勝利の影響力
「勝者真羅家」
との審判の声に観客が沸いた。
次の試合まで6か月ほど日がある。
俺たちは、一晩会場近くに滞在して、明日の朝たつことにした。
(うぉーーーー)
帰り際、突然背後から大きな声が聞こえた。
振り返ると、鬼のような形相の河貯家の体格の大きい男が襲いかかってきた。
やばい。
そう思った瞬間。
犬太郎が、竹の杖を男の腹に突き立てる。
竹の杖は男のみぞおちに埋まり、
そのまま、男は倒れ込んだ。
犬太郎は何もなかったように、竹の杖を回収する。
そして倒れる男を横目に何のリアクションもせずに、立ち去っていった。
猿彦も雉衛門もリアクション一つない。
あれ。あんなにビビっていたのに、こいつら強いの。
まぁいいか。ここで突っ込んだら、怪しいもんな。
スルーしておこう。
俺はそう思った。
……
領地について3日が経った。
俺らはその間。
ずっとノンビリしていた。
そしてなぜだか。
俺ら蹴鞠部宛に手紙が二通届いた。
武闘派の蹴鞠の貴族と雅派の蹴鞠の貴族から、
お誘いの手紙だった。
当主の父上は
「こいつは簡単にいうと、傘下に入れという手紙だ」
と言った。
「どうしたらよろしいですか?」
と俺は尋ねた。
「お前が家督を継ぐわけじゃないから自由にしろ」
と父上は言った。
「兄上はどう思われますか?」
と俺は尋ねた。
「自由にしろ」
と兄上は言った。
俺は思い出した。
真羅家は貴族ながら出世欲が低かった。
だから次男坊が蹴鞠で頭角を現しそうだからと言って、
それを出世の役に立てようという気が、
そもそもなかった。
「わかりました」
と俺は言った。
しかし……、
どちらの傘下に入るのか。
蹴鞠部の皆にも聞かないと、
と俺は思った。
猿彦と雉衛門と犬太郎
を呼び状況を説明した。
「なんで俺らに聞く」
と猿彦は言った。
「逆に聞くが、俺が勝手に決めてもいいのか?」
と俺は言った。
「もちろんだ。お前が勝手に決めろ。俺らはそれに従う」
と猿彦は言った。
雉衛門と犬太郎もうなづいている。
そうか。主従関係があるからか。
まぁそうなるよな。
「……実はな。悩んでいるんだ」
と俺は言った。
「なぜ悩む」
と雉衛門は言った。
「なぜってか。そうだな。どちらもピンとこないのかもしれないな」
と俺は言った。
「それはどちらか入らないといけないものなの?」
と犬太郎は言った。
俺は回答に詰まった。
どちらも選ばない。
それも確かに手としてはある。
しかし、どちらも選ばない場合どうなるのか?
「どちらも選ばない場合どうなる。もしくはどちらかを選んだ場合どうなる?」
と俺は言った。
皆考えている。
「……どちらも選ばない。もしくは選べばどうなる?」
と猿彦は言った。
「選んだ場合だと、その後ろ盾で仕事にありつけるかもしれないな」
と雉衛門は言った。
「仕事にありつけるか……、
それは美味しいかもしれないな」
と俺は言った。
皆うなづいている。
「ちなみに蹴鞠で武闘派と雅派だと、どんな仕事を紹介してくれそうなんだ?」
と俺は尋ねた。
「武闘派だと、戦争と人夫出しの仕事だろうな」
と猿彦は言った。
「雅派だと、文化芸術系の仕事だと思う」
と雉衛門は言った。
「それって美味しい仕事なのか?」
と俺は尋ねた。
「うーん。どうだろう。別に俺らでも開拓できる仕事じゃないかな。
美味しい仕事は、そもそも独占してるはずだろうから、結局俺らには回ってこないのでは」
と雉衛門は言った。
「そうか。逆に傘下に入ることで困ることは?」
と俺は尋ねた。
「それはこき使われることだな。自由もなくなるし」
と犬太郎は言った。
「あぁそれはあるよな」
と猿彦は嫌そうな顔で言った。
「逆に傘下に入らないことで嫌がらせとかないかな?」
と雉衛門は言った。
「そうだ。それは気になる」
と俺は言った。
「多少はありかもしれないが、気にするほどでもないんじゃないか」
と猿彦は言った。
「そうか。逆に独立でやることで良い事はないか?」
と俺は尋ねた。
「俺らが勝ち進めば、教わりたいという貴族が増えて、そこでの影響力は得れるだろう」
と雉衛門は言った。
「つまり多少は危険を伴うが、一番得をしそうなのは、独立でやることかな」
と俺は尋ねた。
「だと思う」
と雉衛門は言った。
猿彦も犬太郎もうなずいた。
「よし。今の説明を父上と兄上に報告し、父上と兄上が問題なければ、独立派でやることにするよ」
と俺は言った。
3人ともうなづいた。
そして、父上と兄上に報告したら、二人とも
「別に任せるつもりだったから、どんな決定でも受け止めるつもりだったが、それは良い選択だと思う」
と言ってくれた。
ただ問題は断りの手紙だ。
どうしようかとさんざん悩み。
同じ文面で送ることにした。
―――
蹴鞠部の主将真羅奴名彦は、
梅か櫻かと聞かれて
竹と答える
田舎者の阿呆でございます。
皆様方のお役にたてるとは
到底思えませぬ。
ゆえに阿呆は
阿呆を極める事にいたしました。
そんな阿呆のやり方を
ご笑覧くださいませ。
真羅奴名彦
―――
この手紙を竹を切って手作りした筒に入れ、
武闘派と雅派に送った。
これでやることはやった。
あとは蹴鞠でどうしていくかを考えることだった。
この世界の蹴鞠は武闘派と雅派に分かれている。
武闘派はゴリゴリの体力だけで押す脳筋タイプ。
雅派は知性で押す文学系タイプ。
どちらも悪くはないが、勝てる蹴鞠という観点からすると弱い。
必要なのは両方だ。
体力と知性。
これを両方持っていない選手は勝てない。
それがプロの常識だった。
まぁただ。これは一般的なプロの話で、プロの中でも知性はそれほどないが、勝負勘だけ、サッカーの勘だけは常人を超えるという選手がごろごろいた。
こういう選手が番狂わせをしてくるから、サッカーは怖い。
俺もそんな選手になりたがったが、サッカーの神様はそういう才を俺には与えてくれなかった。
俺ができるのは、一般人でも上手くなる蹴鞠を教えることくらいだなと思った。




