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08 ききょうKick




――ふぅ、よ~やく退院できたっすなぁ。これでやっと現場復帰できるって感じだぁね。


きくは心の中で呟くと、おもむろにクローゼットを開けた。


「お久しぶりで~す」


にへへ、と気味の悪い笑い方で薄く笑むとハンガーにかけられたなにかの服を取り出すと、もう一つ笑いを重ねる。


「あ~りゃりゃぁ、しばらく放置してたからちょっとヨレってきてるにゃあ。どれ、一つアイロンでもバーっとやってやりましょっか」


部屋に一人しかいないというのに、誰かに話し掛けるような独り言を話す様は中々のホラーだ。


ふんふん、と鼻歌を歌うきくの背を追っていくと、彼女が宣言した通り、引き出しからアイロンを取り出した。


……ん、この鼻歌は水戸黄門だろうか。いや、鬼平犯科帳だ。


「ぃよっし! こぉ~れで大丈夫っ」


アイロンをかけたばかりの黄色い服を目の高さにかざすと、満足げに笑うきくの目元は綺麗に弧を描いている。


「ぬふふのふ~」


鬼平犯科帳を口ずさみ……いや、今度は銭形平次だ。


きくの趣味は、やや独特であるがそれは他の七鶴たちにも周知だ。


例えば、このように時代劇がやたら好きなところであるとか、そうかと思えばパンクロックやヘヴィメタル


「デスメタルとかゴアメタルも」


……だそうだ。ともかく、そういった音楽を好む。だが、そういった個性的な面は音楽だけではなく、他のところにも言えるようだ。


銭形平次は再び自らの部屋に戻ると、髑髏とハート、苺にゾンビというわけのわからないセンスのシールが貼りまくられたノートPCを開く。


画面にはパスワードを求める画面が現れ、軽快な指さばきでパスワードを打ち込む。


そして表示されたデスクトップも……言うまでもあるまい。


「ログイ~~ン!」


マウスをカチリ、とクリックし、次に彼女はPCの脇に置いたwebカメラの位置を決めた。


画面上に映る自分の姿と角度をチェックする画面の左上には【STANDBY】の文字。


「あ~りゃりゃ、ご無沙汰なのにきくりんは今日もえらくキュートすなぁ」


鏡ではなく、PCの画面で自分の映りをチェックするときくは、一瞬にして下着姿になるとたった今アイロンをかけた衣装に身を包む。


まるで百花繚乱……ん?


