予想外な彼女Ⅱ
短編『予想外な彼女』の続きです。
そちらを読んでからでないと、話が続かない恐れがあります。
「ねぇ、なっちゃん」
「なっちゃんって呼ぶな、このストーカー」
俺、但馬丈太郎が俺のことをストーカーと罵る彼女、東野なつみと同じケーキ屋でアルバイトを始めて、もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。
彼女に一目惚れした俺は、姑息な手を使って彼女を自分のものにしようとした。大学生には到底払えない借金を背負わせて、彼女を囲い込もうとしていたのだ。しかしその計画は、彼女の予想外の行動で儚く散った。彼女は大金を全額俺に叩きつけたのだ。俺の完敗だった。
でも彼女を諦めることができなかった。だから彼女のことをもっと知るため、俺のことを知ってもらうため、そして害虫駆除のために同じ店で働き始めた。もちろんシフトも完全に同じだ。店長は俺の軽い脅しを含んだお願いを快諾してくれた。努力の成果もあり、今のところ彼女に群がる害虫はいない。
彼女は、仕事中は見惚れる天使のような微笑を絶やすことはない。お客や従業員にもその笑みを振りまいている。しかし俺にはそれを向けてくれない。まるで汚いものを見るかのごとく冷ややかな視線を送ってくる。ときに虫けらのようにも。
その扱いの悪さにずっと落ち込んでいた。底抜けに人が良い、アルバイトの鈴木君の一言を聞くまでは。
「東野さんって但馬君にだけ態度違うよね。あんな東野さん見るの、初めてだよ」
俺にだけ態度が違う? ……それって俺が特別ってことか!?
俺はすぐさま復活した。鈴木君、君はなんてよい青年なのだろう。君とは良い友人になれそうだ。
その持前のポジティブさで、どれだけ冷たくされても彼女のそばに居続けた。そして一ヶ月経った今、彼女は渋々現状を受け入れ始めていた。視線は冷たいし、かけられる言葉も毒舌だが、そんな彼女も大好きだ。
「もうすぐバイト終わるよね? 一緒にご飯行かない? なっちゃんが食べたいものなら何でもいいよ。もちろん奢るし」
俺の誘いに彼女はこちらに視線を向けることなく一蹴する。
「無理。この後、違うバイト。ま、バイトがあろうがなかろうが、あんたなんかとご飯食べたくないけど」
「違うバイト? どうして? そんなにお金いるの?」
そう聞くと彼女はいつもの数倍冷たい視線を寄越した。
「……あんたがそれを言う? あの三百万を忘れたとは言わせないわよ」
そうだ。彼女は俺に壊したガラスや壺の代金を支払ったのだった。お金に困っているのは当然かもしれない。
「ちなみに、あのお金は……?」
「学費よ。亡くなった両親が残してくれたね。今年の分は何とかなるけど、来年以降は結構厳しいわ。あ、でも自分がしたことの始末だから、あんたが気にする必要はないわよ。最悪休学して、お金貯めてから大学に行けばいいんだし」
彼女の言葉に、俺は自分の浅はかな行動を後悔した。あのとき俺が金を請求したせいで彼女は金に困り、バイトバイトで俺とデートをする暇すらないのだ。普通に声をかけてさえいれば、こんなに冷たくされることもなく、彼女がバイトに追われることもなく、毎日ラブラブなデート生活を送っていたかもしれないのに……。俺のバカ!! バカ、バカ!!!
それと、後悔するもう一つの理由があった。実際には弁償費用は三百万もかかっていないのだ。高く見積もってもせいぜい三十万だ。あのときは彼女を逃がさないように高額な代金を請求する必要があったのだ。
でも今さら『実は三十万でよかった』などと言おうものなら、どんな目に遭うことか。嫌われる、軽蔑される、もう口もきいてくれないかもしれない、存在を無視される……。それは嫌だ!! そんなことされたらもう生きていけない!!
