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魔法少女戦記

作者: 折太。
掲載日:2026/01/09

「うーん、敵の数は……10万ってところか?

 また随分と送り込んだもんだねぇ」


 燃えるように赤い髪をしたウルフカットの少女、フランメはそう言って楽しそうに戦場を眺めている。


「一般の兵の数などどうでもいいです。それより、主力の数は何人ですか?」


 透き通るような水色の髪を、ひとつにまとめ眼鏡をかけた少女、グラスは億劫そうに尋ねる。


「ああ? なんだよ偉そうに、テメェで見たらいいじゃねぇかよ」


「はぁ、またそうやって高圧的になる。ああ、ごめんなさい()()なので丁寧に説明しないとわからなかったんですね」


「ああ!? 誰がバカだ? この冷血女!」


「ふ……2人とも……やめてくださいよぉ〜」


 ふわふわとした茶髪のボブカットが特徴的な少女、フレールが涙目になりながら2人の仲裁に入る。


「フレール! こいつがどう考えても悪いよな?」


「フレールさん! この人が悪いですよね?」


「ふ、ふぇええ……た……助けてくださいルミエールさーん!」


「ほらほら2人とも喧嘩しない!」


 私たちはいつもこうだ。フランメとグラスが喧嘩を始めて、フレールが助けを求めてくる。

 それを私、ルミエールがなんとかまとめる。 


 変わらない私たちのやりとり。


「いい? 私たちの役割ってなんだと思う?」


 私は3人の目を見て、説いてみる。


「1人でも多く敵を殺す!」

「はぁ、野蛮ですね。効率的に敵の主力を減らすです」

「み……みんなを守って……戦う……?」


 3人のバラバラの答えに私は大きく頷いて答えた。


「そう! みんな正解!

 私たちが多くの敵を倒せば、それだけ傷つく味方の数が減る。私たちが素早く敵を倒せばそれだけ戦争は早く終わり敵味方問わず死者を減らせる。

 私たち次第で、戦況を大きく変えられるわ」


 私は敵の軍勢を見据える。

 あと数分もすれば味方の本陣と激突する。そうなる前に私たちが動かなくては。


「大丈夫。敵がどれだけ多くても、どれだけ強くても……。

 私たち4人が揃えば出来ないことなんてない!

 だって私たちは最強なんだもん!」


 これは私の心からの言葉。

 揺らぐことのない確固たる自信だ。


「……はっ。そうだな」

「ええ。それには同意します」

「はい……!」


 その言葉に3人は笑顔で返してくれる。

 

「よし! じゃあ行きましょう! 私たち、最強の()()()()が!」


 どれだけ敵が強くても、どれだけ戦うことが怖くても、私は諦めない!

 だって私は魔法少女なんだから!



 



 

「はぁー」


 軍事会議から戻り廊下を歩きながら俺、シシゴウは深いため息をつく。


 ここハルカ砦はビクトリア王国が誇る最大の砦にして、最後の防衛線。

 ここを落とされればいよいよ俺たちの国に明日は無い。


 だと言うのに……上のおいぼれ共は……。


「これ以上防衛費に予算を回すのは出来ない〜だの、人員も他の砦との兼ね合いがあるからこれ以上増やせない〜だの!?

 ふざけんじゃねぇよ! 老害が!」


 つい人目も気にせず俺は悪態をついてしまう。

 すれ違う兵士たちのバツが悪そうな顔をしているの見て、俺は口を押さえる。

 

 今、俺たちの状況は芳しく無い。

 20年前、無能な将軍の無能な作戦の大敗をきっかけに負けが嵩んでいき、今では全盛期の領土の半分程度しか残っていない。

 

 だからこそ、俺たちはこの最終防衛ラインである砦をなんとしても守り切らなくてはならない。


 だがそのための設備も物資も全く足りない。半年もすればここの物資は底をつく。


 そして、もうひとつ……。

 最大の問題を抱えている……。




 


 魔法少女

 現在世界で流行している奇病、「魔力過剰症」に由来するものたち。

 成人手前の少女にのみ発症し、原因も対処法も不明。

 体から魔力が溢れ出し、止まらなくなる。

 肉体は過剰な魔力に耐えきれず、一週間もすれば衰弱死する。この奇病に多くの人々が恐れた。


 しかし、ある日状況は大きく変わる。

 とある少女が地獄のような一週間を耐え、生き延びたのだ。

 少女は溢れ出す魔力を完全に制御し、肉体はその魔力に耐えられるように強靭なものに作り変えられていた。


 そして、最初の生還者を皮切りに少ないながらも着実にその数を増やしていった。


 彼女たちのことをいつしか人々はこう呼んだ。


 魔術を超えた力を操る少女。

「魔法少女」と。


 1人で何万人の兵力に匹敵する生きた兵器である魔法少女は、ある程度数が増えると各国がこぞって軍事投入に力を入れた。いつしか各国のパワーバランスの基準はどれだけ多くの魔法少女を保持しているかということになった。


 我が国にも複数の魔法少女が所属していた。


「炎の魔法少女 フランメ」

「氷の魔法少女 フラグ」

「深緑の魔法少女 フレール」

 

