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7話 離別

「隊長! カイム隊長!」


 幻聴ではない何者かの声が耳元に聞こえる。

 手足を切り落とされ文字通り芋虫のような体をよじり、今となっては得意になったうつ伏せの状態で耳を澄ませる。


「マイアです。ティナさんの行方が分かりました。今晩にでも南西大陸のダグザディアを目指して出立します」

「……」

「はい、はい! 必ずや完遂してみせます!」

 マイアはカイムの(つたな)い言葉の一片も漏らさず聞き取った。

 これまで、芋虫と化した情けない男の世話を嫌味一つも言わず行ってきたのだ。


 カイムにとって、若く優秀な者の時間を奪うことは何とも心苦しい。

 しかし、彼女がいなければ何もできないのが現状だった。


「……」


 惜しいことに、マイアはカイムの腕を切断する際、躊躇したために片腕を失っていた。


「いえ、こんなもの! もうピンピンしてますよ! お陰で以前より腕力も上がりました!」


 マイアはカイムの前で決して弱音を吐かない。

 彼女はどのような状況であっても常に前向きな姿勢を崩すことはない。


「明朝、レドリゲスの指示で隊長はルドラチャの荒野に向けて移送されます。その後は『一切の関与も行わず放置せよ』との命が下されました。それで、その――」


 カイムは迷わず首を横に振った。


 恐らくこれもあの男の罠に違いない。

 暗に関係を持った人物を炙り出すのが狙いなのだろう。


 これ以上マイアに負担をかけるわけにはいかなかった。


「他に、私にできることはありませんか?」


 これも横に振る。

 妻ティナの安全が確保された後、瀕死のカイムが最も望むこと。

 それを彼女に求めることなど到底できない。


「……隊長、どうかお達者で。神々のささやかな恩恵のあらんことを――」


 僅かな風を残し、物音一つ立てずにマイアは旅立った。


 ――すまない。


 彼女に対して咄嗟に発せられた最後の言葉は、周囲に飛び交う蝿の羽音にかき消された。



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