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 過去のあれこれを今この場で語ることなんか出来ませんからーっ!!

 なんでこんなにビビらなければならないの、わたし。

 さっき、却下した3番目の案をとり入れて、この場を凌がなければならないの? どうなの?


 「ごめんね、青木嬢、ちょっと席外すね」

 

 わたしがそう言うと、青木嬢はにこにこして頷く。


 「あたしも付き合う」


 ニコニコ顔の裏には(あんたぁあ、逃げる気かあああ!!)と訴えている。

 席を外して化粧室トイレにこもると、洗面台に手をついて肩を落とす。 いやしかし、合コン中に幹事と一緒にトイレで話し合い(作戦会議)なんて、今までの合コンではありませんでしたが……。

 ううん、そんなことより何より……。


 「どしたのよ、ゆっきー」

 「帰りたい……」

 「はあ!?」

 「各務氏、例の人ですよ、大学の時の……その……」

 「ああ、やっぱそうなの」

 「へ?」

 「だって、ゆっきーあきらかに挙動不審なんだもん」

 

 そんなに挙動不審でしたか……。


 「でも、各務さん、ゆっきー狙いでしょ、マジであの人が『処女だから付き合いたい』て言ったの見たの?」

 「見たというか聞いたというか……でも、各務氏だったと思うんです」

 「なんか誤解じゃないの!?」

 「なんでそう思うんですか?」

 「だって、そんなこと言いそうに見えないよ」 

 「だって聞いたんですよ?」

 「あれぐらいだったら、別に女に不足はしてないみたいだしー」

 「ええ、だからモッテモテでしたよ、当時、付き合ってる彼女がいたにも関わらず、わたしなんかに声かけしたんですよ?」

 「いやーその辺も誤解なんじゃないの? この機会に真相聞いたら?」

 「聞けませんよ!」

 「なんで?」

 「相手はオタク要素を加えてもアレですよ!? わたしなんかをのぼせあがらせるのに造作もない人ですよ! うっかりまた、こっちがその気になったらどーしてくれるんですか?」

 「いや、その気になろうよ、合コン、そういうもんでしょ」

 「やっぱり密かに付き合ってる彼女がいて、結局どっきりでした~『こんな非モテヲタ女子がその気になってプークスクス』をもう一度ですか!?」

 「意外とプライド高いね、ゆっきー」

 「は?」

 「あたしなら、相手に彼女がいようが、こっちをその気にさせたんだから、ゲットするけどね」

 「二股されてもOKなんですか?」

 「別れさすに決まってんでしょ」

 ……いや、青木嬢ならそれは出来るでしょうが、年齢=彼氏いない歴のわたしには出来ませんよ!

 「わかった」

 「帰ってもいいですかっ!?」

 「席チェンジしてみよう。多分、うちらが席を外したところで、席に移動があるでしょ」

 帰れないんですか……。

 この苦行をあと一時間はこなさなければならないのですか……。

 「でもなー、問題はこの合コンが終わった後だと思うんだよね」

 「は?」

 「今、一人で帰宅したら、確実に追っかけられるよ」

 「お、お、恐ろしいことをサラリと言わないでくださいよ」

 「いや、多分、マジで……、瀬田に各務さんのことを聞いておくよ」



 話合いと用事を済ませて戻ると、青木嬢の言うように、席替えになっていた。

 なるだけ離れて離れてをこころがけて端の席、高本さんが隣、対面が三宅君の場所に移動した。

 よし。

 できるだけ空気になろう。


 「その眼鏡、変わってるね、ちょっと見せて」


 高本氏に話しかけられた。

 くっ。空気になろうとしたのに……。何故だ……。

 いや、この合コンはかつての合コンとは違うのかもしれないです。

 青木嬢を始めとするうちの社のお嬢さん達の手腕あっぱれ、こんなわたしでも前年比三割増ですから、男性から見てギリ標準値になっているのかもしれない……。

 空気になるのは無理、帰るのも無理。

 かと言って、はっちゃけキャラ仮面も無理ならば、相手に合わせて、なんとか会話を展開してみます。挑戦だ。

 わたしは高本氏に眼鏡を外して、渡す。


 「青木さんが選んでくれたんです」

 「へー、レンズの下だけフレームになってるのって、珍しいからさ」

 「そうなんですよ、いつもボストンタイプのフレームだったんですけれど」 「ボストンタイプ?」

 「こう、なんていうか……下のラインが丸くて、眼鏡って感じのデザインです」

 「眼鏡なくても可愛いねー」

 