 そして最後の1人がこの砦の地下にいる。


 太陽の光は届かない最深部。

 この階層にある大きな扉。

 俺はその扉を無造作に開け放つ。

 

 最初に感じるのはそのアルコールの匂い。むせかえるほど強く、濃い熱気が体に絡みつく。


 その中に彼女はいる。



「だぁれぇ〜? も〜ノックもしないで入ってきて〜」


 ソファに寝転がりながら首だけこちらに向ける。


「あぁ……シシゴウ……さん? なぁにこんなところに……もしかしてぇ夜這いぃ? まさかシシゴウさんがぁ、幼女趣味だったなんてねぇ……」


 酒瓶を抱えて寝転がり、顔が赤みがかったほぼ裸のネグリジュ姿のピンクのツインテールの少女。


 この、節操がなく、酒癖が悪く、どうしようもない15歳程度の姿をした俺よりはるか年上の女。


 彼女こそ、我が国が誇る最強の戦力。


「光の魔法少女 ルミエール」


 我が国()()の魔法少女である。

 


「ルミエール……貴様は……いい加減にしろ!」


「ひゃあ! あんま大きな声出さないでよぉ〜。頭に響くじゃない……!」


「昼間から気絶するまで飲んだくれ、二日酔いどころか一週間酔いで前線に立てない……。

 貴様はこの国の魔法少女という自覚があるのか!」

 

「うるっさいわねぇ! 相手にも魔法少女はいなかったんでしょ? だったら私が出る必要無いじゃない」


「……貴様が出れはもっと簡単に敵を撤退できた! 貴様が出れはもっと物資も兵士の犠牲も少なくて済んだ!」


「知らないわよ。いい? 私はね、この国最後の魔法少女なのよ?

 無駄な体力は使わないの。

 だから、わたしはその時までここで待機してんのよ」


 こう言っているがこいつは20年間戦ったところを見たことがない。


 上層部がこの砦に予算を回さないのはこいつがいるからということもある。


 だが当の本人がこれでは砦の防衛などとても任せられない。


 どうして……。


「……どうして……そうなってしまったんだ……。

 以前はそうではなかったのに……」


 私の漏らした言葉に、ルミエールは険しい顔をして睨みつける。


「その話を……しないでっ!」


 彼女の怒号では俺は部屋の壁まで吹き飛ばされる。

 ほんの少し叫んだだけでこの威力だ。

 本気を出せば国ひとつ滅ぼせる化け物。それこそが魔法少女だ。




「シシゴウ様! ルミエール様! 失礼します!」


 突然、部屋に兵士の1人が血相を変えて部屋に入る。

 そして部屋のありようを見て一瞬動揺し言葉を詰まらせる。



「……いい……気にするな……用件を話せ……」


「え……あ……はい! 火急の知らせです! 砦北西の森に敵勢力を発見! その数およそ1()()!」


「ひ……ひとり……?」


 砦を落とすために差し向けられたにしては明らかに数が少ない。

 だがこの焦りよう、最悪の予感が頭をよぎる。


「……まさか……」


「はい……マサク国の……魔法少女です……!」




 マサク国とは、今我が国を追い詰めている最大の敵対国。20年前の大敗もこの国が相手だった。

 

 部下から報せを聞いた後、俺はすぐに部屋を出て対策を立てるため急ぐ。

 相手は魔法少女。となると一般人ではとても対抗できない。なんとかルミエールも引っ張り出そうとしたが……。


 うずくまり何かうわ言を呟くばかりで動こうとしなかったため、俺は諦め城壁に向かった。


「よ……よろしいのですか……? ルミエール様を置いて行って……」


「いい。あんなもの戦場にいても邪魔なだけだ。

 とにかく状況を教えろ」


「は……はい! 確認されている魔法少女は1人。第一陣が迎え撃ちましたが……。わずか数分で壊滅させられました……」


 我が軍の兵士は決して弱くない。兵の質だけで言えば大国とも引けを取らない。


 だが、そんな兵士が束になっても魔法少女には歯が立たない。


「北西の城壁に、この砦の火器を全て持って来い! 集中火力で仕留める!」


「はっ!」


 部下に指示伝え、自分も城壁の様子を確認するために急いで側防塔に向かった。



 側防塔の屋上に着く頃には兵士の迅速な対応で火器の類は全て北西の城壁に集中しすでに砲撃も始まっていた。


 だが、その全てが無駄に終わっている。


「"鈍重な惑星(ヘビー・プラネット)"!」


 褐色の肌に黒く長い髪をたなびかせ、右手には身の丈と同じくらいの大剣を肩に担ぎ、左腕は二の腕のあたりから銀色に輝く義手をつけている大柄の女。


 彼女が左手を前に翳すだけで、砲弾は直前で落下していく。

 まるで何か見えない力に上から押しつぶされているかのように。

 

「この程度か! こんなもので我を仕留められると思っているのか!」


 


「重力の魔法少女 グラヴィス」

 彼女こそマサク国が誇る最強の魔法少女にして、指揮官。

 そして、我がビクトリア国を窮地に追い詰めた宿敵である。


「いるのはわかっている。さっさと出てこい! ルミエール!」


 ルミエール?

 あの女、ルミエールが目当てでここまで来たのか?


