魔王に殺される度ステータスが増える僕は、たった一日のループで世界を救う
「うわああああああっ!」
俺の悲鳴は、魔王の吐き出した黒い炎に呑まれて消えた。
熱い。痛い。苦しい。
視界が暗転する。
――死んだ。
そう理解した瞬間、俺の意識は途切れた。
「ユウト! 朝だよ!」
母さんの声で目が覚めた。
飛び起きる。ベッドの上。
見慣れた自分の部屋。窓から差し込む朝日。
「……え?」
さっきまで確かに、俺は死んでいた。
魔王が村を襲撃して、俺は逃げ遅れた村人をかばって…いや、かばうつもりで前に出たら一瞬で焼かれた。
なのに今、俺は生きている。
しかも昨日の朝に戻っている。
手を見る。傷一つない。心臓も普通に動いている。
「夢……?」
でも、あまりにもリアルすぎた。魔王の禍々しい姿。黒い炎の熱さ。死の瞬間の絶望。
全部、鮮明に覚えている。
「とりあえず、外を見てみるか」
窓を開けると、村はいつも通り平和だった。
畑で働く人たち。井戸端で話す主婦たち。パン屋の煙突から立ち上る白い煙。
魔王が襲撃してくる気配なんて、どこにもない。
「やっぱり夢だったのかな……」
そう思いかけたとき、空の彼方に黒い雲が見えた。
――あれだ。
昨日(?)、あの黒い雲から魔王が現れた。
時刻は朝の七時。魔王が村を襲うのは夕方の五時。
つまり、あと十時間後。
「……マジかよ」
夢じゃない。俺は死んで、一日前に戻ったんだ。
信じがたい現実だったが、俺は動くことにした。
このまま何もしなければ、また村は全滅する。
俺にできることは少ないけど、せめて村人を避難させることはできるかもしれない。
「村長さんに話を――」
いや、待て。
臆病な俺でも分かる。
「魔王が来ます」なんて言っても、誰も信じない。
証拠もないのに。
それに、仮に信じてもらえたとしても、避難が間に合うかどうか。
「俺一人で、魔王を止める……?」
無理だ。
俺は戦闘経験ゼロ。
ステータスも普通の村人レベル。魔王なんて相手にならない。
だから昨日、一瞬で殺された。
でも――。
「とにかく、やってみるしかない」
俺は村の道具屋で剣を借りて、森で素振りをした。
見よう見まねで振り回すだけ。
こんなんで強くなれるわけがない。
それでも、何もしないよりはマシだと思った。
夕方五時。
黒い雲が村の上空に広がった。
その中から、巨大な影が降りてくる。
魔王――【災厄の顕現】ゼルヴァイス。
全長五メートルはある漆黒の身体。
燃え盛る赤い瞳。背中には骨のような禍々しい翼。
「人間どもよ、絶望せよ」
低く響く声と共に、魔王が黒い炎を吐き出した。
村人たちが逃げ惑う。
俺は剣を握りしめて、魔王の前に立った。
「お前が――魔王か!」
「……虫けらが」
魔王の視線が俺を捉える。
それだけで、全身が金縛りにあったように動けなくなった。
恐怖が脳を支配する。
「く、そ……!」
俺は必死に剣を振った。
当然、届かない。
魔王の爪が、俺の胴体を貫いた。
「ぐあっ……!」
視界が暗転する。
――また、死んだのか…
「ユウト! 朝だよ!」
また、戻ってきた。
昨日の朝。魔王が襲撃する前の朝。
「やっぱり……死に戻り、か」
確信した。
俺は魔王に殺されると、前日の朝に戻る。
でも、ただ戻るだけじゃ意味がない。
何度繰り返しても、俺が魔王に勝てるわけがない。
「……ん?」
ふと、違和感に気づいた。
身体が、軽い。
昨日よりも力が漲っている気がする。
「まさか……」
俺は慌ててステータスを確認した。
この世界では、意識を集中すれば自分のステータスが見える。
――【鈴木ユウト】
体力:12 → 33
筋力:10 → 35
スピード:11 → 27
MP:8 → 24
「上がってる……!」
全てのステータスが、増している。
死ぬ前よりも、確実に強くなっている。
「死んだら、ステータスが増える……?」
それが、俺の能力なのか。
死に戻りと、ステータス増加。
二つを組み合わせれば――。
「何度も死んで、何度も強くなれば……魔王を倒せる、かも」
希望が見えた。
でも同時に、恐怖も襲ってきた。
何度も死ぬということは、何度もあの苦痛と絶望を味わうということだ。
俺は臆病だ。
痛いのも、怖いのも嫌だ。
でも…
「この村を守れるのは俺だけだ」
俺は覚悟を決めた。
二度目のループで、俺は戦い方を変えた。
剣の素振りだけじゃなく、魔王の動きを観察することに集中した。
魔王の攻撃パターン。炎を吐くタイミング。爪を振るう速度。
全てを記憶する。
そして夕方五時、再び魔王と対峙した。
「また貴様か、虫けら」
「今度は、もうちょっと粘るぜ」
