第2章
第2章
中学のとき。僕は彼女のことが好きだった。僕の考えてることはいつも彼女のことだった。
彼女は人気者だった。みんなから認められ、僕も認めていた。
彼女は初恋の人だった。
中学生になり彼女へ対する自分の感情に気付いたのは中学の一年生のことだった。
僕は教室の鍵を閉める係をやっていた。季節は夏だった。廊下側の窓の外には、緑の葉が生い茂っていた。僕はその眺めが好きだった。
「ちょっとゴメン!」
走りながら戻ってきた彼女が言った。音楽の移動教室で僕が鍵を閉めようと思ったときに彼女は来た。
「ノート忘れちゃったんだけど。ちょっと待ってくれる?」
「いいよ。」と僕は言った。
彼女が僕の横を通り過ぎるときに彼女の髪のにおいがした。よくわからないが不思議な感じのするにおいだった。
彼女が自分の机でノートを探しているときだった。
そのとき初めて彼女のことが好きだと思った。
理由はわからない。彼女がノートを探している姿を見たとたん、僕の体には何かわからない不思議なものが降り注いできた。ただ純粋に好きだと思った。
心臓が大きく鼓動するのが感じられた。手が震えていた。僕は彼女に見入ってしまっていた。
「あったあった」と彼女が言った。
「あの、ごめんね。」と言った。
「あっ、うん。いいよ。」と僕が言うなり彼女は走っていった。窓から差し込む光を浴びながら、音楽室へとやわらかい髪を揺らしながら走っていった。
その日から彼女のことしか頭になっかった。授業中も彼女の後ろのあたりの席なら彼女のことをずっと眺めていた。
僕の中には彼女しかいなっかった。彼女がいないと僕の存在意義がないように感じられた。
彼女は僕に見向きもしなかった。僕はあれだけ好きだと心の中で考えたのに。
今部屋の中に僕はいる。ベットに横たわって本を読みながらふと彼女のことを思い出した。
今どこにいるかもわからない。
僕は彼女のことが好きだった。彼女は何も気付かなかった。僕と彼女は見えない障壁でふさがれていたのだろうか。
彼女は今どこかにいる。この世界のどこかにいる。
僕と彼女は今生きている。何かを隔てて生きている。
そんなことを考えてると急に眠くなった。
僕は静かに目を閉じた。
「キミは僕のことを思い出しているのかな。僕は君の事を忘れていた。少し。ただ少し、忘れていたんだんだ。」
深い闇がやってきた。僕はゆっくり、しかし確実に、深い闇の中に入り込んでいった。