どうしよう、どうすればすべて丸く収まるのだろう。彼女をバイト先に送り、それが終わるまで外で待つ間に考えた。これ以上頭を使うことがないだろうというぐらい、フル回転させた。
正直に謝るのが一番いいかもしれない。彼女は真面目だから、姑息な手は大嫌いだ。それは前のことを踏まえてもはっきり断言できる。でも、もし許してもらえなかったら……?
そうなったら俺、今度こそなっちゃんを監禁して、俺だけしか見られなくなるまで昼夜問わず抱き潰してしまう。それはそれでいいかな……ハッ、いかん! ダメ、犯罪、ダメ! 俺は真面目になっちゃんを一生愛するって決めたの!
一人漫才を頭の中で繰り広げていると、スーッと俺の横に一台の車が止まった。運転手が降りてきて、後部座席を開ける。そこから降りてきた奴を見て、俺はうんざりした。
「丈太郎さま、奇遇ですわね」
「何か用か?」
「まぁ、つれませんわね、相変わらず」
クスクス笑う、やたらと着飾って媚びるような女の態度に反吐が出そうになった。
この女の名は丸山絵美。丸山組の組長の娘だ。丸山組はうちの傘下にある組の一つ。
俺がこの女のことが嫌いなのは、つい半年前までは兄貴のことを追っかけていたから。その兄貴に恋人ができ(ちなみにその恋人はなっちゃんの従姉だ)、別れさせるために散々嫌がらせをしたらしいが、結局二人は愛を貫いた(もちろん兄貴はちゃんとこの女に報復したらしい)。
兄貴が駄目なら次は弟……って、結局権力が欲しいのであって、俺のことなんてどーでもいいと思っているのだろう。そんな女にストーカーまがいなことをされたら、いくら温厚な俺でもいい加減うっとおしく思う。
「悪いけど、今あんたに構ってる余裕ねーから」
「暇そうに見えますわよ」
暇じゃねーよ! なっちゃんのことで頭がいっぱいだっつーの。
苛立ちながら無視して彼女の働く店を眺めていると、女もそちらに視線を向けた。
「丈太郎さま、あんな小娘のことなんて忘れて、わたくしをお選びください」
「冗談言うなよ。あんたみたいに誰にでも色仕掛けする女、俺が相手にするとでも?」
「もしかして、焼きもちですの?」
クスクス笑う女に、どうしたらそんな考えが浮かぶのか理解できない。このポジティブストーカーめ!
「何度も言うけど、俺はなっちゃんじゃなきゃ駄目だから。あんたレベルの女、比べるのも彼女に失礼」
その言葉に自尊心を傷つけられたのか、女に青筋が浮かぶ。それでも無理矢理笑顔を作った。
「今に理解しますわ。丈太郎さまにはわたくししかいないということを」
捨て台詞を吐いて、女は車に乗り込んで俺の前から消えた。そのままどこか遠い国へ行け、戻ってくるな!
あの女、どんな手を使ってくるかな。兄貴のときもえげつないことをしたみたいだし。
――――待てよ。チャンスじゃないか?
あの女からなっちゃんを守る → 俺、株急上昇 →「丈太郎、素敵! 好き!」
ヤベェ、俺、天才かも! これで俺となっちゃん、晴れてカップル成立! 一気にハネムーンへGOだ!
