第4章
第4章
ある日にその人物と出会った。僕はその人物が誰かということが一目見ただけでわかった。歩いているときに道端でばったりと出会った。まるで誰かの心が、憎しみの念でいっぱいであるということを表しているように、空は晴れ渡っていた。
「俺が誰だかわかるよな?」
綺麗な顔で美男子とも言える顔つきだった。髪の毛は暗黒の色のように黒かった。上はパーカーを着てジーンズを履いて、靴はスニーカーを履いていた。僕はしばらくしゃべれなかった。走って逃げ出そうとも考えたが、体が上手く動かなかった。
「まあこんな道端で話すのもあれだからね。場所を変えようか。」
男は歩き出した。僕もついていく。危害を加えたりはしないだろうと思ったからだ。もしかしたら男に体を操られていたのかもしれない。しかしそのときはどうでもよかった。
どれだけの距離を歩いたかもわからなかった。僕はただ、その男の背中を見て歩いた。
気付いたときには学校に来ていた。ひどく朽ち果てた学校だった。廃校になっていることは一目瞭然だった。
その朽ち果てた学校の体育館裏に僕たちは歩いていった。
体育館裏に来ると男は歩くのをやめ、辺りを見回す。男はこめかみに人差し指を当てながら何か考え事をしているような素振りを見せていた。
「ここに来てどれくらいになる?」
こめかみから指を下ろし、僕のほうに振り向きながら男はそう言った。それが僕への質問であると理解するまでに少し時間がかかった。
僕は頭の中で計算する。ちょうど二年だった。
「二年くらいになる。」
男は大げさにうなずきながら、こめかみに人差し指をまた当てた。
僕は思った。この男はあの男なのだ。
「君は名前はさあ、あの、たしか、」
男はあわてたように両手を出して僕を制した。
「待った待った。わかっているだろう。その名前は呼んじゃ駄目だ。うーん。じゃあお前は俺のことを何て呼べばいいんだろうな・・・・・・。うーん。そうだな。よし、じゃあ俺のことはムルソーと呼んでくれ」
ムルソーと名乗ったが顔はどう見ても普通の日本人だった。
僕はわからなかった。この男がなぜここにいるんだ?
「なんでここにいるんだ?」
僕の発した声は普段の声とは幾分違った声のように思えた。
「なんで?って。お前わかってるだろう? もうおれはここにいて8年になる。8年もこの世界にいるんだよ。この深い闇の淵にな。」
ムルソーという男は笑いだした。小さな声で、僕たち以外にはわからないような小さな声で笑った。
「なあ、お前もあいつにやられたんだろ?まあ俺にとっては『あいつら』だけどな。こういうときはやられたもの同士手を組むべきだ。」
笑いながらそう言った。なにもかもを察しているようだった。
「お前を捜すために俺は暗くて深いこの世界をさまよったんだ。ずっとな。やっと会えたんだ。お前と俺は同志みたいなものだよ。」
彼は体育館の壁を拳で軽く叩いた。そしてこう言った。
「同じ、損なわれた者同士な。」