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魔王に殺される度ステータスが増える僕は、たった一日のループで世界を救う

作者: 桜木ひより
掲載日:2025/12/08

「うわああああああっ!」


俺の悲鳴は、魔王の吐き出した黒い炎に呑まれて消えた。


熱い。痛い。苦しい。

視界が暗転する。

――死んだ。


そう理解した瞬間、俺の意識は途切れた。


 


「ユウト! 朝だよ!」


母さんの声で目が覚めた。


飛び起きる。ベッドの上。

見慣れた自分の部屋。窓から差し込む朝日。


「……え?」


さっきまで確かに、俺は死んでいた。


魔王が村を襲撃して、俺は逃げ遅れた村人をかばって…いや、かばうつもりで前に出たら一瞬で焼かれた。


なのに今、俺は生きている。


しかも昨日の朝に戻っている。


手を見る。傷一つない。心臓も普通に動いている。


「夢……?」


でも、あまりにもリアルすぎた。魔王の禍々しい姿。黒い炎の熱さ。死の瞬間の絶望。


全部、鮮明に覚えている。


「とりあえず、外を見てみるか」


窓を開けると、村はいつも通り平和だった。

畑で働く人たち。井戸端で話す主婦たち。パン屋の煙突から立ち上る白い煙。


魔王が襲撃してくる気配なんて、どこにもない。


「やっぱり夢だったのかな……」


そう思いかけたとき、空の彼方に黒い雲が見えた。


――あれだ。


昨日(?)、あの黒い雲から魔王が現れた。


時刻は朝の七時。魔王が村を襲うのは夕方の五時。


つまり、あと十時間後。


「……マジかよ」


夢じゃない。俺は死んで、一日前に戻ったんだ。



信じがたい現実だったが、俺は動くことにした。

このまま何もしなければ、また村は全滅する。


俺にできることは少ないけど、せめて村人を避難させることはできるかもしれない。


「村長さんに話を――」


いや、待て。


臆病な俺でも分かる。

「魔王が来ます」なんて言っても、誰も信じない。


証拠もないのに。


それに、仮に信じてもらえたとしても、避難が間に合うかどうか。


「俺一人で、魔王を止める……?」


無理だ。


俺は戦闘経験ゼロ。

ステータスも普通の村人レベル。魔王なんて相手にならない。


だから昨日、一瞬で殺された。


でも――。


「とにかく、やってみるしかない」


俺は村の道具屋で剣を借りて、森で素振りをした。


見よう見まねで振り回すだけ。

こんなんで強くなれるわけがない。


それでも、何もしないよりはマシだと思った。


  


夕方五時。


黒い雲が村の上空に広がった。

その中から、巨大な影が降りてくる。


魔王――【災厄の顕現】ゼルヴァイス。


全長五メートルはある漆黒の身体。

燃え盛る赤い瞳。背中には骨のような禍々しい翼。


「人間どもよ、絶望せよ」


低く響く声と共に、魔王が黒い炎を吐き出した。


村人たちが逃げ惑う。


俺は剣を握りしめて、魔王の前に立った。


「お前が――魔王か!」


「……虫けらが」


魔王の視線が俺を捉える。

それだけで、全身が金縛りにあったように動けなくなった。


恐怖が脳を支配する。


「く、そ……!」


俺は必死に剣を振った。


当然、届かない。


魔王の爪が、俺の胴体を貫いた。


「ぐあっ……!」


視界が暗転する。


――また、死んだのか…




「ユウト! 朝だよ!」


また、戻ってきた。


昨日の朝。魔王が襲撃する前の朝。


「やっぱり……死に戻り、か」


確信した。


俺は魔王に殺されると、前日の朝に戻る。


でも、ただ戻るだけじゃ意味がない。

何度繰り返しても、俺が魔王に勝てるわけがない。


「……ん?」


ふと、違和感に気づいた。


身体が、軽い。


昨日よりも力が漲っている気がする。


「まさか……」


俺は慌ててステータスを確認した。


この世界では、意識を集中すれば自分のステータスが見える。


――【鈴木ユウト】


体力:12 → 33

筋力:10 → 35

スピード:11 → 27

MP:8 → 24


「上がってる……!」


全てのステータスが、増している。

死ぬ前よりも、確実に強くなっている。


「死んだら、ステータスが増える……?」


それが、俺の能力なのか。


死に戻りと、ステータス増加。

二つを組み合わせれば――。


「何度も死んで、何度も強くなれば……魔王を倒せる、かも」


希望が見えた。


でも同時に、恐怖も襲ってきた。

何度も死ぬということは、何度もあの苦痛と絶望を味わうということだ。


俺は臆病だ。


痛いのも、怖いのも嫌だ。


でも…


「この村を守れるのは俺だけだ」


俺は覚悟を決めた。


   


