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13:観測フィールドの設計

 第12章の直後、作戦司令室。


「釣れた、か…」


 カイウスは、呆れたように、しかし興奮を隠せない様子で呟きました。


「ええ。これよりオペレーション“聖女誘引”は、第二フェーズに移行します」


 わたくしは、すぐさま次の指示を出しました。


「目標は、聖女アリアの“完全な解析”ですわ」


 わたくしは作戦の全貌を語ります。


「アリアを攻撃したり、捕縛したりはしません。そんなことをすれば、システムに即座に検知される。我々がすべきは、この領地全体を一つの巨大な**“観測フィールド”**とし、彼女のあらゆる言動、能力、思考パターンをデータとして収集、分析することです」


「最高にイカれてるが、最高に面白い!」


 カイウスは興奮します。彼は、村の各所に微小な魔力センサーを設置し、アリアが発する魔力システムコマンドのパターンを記録する「ログ収集(データロガー)網」の構築に取り掛かりました。


 次にわたくしはエララを呼び、村人たちを集めさせます。真実は語りません。代わりに、こう告げました。


「王都から、わたくしたちの奇跡の力を確かめるため、聖女様が視察にいらっしゃいます。しかし、中にはこの祝福を妬み、奪おうとする者もいるかもしれません」


 わたくしは、村人たちに「脚本(スクリプト)」を渡します。


 エララをはじめとする数人には、わたくしへの信仰を熱心に語り、アリアを試す「敬虔な信者」役を。


 若い男たちには、アリアの力を疑い、わざと挑発的な質問をする「懐疑論者」役を。


 病気の子供を持つ母親には、アリアに癒やしを求め、彼女の「奇跡」を間近で観測する「依頼者」役を。


 村人たちは、自分たちの「聖女様」であるわたくしを守るためならと、その指示を熱心に聞き入れ、自らの役割を演じることを誓いました。


 数日が経過。カイウスのログ収集網が領地全体を覆い、村人たちは各自の役割を完璧に把握しました。作戦司令室には、村の各所に設置されたセンサーからの情報がリアルタイムで表示される、巨大な監視モニターが設置されています。


 丘の上の見張り役から、魔道具を通じて報告が入りました。


「見えました! 王家の紋章を掲げた、純白の馬車です! 護衛の騎士は、近衛騎士団の中でも最強と謳われる“王室聖騎士隊”!」


 わたくしは、監視モニターに映し出された、村の入り口へと続く一本道を静かに見つめます。やがて、その道に、荘厳な一行の姿が現れました。先頭を行く馬車の扉が、ゆっくりと開かれます。


「ようこそ、わたくしの実験室へ、聖女アリア」


 わたくしは、チェスの盤面を見つめるプレイヤーのように、冷たく、そして静かに呟きました。

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