「出てこないなら……」


 グラヴィスは持っていた大剣を片手で持ち上げ始める。

 その姿に俺はとてつもない悪寒が全身を駆け巡り、身を乗り出して城壁の兵に向かって叫んだ。


「おい! 今すぐそこから逃げ……」


 

「"天地断頭グラヴィティ・ブレード"!」



 グラヴィスが振り下ろした大剣は大地を引き裂きく斬撃を生み出し真っ直ぐ城壁に向かって走る。


 城壁への着弾時、衝撃と破壊音があたりに響き渡り身を乗り出していた俺は吹き飛ばされる。

 

 なんとか体を起こし着弾箇所を確認する頃には全てが終わっていた。

 城壁が真っ二つに割れ、火器のほとんどは大破し、中にいたはずの兵士の気配がまったくしない。



「くそ……化け物め……!」


 その様子に俺は唇を噛み締め、近くにいた兵士は絶望の表情を浮かべながら震えている。


「い……いったいどうすれば……」


「……俺が出る……。お前たちは城壁の兵士を避難させろ!」


「っ! シシゴウ様!」


 兵士の呼び止めを無視して俺は側防塔から飛び降りた。


 ("身体強化(アームズ)"……"自動回復(オートヒール)"……"感覚上昇(ハイセンス)"!)


 かけられるだけの強化魔術を全てかけ、帯刀したサーベールを抜き、俺は突撃する。


 人間の限界を超えた速度で距離を一気に詰め、あと数メートルで間合に入る地点で跳躍。

 全体重を乗せサーベルを振り下ろす。


 だが、片腕一本でその攻撃を防がれる。



「あ゙ぁ? なんだ貴様……?」

 

 サーベルを受け止めている左腕は金属でできている。

 しかし、剣から伝わってくる感触はとても金属のそれとは違う。

 グラヴィスの能力は重力を操ること。刃と腕が触れる間の重力の向きを逆にして刃を押し返しているのだ。

 俺はそのまま後ろに飛び退き、体制を立て直す。


「貴様、魔法少女じゃ……ないよな? 何しにここまで来た」


 こいつ……俺を敵とすら認識していない。

 ……いや当然だ……。こいつらにとって人間を殺すことなど虫ケラを踏み潰すのと同義。


「お前を止めるために来た。あいにくお前の探しているルミエールは不在だ。

 今すぐここから立ち去れ」


「そうはいかぬ。奴が出るまで蹂躙し続ける」


「ああ、そうかいっ!」


 タイミングをずらし俺は突撃を開始する。体をできるだけ低く、膝から肩へ切り上げるようにサーベルを振るう。


 しかし、


「……軽い……」


 グラヴィスはそう言うと俺のサーベルを、あろうことか素手で掴みそのまま、握りつぶした。


「な!」


 化け物が……!

 刃を受け止め、そのまま握りつぶすなど、人間どころか生き物のやることでない!


「もう充分だろ。去れ。

 今なら見逃してやる」


「ふざけるな!

 軍人として、ここで退くわけにはいかないんだ!」


 ほんの数分……いや、数秒でも時間を稼げるのであれば、例えすがりついてでも俺はその時間のために残りの命をかける。

 


「そうか……ならば次の一撃で跡形もなく吹き飛ばす」


 グラヴィスは担いでいた大剣を天に振り上げる。

 最初に城壁を破壊した一撃をもう一度繰り出そうとしている。


 あれを喰らえば流石に無事では済まない。


(ああ……結局俺では()()()のようには……なれないのだな……)

 

 ここまでかと、俺は覚悟を決める。


 


 


「……まったく……無茶するわね」


 そこに、聞き覚えのある声が響く。


 俺は驚き目を見開く。


 その目に映るのは彼女の姿。

 桃色を基調としたドレスを見に纏い、右手には先端に星が取り付けられ、星から2枚の翼が生えているステッキを握りしめている少女。

 太陽に照らされ、身につけている装飾が光り輝くその姿はまさに女神のようだった。


 彼女こそ、ビクトリア王国を守護する。

 最後の魔法少女。


「光の魔法少女 ルミエール」の姿だ。

 



 

「貴様……今更何しに来た……」


「うるっさいわね。助けに来てあげたんだから感謝しなさいよ。

 あと、邪魔だから下がってなさい」


 そう言って彼女は再びグラヴィスの方へ向き直る。


 当のグラヴィスは、ルミエールを見るなり満面の笑みを浮かべて大剣を握りしめている。


「あぁ……! ルミエール! この瞬間を20年待ち続けた! さぁ殺し合おう! あの日の続きをしよう!」

 

 そう言ってグラヴィスは恍惚とした笑みを浮かべ今にも飛びかかってきそうに前のめりになる。


 それに対してルミエールは冷静に、右手を前に出し静止する。


「待って。あんたと戦ってもいいわ。


 ……だけど、条件を出させてもらう」


「は? 条件?」


 やる気満々だったグラヴィスは出鼻を挫かれたようで不満そうな声を漏らす。


「まずひとつ、あんたが好き勝手暴れたせいで砦がめちゃくちゃだから1日猶予をちょうだい。

 ふたつ、私たちが2人やりやったら周りへの被害が大きすぎるから場所を変えましょう」


 ルミエールが出した条件はどちらもこちらが窮地を脱するには最適な条件。

 もしこれが呑まれればひとまず砦は助かる。

 だが、それには大きな問題がある。


「ふむ。なるほどな。いい条件だ。

 我がその条件に乗るかどうかを除けばな?」


 その通りだ。現状、グラヴィスは圧倒的に有利。そんな状況で引くメリットはない。

 それを、ルミエールはどう覆す気なのか。


「うーん。そうね。もしこの条件が呑めないって言うなら……。


 私は諦めます」


 ……は?