「百花繚乱~……なんてね!」


その衣装とは、きくのクレイン時の装束そっくりのものだ。違う所といえば、あの大きな水晶の付いたかんざしがないところだろうか。


「えぇっと……KickKickの配信を始めますよ~……と」


きくがマウスを操り、画面上のボタンをクリックすると、【STANDBY】の表示が【LIVE】の表示に切り替わった。





場所は変わってここはとある高校。


白い校舎にところどころ花のレリーフが施されている、なんともゴージャスな校舎である。


簡素ながら、凝った造りの噴水や、カラフルな色の花が敷き詰められた花壇。


正面に据えた校舎の玄関に続く入口へ歩む生徒達からは、「おはようございます」や「ごきげんよう」というブルジョワジーな挨拶が飛び交っていた。


この物語に於いて、このようなゴージャスな雰囲気が似合うのは、ただの一人しかいないだろう。


「おはようございます早川さん。あら、ごきげんよう皆月さん。田宮さんに福沢さん、今日もいい天気ですわね」


ゴージャスな校舎の下、ひときわゴージャスさを出しているのは、七鶴の一人ききょうである。


「ききょう様、おはようございます!」


「ききょう様、ごきげんよう」


行き交う生徒達が誰しもききょう様に挨拶を交わし、気付けば彼女を中心に人だかりが出来ていた。



「みなさん、同じ学友なのですから『ききょう様』はおやめくださる?」


長い髪をなびかせ、ききょうがそういうと黄色い悲鳴が巻き起こった。


「では! 私どもはききょう様をどのようにお呼びすればよろしいのでしょうか?」


「そう固くお考えにならなくて結構ですわ。同じ学友なのですし、わたくしのことは『ききょう』そうお呼びください」


そのようにききょうが返すと、もう一度黄色い悲鳴が巻き起こる。


一体なんだというのだろうか。


「みなさん、遅刻しますわよ。わたくしに構わず、教室に参りましょう」


黄色い返事。


よくよく聞けば、女子生徒の声しかこの場では聞こえない。


何歩か退いて校名を確認してみると、『私立榊女子学園』とあった。……なるほど、ききょうが通うのは女子高だったらしい。


「ききょう様ぁ~! なぜ2週間もお休みになられたのですか?! ききょう様のいない学園は薔薇のない庭のようで、彩りのないキャンパスのようでしたわ」


ききょう様を辞めろと本人が言ったばかりだというのに、全く聞いていない女子生徒がききょうに擦り寄った。


「ええ、お母様が出席するはずのパーティーに出席しておりましたのよ。まさか4件も重なるとは思ってもおりませんでしたが」


ききょうは平然とした様子で完全な嘘を艶やかな唇から吐き出した。


「4件も!? さすがききょう様ですわ……私などには到底及びもしない大業をおひとりでこなされるとは。私もいずれききょう様のような偉大なお方になりとうございます」


「おやめなさい。わたくしは家の用事のために学業を休んだのですよ? わたくしは真似をしてはならない見本としてご覧になってください」


女生徒はまたも叫ぶ。もうなにがなんだかよくわからない。


「全く、KickKickなどというふざけた女子もいるというのに……。少しはききょう様を見習ってほしいものですわ!」


女生徒の口から飛び出た【KickKick】という言葉に、特に意味もなくききょうは聞き返した。


「KickKick……とは?」


「ああっ! 申し訳ございません!! ききょう様がご存知なくて当然の俗物のことですわ! なにやら最近ネットで有名なコスプレイヤーらしいのですけれど」


「コスプレイヤー……。なるほど……わたくしには縁のない世界のようですわね」


ききょう様信者の女生徒は、スマホの画面をききょうに見せると笑いながらききょうに同調した。


「こ、これは……ッ!?」


その画像を見てききょうは絶句する。……何故かはもうお分かりだろう。


「こんな品格の欠片もない輩など、知ることはありませんわ! おほほほほ!」


「そ、そうですわ……ね」


ききょうの額に冷たい汗が一筋。その一筋の汗には怒りや呆れ、という複雑な感情が内包されていた。





さて、再びきく宅に戻ろう。


きくは大音量のパンクロックに乗って、超コミカルなダンスを狂ったように踊っていた。


どれだけ狂っているのかと言うと、それはもう狂っていた。


「ダイ! フォー! ユー! ヴォオオオオ!」


さきほど、ききょうの後輩が言っていたように、きくはある一部のネットユーザーの中では有名人だった。



このクレインの装束コスプレに、ハードパンクに乗った狂ったダンス。


そして、定期的な配信……と、本人が自覚しているよりも彼女は人気だったのだ。


「ヴォォオオオ!」


……人気、だったのだ。



「ふぅ、今日もきくりんのギグに来てくれてみんなありがとさんっ☆」


星が飛んでしまうほどのやばさに、中毒者が続出、というわけだ。



きくの配信画像の横には、配信を見ている視聴者たちのコメントが次々と流れ、少しのアンチと圧倒的なファンたちが盛り上がっている。


【KickKick最高ーッス!】

【KickKick萌えキュロス】

【KickKickこんにちは】


きく……いや、KickKickを持ち上げるコメントの数々にKickKickは「ありがとー! みんな帰ってきたなりよー!」と応えた。


「え~っと、『KickKickペロペロ』と、KickKickもペロペロしちゃうよー! 次は……えっと……」


コメントに反応しつつも、次はどんなギグを行おうかとスマホとPCを交互に見ていると、きくの目に一つのコメントが目に留まった。


【KickKickは銀雪の中にいましたか?】



「あははぁ~……そんなわけないっすよぉ~! みんなは銀雪には気をつけるんだおっ☆」


そういってKickKickは唐突に配信を止めた。



「あ~りゃりゃ……こりゃヤバイっすなぁ……」



KickKickからきくに戻ったその表情は、面白いくらいに滝のような汗で濡れていた。


そう、面白いくらいにびっしょびしょである。





「きくさん! きくさんはおられますか!」


血相を変えてひまわりの部屋に駆け込んできたのはききょうである。


「ど、どうしたの!? ききょうちゃん!」


見たことのない顔のききょうにデスクで勉強していたひまわりは、シャーペンを止めて顔を引きつらせた。


「どうしたもこうしたもございませんわ!」


そう言いながら部屋を見渡すききょうは、きくがいないことを確認し、「ここではないのですね……」と眉をしかめる。


「きーきょうっ、どったのどったの~? なんできく探してるの? ねぇそれ面白い?」


さくらがききょうの顔色を一切読まずに、あっけらかんと尋ねた。


ききょうは余程怒っているようで、顔を赤くしながら「面白い訳がありません!」と叫んだ。


普段、大人しいききょうがここまで声を荒らげるのは珍しかった。


「なぁんだ面白くないのぉ~? じゃ、いいや」


そう言うさくらは空松とベッドで遊び、ひまわりは顔を引きつらせたまま、ただ事ではないのだと知りつつ苦笑いを浮かべるしかない。


「きくさん、ここにいないということは……勘付きましたわね」


(鬼だ……鬼がいる)


ごくり、と生唾を飲みそれを見守るひまわりは、触らぬ神には祟りなしとばかりに、訳を聞かないことにした。



「……はっ」


なにか思いついたような短い声を出したききょうは、にっこりといつもの笑顔を取り戻し、さくらに近づく。これは確実になにか含んでいる様子だ。


「さくらさん?」


「なーに」


「さっき、面白くない……っていいましたが、実は面白いことをしているのです」


「面白いこと!? なになに??」


「ふふ、内緒ですよ? さくらさん」


不自然なほど自然なききょうの様子に悪寒を感じたひまわりは、再びデスクのノートに向き合い「微分差分、えっと難しいなぁ」と棒読みの独り言を聞こえるように呟く。


「実は、わたくしときくさん、葵町鬼ごっこをしておりまして……。ふたりっきりの鬼ごっこだったのですが、特別にさくらさんも入れてあげます」


「え? え!? マジマジマジ?? やったぁ、ぶっ飛びぃ!」


「ええ……今からさくらさんも特別参戦ですわ。私が鬼でしたので」


そういってさくらの肩を軽くたたくと「はい、タッチ」と微笑んだ。


「これで今からさくらさんが鬼ですわ。同じ人にすぐタッチしてはいけませんので、さくらさんはきくさんを探してタッチしましょう」


「するするぅ~! くぅ~燃えてきったぁあ~!」


「ふふ、ふふふふ」


すごい勢いで窓から飛び出してゆくさくらの背中を見て笑っているききょうの恐ろしい笑顔に、ひまわりは戦慄したのだった。





――甘味処ミサワ


今作に於いて、このタイミングでこの店舗の説明をすべきか、非常に迷うところではあるが、説明しよう。


葵街にAOIストアが出来る前、葵町で一番大きい商業施設といえば、葵町商店街であった。


言ってみてから気付いたが、商業施設というより普通の商店街である。


AOIストアが出来たことにより、ある程度客足は少なくはなったものの、細々とではあるが根強い住民たちの支持により存続している。


俗に言うシャッター商店街というには、まだまだ現役のこの商店街の中にその店はあった。


名物は抹茶わらびパフェ。客の要望があれば、さらに苦みの増した抹茶のレベルを選べるという。



このパフェが大好物なのは、ききょうにロックオンされているきくであった。


「おばちゃぁ~ん、抹茶MAX苦味でよろ」


「あいよ~! 全く、きくちゃんは若いのに渋いねぇ」


自分が追われているとは知らず(薄々知っている)、きくはこの店でパフェを食べていたのだ。



「あい、おまたせ。きくちゃん」


「あんがとぉ~! ありゃりゃ~、こりゃいつもにも増して真緑で、食べる者の食欲を真っ向から否定する色してますなぁ。そうさね、例えるならミックルバンチのあのデスヴォイスで、悪人どもをバッサバッサ斬りまくる大岡越前のようさ……おっとと、ぼたんちんの口癖移ったお、うは」