おい、ポジティブストーカー。完膚なきまでに潰す前にひと働きしてもらうぜ。せいぜい当て馬になってくれよ。
数日後、あの女が動き出した。バイト帰りの彼女を、組の連中を使って車に無理矢理押し込んで誘拐した。どうやら女も車に同乗しているようだ。ここで俺も車で尾行して、助けに入れば完璧。あの女も誘拐犯としてムショに放り込めるし、俺の株、急上昇。いいことずくめじゃん。
ところが走り出した車が途中で急に停車した。不思議に思った俺は、車を止めて外に出た。彼女が乗せられていた車の後部座席が開いた瞬間、男が転がり落ちてきた。近づいてみれば、男は腹を押さえてうめき声をあげていた。
どういう状況なのか理解できないでいると、運転席から男が出てきた。後部座席に入ろうとした瞬間、男の巨体が吹っ飛ぶ。呆然としていると、彼女が女の髪の毛を掴みあげて引きずりながら、車から降りた。
「なっちゃん! 大丈夫?」
慌てて声をかければ、動じない声で返事を返す彼女。
「……ああ、いたの?」
そっけないよ。小さなショックを受けている俺を尻目に、彼女は女に向き直り、手を放すことなく車に押し付けた。
「……ねぇ、わたしを誘拐してどうするつもりだったの?」
その声の静かさに背筋が凍りついた。以前うちに乗り込んできたときや、普段俺に接するときとも違う。静かゆえの恐ろしさがそこにあった。
そんな彼女の態度に、普段はふてぶてしい女も顔面蒼白。ガタガタ恐怖で震えていた。
「最近わたしの周りをうろちょろしいてたわよね? 大方そこの男がらみだろうけど、いい迷惑」
なっちゃん、知ってたんだ……。少し驚く。
「そこの男がどうなろうが知ったことじゃないけど、それに巻き込まれるのは我慢ならないわ。当事者同士で勝手にやって頂戴」
そう言った次の瞬間、地面に転がっていた男の一人が、彼女に襲いかかろうとしていた。
俺はとっさに声を上げた。
「なっちゃん、危ない!」
俺の身体が動くより前に、彼女は襲いかかる男のみぞおちに蹴りを一発。それが見事に入ったようで、男はあっさりと崩れ落ちた。「ひぃ!」と恐怖で顔を引きつらせる女に視線を戻し、この世のものとは思えないほど美しい笑みを浮かべる。俺はその笑みに一瞬で囚われた。
「今度わたしの周囲に近づいたら、どうしてあげましょうか? 化粧でごまかせないほど顔面ボコボコにする? それとも――――」
一旦言葉を区切り、もう一方の手で女の顎を乱暴に掴んだ。相当力を込めているのか、女の顔は歪み、痛みと恐怖で号泣していた。厚い化粧が涙で崩れていく。
「顔中の骨、粉砕しましょうか? あなたの骨、どんな音を奏でてくれるのかしら。ねぇ……試してみない?」
「ご、めんな……さ……ゆるし……」
許しを請う女に、彼女は更に追い打ちをかける。
「根を上げるには早いんじゃない? もっとわたしを楽しませなさいよ。女だからって手加減してもらえると思ったら大間違い。自分に危害を加えようとした人間に手加減するほど、お人よしじゃないの」
俺は無言で彼女を凝視していた。もう、目が離せない。
「ほら――――抵抗しなさいよ」
ドスの効いた声で凄めば、女は恐怖で卒倒し、地面に崩れ落ちた。
同じく地面に転がっていた二人の男はようやく起き上がり、女を車に押し込んだ。それから彼女に向かって謝罪しながら頭を深く下げ、車で走り去っていった。
それを見て、ようやく彼女のそばまで近づけた。
「なっちゃん、怪我はない?」
「ないわ」
「怖くなかった?」
「別に」
「仕返しとか怖かったら、俺が守るから」
「してこないわよ、多分。大の男二人が素手で女にボコボコにされたって、あんたなら人様に言える?」
言えない……。それは男の沽券にかかわる。
ふと気が付いて、彼女の右手を掴んだ。
「手、赤くなってる。それに血が……」
「これ、わたしの血じゃないから」
そういえば最初に転がってきた男、顔面血まみれだった。
「殴ったの?」
「鼻を拳でね。急所だから」
「鼻血出たんだ。容赦ないね」
「当り前よ。やらなきゃ、こっちがやられる」
俺の手を振り払い、そのままスタスタと帰ろうとした彼女を、俺は捕まえて抱き上げた。
「ちょっと、おろしなさいよ!」
「駄目だよ。手当てしなきゃ。うちにおいで」
「嫌よ!」
