22:偽りの聖女の凱旋
純白のドレスを纏ったわたくしは、カイウスに見送られ、浄化された第七居住区の中心にある噴水広場で、静かに民衆の祈りに耳を傾けている“フリ”をしていました。
やがて、王家の紋章を掲げた豪華な馬車が到着します。宰相自らが馬車を降り、わたくしの前に恭しくひざまずきました。
「…もしや、貴女様が“辺境の聖女”様にございましょうか。どうか、この国をお救いいただきたい」
わたくしは何も語りません。ただ、慈愛に満ちた(と見えるであろう)表情で静かに頷き、差し出された手を取りました。
王家の馬車に乗り、王城へと向かいます。その道中は、かつてわたくしが罪人として引き回された道。しかし今、沿道を埋め尽くす民衆は、ひれ伏し、祈りを捧げていました。
『大した人気女優だな、イザベラ。観客は完全に信じきってるぜ』
耳元の通信機から、カイウスの皮肉な声が響きます。
(ええ、滑稽ですわね)
わたくしは馬車の窓から、ひれ伏す人々の顔を一人一人、記憶に刻み込むように眺めていました。
(昨日までわたくしを魔女と罵っていた者たちが、今日はいとも容易く聖女と崇める。この世界の住人(NPC)がいかに単純なプログラムで動いているか、よく分かりますわ)
通された謁見の間は、断罪の時とは打って変わって、絶望と焦燥に満ちていました。玉座に座る国王の顔には疲労が刻まれ、その隣に立つアルフレッド殿下は、わたくしの姿を見て息をのみます。彼がわたくしをイザベラだと認識できないよう、簡単な認識阻害の魔法はかけてありました。
国王が、玉座から降りて懇願します。
「聖女よ、どうかこの国を救ってくれ。望むものは何でも与えよう」
その言葉を待っていたかのように、わたくしは初めて口を開きました。その声は、静かで、しかし誰もが逆らえない響きを持っています。
「この災厄は、祝賀魔法の暴走。その術を発動させたのは、王太子殿下だと伺いました。呪いを解くには、まずその発生源を深く知る必要があります」
わたくしは、まっすぐにアルフレッド殿下の目を見つめ、最後の一撃を放ちました。
「国を救うため、わたくしの調査にご協力いただきたく存じます、アルフレッド殿下。二人きりで、詳しくお話を伺わせていただきたいのです」
その言葉に、国王は即座に「もちろんじゃ!」と頷き、アルフレッド殿下は、まるで蛇に睨まれた蛙のように、ただ呆然とわたくしを見つめ返すことしかできませんでした。