二度目のループで、俺は戦い方を変えた。


剣の素振りだけじゃなく、魔王の動きを観察することに集中した。

魔王の攻撃パターン。炎を吐くタイミング。爪を振るう速度。


全てを記憶する。


そして夕方五時、再び魔王と対峙した。


「また貴様か、虫けら」


「今度は、もうちょっと粘るぜ」


俺は魔王の炎をギリギリで回避した。


前回よりも身体が動く。ステータスが上がった効果だ。

剣を振るう。

剣先が魔王の脚に傷をつけた。


「ほう……」


魔王が興味を示した。


だが、それだけ。

次の瞬間、魔王の尻尾が俺の頭を吹き飛ばした。


三回目も…怖いな…




「ユウト! 朝だよ!」


また戻った。


ステータスを確認する。

体力:33 → 47

筋力:35→ 42

スピード: 27→ 36

MP: 24→37


「また上がってる」


確実に強くなっている。

でも、まだまだ足りない。

魔王に傷をつけることはできても、倒すには程遠い。


「……どうすればいい?」


俺は考えた。


何度死んでも、少しずつしか強くならない。

このペースじゃ、魔王を倒すまでに何十回、何百回と死ななきゃいけないかもしれない。


そんなの、耐えられるわけがない。


「別の方法を……」


俺は村の図書館に行き、魔王についての資料を漁った。

そこで見つけた一文。


『魔王は核を持つ。核を破壊すれば、魔王は滅ぶ』


「核……?」


魔王の身体のどこかに、核がある。

それを破壊すれば勝てる。


でも、どこにあるのか。


「また…確かめるしかない」


俺は再び、魔王との戦いに臨んだ。


   


四度目のループ。


俺は魔王の身体を観察しながら戦った。

頭、胸、腹、背中――。


そして気づいた。


魔王の心臓の位置に、黒い宝石のようなものが埋まっている。


「あれが核か!」


俺は全力で剣を振るった。


魔王の胸に、刃が届く。


だが――。


「浅いっ……!」


核に届く前に、魔王の爪が俺を貫いた。

――四度目の死。




「ユウト! 朝だよ!」


五度目の朝。


ステータスはさらに上がっている。

体力: 50

筋力:52

スピード: 44

MP: 47


「もう少し……もう少しで届く」


俺は今日も、魔王と戦う準備をした。

剣の扱いも少しずつ上達している。

ステータスだけじゃなく、戦闘の経験も積み重なっている。


「今度こそ……!」


夕方五時。

魔王が現れた。


「また来たか、小僧」


「ああ。今度こそ、お前を倒す」


俺は魔王に突撃した。


炎を避け、爪をかわし、核を狙う。

剣が、魔王の胸に突き刺さる。


「ぐっ……!」


核に、届いた。


でも、砕けない。


「まだ……足りない……!」


魔王の翼が、俺を薙ぎ払った。


吹き飛ばされる。地面に叩きつけられる。

全身が砕ける。


「くそ……また、死ぬのか……」


視界が暗くなる。


だが――。


次の瞬間、俺の身体が光った。


「……え?」


死に戻りが、起きない。


代わりに、全身に力が漲る。


ステータスがグングン上昇していく。

そして、脳内に声が響いた。


『スキル覚醒――【積死セキシ】』


「積死……?」


『死を積み、力に変える者。汝の死は全て、汝の糧となる』


これまで死んだ回数分、ステータスが一気に加算される。


体力: 50→99

筋力:52→96

スピード: 44→88

MP: 47→89


「これが……俺の、本当の力……!」


立ち上がる。


魔王が驚愕の表情を浮かべた。


「貴様……何者だ……!」


「ただの村人だよ」


俺は剣を握り直した。


「何度も死んで、やっとここまで来たんだ」


地面を蹴る。

今度は違う。身体が、意識についてくる。


魔王の攻撃を全て見切る。


炎を避け、爪を躱し、尻尾を飛び越え――。


「届けえええっ!」


剣が、魔王の核を貫いた。


「ぐああああああっ!」


魔王が咆哮を上げる。


核が砕け、魔王の身体が崩壊していく。


「馬鹿な……この私が……人間ごときに……!」


「人間ごときの俺が、何度も死んで強くなっただけだ」


魔王は光になって消えた。

村は、救われた。




魔王を倒した後、俺は倒れた。

全身の力が抜けていく。


「あれ……死に戻り、は……?」


起きない。


どうやら、スキル覚醒と引き換えに、死に戻り能力は消えたらしい。


「そっか……もう、死ねないんだな」


不思議と、安心した。


もう死ななくていい。

もうあの苦痛と恐怖を味わわなくていい。


「よかった……」


村人たちが駆け寄ってくる。


「ユウト! 大丈夫か!」


「魔王を倒したのか、お前が!?」


みんな驚いている。


当然だ。

昨日まで何の取り柄もなかった村人の少年が、魔王を倒したんだから。


「ああ……まあ、色々あってね」


俺は笑った。


強化されたステータスは残っている。

もう俺は、弱い村人じゃない。


でも、もう死に戻ることもできない。


これからは、この一度きりの人生を大切に生きていく。


「さて、これからどうしようかな」


空を見上げる。

黒い雲は消えて、青い空が広がっていた。


死なずに生きる世界。


俺は、その世界で歩き出す。


――完――

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