 高本氏ー! それなんというリップサービス。

 はい、と眼鏡を返された。

 乾いた笑いでごまかして、高本氏に話を振る。


 「高本さんは、食べ歩きが好きなんですか?」

 「うんそう、仕事柄もそうなんだけどね」

 「じゃあ、食べ物の好き嫌いもないですか?」

 「ないねー、雪村さんは?」

 「わたしもないです。母が、料理教室を開いていて」

 「え! そうなの!?」

 「はい」

 「オレ、食べるの好きだけど、作るのはちょっとダメで、料理教室とかも時々考えるんだけどー。あれって、女性ばっかりでしょ?」

 「最近は、退職された年配の男性が、趣味で始めようかってカンジで通ってくるみたいですよ」

 「えー、そうなんだ」

 「でも、女性と違って男性は習い事の時間がとりにくいですよね」

 「そうなんだよねー。でもさー調理器具とか鍋とかうっかり買っちゃうんだよなー。夜中の通販番組のミキサーとかさー。いつ使うんだ? って感じ、他にもいろいろ」

 「深夜の通販番組、オレも何気に見ちゃうね」

 三宅君が話に入ってくる。

 「面白いよな」

 「値段とつりあうかどうか悩むけど、カー用品は買っちゃうなー」

 「ドライブお好きなんですよね」

 「そうそう。うちは親父がパジェロユーザーだからさーオレも欲しいなって」

 「スポーツカータイプじゃないんですか?」

 「車高があるのが好き」

 「そうなんですか」

 「女性はスポーツカータイプの方が好きみたいだけどー親父受けしそうな車が好きなんだ。雪村さんはスポーツカーの方が好き?」

 「自分で運転するから小さめのファミリーカーが好きです」

 「え? 免許持ってるの?」

 「ええ、あんまり運転しませんけれど」

 「えー見えない」

 「やっぱりこの年になると、親が運転できなくなったら免許持っていた方がいいかなって思って二年前に取得しました。教習時間ギリギリでしたが」

 「ああ、女性が陥りやすい、途中で通いたくないってヤツかー」

 わたしは頷く。

 「でも、頑張ったんだ」

 「仮免で路上に出たら、もう頑張ろうって思いました」

 そんな感じで、男性陣の趣味の話題を振って、それになんとか相槌をうつことで、残り時間をやり過ごしました。

 わたしにしてはよくやりました。

 自分で自分を褒めてやりたい。

 お二人とも自分が話すだけじゃなくて、話を聞いてくれるし、話をしても、そんなに苦痛ではなかったのが救いでした。

 各務氏との会話が断つことができたのも幸いです。

 お会計を済ませて、店を出ると、ようやく帰宅できるとほーと安堵のため息をついたのですが……。


 「二次会ー、二次会行こう!」


 なんですとー!? 

 しかもメンバーノリノリですよ!!

 女子会ならば二次会もお付き合いしますよ。

 しかし合コンなんですよ!!

 通常ならばここで常にお役御免のはずですが、吉井嬢と小原嬢にがっちり両脇を抑えられてます!?

 

 「小原嬢、吉井嬢、わ、わたしはここで」

 「えーゆっきーアニソン歌って~アニソン~」

 「それはまた後日……ということでね……ほら、明日会社あるし」

 「えー」

 「あんまり、遅くなると叱られるので」

 

 嘘です。

 親は放置です。

 けど、早くこの場から遁走したいんですうぅうう。


 「ごめんね、じゃ、またね」

 

 お二人には申しわけないですが、ほら、目的はわたしのアニソンではなく、こちらの男性陣との交流ですよ! 目的をはきちがえちゃいけませんよ!!

 腕を組むなら目の前の男性陣、わたしじゃないですよ!!

 ほれほれと、お二人を先頭に促して、わたしは青木嬢に「これにて帰宅させてもらいます」と言い置いて、脱兎のごとくその場から離れて、最寄駅へとまっしぐらに走った。

 営団地下鉄の入り口まできてよくやった。わたしにしては頑張りましたと自分を褒めているところへ、腕をグっと捕まられました。

 何? 誰? 青木嬢?


 「雪村。お前、足速いよ。鈍くさそうなのにほんと意外性の塊だよな」


 低いその声は……女性ではなくて、そして聞き覚えのある声で……。


 ――なぜ、アンタがわたしの腕を捕まえてるんですかああああ各務氏ぃっ!

 

 


 


 

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