「な……! 何を言っているんだ! ルミエール!」


「だってどうしようもないでしょ? 

 ただでさえ、正面からやりたくないのに……。

 潔く、降参して、無抵抗で殺されます。


 ……でも……あなたはそれでいいの? グラヴィス?」


「はぁ?」


 疑問符を浮かべるグラヴィスに対し、ルミエールは指を指す。

 グラヴィスの肉体で最も目を引く、銀色に輝く腕を。


「よっぽど悔しかったんでしょ? その腕。

 その雪辱を晴らすためにこんなところまでわざわざ出向いた。

 まぁ、あなたが無抵抗の私を痛ぶって満足する小心者って言うんなら、この条件はとっとと蹴って私を殺しなさいな」


 つらつらと煽りの言葉を並べ立てるルミエールに対し、俺は気が気ではなかった。

 まるで不発弾で遊ぶような行為。

 近くで聞く俺が先に緊張感に気絶しそうだ。




「ふ……ふはははははっ!!!」


 


 しかし、グラヴィスの反応は予想に反して明るいものだった。


「ルミエールよ……少し見ない間に随分と口が上手くなったなぁ?」

 

「ええ。おかげさまで」


「いいだろう、その条件乗ってやる。

 明日、日輪が頂点に達した刻限。

 場所は……我らが最初に会ったあの谷にしよう。

 貴様が来なければ貴様の不戦敗ということで我は貴様の国を蹂躙しに行く。それで良いな?」


「それでいいわ」


 話が拍子抜けなくらいとんとん拍子で進んでいく。

 どこか妙ではあるが俺はひとまず胸を撫で下ろした。


「よし、では明日

 ……おう、そうだルミエールよ……」


 彼女は最後にこちらを振り向いた。


 俺はその視線に戦慄する。


「我を挑発する意味がどれだけ重いか……理解しているな?」


 圧倒的な殺意と怒りに満ちたその鋭い眼光。

 まるで大気が凍りつくかのような冷たい視線に全身から汗が吹き出す。

 

「……ええ。もちろん」


 対してルミエールは顔色ひとつ変えずに応対する。


「そうか。ならば良い」


 それだけ残し、グラヴィスは去っていった。


 生きた心地がしなかった状況から解放され俺はしばらく息を整えることに必死だった。

 多少マシになったのち、ルミエールに声をかけた。


「ル……ルミエール」


「ほら……追い払ってやったわよ。

 私は明日のために休むから修復はあんたたちでやりなさい」


 先程啖呵を切った堂々とした態度は消え去り、とぼとぼとした足取りでルミエールは戻っていく。その後ろ姿に俺は不安を感じだ。






 襲撃した後処理をひと段落する頃にはもうすっかり夜になってしまった。

 

 俺は自室に帰る前に、ルミエールの様子が気になり一度彼女の部屋を見ることにした。

 薄暗い地下通路を通り、扉の前に立ちノックしようとする。


 しかし、扉の手前でノックする手を止める。




「……おぇ……ぐす……ぉぇええ」




 扉の奥から聞こえるえずくような声が聞こえてくる。


「ルミエール……?」


 俺はそっと扉を開ける。

 

 そこ広がる光景。

 涙を流し、口から大量の吐瀉物を吐くルミエールの姿だった。



「っ! ルミエール! 大丈夫か!?」


「は!? シシゴウさん!? ちょ……勝手に入んないでよ!」


 慌てて顔を隠し俺を振り払おうとする。


「どうしたんだ……」


「な……なんでもないから!」


「ルミエール……何かあるなら言ってみろ……明日が決戦なのにその調子では……」


「……うるさい……」


「……え?」


「うるさいうるさいうるさい! あんたに何がわかるわけ!?

 散々私に頼り切って今さらなんなのよ!

 言いたいこと? そんなのいくらでもあるに決まってんだろうが! だけど……言わせてくれないのはあなたたちでしょ!?」



「ル……ルミエール……」


「出てってよ! もう放っておいて!」


 ルミエールは俺を押しのけ無理やり部屋から追い出し、ドアを勢いよく閉じる。


 閉ざされたドアの向こうから啜り泣く声と嗚咽が絶え間なく聞こえてきた。





 




 


「はぁ……はぁ……」


 最悪だ……。

 

 