「俺も嫌だよ。手当てはしてもらわないと」
「わかったわよ。手当てはするからおろして! 歩けるから!」
「だぁ~め。なっちゃんは俺のお姫さまだから、運ぶときはお姫さまだっこって決めてるの」
周囲の注目を浴びながら彼女を車に乗せ、車を出すように言った。彼女と狭い密室で二人(運転手は空気だと思うことにする)。その雰囲気に大満足の俺。ギュッと抱きついたら張り手を食らった。ま、それも愛の一種だよね。
家に着き、再びお姫さまだっこで中に入る。出迎えた強面の屈強な男たちがざわつく。俺が姫だっこで連れてきたのが、以前木刀一つで組を襲撃しに来た、天使のような般若な彼女だったから。
構うことなく俺はキッチンに入っていった。
「ぼ、ぼっちゃん! あ、あの、これは一体……」
「救急箱、持ってきて」
話しかけてきた男に頼み、シンクのそばで彼女をおろした。
「石鹸で綺麗に洗って」
他の男の血をつけたままなんて我慢できない。本当はもっと早く消し去りたかったけど、さすがに舐めるのも憚られた(もちろん彼女の血なら喜んで舐めるけど)。彼女はごしごしと手を洗い始めた。やはりどこかに怪我をしているのか、表情を微かに歪める。
洗い終わるのを待ち、再び抱き上げた。もう抵抗するのも面倒になったのか、彼女は大人しかった。空いている和室に入って彼女を座らせた。救急箱を受け取り、俺もすぐそばに座る。
「手、見せて」
しぶしぶ差し出された手をそっと取り、じっくり見る。関節の数か所、皮がめくれていた。念入りに消毒して、最後に手の甲にチュッと口づけた。その行動に驚いた彼女がすぐさま手を引っ込めた。
「何するのよ!」
「早く治るおまじない」
ニコッと笑えば、胡散臭いものを見る視線とぶつかった。
部屋の外では、こちらをうかがう奴らがうじゃうじゃ溢れていた。暇人が、仕事しろよ。
「ごめんね。俺のせいで危ない目に遭わせた」
「本当にね。これを機にわたしに近寄らないでほしいわ」
「それは無理」
より手放せなくなった。天使も般若も、そして恐ろしいほど冷酷でも、どんな彼女でも好きだ。俺の計画は予想外の彼女の行動にまたもや崩れ去った。
でも――――それも面白い。
「ところで慣れているの? 喧嘩」
「そんなわけないでしょ。でも武道は必要最低限、身につけているわ」
「へぇ」
「自分の身は自分で守る――――母の教えだから」
「素敵なお母さんだったんだね」
「そうね、危機管理だけは厳しい人だったわ。いざというとき躊躇しないようにしろとか、段位は取らなくていいから鍛錬だけは怠るなとか」
段持ちになるといろいろと面倒だからな。拳が凶器になってしまう。
そんな話をしていると、一人の男が周囲に押されて、おずおずとケーキとお茶を持ってきた。
「あ、あの……よかったらどうぞ」
恐る恐る彼女の前に差し出すと、少し驚いた彼女が天使の微笑みを浮かべた。
「ご丁寧に、ありがとうございます」
そこにいる男全員が彼女の表情に見惚れた。ポーッと頬を上気させる。
「なっちゃん、駄目! 笑顔の安売りしないで! こいつらにもったいない!」
俺の焦りを無視し、彼女はケーキに夢中だ。おいしそうに食べる彼女を、うっとりしながら観察した。
かわいい……食べちゃいたい……。
もちろんケーキではなく、彼女をだが。
同じくうっとり見惚れていた周囲が、一変して緊張感に包まれた。足音が近づいてきて、姿を現せたのは両親だった。
「げっ」
思わず本音が出てしまった。彼女は普段通りの様子で、礼儀正しく挨拶をした。
「こんにちは。お邪魔しています」
「君は、この前の……」
「先日は勘違いから多大なご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
ピリピリした緊張感が部屋の周囲包み込む。両親と彼女はしばし無言で見合った。先に表情を崩したのは両親だった。
「いやいや、威勢のいい御嬢さんだと思ってね。私らを前にしても物怖じせず接するとは、対した度胸だ」
「恐れ入ります」
「本当に。丈太郎が連れてきた女の子が、まさかあのときの子だとは驚いたわ」
「壊したガラスや壺のことは気にしなくてもいい。大した額じゃないからね」
親父の言葉に忘れていたことを思い出した。ヤバイ、なっちゃんにバレる!