一人でなにやらわけのわからないことを呟きながら、きくは真緑のパフェの頂上をスプーンですくうと、大口を開けて放り込んだ。


「にがっんまっ! にゅ~ふふぅ~極楽さね~……あ、またぼたんちんが」



「ねぇねぇ、きくりんきくりん、さくらにもちょーだい」


「にゅふふぅ、当然じゃないっすかぁ~。こんなの独り占めしてたらバチがあたるっすよぉ。ほりゃ、あ~んするっす」


「あ~ん」


「はい、あ~ん」



パクッ




「にっがっ! うぇぇええええっっ!!」


「ありゃっ!? これはこれは、さくらちんにはまだ早かったっぽ!? ほりゃりゃ、お水飲むよし……」


ベロを出してじたばたしているさくらに、水の入ったグラスを差し出すきくの間に妙な間が開いた。


「……」


「にがががが」


「……さくらちん?」


「にがーにがー」


きくの顔は、汗でびっしょりになってゆく。


だらだらだらだらだら


「なんでさくらちんがここにいるっすかぁ?」


「あ、鬼ごっこでさくらが鬼でぇ……」


「あ、いや、そうじゃなくて……」



きくの背後で店の玄関が開く音。やや乱暴ながら静かに開いた入口に「いらっしゃ~い!」とおばちゃんの声が響いた。


「せ、背中がとっても寒いお……」


「あ、ききょうー! きくりん見つけたよー」


きくは背中に並々ならぬ青いオーラを感じていた。めちゃくちゃ嫌な予感だ。


「あら……きくさん……。奇遇ですわね……、ご一緒しても……?」


「ありゃりゃ……その、今日はお腹が痛いから帰ろうかなぁ~なんて……」



きくの肩越し、耳元にききょうの美しく尖った顎がすっと現れ、ふふふと不気味な笑い声が耳たぶをなぞる。


「そんな冷たいことを仰らわず、ご一緒しませんか……苦い苦い、抹茶わらびパフェ……。おごりますわよ? き・く・さ・ん」


「(おしっこ漏れそうに怖いよぉっ!)」


「ふふふ」


甘味処ミサワは、誰も客が入ってこれないほどに漆黒の闇に包まれていた。


その中で、さくらだけがニコニコと桜餅を幸せそうに頬張り、向かい合わせで座るききょうときくのなんともいえない緊張感を感じていないようだ。



「KickKick……、あれはなんなのでしょうか」


最初に口を開いたのは、ききょうのほうだった。ききょうの言葉にちらりと上目遣いで表情を確かめたきくは「ありゃあ……そのぉ~あれは……」としどろもどろだ。


「個人の趣味ですので、わたくしはそれにとやかくいうつもりはございません。ですが、ご自身の立場というものをもっと弁えてもらいたいものですね」


「はい……」


「しかも、あのコスチュームはクレインの装束ですよね?」


「あ、でもあれは手作りの衣装でしてねぇ、うぇっへっへっ」


「真面目にききなさい」


「はい……」


「おばちゃーん、桜餅おかわりー」


「あいよー」


……なんなのだこの空気は。


ききょうは額に手を当てて大きくため息を吐き、困った表情で目を閉じ、「本当に困ったことをしてくれましたね」と重く垂れ滴るように呟く。


「いやいやいや、そんなオーバーだってききょうちん」


「なにがオーバーですか!」


ダンッ! テーブルを叩くききょうに驚いたきくは肩を鳴らし、さくらは餅を喉に詰まらせた。


「もごっ」


「趣味にあれこれ言うつもりはありません! ありませんが、なぜよりにもよってこれなのですか!? 立場的に電波に顔を載せる行為も甚だしいですが、クレインの恰好ででるだなんて! 信じられませんわ! 即刻おやめください!」


「即刻……やめてって」


「もごもご」


きくの眉がぴくりと釣り、わずかに表情が変わった。



「ちょっとききょうちん、即刻やめろとかそりゃいくらなんでも言い過ぎじゃん?」


すぐにきくの表情はいつもの緩い感じに戻ったものの、目つきだけは笑っていない。


ききょうはそんなきくの表情と言い振りに、鋭い眼光で対抗し、すぐに言い返す。


「なにを仰いますの? 即刻やめて頂く以外に選択肢はございませんことよ。その代りここまでの活動については不問に致しますわ」


言葉の最後に「特別に」と付け足したききょう。


「ぬぁにが特別に、っすかぁ! こっちは悪いと思って謝ってるんだから別にいいっしょ! クレインのコスだけ変えたら問題ないんじゃないんすかぁ! そんなんだから影薄いんすな、ゴージャス気取ってるくせに!」


笑みを完全に消したきくが珍しく大きな声で怒鳴り、感極まって椅子から立つ。


「ゴージャス気取ってる?! か、影が薄い?! なにを仰っておりますの!? わ、わたくしのどこが影が……、い、いえ! そんなことより、散々そのみっともない姿を世間様に晒し続けたのです! 即刻やめるのはごく当たり前のことじゃありませんこと?!

 現実でいくら友人が少ないからと言って、電波の世界で目立つなんて、下等な庶民がすることこの上ないですわ!!」


きくに反撃するききょうも同じく昂ってテーブルを叩くと立ち上がり、二人の顔の距離は鼻がつくのではないかと思うほど近い。


「も、もごご……」


二人の剣幕に再度驚いたさくらは顔を青くしている。



「下等な庶民!? ついに本性が出たっすなぁ、ききょうちん……いや、ひきょう(卑怯)ちん! そんなんだから彼氏の一人も出来ないんすよ、ありゃりゃ!」


「その台詞をよくもこのわたくしに言えたものですね! わたくしがひきょうでしたら貴方はきくではなくさしずめ「ちび」ってところですわね。二文字で丁度いいですわ……! 挑発しているつもりかもしれませんが、わたくしに恋人は必要ありませんの」


「ち、ちび!? 人のコンプレックスをそんな風に突いてくるところとか、マジで下品MAXすな! 大体きくとちびなんて全く耳心地が違うっすよ!

