サバト
サバト
恋猫 なつき
暗闇。果てしなく続く空間。それは日々膨張し続けている一種の宇宙とも言える。ただ星々は見当たらない。太陽も地球も、生命の可能性なんてものは存在しない。
そんな無意味な空間にも思える場所に、突如として四つの椅子が現れた。どこにでもある木製の椅子。その椅子はまるでそこに円形のテーブルがあるかのようにして存在する。椅子というものは、人が座る目的で作られたものであり、椅子だけが存在していても、それは木材をつなぎ合わせたただの木にすぎない。椅子としての存在を確立するためには、そこには人が居なければならないのだ。人がその木材に腰を下してはじめてそれは椅子となる。
つまり、ここに木材ではなく椅子があると表現したのは人が現れたからである。四人の女性。各々違った特徴を持った四人がその椅子に腰を掛けた。
「ちょっと、真っ暗じゃないの」
「うう……暗いです……」
「テーブルもありませんわ」
「あれ、ほんとだ。久々だから色々と忘れちゃってるなー」
一人の女性が指をぱちんと鳴らす。すると暗闇だった空間には壁紙が張られるように一つの部屋が広がっていき、木製の円形テーブルが姿を表した。無から有を作り出すその姿はまるで、魔女である。
「さて、それじゃ始めますか。魔女集会、第、第……何回目だっけ?」
「私も覚えてないです……」
「265回目よ」
「そんなにやってましたの?」
「よく覚えてるな。そんなに集会が恋しかったのか?もしかして、あたしにあいたかったとか⁉」
「なんでそうなるのよ」
「私は……会いたかったです……へへ……」
「わたくしも皆さんにあえて嬉しいですわ」
四人の会話が進む中、テーブルの上ではティーポットがひとりでに浮き、四人のカップに紅茶を注いでいた。一角に座る高貴な雰囲気に包まれた女性曰く、いや魔女曰く、紅茶は集会にとって最も重要なものであるとのこと。これを集会初回で豪語した結果、紅茶はつきものになったのだ。砂糖多め、ミルク少なめが基本で注がれる。
一人が紅茶に手を伸ばし、また一人が紅茶を手に取る。そうやって四人全員が一口紅茶を含んだ後、一人が口を開いた。
「で、みんな最近どうなんだ?変わりないか?」
「変わりないわよ。相変わらず、馬鹿どもが寄ってきては追い払う毎日よ……あ、でもつい最近戦争があったわよ。原因は知らないけど、凝りもせずよく争うわよね人間て」
「わたくしのところでもありましたわ。民たちが食を失っていくのを見て興味がわきましたので、少し与えてみましたの。すると奪い合いが始まってしまいましたわ」
「あんたの所はしょっちゅうドンパチやってる気がするわよ」
「ちなみに、何を与えたんですか……?」
「永遠にパンが出る袋ですわ」
「あちゃー、そりゃダメだ」
「暴食、あんたは余計なことばっかりするわね」
「あら?だってパンがあれば食に困りませんわ。それともお米の方が良かったですの?」
「そういう問題じゃないと思います……」
暴食と呼ばれた魔女はカチャカチャとスプーンで紅茶を混ぜながらきょとんとしている。
「そういえば、子供たちの教育現場に出くわしたことがあってさ、その歴史の授業で、憤怒、お前の話が出てたぞ」
「ふーん、私ってそんなに有名なのかしら」
「腐ってもこの集会にいる魔女だからな。その辺、もっと自覚持った方がいいぞ。じゃないと暴食みたいに歴史が狂うぞ」
「歴史なんてどうでもいいわよ。興味ないわ。……ちなみに、私の容姿はどんなふうに教えられていたの?いや、興味はないけど、一応ね、一応」
「しけ顔のぺちゃパイだってさ」
「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!許せないわ!誰がしけ顔よ!ぺちゃパイで悪かったわね!」
「ぺちゃパイは否定しないんですね……」
「色欲!うるさいわよ!」
「そんなに気になさるのでしたら、容姿を変えればいいではないですの?」
