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 わたしのとるべき行動は果たして、どれが適当であるか次の三つから選びなさい。




 1、具合が悪くなりました、もしくは家族から帰れコールがありましたので帰ります。


 2、いつものように空気になる。質問にはひたすら三種の神器ならず三種の神ワード、「はあ」「まあ」「いいえ」で数時間を過ごせ。そしてとにかく相手に語らせてただひたすら聞き役にまわろう。


 3、なんとか前年比三割増しになった自分ならば、ここはひとつ盛り上げ要員としてこの場で道化を演じて恥も飲みこめ。大丈夫、この場は合コン、酒の席、総てをアルコールのせいにしてしまえば無問題。




 ……ダメだ……性格的に3は無理だ、わたしにガラスの仮面はかぶれませんよ月影先生……。

 とすると1か2ですが……ここは2でしょう……。

 ぶっちぎってとんずらしたいけれど、青木嬢の手前、そうもいかない……。 さて……過去に無理矢理なフェードアウトをした人物に、「はあ」「まあ」「いいえ」が通用するか……。

 とはいえ……こんなことを考えめぐらすというのも、いささか自意識過剰ってやつかもしれませんね。

 だいたい見て御覧なさい。

 青木嬢を始め、うちの社のキレイドコロが三人もいるんですよ!

 面識があるとはいえ、わたしごときに会話をふってくるなんて各務氏にあるはずもない。会話ふってもあれです、社交辞令ってヤツですよ。「大学卒業して久々だなー元気だったー?」「はあ……」これで会話終了ですよ。

 よし。大丈夫。問題ない!! 

 

 「それにしても各務さん、すごい偶然ですね」

 「うん、瀬田、ありがとう、おまえの強引な誘いにはちょっと引いてたんだけど、これはびっくりだ」

 「えー、各務さんならモテそうですよねー」

 青木嬢が相槌を打つ。

 いや、大学時代はモッテモテでしたよ。現在もそうでしょう。

 ……うん?

 わたしは眉間に皺を寄せる。

 ……そうですよ。モッテモテでしたよ。なのに、この合コンに参加ですか? 彼女はどうした!? 大学時代に付き合ってた彼女と結婚しててもおかしくないでしょー!

 もしかして、既婚なのに合コン参加っ!?

 既婚なのにわたしと飲みに行かないなんて誘いをかける男性社員と同類か!? ああ、そういう人か……。

 大学当時はわからなかったからなー、いくらなんでも、そこで気付くべきですよね。

 青木嬢、ひっかからないようにねー。

 まあわたしが忠告しなくたって、青木嬢なら鋭く相手の本性を看破するでしょうし……。でも一応、あとで化粧直しにたった時にでも忠告してあげよう。 

 「どうだった? ゆっきー。各務さんモテたでしょ?」

 「モテモテデシタヨ」

 

 感情が一ミクロンもないわたしの相槌に、青木嬢はわたしに視線を移す。

 察して下さい。お嬢さん。

 

 「雪村、なんでそう嘘を言うかなー」

 

 事実でしょうが、と言う言葉を飲み込んだ。

 ここで過去の事実を暴露して空気悪くして、せっかく始まったばかりなのに吉井嬢や小原嬢にもご迷惑をかけてはいけない。彼女達は必死です、本気です。こういう機会をつぶしてはいけません。

 コース料理を目にして箸をとる。


 「いえいえ、本当に、気配りもあって、後輩からも慕われていましたよ」

 

 わたしは敢えて、各務氏に視線を向けることなく青木嬢にそう言う。

 青木嬢はわたしの目が笑ってないことに気がついたようで、各務氏とわたしを交互に見る。

 各務氏は溜息交じりに呟く。


 「本当にモテていたら、大本命に逃げられることはないと思うけどね」


 「うわ、出た各務さんの大本命に逃げられた話」

 「えーなになに。大本命って」

 青木嬢が身を乗り出す。

 「大学の時、付き合いたいなーと思ってた子がいたんだけど、いきなり携帯を着拒されて」

 「うわー」

 「本やCDの貸し借りだってしてたのに、別の女子経由で返却されて。原因わかんないんだよね、ようやくデートできて、これからもーガンガン誘うとか思ってた矢先で」  


 まさかそれはわたしじゃないでしょう。

 ええ。わたしじゃありませんよね。違うでしょう。

 だって彼女、いたじゃないですか。


 「各務さんそれ引きずってるらしくてねー」


 瀬田氏が各務氏の言葉を引き継ぐ。

 そして瀬田氏が言うには、やはり、各務氏は社内の女子からも人気らしい。 瀬田氏やその他から見ると、それは入れ食い状態だろっていうのに彼女を作る気配はなし。そして今日、合コンするって言ったら、俺等も行きたいのはやまやまだが、この人になんとか出逢いを作ってくれって多数の男子社員から泣きつかれたようなのですよ。

