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10/12

シーズン

俺たちは、試合後も練習を続けていた。

ただし部としての練習は一日2時間まで。

あとは自主練ということにしていた。

練習内容は、以前のものに加え、

リフティングの練習と、ハシゴを使っての敏捷性のトレーニングが主だった。

サッカーの場合は、短距離のダッシュなどを練習したが、蹴鞠の場合は、会場事体が広くはない。つまり走り回る必要なそれほどないが、相手選手を避けるなどの敏捷性と、リフティングでの鞠捌きは重要になってくる。


そこでその練習を2時間たっぷり行った。


練習場は開放し、誰でも見れるようにした。

そしてそこで、物販を行った。

鞠とか、昆布のお土産が飛ぶように売れた。

練習場の周りには飲食店ができた。

練習を見に来た観光客目的の店だった。

そして小規模ではあるが、簡易な宿泊所もできた。


練習は午前中に終わるし、領地経営と言っても、ほとんどすることがないので、

連日で蹴鞠教室を行った。

各地の下級貴族を中心に商人の息子など、比較的裕福な層が学びに来た。

そして何十人かはこちらに蹴鞠の為だけに居を構えた。

裕福な層が居を構えるとなると、そこでの下働きや、その下働きの食料品。

そんな具合に、雪だるま式に店や人が増えていった。


父上は

「領地が潤うわい」

と上機嫌だった。


実際に領地は潤った。

孤児たちに与えた虫取りの仕事も、稼げる仕事になってきた。

孤児たちは少しずつふっくらした顔になっていった。


孤児たちが取る虫の量が増えたことで、農家の収量も増えた。

害虫駆除につながったからだ。


人が増えたことで、鹿の流通も滞りなく進むようになった。

皮と干し肉にする以外、用途が限られていた鹿肉も、すぐに売れる食べる。

という循環があれば、問題なく回る。

鹿のハラミや内臓など、従来は捨てるしかなかった材料も、すぐに売り切れるようになり、無駄なく活用された。


すべてが順調に進んでいるかに見えていた。

しかし俺は一つの事が気がかりだった。


兄上の一言だった。

「中央では蹴鞠の軍事教練の可能性を考えている」


蹴鞠の軍事利用。

これはありえる可能性の一つだ。


蹴鞠も武術も、敵の初動の読みが勝敗を決する。

足首の角度、肩の入り、体重移動、視線の揺れなど、

その微妙な変化で相手の動きを読んで先制する。

これが全てだ。


俺たちプロの選手は、

日常的に繰り返される反復練習で、

頭で考える陳述的記憶から、

体で覚える手続き記憶に完全に切り替える。


視線の揺れなどで、

左だと考えるのではなく、

視線の揺れを感じた瞬間に左足を出している。

それくらいに高度に反応ができなければ、

勝てない。


これはサッカーの練習の果てに到達する境地だが、

同じようなことは武術でも言えるだろう。


相手が動いた瞬間。

制する。

これができれば、戦でどれほど有利であるか。


戦を行った経験のあるものなら、すぐにわかるだろう。


またサッカーでも小柄の選手が大男を軽くいなす事はよくある話だ。


これは、相撲や柔術の技術と同じで、重心を奪う技術。

それをサッカーでは体勢を制御することによって行う。


俺が試合で行ったように、小柄の男が大柄の男をかわすだけで無効化できれば、

大きな戦果をあげられる。


ただな……。


俺が深刻そうな顔をして、鞠を見つめていると、


「大将どうした?」

と猿彦がやってきた。


「いや。中央が蹴鞠を軍事教練に利用することを考えているらしい」

と俺は言った。


「そうか。どうりで、やたら目つきの悪い男たちがいるわけだ」

と猿彦は言った。


「そうか。それでどう思う?」

と俺は言った。


「まぁいいんじゃねぇの」

と猿彦は言った。


「蹴鞠が軍事利用されることに何も思わないのか?」

と俺は言った。


「いや……俺もさ。戦とかは嫌だよ。怖いし。

でもさ。

へんに中央に睨まれるのも怖いだろ。

だったらヘタな小細工しないでさ。

協力したほうがいいんじゃないの?」

と猿彦は言った。


たしかに猿彦の言う通りだった。

協力したほうが良い。

理屈ではわかっているのに、

なにかが受け付けなかった。


あぁそうか……

スポーツは平和だって教えてこられたからか。

戦争のための技術だなんて、

ヒーローじゃないもんな。

そっか。俺はヒーローになりたかったんだ。



俺は都昆にも同じ話をしてみた。

なぜだか聞いたほうが良い気がしたからだ。


都昆は驚いた顔をしたが、

「もちろん旦那様の思うようにしていただければ構いません。

その上で私の見解を申しますと、

戦うためではなく、攻撃を避けるためにという前提で考えられたらよろしいのでは」

と言った。


「攻撃を避けるためにという前提」

と俺は尋ねた。


「そうです。旦那様は今蹴鞠が戦いの道具になるという事を懸念されておられます。

しかし剣は戦いで人を傷つけるものである反面。

戦いから人を守るものでもあります。

蹴鞠を敵の攻撃を回避するためのものであると決めて、

その方向でご指導される立場にいかれるなら、話はずいぶん変わると思います」

と都昆は言った。


俺は驚いた。

いや。

本心でいえば、驚かなかったと思う。

俺は本心で彼女なら答えを出してくれるだろうと信じていた。


それから、俺は目つきの悪い男たちに片っ端から声をかけた。

話を聞いてみると、


「できれば人を殺めたくない」

「攻撃しなくて済むならそれが一番」

「臆病だから警戒心が強い。警戒心が人一番強いから目つきも悪くなる」

そんな事を教えてくれた。


「蹴鞠が戦で怪我をしないための技術として活用できるならどうか?」

と問うと皆

「弟子になる」

と言った。


『戦回避のための蹴鞠技術導入』

これで蹴鞠を嫌いにならないで済むのではないかと俺は思った。


気が付くと、次の試合まで

残すところ1週間を切っていた。


次の試合は御前試合だ。

この勝負の結果次第で、今後の俺と領地やみんなの行く末が決まる。


御前試合前に、戦回避のための蹴鞠技術導入という観念を持ててよかった。


中央が結果的に戦の為の道具だと思ったとしても、戦回避のためという錦の御旗が立てられるのなら、それはまるで違う結果になる。


これなら、蹴鞠の選手がヒーローのままでいることができる。

そう信じた。


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