 ろくな地形調査もせず、バカな進軍したばっかりに不利な地形にまんまと誘い込まれ、敵の奇襲に合い味方はほぼ壊滅状態。


 私たちがなんとか奮戦して味方を守って戦ったけど……。


「……どうしたぁ? ビクトリアの魔法少女はその程度か?」


 相手はあのグラビィスだ。

 私たち4人がかりでまだ余裕を見せる化け物。


 私たちの攻撃は全部通らない。

 炎も、氷も、植物も、光も。

 全て重力の前に押しつぶされる。


 こんなやつに撤退戦を挑むことになるなんて……。


 だけど泣き言言っても始まらない。

 もうみんな疲労でまともに動けない。これ以上戦えばみんな確実に死ぬ。


 そう思った私は最後の賭けに出た。


「……みんな……私が時間を稼ぐから……逃げて……」


「は?」

「ルミエールさん? 何を言って……」


 私は空へ飛びグラヴィスを見下ろす形を取る。


「"聖なる陽光(ホーリー・アロー)"!」


 無数の光の矢をあの女に叩き込む。

 過重な重力が光すら捻じ曲げるため全部横にそれていく。


 けど、諦めない。このまま攻撃を浴びせ続ければあいつは私に釘付けになる。そうすれば少なくとも3人は助かる。


 そう思ってた……。


「"鈍重な惑星(ヘビー・プラネット)"」


 突然、私の体に凄まじい重さががのしかかる。

 あまりの重さに飛行を維持できず、このまま地面に落下する。


「う……ぁあ……」


「……軽いんだよ」

 

 呻き声を上げ私は膝をついた状態で地面にうずくまる。ちょっと力を緩めたら地面に倒れ込みそうになる。


 ピンポイントでここまでの重力を操れるなんて……。


「さぁ……とどめと行こう」


 そう言うと、グラヴィスは掲げた大剣を勢いよく振り下ろす。

 大剣は凄まじい衝撃を発生させ私の方へ飛んでくる。


 避けようにもその場から動けない。

 私は死を覚悟する。

 


「ルミエール! 避けろっ!」


「……え?」


 斬撃が被弾する直前、聞こえてきたのはフランメの叫び声。

 それと同時に私の体は真横に突き飛ばされ、体の重みも解かれる。




 


 



 目の前に衝撃と轟音が響き、グラグラと揺らぐ視界と耳鳴りが止まない状況で私はしばらく呆然とする。

 目の前に広がる深く抉れた地面の刀傷と、大量の血飛沫、フランメが身につけていた衣装の切れ端。


 そして、





 

「いやぁあああ!!! フランメさん! フランメさぁああんっ!!!」





 

 耳をつんざくようなフレールの絶叫。


 そこで私はようやく理解した。

 フランメが私を庇ってぐちゃぐちゃにされたことに。


「あ……あぁ……」


 どうして……なんで私なんか庇ったのよ……。


 未だその場から立ち上がれない私を他所に、状況はさらに悪化する。


「う……うぁあ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!」


 フラグは腰に差したレイピアを抜き、絶叫を上げながらグラヴィスに突撃する。その形相と声にはいつも冷静なフラグからは想像もできないような怒りが込められていた。



「"紺碧烈氷(アズール・グラウンド)"!!!!」


 レイピアから放たれる氷の魔力は辺り一帯を覆いグラヴィスを一瞬で氷漬けにする。

 グラスが使う最も範囲の広く、強力な氷魔法。

 しかし、


「まだ軽い」


 氷漬け状態から重力で内側から氷を砕き脱出。


 そのままグラスの懐に飛び込み、グラスの腹部に触れる。


「……爆ぜろ」


 その一言でグラスの体が爆発四散する。

 体内の重力の流れを狂わせ、相手を爆散させる魔法。

 あまりに残忍であまりに凄惨な光景だった。


 返り血を浴び、笑みを浮かべるグラヴィスの眼光はそのままフレールに向けられる。



「いや……いやぁあああ!!!」



 泣き叫び、恐怖に顔を歪ませるフレールは地面に手を付け詠唱を唱える。


「"万花の大地(フルールド・アース)"!」


 フレールの深緑魔法でフレールの周囲に木の根が生成され、グラヴィスに襲いかかるが、振り払うだけで根はすべて切断されていく。



「あ……あぁ……」


 なす術がないと悟ったフレールは絶望の中、最後に私を見つめる。

 涙を流し、助けを乞うようにこちらに手を伸ばす。


 助けなきゃ……。守らなきゃ……。


 そう考えても、私の体は動こうとしない。ただただ、彼女に手を伸ばすしかできなかった。



「た……助けて……ルミエールさん……」


「死ね」


 フレールの最後の言葉は、グラヴィスから振り下ろされた大剣により文字通り断絶される。


 私の目の前に広がるのはフレールの首が胴体となき別れになるその瞬間だった。



 


 ――あ……あぁ……あ゙あ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!!!




