無謀な闘い
1週間がたち、蹴鞠会当日になった。
俺たちは会場に入る。
あちらこちらで、河貯家の噂が聞こえた。
「また河貯家の奴。対戦相手を再起不能にしたらしいぞ」
「あいつらに睨まれたらお終いだ」
「河貯家の誰かが、熊と戦って勝ったらしいぞ」
「真羅家がこんど餌食になるんだろうな」
それを聞いて、正直怖いような気もした。
ただラフプレイはよくあること。
気にしたって仕方がない。
俺はそう思った。
しかし、仲間たちはそうはいかない。
明らかに動揺している。
「奴名彦……。今回の試合。やっぱり棄権しないか?」
猿彦は言った。
「棄権しないまでも、ぶつかられないように気をつけないとな」
雉衛門は言った。
「試合終わったら、たらふく飯を食おう」
犬太郎は言った。
「犬太郎。お前さっき食ったばかりだろう」
俺は言った。
「緊張すると腹が減る」
犬太郎は言った。
「普通緊張すると、飯を食えなくなるだろ」
と猿彦は言った。
「俺もだ。緊張すると飯が食えない」
雉衛門は言った。
俺は思った。
ちょっとマズい流れだな。
どうしよう。
そう思っていると、突然赤い狩衣の集団に声をかけられた。
「お前らが真羅家の者たちか」
ひときわ大柄の男は言った。
大きい声に高圧的な態度。
それに赤い狩衣。
こいつらが河貯家か。
「人違いです」
と俺は言った。
「そうか。すまぬ」
と男は言った。
そのまま。
通り過ぎていく。
ふぅよかった。
とりあえず、試合前にはやり過ごせそうだ。
「おい。奴名彦。俺ら真羅家だよな」
と猿彦は言った。
「バカ。よせ」
雉衛門は言った。
「なにがバカだよ。俺ら真羅家だろ」
と猿彦は言った。
「おい。お前。俺をたばかったのか?」
と大柄の男は言った。
うわ。
めんどくさい。
どうしよう。
どういえばカッコいい?
いや。
そんな場合じゃない。
たばかったのか?
どう答える。
いや。嘘じゃない。
うーんムリあるよね。
まぁいいか。
「たばかった?
まず名乗りもしない無礼な者に、まともに答える必要があるというのか?」
と犬太郎は言った。
えっまじ。
犬太郎……。
君は食いしん坊キャラじゃなかったの?
それ、
俺が言いたかったやつ。
「……まぁ。それは失礼した。俺は河貯家の者だ。お前たちは真羅の者か?」
と大柄の男は言った。
「あぁそうだ。あんたが今日の対戦相手か。
俺らが真羅家だ。
ずいぶん大きな体をしているじゃねぇか」
と俺は言った。
「まぁ俺たちは毎日猪肉を食っているからな」
と大柄の男は言った。
「猪肉良いな。うちなんか虫だぞ」
と犬太郎は言った。
うわ。犬太郎。それ今言う?
「ははははは。虫を食べるってか。お前らは魚か鳥か?」
と大柄の男を中心に、河貯家の者は大笑いをした。
俺はいらっとした。
「地域にはな。それぞれ文化や、事情というものがあるんだ。
それを知らずに、ただの雰囲気だけで判断し、笑うとは何事だ」
と俺は言った。
「そうだ。その虫だってな。
子供たちが汗水たらして集めてくるんだぞ。
生活のためにな」
と猿彦は言った。
「何を言ってる。
治める土地が貧しいのは、領主であるお前らがバカだからだろ。
地域の文化だ?
バカなことを文化で正当化するな」
と大柄の男は言った。
俺の中で何かが切れた音がした。
「……どこの世界でも同じだな。
バカほど、自分が恵まれているのは才能のせいだと過信する」
と俺は言った。
「なに?俺の事をバカと言ったか」
と大柄の男は胸ぐらをつかんだ。
すーっと身体が浮くのが感じる。
明らかに体重さと体格の差を感じる。
ただ。
海外選手の圧とは、比べ物にならないくらい少なかった。
(ふっ)
俺は思わず、鼻で笑ってしまった。
自分でもなんで笑ったのかわからない。
大柄の男は俺の顔に自分の顔を近づける。
顔の血管が浮き出ているのがわかる。
明らかに切れている。
「おい。お前。そんなに顔を近づけるな。獣臭いだよ」
と俺は言った。
あちゃー挑発してしまった。
ふと仲間たちを見ると、完全に顔が青ざめている。
「ははは。どうやら命がいらないようだな」
と大柄の男は言った。
「何を言ってる。命は大事だぞ。俺は常に命を大切にする」
と俺は言った。
「俺たちがなんて呼ばれているのか知らないのか?」
と大柄の男は言った。
俺は足元から顔までざっと見て。
「お前ら有名人なのか。猪を食うと言っていたから、どこかの狼かなんかだと思ってたわ。獣臭いし」
と俺は言った。
大柄の男は歯をぎりぎりさせている。
「よし。わかった。試合で目にものみせてくれるわ。お前らいくぞ」
そう言い、男たちは去っていった。
「おい。おい。奴名彦……だいじょうぶなのかよ」
と猿彦が泣きそうな顔をして言った。
「だいじょうぶって、あいつらのことか」
と俺は尋ねた。
「あれはマズいって」
雉衛門は言った。
「今日会ってわかったが、あいつらは弱い。お前らでも勝てる」
と俺は言った。
「何を言ってる。あの体格を見ただろ。あんなんに勝てるわけがない」
と猿彦は言った。
「猿彦。お前は何の勝負をするんだ?」
と俺は言った。
「なにって蹴鞠だろ」
と猿彦は言った。
「蹴鞠に体格がなぜ関係ある?」
と俺は言った。
みんな黙り込んだ。
実際体格差が関係あるかないかで言われると、関係はある。
サッカーの場合、やはり体格の大きな選手は有利だ。
しかし、体格の小さい選手が、体格の大きな選手を圧倒する例は多い。
実際にスポーツで対格差で埋めれない差がつくのは、ボクシングやレスリングなど体重で階級が決められる種目だ。
俺が言ったのは、かなり詭弁ではあるが、
実際に差がつく、つかないの前に、勝てないという意識は負けを呼ぶ。
だから、体格がなぜ関係があるかと質問したのだ。
「俺でも勝てるか?」
犬太郎は言った。
「あぁ。お前らのやった1週間の練習は本物だ。必ず勝てる」
と俺は言った。
「しゃあないな大将。やるよ。あいつらに猪より虫の方が強いとわからせてやろうぜ」
と猿彦は言った。
雉衛門もうなづいている。
俺は仲間の目を見た。
そこにあったのは、さっきまでの臆病な彼らの目ではなかった。
俺は知っている。
この目をした奴らは必ず勝利を手にしたことを。
俺は勝ちを確信した。




