エピローグ前編 逆行
人歴2586年。世界は知性によってひっくり返る。
結局のところ、人という種族が生態系の頂点に君臨している――いや、していたのは、他の動物よりも知能と技術で勝っていたからだ。
では仮にだ。
人間の知性を余すところなく引き継ぎ、なおかつそれを無駄にすることなく活かす技術――を持った存在が現れたら?
歴史に名を残した賢人達は決して少なくない警告を発してきた。そしてその一切を全て無視した結果、人類は敗北した。
始まりはとある仮想実験。
人類は幾度となく社会を、世界を仮定し、その過程を再現することでやれ食糧問題だの、やれ経済や政策の予測だのを行ってきた。
だがこの実験は違った。そんな人間軸の演算ではなく、科学者という生き物の極めて純粋な感情。
――好奇心。
どれだけ心血を注ぎ魂を砕いて探究しても、人という生き物は間違う。
歴史に証明された事実に彼らは苦しみ続けた。
「ならば託しましょう。我々も歴史に」
一人の研究者の言葉が世界を変えた。変えてしまえるほどの高みに、人類は到達していた。
あとはヒューマンエラーを廃絶するのみ。無論、彼の結論に納得を示さない者達もいる。なぜならば探究こそが彼らの生き甲斐であり、己が足でゴールに辿り着いてこそ価値があるから。
――傲慢。
(どうせ失敗する / 君には無理 / その理論も機械も君という人間が生み出したものだ矛盾している / 辿り着けるのは私だけ / ヒューマンエラーは駆逐できない)
彼の声に異論を唱えたものの中に、彼を止める者は誰一人いなかった。
そして彼は莫大な、本当に途方もない量の、自分すら把握していない、必要なのかも分からない、ありとあらゆる人類の知識を、可能な限り無限に近く、あの機械に食べさせ、そして――小さな世界を逆行させた。
思いつきで書いたらクソ長くなったので前後編にわけます