5:最初の理解者
デリング伯爵へのささやかな復讐から数週間。辺境の村は、完全に活気を取り戻していました。わたくしが次のターゲットのステータスを解析していると、突如、視界に緊急アラートが割り込んできます。
《WARNING:未定義のプログラムがセクターF-7(辺境領)で実行中です》
これまで見たことのない警告に、わたくしは即座に屋敷を飛び出しました。アラートの発信源は、村の外れの森でした。
森の一角で、わたくしは信じがたい光景を目にします。木々が健康な姿と枯れた姿を高速で明滅し、地面の一部は映像が乱れたかのようにピクセル化している。空間そのものがバグを起こしている、局所的な「現実崩壊」。
情報ウィンドウを開こうとしても、表示されるのは文字化けしたデータばかり。「削除」コマンドを試みるも、完全に無視されます。わたくしの力が通用しない、初めての事態でした。
わたくしが現象を前に思考を巡らせていると、背後から不意に声がかけられました。
「見事なもんだろう? この世界の杜撰なプログラミングが、綻びを見せている瞬間だ」
振り返ると、そこにいたのはみすぼらしいローブを纏った一人の男。世捨て人のような風体ですが、その瞳だけが異常なほど鋭く、理知的な光を宿していました。
男は、わたくしが驚いているのも構わず、現象を指して「レンダリングの遅延か、それともメモリリークか…面白いな」などと、わたくししか理解できないはずの言葉を呟きます。
「あなた、一体何者ですの?」
わたくしが問い詰めると、男――カイウスは、肩をすくめて答えました。
「あんたがデリングとかいう貴族の根幹設定をいじったせいさ。そんな派手なパッチを当てりゃ、世界の管理者も黙っちゃいない。こいつは、ウイルスを見つけたOSが必死に隔離しようとしてるようなもんだ」
この男、わたくしと同じく、この世界の「理」に気づいている…!
カイウスは、自分も世界の真実を探求していたが、それを操る「権限」がなかったと語ります。そして、わたくしに手を差し伸べました。
「あんたの“管理者権限”と、俺の“知識”。組み合わせれば、このクソゲーのエンディングが見られるかもしれんぜ?」
「……面白い冗談ですわね。ですが、わたくしと組むというのなら、まずはあなたのその“知識”とやらが本物か、試させていただきませんと」




