第5章 不吉な電話
第5章 不吉な電話
不吉なものを運んできたかのようにその電話は鳴った。その電話が鳴ったとき真由美は不吉なものを感じた。
辺りは静まり返っている。静かなのがなお、不吉さを際立てているように思えた。真由美はゆっくりと携帯を開く。携帯の液晶画面には坂下博和という名前が写っていた。
「もしもし。」
「あっ真由美。今何してるの?」
「本読んでたんだけど?」
「本か。なるほど。」
博和は笑いながら言った。
「どうしたの?なにかいいことでもあったの?」
「そんなことはどうでもいいんだよ。なあ、もうすぐ12時だろ。真由美の言う、世界の終わりなんたらの男が来ないかと心配して。だから電話したんだ。」
「あら、ありがとう。でも窓の鍵も全部閉めてるし大丈夫だよ。」
「そっかそっか。よかった、それなら安心だ。」
いつもとすこし声の感じが違うなと真由美は思った。
「あのさぁ。本当にどうしたの?頭おかしくなっちゃった?」
「どうもしてないよ。いつも通り俺は正常だよ。」
「ならいいけど。あっそうだ明日プールに行かない?私と晴菜と博和の三人で。」
少しの間の沈黙が流れた。博和は電話の向こう側で黙っている。
「博和?」
「あっ、あ、うん。で何?」
「私の話し聞いてた?」
「聞いてたよ。明日は無理だ。友達の家に遊びに行くから。」
真由美はため息をついた。博和に聞こえるような大きなため息で。
「なんかさぁ三人で遊びに行こうって言ったとき、いっつも断るよね。あの、もしかして晴菜のこと嫌いなの?それとも私?」
「え?ぜんぜんそんなことないから。うん。ぜんぜんない。」
「本当に?まあいいや。じゃあ明日は春菜と一緒に行ってくるね。可愛い女の子二人の水着姿が見れなくて残念だね。」
「まことに残念だよ。あの、読書の邪魔して悪かったな。」
「構わないよ。じゃあねおやすみ。」
「うん、おやすみ。いい夢が見れるようにな。」
「お気遣いありがとう。じゃあね。切るよ。」
真由美は春菜に電話をしてプールに遊び行く約束をした。晴菜が10時ごろに真由美の家に来て一緒に行くというものだった。
電話をし終わった後も真由美は、博和からの電話が来たとき感じたあの不吉な感じが、体の中を這い回っていた。
どうして博和からの電話を、不吉だなんて感じたんだろう?
そのような考えが真由美の頭の中を駆け巡っていた。真由美はその後本を読み終えて電気を消して、ベットの中にもぐりこんだ。時計の針は1時50分をさしていた。真由美は眠った。深い眠りだった。だがそれも3時過ぎまでのことだった。
3時にあの男が来た。