 

 

 


「はっ!」


 私はガバッと体を起こす。

 そこは仲間の屍が転がる戦場ではなく、酒瓶が転がる不衛生な砦の地下室の床だった。


「……あぁ……最悪の目覚め……」


 だんだんと意識がはっきりしていく頭の中で私は状況を理解していく。

 ここはハルカ砦の地下室。今のは20年前から毎夜見続ける悪夢。

 そして、今日はあの女との決戦の日。


「……大丈夫……大丈夫……。私はやれる……私はやれる……。

 ……どうせ全部……今日で終わるんだから……」


 私はしばらく自問自答を繰り返した後、立ち上がり支度を整える。







 誰にも声をかけず、こっそりと砦を出てあの場所へ向かう。

 私たちが大敗を喫した谷。最も、20年前の戦いでもう谷とは呼べる状態ではないが。

 


 20年前、あの後どうやって私が生き残ったのか正直覚えていない。


 気づいた時には本国の医務室で横になっていた。

 後から聞くには、私たちが戦っていた谷は崩して私はその落石の下から見つかったとか。

 てっきりグラビィスの魔法で崩壊したのかと思ったけど、私の魔法でグラヴィスが腕を落としたと言う話を聞く限り私がやったらしい。

 


「……ついたわね……」


 気づけばもう目的地は目の前だ。

  

 いざ目の前にすると胃の中がひっくり返りそうになる。


 けど、その吐き気を必死に抑えて私は前に進もうとする。


 そこに、


 ――ガサガサガサ


「ん?」


 近くで物音が聞こえた。

 あたりを見渡すが別に誰もいない。


 気のせいだったのかな?


 まあ、そうだよね。これからあの女と戦うんだもん。

 ちょっと気が敏感になってるのかも。


 私は気を取り直して目的の場所に歩みを進めた。


 

 

 


 谷の中心に私は歩みを進める。

 一歩、また一歩と踏み出すほどに伝わってくる重圧。


 ……間違いない……もうすでにいる……あの女が……。



「……来たか……」


 大剣を側にある瓦礫に突き立て、堂々とした出立ちて座り込んでいる。


「てっきり国など見捨てて逃げると思ったんだがなぁ……」


「……できればそうしたかったわよ……。

 あんたと正面からやりたくないし……」


 今だって全身から汗が止まらない……。


「まあいい……さぁやるぞ……!

 もう待ちきれない……殺し合おう!」


 戦いは早々に始まった


 グラヴィスは立ち上がり、突撃を開始する。

 凄まじい脚力と重力操作の合わせ技であっという間に距離を詰められる。


 繰り出される斬撃を私は紙一重で交わし、空中へ逃げることで距離を取る。


「"聖なる陽光(ホーリー・アロー)"!」


 私の周囲に魔力の塊を配置して続け様に弾幕を放つ。

 光弾はグラビィスに被弾する前に横にそれていく。


「おいおい逃げるなよ! もっと近づいてこい!」


「冗談でしょ? あんたと殴り合いなんて死んでもごめんよ!」


 近距離戦で私に勝ち目はない。なんとか距離を取ってあいつの攻撃の外に出る。

 そして、決して止まっては行けない。

 あいつの重力は強力だけど、魔法少女を捕まえるには局所的に重力を強くする必要がある。


 ここまでの立ち回りは順調。

 しかし……問題がある……。



「どうしたぁ! 攻撃がまったく当たっていないぞ!」


 そう、私の攻撃が当たらないことだ。

 グラヴィスの重力の壁、あれを突破しない限り私はあいつにダメージを与えることはできない。このまま持久戦に持ち込まれたら先に魔力切れを起こすのは私の方だ。


「そんなものではないだろう。

 全力を出してみろ! あの日、我の腕を切り落とした……あの重い一撃を放ってみろ!」


 簡単に言ってくれる……。


 そう言われても、私はあの日のことをほとんど覚えていない。

 本人から聞いても、私がこいつの腕を切り落としたなんて今だに信じられない。


「来ないのならば……こちらから行くぞ!」


 グラヴィスは大剣を天高くかがけ、こちらを睨みつける。

 そして勢いよく、振り下ろす。たったそれだけの動作だが、それだけで辺り一体を更地にする巨大な斬撃を生み出せる。


 私はそれを寸前で回避。


 けどそれがよくなかった……。


 一瞬、グラビィスの攻撃に気を取られた一瞬、グラビィスへの注意を解いてしまった。

 あの女はその隙を見逃さない。


 横に飛び退いた私目掛けて、グラビィスは跳躍。

 重く、鋭い左の拳が私の腹部目掛けて突っ込んでくる。


「かはっ……!」


 咄嗟のことで避けることはできない。

 魔力を被弾箇所に集中してなんとかダメージを弱めたがまったく意味をなさない。

 彼女の体重と、ありったけの重力が私を地面に叩きつけた。


「おい……終わりか……?」


 間の抜けた声でグラビィスは私に問いかけてくる。


 ふざけんな……。もうすでに意識も朦朧としてるっての。

 あんなの食らって生きてるだけ褒めてほしいわ。


 悪態をついてやりたかったが、もうしゃべることも億劫だった。


「はぁ……そうか……。

 ならば終わりにしよう」


 グラヴィスが再び私に向かって剣を振り上げる。

 またあれがくる。

 次くらえばもう私は助からない。


「"天地断頭グラヴィティ・ブレード"!」

 

 


 ……それでいい。




 

 もう疲れた。

 国を守るのも、あの女の恐怖に悩まされるのも、みんなの断末魔を頭の中で再生し続けるのも。

 全部全部疲れた……。


 私はそっと目を閉じて最後の時を待つ……。






「さぁせるかぁあああっ!!!!」




「「!?」」


 突然、グラビィスの放つ衝撃音に紛れて誰かの叫び声が聞こえ、同時に私の体が誰かに持ち上げられる。


 驚いた私は目を見開き状況を理解する。


 そこにいたのは見知った人物の必死な形相。

 何かというと私に小言を言い、こんなところまでのこのこついてきた真面目な朴念仁。


 シシゴウさんの姿だった。



 シシゴウさんはほぼ飛び込む形で私を抱き抱え、斬撃を寸前で回避する。



「はぁ……はぁ……あ……あぶな……かった……」


「貴様……! 戦士同士の決闘に横槍を入れるとは……!