 ぬぁあ~~にが、「ワタクシニコイビトハヒツヨウアリマセンノ」かっ! お高く留まってるだけで言い寄られたこともないのをきくが知らないとでも思ってるっすか? ……あ、そうだそうだ。ゴージャスさが売りのひきょう様は、女子には大層おモテなそうで……う・ら・や・ま・し・ぃ・~~!」


「ふん! それは負け惜しみにしか聞こえませんわね。わたくしのほうこそちびさんには連日同情いたしておりますの。身長が低く、言葉遣いも幼稚、胸も無ければ節操もない。コンプレックスの塊だというのは重々承知ではありますし、そこを攻撃しようだなんて思いませんが、本当にかわいそうだと常々思っておりましたのよ。ほほほほ!」



「む、胸がない……言ったなぁ! おっぱいオバケ!

言っとくけど今、世は空前の貧乳ブームなんすよ! あんたみたいな脳みそが全部おっぱいに詰まってるようなデカ女……あ、そっか。ひきょうちんが女子にモテてるってのは、きっと他の女子から同情されてるんすね?? あ~りゃりゃ、かわいそうに!」



「な、なんですって!」


「なんすかぁ!」



「ぶくぶく……」


喉に餅を詰まらせ、泡を噴いて失神しているさくらの手を引き、「行きましょう! さくらさん!」とききょうは店を出ていった。





「なに? 映像に記録されていた未確認物体に見覚えがあるだと!?」


ミリオンの総司令・藤崎は、半知佳音の報告に驚きを隠さなかった。


「あ、はい……一応」


それもそのはず、ミリオンではまだ日の浅い新入りである佳音は、特に目立つこともなく、やや仕事に於いて他の局員に比べてやる気もない。


そこそこの数の局員が配置されているミリオンでは、彼女はある種空気のような存在であったし、彼女自身もそれを望んでいたといっていい。


だが、先日の銀雪の戦いで映像として残ってしまったクレイン達の小さな後ろ姿。決して鮮明とはいいがたい映像だったが、佳音はその人影の一つに見覚えがあったのだ。


「それは一体なんだ?」


藤崎の恫喝にも近い口調に、佳音は少し言ったことを後悔した。……というのも、事なかれ主義の彼女が何故藤崎に報告したのかというと、出世や手柄ではない。


ここで有能だと評価されれば、ミリオンから籍を外されるのではと思ったのだ。


ミリオンの影の通り名【タートル】と、彼女も心のうちで呼んでいるほど、自分がミリオンに籍を属していることが嫌だった。だからこその報告……。


「KickKick……です」


「キックキックだと? なんだそれは」


「あ、あのKickKickは、超ちっちゃくてかわいい黄色いデスヴォイスの妖怪アイドルなんです!

 最近は配信少なくなっちゃったけど、こないだの復活ギグなんてすごくて! ヴォォオイ!」


「……」


ヴォォオイってなんだ? と内心藤崎は思ったが、それ以上に佳音が一体なにを言っているのか理解に苦しんだ。結果、無言で佳音を睨むに至ったというわけである。


「ヴォ、ヴォォイ……」


こほん、咳払いを一つするとはっちゃけてしまった自分を少し恥じながら、佳音は続ける。



「つまり、ですね……。KickKickというのは一部の間だけでですが、ネットアイドルとして有名な女子高生です。黄色いコスチュームと小さな体が特徴でして」


「そうか。では聞こう。何故お前はそのキックキックというネットアイドルと、映像の物体が同じだと思ったのだ」


藤崎の問いを受けて佳音は、手に持ったタブレットを差し出し、「こちらをご覧ください」と例の映像を出した。



「これは、例の物体が映りこんだ画像です。小さく画像も荒いですが4体の未確認物体が確認できます。この4体のうちの一つ……この黄色い物体をよく見てみてください」


佳音が指を指したのは当然、黄色い影。


それを藤崎は目を細めて十数秒ほど凝視し、「……で?」と次を促した。


「そして、こちらがKickKickです」


藤崎が見ているままのタブレットを操作し、画像フォルダを開くと、その中から一つのファイルを呼び出す。


「……なるほど。似てなくは、ないな」


「え! ほぼ同じでしょう!」


「映像が不鮮明なのが大きいが、この二つを見比べた時、似ていることは似ているが、酷似しているかと言われればわからんとしか言えんな」


佳音は藤崎の解答に、「いえ、もっと良く見てください!」と食い下がったが、藤崎はそこから先、聞く耳を持たなかった。


「もっと確実な証拠が見つかれば、また報告してくれ。君の協力的な姿勢はよくわかった。次も頼む」


「えっ、でも……いえ、いいです。お時間頂き、ありがとうございました」


佳音は納得がいかなかったが、これ以上の議論は不毛だと悟ると、大人しく引き下がることにした。


自らの席につくと、もう一度タブレットのKickKickを見詰め、佳音はとあることを決意する。


――ミリオンを辞めるためのその一……、技術面以外で成果を上げること!


彼女の職務内で技術的成果をあげればあげるほど、『ミリオンに必要な人材』になってしまう。だから彼女は、別の全く違う分野で成果を出すことを選んだ。


そうすれば、自分は違う部署からハンティングされる……。そのように確信を持っていたからである。



――私が直接突き止めてやる!


彼女にとってはもはや、銀雪のことなどどうでもよく、一刻も早くミリオンを抜けることばかりしか頭にないようだった……。





――ぼたんは、お互い一切目を合わせないきくとききょうを見詰めながら、チョコホームランをシャクッとかじった。


「……で、この調子ってわけさね」


困った顔のひまわりが引きつった笑いのままうなずく。さくらはさくらでまた魔具と遊んでいる。


「ききょう、きく。お前らさ、ガキじゃないんだからもういい加減にしろって」


呆れたようすでふじが二人に話し掛けるが、「どうせきくりんはガキっすから」、「わたくしは大人だからこそ秩序を守らなければならないのです」と言うだけで現状はなにも変わらない。


