7:混沌たる作戦司令室
その夜、わたくしはカイウスを改めて自室に招き、二人きりで向かい合いました。
「なぜ、ここまでするのです? あなたもシステムの歪みに気づいていた。けれど、危険を冒してまで神に喧嘩を売る理由が、わたくしには分かりません」
彼にはぐらかされるのは分かっていましたが、どうしても聞いておきたかったのです。カイウスはしばらく黙っていましたが、やがて重い口を開きました。
「…俺が宮廷を追い出された本当の理由、知ってるか? 世界の成り立ちについて知りすぎたからだ。だが、それだけじゃねえ。俺には、俺のせいでシステムの“エラー”と見なされて、“削除”されたダチがいたんだよ」
その言葉は、彼のいつもの皮肉な口調からは想像もできないほど、静かで、そして重いものでした。
カイウスが仲間になって数日後。わたくしが屋敷の一室に入ると、そこは彼が持ち込んだ古文書や謎のガラクタで足の踏み場もない「魔窟」と化していました。当の本人は、山積みの本の上で何かを必死に書き殴っています。
わたくしは冷静にコーヒーを差し出しながら、尋ねました。
「それで、何か進展はありましたの、我らが天才魔術師様?」
「“マザー”は、OSのカーネルみたいなもんだ。そう簡単に見つかるかよ」
カイウスはぼやきながらも、一枚の古い地図を広げます。
「マザー・システムの物理的なサーバーの場所は、この世界の誰にも分からないように隠されている。アクセスするには、まず世界のどこかに点在する“管理者用ターミナル”を見つけ出し、そこからシステム内部に侵入する必要がある」
わたくしたちの最初の壁。そのターミナルは、一体どこにあるというのでしょう。
カイウスは、宮廷魔術師時代に読んだ禁書の内容を思い出しました。そこには、世界の法則や設計図がすべて記録されているという伝説の場所、“創生の書庫”の存在が記されていた、と。
「その“書庫”にアクセスできれば、マザーの場所を示す地図…いや、サーバーのIPアドレスみたいなもんが手に入るはずだ」
わたくしたちの最初の目標は、「創生の書庫へのアクセス」に定まりました。
しかし、カイウスは顔を曇らせます。
「その書庫は、システムの最重要データの一つだ。当然、生半可なセキュリティじゃねえ。そこには、不正アクセスを検知し、破壊するために作られたアンチウイルス・プログラムの化身、“ガーディアン”が常駐している」
では、その“書庫”に接続するための「管理者用ターミナル」はどこにあるのか。
カイウスは、追放される前に王立図書館の地下で奇妙な魔力反応を調査していたことを思い出しました。当時は正体不明だったが、今なら分かる。あれこそが、最初のターミナルに違いない、と。
目的、場所、潜入手段、そして待ち受ける脅威。すべてが明らかになりました。
わたくしは、初めての本格的な共同ミッションを前に、不敵な笑みを浮かべます。
「準備にかかりなさい、カイウス。わたくしたちの最初のハッキングは、王国の心臓部から。――“運営”の書斎に、無断で入らせていただきますわよ」




