首根っこを取る者たち③…広島 白昼夢編
✦首根っこを取る者たち③ ― 広島白昼夢編
(ニューヨークのZ世代とプレッパーのヒーロー)
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■序章 投票所の白昼夢
2025年・11月9日、広島県知事選挙。
67歳のボランティアの老人は、
投票所の受付机に座って名簿をめくっていた。
「今日も平和じゃ。…じゃけど、
相変わらず選挙に活気がないのう?
ニュースじゃ
広島は日本一転出する人が多いそうじゃが…
この街、大丈夫じゃろうか?
カープが弱いからかのぅ?」
雨の音が公民館の屋根に響く。
単調なリズムが、
彼をゆっくりと眠りに誘った。
まぶたの裏に遠い街の炎
――ニューヨークが見えた。
「暇じゃ、眠い…」
雨音が、白昼夢の導火線になった。
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■はじめに ― 備える者たち
アメリカには、
「明日が壊れる」と信じて生きる人々がいる。
彼らは
――**プレッパー(Preppers)**と呼ばれている。
農夫、看護師、IT技師、学生、元兵士、そして子ども。
宗教でも陰謀論でもない。
共通するのはただ一つ。
“Prepare, not to fear, but to protect.”
(恐れるためでなく、守るために備える。)
推計400万〜1000万人。
山のシェルター、井戸、オフグリッド。
彼らが本当に恐れるのは、
核でも戦争でもなく、
正常化バイアス
――「何も起こらない」と思い込む心だ。
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■第1章 アメリカ帝国の朝
2025年、
トランプ大統領が「帝国再建」を掲げ再登場。
AI監視、移民拘束、報道統制。
恐怖は「秩序」の名で美化された。
一方、
ニューヨークでは多くのプレッパーが都市を離れ、
砂漠・山・郊外で
**“都市の代わりに生き残る実験”**を始めていた。
残ったZ世代や労働者、
少数派はその記録を見て悟る。
「彼らは逃げたんじゃない。
我々に生きる術を示したのだ」と。
そして彼らが選んだのが、
ウガンダ移民二世の若き政治家
――ゾーラン・マムダニ。
「首根っこを掴む政治に自由はない。
逃げるのではなく、
“備える都市”をつくろう!」
彼の勝利は、
プレッパー精神が都市に帰ってきた記念すべき日となった。
彼を支援したのは、
都市を離れたプレッパーたちだった。
自分たちの備えを“恐怖”でなく“希望”に変えられるのは、
彼しかいなかった。
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■第2章 ウガンダの夜
森を抜ける母が言う。
「泣いたら見つかるよ」。
追放令の夜、
舟の上で祈りが落ちる。
“If you prepare, you can save even the weak.”
(備えれば、弱い者でも生かせる。)
備えることは、生き延びること。
母の背中が、マムダニの政治の原点になった。
彼には
正常化バイアスという言葉は存在しない。
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■第3章 ニューヨークの炎(AI帝国)
AI警察が市民をスコアで選別する。
「危険/抵抗/希望」
――この三語でアカウントは消える。
クイーンズのカフェ「カリ・スパイス」
の店主は誤判定で拘束された。
8歳の娘アリアは
「テロリストの子」と呼ばれ、
登校を拒む。
日本の若者と似ても似つかぬ、
アメリカの差別と引きこもりの現実。
しかしニュースは言う。
「治安指数は95%に改善しました。」
マムダニは演説する。
「AIで人を裁く国に未来はない!」
しかし、
彼の映像は次々に削除された。
首根っこを掴む政治は希望を敵とみなし、
AIに“削除”を命じていく――。
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■第4章 地下のネットワーク
地下鉄跡。
Z世代と労働者が、
プレッパーの手記を手に動き出す。
“We prepare in silence.”
(私たちは、沈黙の中で備える。)
屋上に太陽光、地下に自転車発電と水耕栽培。
それは「逃げるため」ではなく、
**“残るための備え”**だった。
マムダニは言う。
「プレッパーたちは山に籠もった。
しかし、彼らの魂はこの街に残っている。
私たちは“都市のプレッパー”になるんだ!」
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■第5章 首根っこの法則
ホワイトハウスのAI中枢。
トランプ大統領は笑う。「AIで世界を裁く。」
その瞬間、マムダニの演説が全世界に溢れた。
「首根っこを掴む者は恐怖で縛り、
支える者は祈りで解いていく。
どちらが強いか、
今こそ見せてやろう!」
モニターが白く焼け、通信が乗っ取られる。
マムダニがAIの“首根っこ”を掴んだ瞬間だった。
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■第6章 太陽が弾けた朝
AIが沈黙した夜、NASAは太陽活動の異常上昇を告げる。
太陽フレアの大爆発が現実となった。
都市の灯が消え、通信が焼け、水が止まり、
すべての“便利さ”が失われた。
だが
――プレッパーの無線だけは、生きていた。
「こちらニューヨーク・クイーンズ。
私たちは生きてます。
そちらは、大丈夫ですか?」
8歳の娘アリアの声が世界をつなぐ。
自分も幼い少女なのに…
“For the children.”
(子どもたちのために。)
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■終幕 白昼夢の続き(広島)
…気がつくと、
67歳の老人は再び投票所に立っていた。
広島県知事選挙。
手の中の投票用紙が少し湿っていた。
白髪の老夫婦が列を作り、静かに進む。
「広島に“危機に備える知事”はおるんじゃろうか?」
小さな呟きは空気を震わせ、
ちんちん電車が通り過ぎる。
停留所の柱に、貼り紙が一枚増えていた。
「平和ボケの街は、もう平和ではない!」
老人は空を見上げる。
「アメリカでは、恐怖を掴む者が滅び、
祈りを支える者が残るという人がいる。
じゃけど、広島はどうじゃろうか――
“何も起こらん”と思い込みながら、
ぬるま湯に浸かった茹でガエルみたいに
ゆっくりと沈んでおるのかもしれんのぅ。」
投票に行かない若者がスマホを見ながら歩いていた。
その画面の中で、
ニューヨークの少女が声をかける…
“For the children.”
(子どもたちのために。)
その若者の背中を眺めながら、
老人は小さくつぶやいた。
「声を出せ!誰も代わりに叫んではくれん。
備えるとは、生きる覚悟を持つことじゃ!」
冷たい雨の降る中、
ニューヨークと広島の小学校が
老人の心にそっと重なった。
どちらにも、
子どもの笑い声が必要なはず…
「いかんいかん、
まず、わしから声を出さんとのぅ…」