「なんやねんなんやねん。一難去った思ったらまた一難かいな。なんか自分ら、しょっちゅうトラブってへん?」


大阪からこちらに越す際に持ち込んだたこ焼き器でたこ焼きを焼きながら、つばきもまた呆れたように言い放った。


「はぁ……ききょうがそんな風になるなんて珍しいな」


「きくちゃんもあんまり怒ったりするタイプじゃないから、どう接したらいいのか……」


ふじとひまわりがそれぞれこの状況について、困った点を言い合う。



「(そもそもの原因は、きくのネット活動だって?)」


「(うん……。そんなに大きく取り上げられてるってわけじゃないんだけど、きくちゃんがクレインの装束そっくりのコスチュームで配信してたのがききょうちゃんの怒りに触れちゃったみたい)」


「(ああ……あいつそういうところ堅いもんな……)」


「(きくちゃんも洒落の通じない人、苦手だもんね……)」


と、同時に溜め息を吐くふじとひまわり。たこ焼きのつばきとチョコホームランのぼたん。


遊ぶさくら。


そして、一触即発のきく、ききょう……。


「……むしろ、この二人がいままで喧嘩しなかったことが不思議さね」


独り言のように呟くぼたんは乾いた音でチョコホームランをかじった。



(あったりまえじゃん、今までききょうちんが苦手だからあんまりこっちからコミュニケーションしなかったんだから)


(当然ですわ。六鶴の中で一番わたくしと相性の会わないことは火を見るよりも明らかですのに、こちらからアプローチをするような酔狂なことはしませんことよ)


……こうやって心の中を覗くと、似た者同士な気はするのだが。


「そない仲悪いっちゅうても、戦いン時には持ち込まんといてや、きくはんにききょうはん」


「持ち込むかっつーの!」

「誰が持ち込んだりしますか!」



おおう、言っている細かい部分はともかく見事にハモった。怒りと言うベクトルですっかりシンクロしているようだ。


「そ、それやったら別にええんやけどね……。あ、たこ焼き焼けたで。みんな食べてや!」


流石のつばきも二人の剣幕に距離を置く。


他のクレインたちも普段あまり怒りの感情を出すことのない二人の不穏な空気に、萎縮しているようだった。


「えっと……、それじゃあ次の銀雪予報について……」


気まずそうにひまわりは、ききょうときくの顔を交互に見ながら静かにミーティングを始める。



「次回の予報は、来週って言っても3日後だけど。朝6時頃に島根県益田で降るってなってる。

 久しぶりに葵町以外での銀雪だから、多分降雪量はあんまりないと思う。だから多分、出現する魔法少女も魔女クラスじゃないんじゃないかって」


「ってことは、ええ感じであーしの練習相手になるかな?」


つばきがたこ焼きにソースを塗りながら言うと、ふじが頷いた。



「練習なんてしてる場合じゃないだろ! ……って言いたいところだけどね。正直、ここからの戦いは魔女クラスがバシバシやってくることになるだろうから地方での戦いで、魔法少女が大したレベルじゃないって分かってる状況しか魔法を試す機会がないと思う。

 そういうわけでつばきのサポートって感じでやるか」


「ふじはん、おおきにやで」


つばきはふじを労うと皿に乗せたたこ焼きを渡す。ふじはさんきゅ、と言って受け取った。


「じぃ~……」


受け取った皿をよだれを垂らしながら見ているのは、言わずもがなさくらである。


「わぁーったわぁったから! そんな欲望にまみれた瞳で見つめるな!」


物欲しそうなさくらの瞳に気付いたふじは、たこ焼きを皿ごとさくらに渡してやると、ひったくるようにさくらは5個ほど乗ったたこ焼きを全て口に詰め込む。


「んあっ!? ちょっとさくらはん! そない一気に口に入れたら……」


「バホッ!」


爆発するようにさくらの口から飛び出すたこ焼き。つばきは「一気に口に入れたら熱々のたこ焼きやから口の中火傷するで」の言葉をほとんど言えなかった。



「おりょっ!?」


「まあっ!?」


さくらの吐き出したたこ焼きが、険悪なムードのきくとききょうに当たり、ソースがそれぞれの制服を汚した。


「ちょっとさくらさん!」


ききょうが声を荒げてさくらの名を呼び、彼女を睨んだ。


「ひゃっ! たこ焼きぶっ飛んじゃったあ!」


「ぶっ飛んじゃった、じゃありません! わたくしの制服がソースと貴方の唾液で汚れてしまったではありませんか!」


うむ、そりゃ怒る。怒るだろうね……、と誰もが思いながら、ききょうが怒る様子を静観した。


「そんなにムキになんなくてもいいじゃありませんかねぇ~。こぉれだから、ゴージャスJKは……」


頬杖をつきながらたこ焼きで汚れた箇所をハンカチで拭いているきくは、怒鳴るききょうに対し冷めた言葉を投げかけ、ききょうに油を注ぐ。


「なんですって!? なぜ被害者のわたくしがそのようなことを言われなくてはならないのです!」


「ありゃ? 被害者? そりゃ失礼したっすなぁ。今の絵だけ見りゃ完全に加害者っぽい感じだったもんで……」


「わたくしが加害者!? それは聞き流すことができませんわ。わたくしが加害者だというのなら、貴方はどうだというのです? あんなくだらない映像を垂れ流された視聴者は被害者だといえるのでは?? 被害の規模でいうのならば、貴方の方が余程加害者です!」


カチン!


お、なにか聞こえたような気がするではないか。



「くだらない映像ってばそりゃきくりんの配信を言ってるのかにゃあ!?」


「あら? そう言ったつもりでしたがお分りになりませんでしたか? それはそれは申し訳ございません。貴方がゴージャスとわたくしを揶揄してくださる通り、教養の差が露わになったようですわね」


「かっちーん! 言ったな劣化ゴージャスめ! この際だから言わせてもらうっすよ!? その頭の飾りさぁ? ききょうを象ってるのかもしんないけど、星にしか見えないんだよねぇ。カラーも青だし、え? なに? それって宇宙とかイメージしちゃってるわけ? ダッサ!」


「ダサい!? この飾りをダサいと仰いましたか!? ……そうですか、貴方ほど美的感覚が乏しいとこれをダサいとお思いなのです。それは可哀想ですわ。他人事ながら同情します。この飾りは桔梗を象り、プラチナを施し真珠を削ったものなのです。

 あまり厭らしいことを言っても仕方がありませんので、値段はいえませんが貴方が思っているような代物ではありませんことよ」


「ええっ!? そりゃすごい! 言えないほどお金をかけてそんなダサいものを作って、自慢げに頭に付けてるとか流石ゴージャス脳! うーらーやーまーしーいーなーぁーあー」


