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ヨシオ

掲載日:2026/04/29

 朝見る夢に出てきたのだが、わたしはどこにもいなかったので短編にして記す。


 むかしからいつも三人でつるんでいた。

 ヨシオとヒカリとわたしの三人だ。始まりは同じ会社の同期の集まりのような処だったが、こうして年月が経っても生活も会社もバラバラになっても3人でつるんでいる。

 3人が揃うのは飲み屋ではない。

 チケットあるからとヨシオが電話をよこし、その日の東京ドームに三人並んだベンチに座る。


 その日のナイターには江川が必ずマウンドに立った。

 まだ平成も令和もしらない昭和59年、昭和天皇の血液型がABなんて誰も知らなかった。来年の60年を超えてもしばらくはこうしてこのままが続いていくんだろうなぁと、なんだか皆んなそう思っていた。(はり)を打とうが弱く(よわく)なろうが、巨人入団を巡る不始末(ふしまつ)より昔の作新学院の怪物くんのときから追っかけてるから、あんなあっさり引退するなんて不可思議、肩透かし(カタスカシ)喰らったようだった。

 70年代の終わりからはじまった80年代に区切りが来るなんてだれも思ったりしていなかった。


 ヨシオがそうだ。

 高校のときから江川を追っかけてたヨシオは、そんなこと一文字も考えていなかった。そして、ヒカリは、初めて逢ったときからヨシオが大好きなヒカリもそんなことは一文字も考えなかった。

 けれど、わたしは考える。考えている。

 こんなお祭り見たいな毎日が毎日続いていかないことを。

 

 試合中なのにゲームが止まっていることがある。しょっちゅうじゃない、ときどきだ。3時間のうちに2回か3回、巨人が勝ってる負けてるに関係なく、ただただ延々同じキャッチボールしてる二人をスタジアム全員がピクニックにお(あつら)えむきの白いシーツでも掛けるように眺めてる。

 映写機が変わってスクリーンに同じテレビCMが延々映り続けるようになると、わたしは此処に並んだ3人をスクリーンに重ね、鏡を覗き込むように眺める。


 鏡だからヨシオを挟んで右に座るわたしは左に

 鏡だからヨシオを挟んで左に座るヒカリは右に


 こっちに座ってるヒカリは大好きなヨシオと同じにスクリーンがテレビCMに変わってもマウンドの江川のキャッチボールを真剣に見ているのに、重ねた顔は狭いベンチシートのせいで夏の薄着の素肌がぴったりヨシオに吸い付けてる女の恍惚(おんなのこうこつ)そのものだ。

 ヨシオの方は、たまたまこうなった隣のカップルの彼女の腕のようにヒカリの恍惚をそのままうっちゃらかし、キャッチボールを見つめ、放置している。

 わたしは、そんなヨシオの素肌からヒカリの恍惚のおこぼれを感じ取る。

 だから、わたしは、そんなわたしは見たくない。ゲームの止まった大きなスクリーンには3人が平等に映るから、こんな感じで見えているだろう。

 嫉妬と寂寥(しっととせきりょう)で干からび老いさらばえミイラとなっていくオトコ、と。


 ヨシオは憎めない

 ヨシオには怒りはおこってこない

 矛先はヒカリにだけ向けられていく

 逢ったときから、ずっと

 ヨシオを隔てたベンチに座ったときから、ずっと・・・・・

 

 それにしても不可思議だ。今夜もベンチにヒカリが座り、止まったゲームのスクリーンにヒカリの恍惚が映っている。

 ヒカリは死んだのだ。

 ヨシオとの逢瀬を重ねたゲームが終わり、高揚した身体を一人住まいのマンションに滑らせ、ヨシオではないいつも送ってくれる親切なボーイにレイプされた。

 ヨシオではない男なのに、身体の方はすんなりヨシオとの逢瀬の続きを求めるように受け入れてしまって、よがり声まで零れた恍惚を描き出してしって、終わったあとはレイプした男の方まで受け入れてくれた感謝の愛情まで置いて帰っていって、そんなのの全てが許せなかったから・・・・・ 

 

 ヒカリは一人静かに部屋の中で死んだのではない。

 睡眠薬でも首吊りでも、ナイフを用意して風呂場にお湯を張っての手を込んだことでもない。

 自身のマンションの非常階段から真っ直ぐに落下した。四肢すべてまではいかなかったが、コンクリはヒカリの顔を乳房を内蔵を粉々にした。3時間前に入ったわたしのザーメンもヒカリの女性器と一緒に飛散した。

 ひとり静かでないヒカリの自殺は新聞に載った。TVにも映った。

 科学捜査の四文字が見えたが、わたしに司直の訪問(しちょくのほうもん)はなかった。ひとつき、みつきと経って、わたしも世間もヒカリの存在が消えたのをしる。


 死んでもこうしてやってくるヒカリが相変わらずなように、それを余所(よそ)のカップルの女のように扱うヨシオも相変わらずだ。

 ふたりが相変わらずなら、つるんでる3人の残りのわたしはそれに付き合うよりほか手立てがない。


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