27:王都浄化(キャピタル・クレンズ)
パレードの混乱から数日後。王城のバルコニーに、わたくしとアルフレッド殿下が立ちました。眼下の広場には、救いを求める無数の民衆が集まっています。
彼は民衆の苦しむ姿を見て、「私が…必ずこの国を救ってみせる」と震える声で誓いました。その隣で、わたくしは「大丈夫ですわ、殿下。あなたの心は、今や完全に澄み切っています。わたくしが保証いたします」と、絶対的な信頼を寄せる聖女を演じます。
アルフレッド殿下は、わたくしに支えられるようにして一歩前に進み、両手を天に掲げました。
「殿下、思い描いてください。この国を愛する、あなたの清らかな心を。そして、その心で、すべての悪夢を“無かったこと”にするのです」
わたくしの言葉は、彼にとっての絶対的なコマンドとなります。
アルフレッド殿下の手から、まばゆい黄金の光が放たれました。
その光は、王都全体を優しく包み込む波となり、触れた場所から悪夢の幻影たちが、まるで陽光に溶ける雪のように、静かに消え失せていきます。三つ目の獣は光の粒子となり、顔のない人々は安らかな表情で霧散し、宙に浮いていた瓦礫は音もなく消える。
悪夢が晴れ、清浄な光に満ちされた王都を見て、民衆は最初、呆然とし、やがて割れんばかりの歓声と祈りの声に変わりました。「王子様万歳!」「聖女様、ありがとうございます!」
『すげえ…本当にやりやがった…。今、王都全体のシステム領域から、数テラバイト級のジャンクデータが一斉に削除されたぞ! ゴミ箱は空だ! 今からログを解析する!』
カイウスの実況が、作戦の成功を告げます。
アルフレッド殿下は、民衆の歓声に涙を流し、達成感に満ちた表情でわたくしを見つめました。わたくしも、彼に聖女の微笑みを返します。作戦は完璧に成功した、はずでした。
その時、耳元の通信機から、カイウスの血相を変えた声が響きます。
『イザベラ…! まずい! これはただのジャンクデータじゃねえ!』
彼の声は、恐怖に震えていました。
『削除ログの断片を復元した…! 幻影の正体は、没モンスターなんかじゃねえ…! これは…かつてこの世界に存在し、何らかの理由でシステムから“削除”された人間たちの、思考や記憶の残滓だ…!』
カイウスの言葉に、わたくしは背筋が凍るのを感じました。わたくしたちが「お掃除」したものは、システムのゴミではなかった。それは、この世界の“犠牲者”たちの、声なき墓標だったのです。
「どういうことですの、カイウス」
民衆の歓声を浴びながら、わたくしは誰にも聞こえない声で問い返しました。
「“削除された人間”とは、一体…?」
『分からねえ…! だが、一つだけ言える。俺たちは、とんでもないパンドラの箱を開けちまったのかもしれねえぞ…!』