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17:影の中の作戦会議

 転移魔法陣の光が消え、わたくしたちを満たしたのは、王都地下水道の冷たく、湿った暗闇でした。


 辺境領の崩壊が、まるで悪夢だったかのように静まり返っています。滴り落ちる水の音だけが、不気味に響いていました。


 カイウスが懐から取り出した魔道具を操作しますが、そのディスプレイはただ暗闇を映すだけ。「…ダメだ。辺境領からの信号は、完全にロストした」と、彼は力なく告げました。エララや、わたくしを信じてくれた村人たちの安否も、もう知る術はありません。


 言葉を交わすことなく、わたくしたちは敗北の重みを噛み締めていました。


 しばらくして、わたくしたちは地下水道の忘れられたメンテナンス用の小部屋を見つけ、そこを仮初の拠点としました。錆びたパイプが壁を走り、床には汚水が滲んでいる。かつての作戦司令室とは比べ物にならない、このみすぼらしい隠れ家が、今のわたくしたちのすべてでした。


 ろうそくの灯りだけが揺れる隠れ家で、わたくしは沈黙を破りました。


「カイウス、あなたの見解を聞かせて。なぜ、あのアルフレッド殿下が“最終管理者”なのです」


 カイウスは頭を抱えながら、いくつかの可能性を挙げます。


「一つは、奴自身が自覚のない“(キー)”だという可能性だ。マザー・システムが、万が一の暴走に備えて組み込んだ、人間による物理的な安全装置。本人は何も知らず、ただ王太子として存在しているだけで、システムに影響を与えている…」


「いいえ、それでは説明がつきません」


 わたくしは、静かに反論しました。


「わたくしを断罪した彼の行動は、この世界の“シナリオ”の重要な転換点でした。彼は無自覚な駒などではない。むしろ、シナリオに最も深く関与する、特殊な権限を与えられた**“プレイヤー”**なのではなくて?」


 直接確かめるしかない。わたくしたちの意見は一致しました。しかし、王太子は王城の最奥。近づくことすら不可能です。


 その時、カイウスが何かを思い出したように顔を上げました。


「…一つだけ、チャンスがある。一週間後に開かれる、建国記念パレードだ」


 パレードでは、王太子が民衆の前に姿を現し、祝賀の魔法を披露するのが慣わし。その瞬間だけ、彼は城の絶対的な防御壁の外に出るのです。


「彼を襲撃するのではありません」


 わたくしは、新たな計画の骨子を語り始めました。


「パレードで彼が使う祝賀魔法、その術式に、わたくしたちが事前に“バグ”を仕込みます。ただの魔術師では決して解除できない、システムの根幹に関わるバグを」


 そのバグは、パレードを未曾有の大混乱に陥れるでしょう。そして、その異常事態を解決できるのは、この世界でただ一人――“管理者権限”を持つ者だけ。アルフレッドが自らその力を使わざるを得ない状況に追い込み、その権限の正体を白日の下に晒すのです。


「彼が自らの手で“デバッグ”を行うのか、それとも何もできずに狼狽えるのか…」


 わたくしは、地下水道の天井の向こう、忌々しい王城の方角を見据えながら、冷たく言い放ちました。


「どちらに転んでも、答えは一つ。――さあ、王手(チェックメイト)の時間ですわ、カイウス」

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