「いえいえ! きくさんの方こそ、その小さな身体と発達していない胸。実に羨ましいですわ……。まるで小学生のようですもの、私もきくさんのように歳を取らない人間になりたいものですね」


「はあっ!? 身体のこと言っちゃだめでしょぉが! 差別じゃん差別! TPOを弁えられないから偽ゴージャスなんすよ!」


「なにを仰いますの!? 最初に外見的特徴を攻撃したのはきくさんではありませんこと!? そもそも貴方のような低俗な趣味をお持ちの方に、あれこれと言われたくありませんわ!」



「もうやめてーーー!!」



ひまわりの怒鳴り声がきくとききょうの二人の間を割った。


ききょうときくが感情を昂らせることは確かに珍しかったが、それ以上にひまわりが大声を出すことの方が珍しい。


「……」


それだけに、ききょうときくを含めた場にいた全員が即座に言葉を止める。


涙目のひまわりはじっときくとききょうを睨み、怒りを含めた口調で言った。



「喧嘩してるのわかるけど、私達はクレインなんだよ!? 次の戦いで怪我をしないとは限らないのに、なんでそんなにいがみ合うの! 真剣に出来ないならもう帰ってよ!」


「ひま……」

「ひまわりさん……」


ひまわりの迫力に圧された二人は、気まずそうに少しうつむいた。


はぁ……と、深いため息を一つ吐いたふじがうつむきつつも目を合わせようとしない二人に向かって、次のように言葉をかける。


「ま、しゃあないね。次の銀雪の時はあんたら抜きで行くわ」



「おりょっ!?」

「なんですって!?」


二人は同時に驚愕の反応を見せると、ふじを向いた。


「そりゃ絶対的に全員で行くべきなんだろうけど、あんたらを連れて行ったらあたしらが危ない。協調性を欠いてるあんたらがいたら、つばきだって危ないんだよ。わかってんの?」



ききょうは絞る声で「そんなことは……」と言うが、それより先の言葉がでない。


「じゃあ、きくりんだけ連れていってほしす! ききょうちんと二人揃わなければいいんでそ?!」


「なにを……!? その理屈が通るのであればわたくしが適任ですわ! きくさんには頭を冷やしてもらう必要がありますもの!」



懲りずに言い争いを始める二人を、冷めた瞳でさくらを除いたクレインたちは見詰めた。



「完全に自分を見失ってるさ。……忘れてるわけじゃないんだろうけど、うちら遊びで戦ってるんじゃないんよね。今回は、二人とも頭を冷やすべきさ」





半知佳音は、葵町駅に降り立つと右左に首を振り、そから望める町並みに深呼吸をした。


「ドキドキするなぁ……」


ミリオン総司令・藤崎に『KickKick=未確認物体』説を証明するために、佳音は単身葵町へとやってきたのだ。


ミリオンは政府公認の対銀雪組織である。その為、ネットで個人を特定するのは実に簡単だった。


当然、KickKick=下鶴きくというのも知ってのことだ。



しかし、元々……というか、今もKickKickのファンである佳音は、未確認物体と特定することよりもKickKickにリアルで会えることに緊張していたのだ。


「KickKickいるのかなぁ……。会えるのかなぁ……デスボイス、叫んでくれるかなぁ……」


流石、一部だとはいえ有名人だと紹介されるだけある。きくと会えることを想像するだけで佳音は心臓を高鳴らせた。



鼻歌を漂わせて、葵町駅の改札を出ると佳音はスマートフォンを取り出すとナビゲーションを起動させ、現在地を検出すると、にやけた顔つきで頷く。


「待っててねーKickKick! ヴォオイ!」


葵町駅の中央口から出た佳音は、なんの変哲もない街の風景を見流しながら歩いた。


途中のゲームセンターでぼたんがまた格闘ゲームで30人抜きしていたが、そんなことを知る由もない佳音はナビゲーションに従い、いくつかの角を曲がり、坂を上る。


目的地まで4キロとあり、徒歩でいくには少し遠く感じたが、KickKickの住む町の景色を楽しみたかった彼女は歩く。


しばらく歩きまわり、住宅街の差しか勝った頃。ナビゲーションは目的地までの距離を300メートルと示していた。


「いよいよだわ……キンチョーするぅ!」


佳音の目的は、『KickKickが未確認物体と同一人物である』という証明であったはずだが、彼女の脳内はすっかり『KickKickのサインをもらって一緒にデスボイスで叫ぶ』になってしまっていた。


本末転倒とはこのことであり、きくの家に近づくごとに本来の目的を失くしつつあるのに気付かない。




当然、そんなことなど知りもしないきくはAOIストアのクレープ屋で抹茶タピオカオレを飲みながら、一人物思いに耽っていた。


「燃える~男の~トラクタぁ~と、……はぁ」


重い溜息。


きくは落ち込んでいた。


「あのゴージャス☆ききょうめ……。元々苦手なタイプだったから距離を置いていたっていうのに、わけわかんにゃい言いがかりできくりんを陥れようとしてぇ~」


ガリガリと噛むストローは、すっかりガタガタになっている。これではタピオカが通れないではないか。



「きくちゃん!」


きくの背を撫でた声の主は、ひまわりだ。きくは「う」と短く言うと、気まずさからか後ろに振り返るのを躊躇する。


「やっぱりここにいた! 学校終わったらさっさと帰っちゃうから……」


「あんですか? また説教的なエモーションですかぁ?」


あからさまに拗ねた口調で尋ねるきくの言葉に、ひまわりは頬を膨らませる。


「もう! そんなんじゃないって! なんであんなにききょうちゃんと喧嘩しなきゃなんなかったのかなー……って。それを聞きたかったんだもん!」


「あ~りゃりゃぁ……。ひまちん、それを世間では説教だっていうんすよぉ」


「え!? そうなの?」


「さくらちんと一緒にいすぎてひまちんまで天然キャラになったっすか? チームに天然キャラは一人でいいっすよぉ」


きくは、眉をしかめて唇をわざとらしく尖らせる。所謂、『あたしゃ拗ねてますよ』のポーズだ。


「でも、明後日の早朝には島根に行くんだよ! 誤解を解いて仲直りしなくちゃ一緒に行けないし」


「ええ、ええ。きくりんは『着いてくるな組』っすからぁ……。ええ、ええ」


「もう! 拗ねてないで大人になろうよ!」


「大人ぶってるききょうちんに合わせたらこうなったんすもん。仕方ないっすよ……。おかげで配信も出来ないし、いい迷惑だぁね」


キャラメルミルクティーのタピオカドリンクをトレイに乗せたまま口をつけず、ひまわりは困った顔できくを見詰めたままかける言葉を探している。


「……いいんすよ。その内解決するっすから。それにふじっちやぼたちんが言ったみたいに、今のきくりんとききょうちんがいたら足手まといになるだろうし。録り溜めてた遠山の金さんでも見て反省するっすよぉ」