「そんな下品な胸にしてるあんたには言われたくないわよ、この、デカ乳お化け!」
「あら、これは変えているのではなく生まれつきでしてよ」
憤怒の魔女は身を乗り出しながら彼女の胸を指さした。その間にもテーブルではひとりでにお菓子が用意されていた。一括された色欲の魔女は縮こまりながらマカロンを食べている。
「あんたはどうなのよ時詠」
そう言ってブロンドの髪を持つ魔女を憤怒は指をさした。
「あんただって私と変わらないくらいのおおきさじゃないのよ」
「あたしはそんなに気にしてないし。第一、容姿を変える魔法を作ったのはあたしなんだし、大きくするのだって簡単だぜ?ほら」
彼女が指を振ると、さっきまで憤怒と同じだった胸の大きさがみるみるうちに大きくなっていった。それは暴食をも超えるもので、閉まっていたボタンはばちんと音とを立てて飛び跳ね、色欲の額へと直撃した。
「ひゃう⁉」
「どうだ?デカいだろ」
「デカすぎよ……そこまで大きいと人に見えないわね」
「まるで品種改良の牛さんですわ」
「ま、あたしもここまで大きくしたのは初めてだけどな」
また彼女が指を振ると、元の大きさへと胸が萎んでいった。しかし、弾けたボタンがそのままの服は小さくなった胸を隠すには不十分であり、胸がはだけ、華奢な肌が露出している。
「はわわ、は、早くしまってください……!」
額の次は目を抑えながら色欲は頬を赤らめる。
「あんたは何時になったらこういうのに慣れるのよ。仮にも色欲の魔女でしょ?」
「そ、そう言われても……ダメなものはダメなんです……」
色欲を横目に憤怒がそう言うと、暴食が思い出したかのように話始めた。
「わたくし知ってますわ。たしか、夜になれば耐性が付くとおっしゃっていましたわよね?なら、夜にしてしまえば良いですの。名案ですわ」
「あっ!バカ!やめろ!」
時詠がそう言ったころにはもう遅く、暴食は詠唱を終わらせていた。まもなくして茶の間だった部屋には窓が現れ、太陽が沈み、月が上った。部屋の明かりはすべて消え、月明かりだけがテーブルを照らしている。刹那、色欲が座っていたはずの椅子がガタンと音を立てて倒れた。それと同時に色欲は時詠を押し倒してしまっている。
「あっはぁ!奇麗な肌だねぇ。いい匂いだねぇ。お姉さん、ゾクゾクしちゃうなぁ!」
数秒前までの色欲の様相とは違い、髪は解かれ、尻尾が生え、瞳孔が大きくなり桃色になっている。息が荒々しく、長く出された舌に唾液が伝って時詠のはだけた鎖骨に滴っていた。
「あら、色欲が元気になりましたわね。良かったですわ」
「あんた、ほんと余計なことしかしないわね……時読、そのままだと色欲に食われるわよ。もちろん、そういう意味で」
「おいおい!勘弁してくれ!あたしにそんな趣味はない!」
色欲を振り払おうと時詠は藻掻く。しかし、想像にもつかない力で腕を抑えられており、到底振り払えるものではなかった。それどころか、藻掻いたときに色欲の股下で足に感じた違和感に恐怖した。太く長く固い何かが、ずっしりとした感覚が時詠の足に擦られている。
「おい……おいおいおいおい!お前!女じゃないのかよ⁉」
「あらぁ?体をいじれるのが自分だけの特技だと思ってた?お姉さんだって人間の体を研究しているのよ?興味のあるものはやっぱり自分で試さないとねぇ?」
時詠が恐怖したものはますます膨張している。
「さぁ、これからxxxxしましょ!それからxxxにxxxでxxxxxxxxxxxxxxxxxxx!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
恐怖が限界に達した時詠は一心不乱に指を回して魔法を使った。途端、集会の部屋は暗闇に戻り、魔女たちは元の場所へと戻され、集会は強制終了した。
かくして、第265回魔女集会、サバトは色欲と時詠の暴走により幕を閉じたのだった。




