12:天地創造
作戦司令室。カイウスが辺境領のすべての土地情報をまとめた地図と資料を広げていました。
「準備はできたぜ。土壌の汚染箇所、水源までの距離、日照時間…この領地のあらゆるパラメータだ」
彼は、わたくしに釘を刺します。
「だがな、イザベラ。土地を改良したところで、作物が実るには数ヶ月はかかる。そんな悠長なことをしていては、王都に忘れられて終わりだ」
わたくしは地図を一瞥し、自信に満ちた笑みを浮かべました。
「カイウス。あなた、まだ分かっていらっしゃらないのね。――“時間”すらも、わたくしにとっては書き換え可能なパラメータの一つに過ぎませんのよ」
わたくしはカイウスとエララをはじめとする村人たちを連れ、領地全体が見渡せる丘の上へと向かいました。
静かに目を閉じ、意識を領地全体に拡散させます。
まず、かつて行ったように、領地全体の土壌汚染デバフを一括で削除。次に、地下水脈の経路を書き換え、すべての畑に最適な水分が供給されるよう、水利システムを再構築しました。
《コマンド実行:対象セクターF-7全域の土壌パラメータを最適化》
ここからが本番です。わたくしは、数日前に村人たちが蒔いたばかりの種、その一つ一つの「成長速度」というパラメータにアクセスします。そして、その数値を、あり得ない値へと書き換えました。
《コマンド実行:対象領域内の植物オブジェクトに対し、成長速度3000%加速のバフを付与》
村人たちが息を飲みます。
目の前の畑から、一斉に緑の芽が吹き出し、まるで早送り映像のようにぐんぐんと伸びていく。青々とした葉が茂り、やがて美しい花を咲かせ、次の瞬間にはそれが黄金色の豊かな穂へと変わっていく。
朝に蒔いた種が、夕暮れ前には収穫の時を迎えている。それは、静かで、美しく、そして常軌を逸した神の御業でした。
目の前の光景に、村人たちは言葉を失い、やがて嗚咽を漏らしながらその場にひざまずき、祈りを捧げ始めます。
わたくしが疲労感と共に目を開くと、カイウスが血相を変えて駆け寄ってきました。彼が持つ、システムのログを監視する小さな魔道具が、激しく明滅しています。
「始まったぜ、イザベラ! システムが、この領域全体に最大レベルの観測プローブを放ってきやがった! 見たこともない規模の集中スキャンだ!」
その言葉を証明するように、わたくしの視界の隅に、システムからの通知がポップアップしました。それはエラー警告ではない。王城の中枢から発せられた、最優先事項の指令書でした。
《通達:セクターF-7における特級アノマリー現象に対し、聖女アリアの調査派遣を正式に決定する》
「――釣れましたわね、カイウス」
わたくしは、黄金色に染まった自らの領地を見下ろし、静かに微笑みました。