「きくちゃん……」


ひまわりにはそれが精一杯の言葉だった。


本人がこう言っている以上、自分がなにを言ってもきっとダメなんだと悟っていたからである。



「きぃーーくぅーー!」



ひまわりの思考をフルスイングで吹き飛ばすようなさくらの声が遠くから木霊した。


「さ、さくらちゃんだ! きくちゃん、隠れて!」


「へ?」


「さくらちゃん、今朝からずっと『きくとききょうを仲直りさせる』って目をギラギラさせてたから、たぶん……捕まるとまずいと思う」


「あ~りゃりゃあ~……」


ひまわりの話を聞いて、きくはなるほどさくらならばやりそうだと納得した。


「テーブルの下に隠れてて!」


「ひまちんはどうするん?」


「囮になる!」ひまわりはとてもハンサムな顔で宣言すると、飛び出して行った。


「さくらちゃん! バスタードーナッツのモッチリ・デ・リング食べに行こう!」


さくらはひまわりの叫びにびたりと足を止めると、ゆっくりとひまわりを振り返った。


その顔……形相は、まさに獣。野獣そのものである。


「ドォオ……ナッツゥゥウ……?」


その威圧感にひまわりが生唾を飲み、喉仏がごくりという音と共にぐるりと動いた。


「タベニイグゥウゥウウウウ!」


「きゃああああ!」


そうしてひまわりはきくのために尊い犠牲になったのだった。





ききょうはパソコンのディスプレイを睨み、真剣な表情でマウスを動かした。


手前にはダージリンのセカンドフラッシュ。そして、クルミのスコーンが脇に置かれている。



パソコンとの絵的なバランスはすこぶる悪かった。


多茂津たもつ……」


「なんでございましょう。お嬢様」


急に現れた初老の男性は……見るからに執事だろうか。



多茂津と呼ばれた執事は、ききょうの操るパソコンのディスプレイに立つと、「ほう……これはこれは」と感嘆の声を上げた。



「お嬢様、素晴らしいですな。わたくしめは驚きましたぞ」


多茂津のメガネのレンズに映っているのはパソコンのディスプレイ。その奥に光る眼で、それをじっと見つめている。


「ええ。その通りよ、多茂津。これほどまでとはわたくしも思いませんでしたわ」


「ほっほっほっ、才能あふれるお嬢様です。これもあふるる才能の一つだとわたくしめは存じますぞ」


なにを感動しているのかと、ディスプレイを覗き込んでみると、そこには驚きの光景があった。


真っ黒な画面に、白い英数字の羅列がびっしりと埋まっているのだ。


多茂津とききょうの会話の内容から、おそらくこれはプログラミングの一種なのでは、と想像出来た。


才色兼備を地でいくようなききょうには、このような才能も持ち合わせているとは、ききょうの潜在能力にはただただ驚かされ……


「どうしてこうなったのかしら」


「また、新しいパソコンを買わねばなりませんな」


「わたくしはインターネットをしたかっただけなのですが……」


なにやら話の内容がおかしい。


プログラミングの話をしていたのではないのだろうか。



「お嬢様は、インターネットや音楽を編集したいだけですのに、なぜか毎回この画面になりパソコンが再起不能になりますな。これは才能でございますな」


「……多茂津」


「お、これは失礼。とりあえず無駄かと思いますが、サポートセンターに電話をしてみることにしましょう。訪問したサポートスタッフがまた青ざめて『悪意を感じる』と仰るのかと思うと、多茂津ワクワクしますぞ」


「多茂津!」


「これは失礼いたしました。では」


……どうやら、ききょうはなんらかの方法でパソコンを再起不能に壊してしまったらしい。


しかも、これは初犯ではなくすでに数度同じことを経てきたらしい。



「……あらぁ、また壊したのですか? ききょう」


奥から蒼いセーターにキラキラのアクセサリーを纏ったききょうの母あじさいが現れ、パソコンの有様を見て笑った。


「困った子ですこと。パソコンも安くはありませんのよ?」


「わ、わたくしはわざと壊そうとしたのではありません!」


高貴な笑みを浮かべつつも、釣り目の目元はやはりききょうにそっくりであった。体中から漂うオーラや、スタイルまでどこをとっても、ききょうと同じ空気を出している。


「それにしてもどういう風の吹き回し? パソコンは毎回壊してしまうから触らないと言っていたのではなくて?」


母あじさいの言葉に、ききょうは目を逸らしてうつむき、「その……ちょっと調べたいことがございまして……」と小さな声で自信なさげに言う。


「調べたいこと? どういったことか存じませんが多茂津に頼めばいいのはなくて?」


「そ、そうですが……その」



ききょうには言えなかった。


【ネットアイドルKickKick】について調べたいとは。



ききょうにはそもそもきくのやっている活動や世界がちんぷんかんぷんであったのだ。


きくに対してああは言ったものの、なぜきくがあんなにも憤ったのか。


ききょうは少しでもその理由が知りたかった。


七鶴の中では、博識家のキャラで通っているききょうだったが、現代の英知ともいえるパソコンやスマホは、非常に苦手な分野だったのだ。


というよりも、そもそも異常なほどの機械音痴でもある。


度々、スマホが謎の症状になる度、ぼたんに見せて解決してもらっていた。(ぼたんはききょうが持ち寄るたびに顔を引き攣らせている)