 どれほど無礼なことか理解しているのか!」


「悪いな。俺は軍人であって戦士じゃないんだ。

 どんな手を使っても勝つ! それが俺のやり方だ!」



「……そうか……ならば……殺されても文句は言えんな!」


 怒りに身を任せてグラビィスは魔力を貯める。

 それは先ほどのような剣を媒介にした斬撃ではなく単純な魔力の塊。


 重力の塊であるこれが直撃すれば人体は跡形もなく押し潰される。



「ばか……何してんのよ……! 早く逃げなさい!」


「すまんな。こっそり着いて行って、見届けるだけど思ってたんだがな……。

 お前のそんな姿を見てきたら……とても我慢できなかった……」


 シシゴウさんは持っているサーベルを引き抜き、眼前のグラビィスを睨みつける。

 



「……ルミエール……最後だ……最後に聞いてほしい……」



 そう言うとシシゴウさんは私の方へ一瞬顔を向ける。


 その表情はいつもの堅物な表情ではなく、穏やかで慈愛に満ちた優しい笑顔を浮かべていた。



「君にとって魔法少女という役職は呪いであり、楔だったのかもしれない……。

 だが、これだけは覚えておいてほしい。

 俺は君の……その姿に憧れて軍人になった。

 俺だけじゃない。多くの者が君の姿に勇気をもらったはずだ。

 どうかそれだけは忘れないでくれ……」


「……っ!」


 それだけ言い残し、再びグラビィスと向き直る。



「別れの挨拶はすんだか?」


「ああ。充分だ」


「そうか……ならば死ね!」



 無慈悲な重力の塊が、私感謝すると言ってくれた人に向かって振り下ろされる。






 


 やめて……やめて……やめて!


 またこんな……また私は誰かに庇われて私だけ生き残るの……?

 また私は……誰も守れないの?


 いや……いや! そんなのもう耐えられるわけがない!


 でもどうしろっていうのよ!

 あんなの……どうやって倒せばいいのよ……!



「……そんなの、私たち次第、だろ? ルミエール」


「……え?」


 聞こえてきた。どこからともなく誰かの声が。


「相手は最強の魔法少女。怖いのは当然です

 ですが、既にあなたにはその打開策が握られているはずです」


 とても懐かしい声、もう二度と聞くことのできない声、


 ……ずっと聞きたかった声。



「あとは……ルミエールさんの覚悟次第……ですね。

 大丈夫です! だって、私たちは最強ですから!」








「な!?」


 グラヴィスは驚愕する。

 自らが生み出し、必殺と思われていた攻撃が、

 突如現れた一筋の光に撃ち抜かれ、一瞬で霧散したから。


 シシゴウさんも、その光景に目を見開き驚いている。


 何が起きたのか、混乱するなか光が放たれた背後に振り返る。




「……ごめん、心配かけたわね……」



 もう迷わない。

 もう下を向かない。


 私を憧れと言ってくれた人のために。

 私の心を支えてくれたあの子達のために。


 ここで……決着をつける!









「あぁ……! そうだ……! ルミエール! ようやく本気になったな!」


「グラビィス……「重力の魔法少女」。

 もう終わりにしましょう」


「来い! 「光の魔法少女」! より重い一撃で()を貫いてみろ!」


 私は上空へ飛びながら魔力を貯める。

 重力を貫く感覚は取り戻した。

 でも、生半可な魔法じゃあの女にはまだ届かない。


 やれることの全てを使ってあの女に勝つ。



「"聖域からの滅撃(プロトゲノイ)"!」


 最大級の魔法をグラビィスに向かって叩き込む。


 グラヴィスはそれを正面から迎え撃つ。


「"奈落の獣(タルタロス)"!」


 今までの重力操作とは桁違いの力を放つ魔法。

 広範囲の重力操作。あたり一帯を全て窪地に変える圧倒的な力。

 私の光線を正面から受け止め押し潰している。


 だが、今までと違い重力の壁は少しづつ押されつつある。


 後少し……、もう少し……!


「あぁあああっ!!!

