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8:王都潜入

 わたくしの屋敷の地下、その最奥に忘れられた転移魔法陣はありました。床に刻まれた複雑な紋様はところどころが欠け、魔力の流れが完全に途絶しています。


「こいつは物理的なサーバー間を繋ぐ、古いLANケーブルみたいなもんさ。規格が古すぎて、今じゃ誰も使えねえがな」


 カイウスはそう説明しながら、魔法陣の欠けた部分を修復していきます。しかし、すべての回路を繋ぎ終えても、肝心の起動エネルギーが足りていないようでした。


「イザベラ、あんたの出番だ」


 彼の指示で、わたくしは魔法陣の中心に立ちます。


「この魔法陣のパスワードは“王家の血”。だが、あんたの“管理者権限”は、そのさらに上位にあるはずだ。意識を集中して、この魔法陣に『起動しろ』と命令しろ」


 言われるがまま、わたくしは自らの権限を意識の表層に浮かび上がらせ、魔法陣へと注ぎ込みました。すると、本来なら青いはずの魔力の光ではなく、システムの根幹にアクセスするかのような、デジタルな緑色の光の粒子が紋様の上を走り始めました。


 光に包まれ、空間が歪む感覚と共に、わたくしたちは辺境領から姿を消します。


 到着したのは、王都の広大な地下水道の一角。わたくしたちはフード付きのローブで姿を隠し、地上へと向かいました。地上に出た瞬間、遠くに見える王城のシルエットが目に飛び込んできます。わたくしは何も語りませんが、その瞳には冷たい怒りの炎が宿っていました。


 深夜、王立図書館へ。正面は厳重な警備が敷かれています。


「正面突破は素人のやることだ」


 カイウスは笑い、建物の裏手にある搬入口を指しました。そこには、物理的な錠前ではなく、魔力によるセキュリティシステムがかけられています。


「この魔法障壁は、王家の血筋にのみ反応する認証システムだ。だが、あんたの権限はその更に上、『システム管理者』だ」


 彼の指示に従い、わたくしが認証システムに触れ、「このセキュリティ設定を“無効”にしろ」と命令すると、魔法障壁は音もなく消え去りました。


 図書館内部に侵入し、隠し通路を通って地下深くへと進みます。そこは、カビ臭い書庫などではなく、ひやりと冷たい空気が漂う、金属とクリスタルで構成された明らかに異質な空間でした。


 部屋の中央に、黒曜石のような滑らかな石柱が屹立しています。表面には、触れるのを待つかのように、淡い光で手のひらの形の窪みが浮かび上がっていました。


「ビンゴだ。これがあんたを“創生の書庫”に接続させるための、管理者用ターミナルだ」


 カイウスが、息を飲みます。


 わたくしが覚悟を決め、その手のひらの窪みへと、自らの手を伸ばしました。


 指先がターミナルに触れた、その瞬間。


 それまで静まり返っていた空間に、低く、重い警告音のようなハミングが響き渡り始めます。


「……来ますわね」


「ああ。こいつは、ただの門番じゃねえ。――システムの“免疫機能”そのものだ」

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