 見た目はイケメンだから社内の女子からは人気なわけで、瀬田氏の会社の独身男性が、気になる彼女に誘いをかけると、そんな女子からの第一声が『各務さんはくるの?』っていう台詞らしくて、最初は『まあいいか、各務に広告塔になってもらおう』だったんだけど、広告塔一人勝ち状態に嫌気がさしてきた為に、今回ここにひっぱってきたと……。

 なんだ……既婚じゃないのか。

 世の中には星の数ほど女性がいて、なお、その女性陣から大注目で、よりどりみどり掴みどり状態だろうに……。

 何故にそんなささいなことで、彼女を作らないのか。

 全国非モテ男女オタクの恨みを買ってもおかしかないですよ、各務氏。 

 しかし、これぐらいハイスペックになると、オタク要素を加えてもモテモテなんですね。

 合コン参加理由がこれですか。

 嫌味ですか。

 合コン=引き立て役のわたしから見れば、なんという理由。

 もげてしまえ。

 多分、大本命に逃げられたのだって、あれだ、処女だから付き合ってみたいとかいう言葉に彼女がドン引きしたんですよきっと!


 「ゆっきーはね。男運が悪くてーモテなさそうだからって、男どもが中途半端にからかって声かけるのがほとんどだよねー」

 「え、うっそ、今回ハイレベルじゃん」

 声をあげたのは端のテーブルにいる三宅君だった。

 「も―オレ今回、超ラッキーなんだけど!!」

 今まで、合コンに参加して、社交辞令でもこんな言葉をかけてもらえませんでしたよ。

 だいたいが見た目のいい女子に一点集中でしたからねー。

 三宅君の場合はあれだ、社会人合コンの場数を踏んでいないのと、幹事の顔をたてての発言。

 思いあがっちゃダメよ美幸。

 心の中で、自分を窘める。


 「大学の時に声をかけてきた男がそうだったんだってー。それでゆっきートラウマなんだよね」


 青木嬢、言葉選んでますね。

 そうですよね、男性陣がいる中で「処女だからつきあってみようかって言われたんだよー」なんて、青木嬢ならば言わない。

過去の合コン幹事なら言いそうだけど。

そんなこと言ったら、「え、処女なの!?」的な反応がきっと男性陣から返ってくるに決まってる!!

 わたしは、各務氏を見た。

 あんたのことですよ、各務氏。

 思い当たりあるでしょ!!

 

 「雪村」

 「な、なんですか?」

 「オレ、お前から借りてたCDとか本とかまだ持ってるんだけど」

 「……」

 

 このタイミングで言うかー!?

 瀬田氏と青木嬢が、わたしと各務氏を交互に見てる。


 「返すよ、連絡するから携帯教えて」

 「そ、そ、それは処分して下さって結構です」

 「各務さん、早っ、携帯聞くの早っ、イケメンだからってそんな速攻で聞くもんなの?」

 

 瀬田氏のツッコミにわたしは心の中で首を何度も縦に振る。

 どーする、どーするよわたし。

 あぶらとり紙で顔拭いたい。いやな汗が顔面から噴き出してると思う。

 返事をしない、返事をしない、会話をしない会話をするなー!!

 わたしのやるべきことは空気になることー!!

 顔をあげられない、ひたすらテーブルに鎮座する料理に視線をそそぐ。

 そう、こんな時は、これだ。

 わたしはテーブルの料理に視線を配って、あれこれと取り皿にとりわけて、小原さんや吉井さんに回らない料理を彼女達に渡して回してもらう。

 そう。

 会話はしないでこういう給仕に集中しましょう!

 

 「そうそう、これ、結構おいしいから、お気に入りなんだよー食べてみ」


 高本氏がとり分けられたお皿の料理を見て声をあげる。


 「ありがとねー雪村さん」

 「い、いえ」

 

 ほっとして高本氏に笑顔を向ける。


 「こちらもとりわけますね」

 「じゃ、ゆっきーこれとそっちのお皿、交換して交換」

 「はいはい」


 吉井嬢が端の料理とこちら側にあって届かない料理皿を交換する。


 「青木嬢。美味しそうですよ」

 「そうね」

 「ですよね」

 

 持ったお皿へと箸が伸びる。

 それは青木嬢ではなく、対面で座っている各務氏。


 「雪村」


 各務氏の声は低く、幾分か機嫌が悪そうな雰囲気がにじんでいる。

 なんでそんなに話しかけるの、ここはほら、目の前にいるわたしを除く素敵女子に声をかけるところでしょう。

 恐る恐る各務氏を見ると、彼は眉間に皺を寄せてる。

 

 「は、はひぃいいいいいい」


 「その詳しい話を是非、聞きたい」


 いやああああああっ。

 スル―! スル―して!!

 各務氏っ!!

 空気読んでええええっ!!





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