 もっと……もっとだぁああっ!!!」


 重力波が最大まで達する。

 拮抗していた私たちの魔法は徐々に重力に押されていき……。


 霧散した。



「はぁ……はぁ……どうだ……まだ軽いぞ……もっと……もっと私……を……?」


 グラヴィスの言葉は途中で止まり、声がうわずる。


 彼女が視線を上げた先、私がさっきまでいた場所に、私がいなかったからだ。


「……こっちよ……グラヴィス」


 私は彼女の背後から声をかける。


「あんたの魔法に打ち勝てないのはわかってたわ。

 だからちょっと小細工を弄しました。

 ……いったでしょ? ()()()()()()()()()()()()()



 魔法が相殺し、視界が遮られる一瞬、そこで私はグラビィスの背後をとった。


 致命的な一撃を与えるために。



「ルゥミエールっ!!!!」


「"聖なる陽光(ホーリー・アロー)"」


 翳したステッキから、私は正確にグラビィスの心臓を撃ち抜いた。

 

 



「……は……流石だな……ルミエール……」


 心臓を撃ち抜かれてなお、グラヴィスは倒れることはなく、仁王立ちして笑みを浮かべている。


 とはいえ、徐々に魔力が弱っていく。彼女はもう助からない。


「……全然……私は正面からの戦いから逃げた……。

 最強は変わらずあなたよ」


「それでもだ……正面からだろうと、卑怯な方法だろうと、誰も私を殺せなかった……。

 あぁ……ようやく……私も死ねる」


「……グラヴィス……あなた……」



 私がもう一度、声をかけた時にはもう二度と彼女は声を上げることはなかった。

 仁王立ちした状態で、彼女は絶命した。



「……さようなら……「重力の魔法少女 グラヴィス」……」


 私は最後の言葉をかけその場を後にした。


「ルミエール!」


 遠くでシシゴウさんが駆け寄ってくる。

 あぁ、よかった。今度こそ私は守れたんだ。


「シシゴウ……さ……ん……」


 私は彼の名前を最後までちゃんといえなかった。

 視界は揺らぎ、音が遠のいていく。

 体の感覚は少しずつ薄れ、地面に倒れ込んでいることにしばらく時間がかかった。


 (……フランメ……グラス……フレール……勝った……よ……)

 

 


 




 


――……エール……! おい……! ルミエール!


――う……ん……シシゴウ……さん……?


――あぁ! ルミエール! よかった! 目を覚ましたな!


――あれ……私……ああそうか、あの後気絶して……。

 ありがとう……手当、してくれたみたいね……。


――いや……何かできればと思ってやってみたが……実際君の自己回復の方が早くて、あまり意味はなかった……。


――それでも……ありがとう。


――……なあ、ルミエール。話がある


――なぁに? プロポーズ?


――ち……ちがう! 真面目な話だ!

 ……このまま、行方をくらましたらどうだ?


――……え?


――……ルミエールはグラビィスとの激しい戦いの末、両者相打ちで決着がついた。

 俺がそういえばみんな信じるだろう。

 君はここで国を捨てて逃げ出していいんだ



――……どうしたの……いつものシシゴウさんらしくないじゃない


――昨日の君の言葉、あの後今までの俺たちの行いを考えた。

 思えば俺たちは、まだ年端も行かない少女に国の未来を背負わせていたんだなと。それがどれだけ酷なことだったのかとな。

 だからもう君が無理をして背負う必要はないここで全部投げ出せばいい


――そんな……ビクトリアはどうなるのよ!

 グラビィスを倒したって言っても他国には他にも魔法少女がいる! 奴らが攻めてきたらどうするの!?


――そしたら、我々で対処する。

 ……もしそれで国が滅んだとしても、所詮その程度の国だったと言うことだ。

 君のような、少女を苦しめながら生きながらえるような、愚かで弱い国ならな。

 君なら1人でもやっていけるだろう。このまま逃げて、海を渡り外の大陸へ逃げてもいいし。

 なんなら、空の彼方だって君ならいけるんじゃないか?


――ふふ……


――ルミエール?

 

――まったく……シシゴウさんは。

 私より年下のくせに、気を抜くとコロッと堕ちゃうようなこと平気で言うんだから



――なっ! だから俺は真面目にだな!


――わかってます。

 それにすごく嬉しい。


 でも、お断りします


――……何故だ?


――わかったのよ。自分のやりたいことが。

 ……いや、正確には思い出したと言う方がただしいんでしょうが。

 前に私言ったんですよ。私たち次第で戦況を、戦争を左右できるって。

 正直、まだ何も知らなかった昔の私の戯言ですけど、それをもう一度やってみようと思う


――……やってみる?


――うん。つまり、この馬鹿みたいな戦争を終わらせようってことです



――なっ! そんなこと……!


――わかってる。簡単なことじゃないって。

 でも……もう見たくないんですよ。なんの力を持たない人々が踏み潰される姿も、力ある人々が縛り続けられることも。


 どうなるかわからない。途中で投げ出しちゃうかも。

 それでも、もう一度やりたいんです。それが、フランメやグラス、フレール、……それにグラヴィス。

あの子たちへの手向になるから



――ルミエール……


――だからシシゴウさん? もし、私を哀れんで助けてくれるって言うんなら、協力してくれませんか?

 結局私、1人だとすぐへたっちゃうので。一緒に夢を見てくれる仲間が欲しいんです


――……あぁ……ああ! わかった……! その申し出謹んで受けよう!


――あれぇ? 泣いてるんですかぁ?


――な……泣いてなどいない! さぁ! そうと決まればとっとと帰るぞ! やることは山積みだ!


――ふふ……はいはい






 この先、何があるかわからない。

 グラヴィスより強い敵が現れるかも。

 何かの拍子にどっちかが死ぬかも。



 ……それでも。私は諦めたくない。

 もう一度あの子たちの思いを遂げるために。


 ……だって私は……魔法少女なんだから。

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