]投稿予定。
小説が一本線で厚みも広さも感じないのは視点が主人公固定だからだと気付いた。




