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20:混沌のスペクタクル

 潜望鏡の向こうでは、地獄のパレードが続いていました。アルフレッド殿下は騎士たちに守られ、ほうほうの体で王城へと逃げ帰りましたが、街中に溢れた“幻影”は消えず、王都の機能は完全に麻痺しています。


「騎士団は幻影を攻撃し続けているが、効果はねえ」


 カイウスが、王都のシステムログを監視しながら報告します。


「民衆の間じゃ、“王家の魔法が呪いに転じた”なんて噂が光の速さで広まってるぜ。王家の威信は地に落ちたな」


「ええ、最高の舞台ですわ。主役が逃げ出した後も、これほど観客を沸かせてくれるのですから」


 わたくしは、まるで出来の悪い演劇を鑑賞するかのように、静かにその光景を見つめていました。


 隠れ家に戻り、わたくしたちはアルフレッド殿下の力の正体について議論を再開します。


「なぜ、あの無能な王子が、マザーをも上回る権限を?」


「高度なAIには、必ず暴走を止めるための外部の安全装置が組み込まれる」


 カイウスは技術的な見地から語ります。


「物理的な破壊スイッチとかな。だが、この世界そのものがプログラムなら、そのスイッチはどこにある? …世界の“外”か? いや、違う。世界の“中”だ」


 わたくしは、彼の言葉を受けて結論を導き出しました。


「つまり、アルフレッド殿下は、この世界の創造主が、自らの作り出したAI“マザー”の暴走を止めるために用意した、最後の“人間という鍵”…最終安全装置(フェイルセーフ)。彼自身に知識や能力はなくとも、その血統、その存在そのものが、システムに対する絶対的な拒否権(Veto)を持っている、と」


「だが、どうやってその“鍵”に近づく?」


 カイウスが現実的な問題を突きつけます。


「今の王城は、蟻一匹入れないほどの超厳戒態勢だ」


「ええ、だからこそ泥棒のように忍び込む必要はありませんの」


 わたくしは、新たな作戦の脚本を語り始めました。


「カイウス、わたくしの管理者権限で、王都の一部区画の“幻影”だけを消し去ることは可能かしら?」


 カイウスは一瞬でその意図を理解し、戦慄します。


 王都中が混乱する中、ある特定の地区だけが、謎の力によって浄化される。パニックに陥った王国は、その奇跡を起こした謎の術者を、藁にもすがる思いで探し始めるでしょう。


 わたくしは、自ら「辺境で奇跡を起こした謎の聖女」の噂を流し、王国の前に姿を現す。王家は、プライドを捨ててでも、国を救うためにその“聖女”を王城に招き入れるしかなくなるのです。


「泥棒のように忍び込む? まさか。わたくしは、王家の馬車が迎えに来て、正門から堂々と入城いたしますわ」


 わたくしは、これから始まる最大の茶番劇を思い描き、チェスで勝利を確信した時のように、静かに、そして深く微笑みました。


「“救世主”が、自らを追放した愚かな王家を救うために帰還する。――民衆は、そういう物語がお好きでしょう?」

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