案の定、彼女が怪訝な表情を浮かべた。
「あの……失礼ですが、おいくらほどで……」
「大体三十万ぐらいかな」
その瞬間、彼女を纏う空気が変わった。冷気が漂い、俺は身体から血の気が引くのを感じた。
「まさか女の子一人で組に殴り込みに来るなんて、思いもしなかったもの」
「そうだな。平和ボケしていた連中のいい刺激になったからな」
楽しげに会話する両親。なんてことをしてくれたんだ!
「三十万……ね……」
低い声で呟く言葉に、俺は終わった……とうなだれた。彼女は俺の胸ぐらを掴み、ギロリと睨み付けた。かなりご立腹。
「よくもまぁ三百万なんて大嘘ついてくれたわね……ストーカーだけじゃなく、詐欺師だったのね……」
「三百万?」
「ストーカー?」
「「「詐欺師?」」」
不思議そうな両親と周囲に、理由を話すように追い込まれた俺は、ペラペラと洗いざらいしゃべらされた。その後、親父から一発殴られ、母親に軽蔑の視線を向けられ、男たちのかわいそうなものを見る視線に打ちひしがれた。
「うちの愚息が、本当に申し訳ない」
「ごめんなさい。謝って済むことじゃないのだけど」
「いえ、皆さんに謝っていただくことではありませんから」
大人な彼女の対応は、周囲に好感触だった。
それからすぐに三百万を彼女に返した。せめて弁償代は支払うと言った彼女に、慰謝料だからと両親も譲らなかった。
「なっちゃん、いろいろとごめん」
「本当に悪いと思っているの?」
「思ってます」
「じゃあもう金輪際近づかな……」
「それはできない」
俺は彼女の前ではしたこともない、真剣な眼差しで訴えた。
「俺がなっちゃんにしたことは、許されないことだと理解してる。でもどんな手を使っても、なっちゃんが欲しかった。俺の隣で、これからの人生を一緒に過ごして欲しいって思った」
周囲に人がいることも忘れ、自分の想いを彼女にぶつけた。
「好きだよ、なっちゃん」
突然の俺の告白に、周囲は呆気にとられた。彼女はといえば、目を見開いて固まり、次第に顔を真っ赤にさせた。
お、見たことのない反応……これは一体……?
理解できないでいると、彼女がすっと立ち上がった。
「なっちゃん?」
「わたし、帰る!」
両親にペコリと頭を下げ、彼女は部屋から出て行った。慌てて後を追う。
「待って、送る!」
「いらない!」
「なっちゃん!」
俺たちが出て行った後、こんな話になっていた。
「丈太郎、本気みたいだな」
「そうね。あんなあの子、見たことないわ」
「親分、姐さん。でもぼっちゃんのやり方はちょっと……」
「そうっすよ。ぼっちゃん、経験は豊富でも、恋愛スキルは小学生っすから」
「でも彼女のほうもまんざらでもないのでは?」
「顔真っ赤にして、かわいかったっすね」
「多分普段のちゃらんぽらんなぼっちゃんと、さっきの真剣な顔のぼっちゃん、そのギャップにやられたんじゃないっすか?」
「わかるわぁ。女子はギャップに弱いもの」
「丈太郎が普段から真面目にしていれば、普通に付き合えるんじゃないのか?」
「親分、さすがっす」
「ぼっちゃん、普段残念っすからね」
「あの子が丈太郎のお嫁さんになるのは大賛成よ」
「うむ、私もだ」
「「「俺らもっす」」」
そんなことを言っていると知るはずもなく、俺は夢中で彼女を追いかけた。
「待って、なっちゃん!」
「待つか! っていうかこの家、広い! 出口、どこ――!?」
「だから素直に送られてよ」
「嫌っ! もう付きまとわないで――!!」
「それは無理! なっちゃん、早く俺のものになって――――!」
俺と彼女の追い駆けっこはまだまだ続く。
次回は未定ですが、彼女視点を書きたいです。
ありがとうございます!