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第59話:赤い水、滴り落ちて、心突く。

 覗き穴から、見ゆるは己。


 短歌にしてみた。文字数に制限あるのが面白いんだよね。


 =1573字=


 

 【流血表現注意】

 初手の剣戟を最も近いイノルグに繰り出す。


 イノルグとは変異した猪のモンスター、しかし体長は一般的な猪は似ても似つかず、3mが平均と言う巨大さ。

 木の上から本物を見て一瞬帰ろうかと思った程。

 だって牙でかいんだもん、象じゃないんだぞ。

 早く乱獲されて小さくなってくれ。


 そう思いつつも、魔法班の二人が既に攻撃を開始してしまい、しかもグーデントさんも木から飛び降りちゃったから、もう私も行くしかなかった。



 下からの斬撃がイノルグの腹部に命中する。


 が、


「お、重い!」


 全力で斬り込みも虚しく、剣は少し食い込んだだけで止まってしまう。


「深く斬ろうとし過ぎた!」


 それ以上の攻撃は諦め、剣を抜きにかかる。

 イノルグの肉により強く押さえ付けられていたが、どうにか両手で引っこ抜く。

 その時、


「うわっ!」


 剣を抜いた傷跡からイノルグの鮮血が噴き出す。


 油断していた、イノルグはモンスターだ、魔物とは違い呼吸もすれば血も噴き出す。

 血管を傷付けたか、相当な量だ。

 避けきれず、真正面から浴びてしまった。


 生臭い、舌に鉄の味も感じる。

 咄嗟に目元を拭いた左腕の袖も赤い。

 顔全体を覆う少し粘りけのある液体。

 それが顎に集まり、雫となって滴り落ちる。

 手にしっかりと愛用の剣が握られている。

 柄までもが赤く染まるそれは、たった10秒程しか経っていない筈なのに、まるで様子が違う。

 無条件に『命を奪う道具』だと言うことを私に知らしめる。

 

[ドサ]


 先ほどのイノルグが地に伏した音が聞こえる。


 …………そうだ、私はこの『道具』の使用者だ。

 『道具』はあくまでも道具、使用者がいなければ『命を奪う』ことはない。

 私が『道具』を使ったんだ。

 私が剣を振るったんだ。

 私が命を奪ったんだ。

 私が……、

 私が…………、



「フールさん!」


 思考が回転しなくなった私の脳内に、遠くから声が響く。


 …………そうだ、私は確かにこの剣を使った。


 いつの間にか倒した筈のイノルグが、目を充血させ此方を睨んでいた。


 使ったことは紛れもない事実だ。

 だがそれがどうした!


 イノルグが此方へ猛進してくる。


 私は剣を構える。 

 今は殺すことに戸惑いを持つな!

 生きたければ剣を握れ!


「っあ!」


 イノルグへ刺突を放つ。

 剣先は眉間に吸い込まれ、骨の感触を私に伝えた後、深々と突き刺さる。


「らぁ!」


 脳まで達したと思われる私の剣を、鼻面を蹴り飛ばす反動で引き抜く。

 引き抜いた余力で後ろに吹き飛ばされる剣の先から、血が放物線を描く。

 

 蹴りの力が強すぎたが、蹴りの反動は私の身体にも負荷を掛け、私は思わず尻餅を付いてしまう。

 そんな私の目の前でイノルグは再度、大きな音をたてて地に伏せた。

 その振動で思わず身体が硬直してしまう。


 私はこの状況を尻餅を付いたそのままで、ぼんやりと眺めることしかできない。

 まるで非現実的、夢のような心地だ。


 本当に私が起こした行動なのだろうか。

 夢ではないのか、それとも幻覚か。



 …………いいや、これは確実に今存在している現実そのものだ。

 私は正気だし、背にベッドも感じない。


 地面に手をつき、立ち上がる。

 身体に怪我はない、まだまだ戦える。


「フールさん!大丈夫ですか!」


 丁度ユウちゃんが来てくれた、心配かけちゃったかな。


「大丈夫、怪我はしてないよ、これは全部返り血だし。」

「そ、そうですか、安心しました。」


 笑ってそう言うと、ユウちゃんの表情も少し和らいだ。


 情けない姿を見せちゃったなぁ、保護者失格だ。


 ……挽回しないとね。


「ユウちゃんは後ろにいて。後は私がやる。」

「フールさん……?」


 大人は常に子供の模範であれ。


 私が、私が負けることは許されないんだ。

 不安があったとしても、恐怖があったとしても、護るべき人がいるのならば、私は生き残る。

 その人の為に受けた痛みなら、どれだけでも耐えて見せよう。


「大丈夫、絶対に負けない。」


 そうユウちゃんに言い残して、私は残りのイノルグへ向け、駆け出した。

 


 1週間後7/19(日)[第60話]投稿予定。

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