俺は魔王の炎をギリギリで回避した。
前回よりも身体が動く。ステータスが上がった効果だ。
剣を振るう。
剣先が魔王の脚に傷をつけた。
「ほう……」
魔王が興味を示した。
だが、それだけ。
次の瞬間、魔王の尻尾が俺の頭を吹き飛ばした。
三回目も…怖いな…
「ユウト! 朝だよ!」
また戻った。
ステータスを確認する。
体力:33 → 47
筋力:35→ 42
スピード: 27→ 36
MP: 24→37
「また上がってる」
確実に強くなっている。
でも、まだまだ足りない。
魔王に傷をつけることはできても、倒すには程遠い。
「……どうすればいい?」
俺は考えた。
何度死んでも、少しずつしか強くならない。
このペースじゃ、魔王を倒すまでに何十回、何百回と死ななきゃいけないかもしれない。
そんなの、耐えられるわけがない。
「別の方法を……」
俺は村の図書館に行き、魔王についての資料を漁った。
そこで見つけた一文。
『魔王は核を持つ。核を破壊すれば、魔王は滅ぶ』
「核……?」
魔王の身体のどこかに、核がある。
それを破壊すれば勝てる。
でも、どこにあるのか。
「また…確かめるしかない」
俺は再び、魔王との戦いに臨んだ。
四度目のループ。
俺は魔王の身体を観察しながら戦った。
頭、胸、腹、背中――。
そして気づいた。
魔王の心臓の位置に、黒い宝石のようなものが埋まっている。
「あれが核か!」
俺は全力で剣を振るった。
魔王の胸に、刃が届く。
だが――。
「浅いっ……!」
核に届く前に、魔王の爪が俺を貫いた。
――四度目の死。
「ユウト! 朝だよ!」
五度目の朝。
ステータスはさらに上がっている。
体力: 50
筋力:52
スピード: 44
MP: 47
「もう少し……もう少しで届く」
俺は今日も、魔王と戦う準備をした。
剣の扱いも少しずつ上達している。
ステータスだけじゃなく、戦闘の経験も積み重なっている。
「今度こそ……!」
夕方五時。
魔王が現れた。
「また来たか、小僧」
「ああ。今度こそ、お前を倒す」
俺は魔王に突撃した。
炎を避け、爪をかわし、核を狙う。
剣が、魔王の胸に突き刺さる。
「ぐっ……!」
核に、届いた。
でも、砕けない。
「まだ……足りない……!」
魔王の翼が、俺を薙ぎ払った。
吹き飛ばされる。地面に叩きつけられる。
全身が砕ける。
「くそ……また、死ぬのか……」
視界が暗くなる。
だが――。
次の瞬間、俺の身体が光った。
「……え?」
死に戻りが、起きない。
代わりに、全身に力が漲る。
ステータスがグングン上昇していく。
そして、脳内に声が響いた。
『スキル覚醒――【積死セキシ】』
「積死……?」
『死を積み、力に変える者。汝の死は全て、汝の糧となる』
これまで死んだ回数分、ステータスが一気に加算される。
体力: 50→99
筋力:52→96
スピード: 44→88
MP: 47→89
「これが……俺の、本当の力……!」
立ち上がる。
魔王が驚愕の表情を浮かべた。
「貴様……何者だ……!」
「ただの村人だよ」
俺は剣を握り直した。
「何度も死んで、やっとここまで来たんだ」
地面を蹴る。
今度は違う。身体が、意識についてくる。
魔王の攻撃を全て見切る。
炎を避け、爪を躱し、尻尾を飛び越え――。
「届けえええっ!」
剣が、魔王の核を貫いた。
「ぐああああああっ!」
魔王が咆哮を上げる。
核が砕け、魔王の身体が崩壊していく。
「馬鹿な……この私が……人間ごときに……!」
「人間ごときの俺が、何度も死んで強くなっただけだ」
魔王は光になって消えた。
村は、救われた。
魔王を倒した後、俺は倒れた。
全身の力が抜けていく。
「あれ……死に戻り、は……?」
起きない。
どうやら、スキル覚醒と引き換えに、死に戻り能力は消えたらしい。
「そっか……もう、死ねないんだな」
不思議と、安心した。
もう死ななくていい。
もうあの苦痛と恐怖を味わわなくていい。
「よかった……」
村人たちが駆け寄ってくる。
「ユウト! 大丈夫か!」
「魔王を倒したのか、お前が!?」
みんな驚いている。
当然だ。
昨日まで何の取り柄もなかった村人の少年が、魔王を倒したんだから。
「ああ……まあ、色々あってね」
俺は笑った。
強化されたステータスは残っている。
もう俺は、弱い村人じゃない。
でも、もう死に戻ることもできない。
これからは、この一度きりの人生を大切に生きていく。
「さて、これからどうしようかな」
空を見上げる。
黒い雲は消えて、青い空が広がっていた。
死なずに生きる世界。
俺は、その世界で歩き出す。
――完――