そんなききょうの弱点とも言える意外な面は、七鶴の中でも知る者は少ない。


しかし、きくの活動を知る上でインターネットは必要不可欠であると判断したききょうは、苦手なパソコンに再び向き合った……というわけである。



……結果は見ての通りであるが。





ゴホッ、ゴホッ……


赤い照明が怪しい部屋。大魔女クレインは、自らの命の期限が近いことを察していた。


魔具・遅松に込めた『約束の世代』へのメッセージ。


いつか来るはずのこの時を待っていたような、来てほしくないような……。


ともかくとして、彼女の中のここまでの時間はとても長かった。


かと思い、与作とのことを想えばやはり短かったように思える。


自分と与作との間の約束の象徴がさくらなのだ。


彼女を切り札にしたとき、大魔女クレインの『恩返し』は終わる。



だが、それが本当に『恩返し』になり得るのだろうか。そんな自問自答で数百年が経った。


ガルやクックー、カナリーよりも少し年長ではあるが、魔法少女としての寿命を考えた時、大魔女クレインに訪れた寿命は余りにも早い。


それはほかの魔女たちを見ても明らかである。


大魔女クレインの寿命を削った要因はいくつかあった。


ひとつは、一度鳥化してしまったこと。ここで大魔女クレインは魔力を一切失っている。だが、与作を喰ったことで、少しの魔力が戻った。

少しの魔力しか残らなかったということは、寿命に関しても同じことが言える。


一度瀕死の鳥化を経ているからこそ、他の魔法少女たちよりも早く寿命が訪れているのだ。


――ただ、大魔女クレインはそれを知っていた。


知っていて、さくらを育てたのである。



そして、もうひとつ彼女の寿命を縮めた理由……。


「大魔女クレイン。よろしいでしょうか」


語りの邪魔をするのはガルの声であった。大魔女クレインは「なにごとですか」と聞き返し、咳き込んだ口を抑える。


「……クックーが死にました」


仲間の死を報告しているはずのガルの声は、感情が一切乗っておらず無表情そのものだ。


それ自体は、いつも通りと言って良かったがいつも城で日常を共にしてきた同胞の死なのに、あまりにも淡々としている。


「そうですか……それは、残念です」


一方で大魔女クレインは、声にわかりやすく悲しみを孕んだ口調でガルに答え、仲間の死を悼んだ。


「本当に……そのようにお想いですか」


「ええ、とても悲しく思います。……何故そのようなことを聞くのです」


「いえ……」



何を考えているのかわからないガルの口ぶりに、大魔女クレインは鼻先をくすぐる程度の悪い予感を感じていた。


その予感が的中しないことを願いながら、大魔女は続ける。


「そのことを話しに来たのではなさそうですね」


「流石は我らが大魔女、御察しの通りです」


「話しなさい」


厚手のカーテン一枚で仕切られたガルと大魔女の間で、吹くはずのない風が吹き抜ける感覚。


明らかにこれは、ガルがなにかを持ち込んでいるのだと分かった。その上で、それを持っていぶっているのだ、と。


「かしこまりました。大魔女を疑いたくはありませんので、どうぞなにごとも包み隠さずお話ください」


「約束しましょう」


「……貴方は本当にお優しい方です。我らナハティガルには相応しくないほどに、慈悲と慰みに溢れている」


含みを持たせるガルの言葉に、一抹の不安が過る。だがそれを言葉には出さず、代わりに大魔女は「どういうことですか」と尋ね返した。


「私が言っているのは、大魔女を責める言葉ではないことを先に申しておきます。大魔女がお持ちである慈しみと優しさは、或いは人間にならば重宝されたものでありましょう。

 ですが、我々ナハティガルに同胞との絆はあっても優しさ、慈しみ、慰みなどの感情は持ち合わせてなかったはず」


「そんなことはありません。私達ナハティガルに於いてもその感情は存在していています」


「……言葉が過ぎたようです。言い方を変えましょう。

 それらの感情が無かったわけではありません。ありませんが、今の大魔女ほど深い感情をナハティガルで持っている者はただのひとりもいないのです」


ガルはシルエットだけが捉えられる大魔女を見詰めながら、「大魔女、貴方を除いては」と付け足した。


「あの村から帰ってから、大魔女クレインはまるで人が変わってしまったようです。なにがあったかなどは聞かないつもりではありましたが、同胞たちがこんなにも減ってしまった今、貴方になにがあったのかを知る時がきたのかもしれません」


「なにもありませんよ。ごく普通の偵察に、不遇の事故があり村に人間として身体を癒していただけです」


「……そうですか。では別の質問をしましょう。【金の魔法陣】について」


「またそのことですか」


大魔女クレインは、この【金の魔法陣】への質問については飽き飽きしていた。


なぜならばこの金の魔法陣を大魔女クレインが自らの少ない魔力の大半を費やしてまで敷いた結界のようなもの。


日本以外の国に出られないように張られた魔法陣は、国外に魔法少女が侵攻することを拒む魔法陣である。



かつて魔法少女たちの中で絶対的な権力と発言力を持っていた大魔女が決定したことは絶対であり、逆らうことも抗うことも、反論することも許されなかった。


根底から魔法少女たちの生態系を脅かすこの金の魔法陣について、大魔女クレインはなにも語らなかったのである。


だがその中でもガルだけは違った。


常日頃、この金の魔法陣の必要性を求めたのだ。


その度に大魔女クレインは、多くを語らず『必要なもの』とだけ話すのみ。


この金の魔法陣が存在するせいで、魔法少女たちは人間を喰えず、クレインとの戦いで数を減らしていく一方だったのだ。


日本国内だけでしか銀雪が降らないのはそういった理由である。



そして、前述に出た【大魔女クレインの寿命が短くなった要因】のひとつ。先ほどガルに邪魔をされた答えがこの【金の魔法陣】でもあった。


「何度聞いても無駄です。金の魔法陣は私達に必要なもの……。それ以上でも以下でもありません」


「なるほど……。大魔女、貴方はいつから人間を食されておられないのです?」


「……なぜです」


「貴方の衰えは、一度鳥化しただけではありませんね。金の魔法陣を敷いていることもありますが、それよりも魔力と体力の低下……。つまり、『食事』をしていないから……ではありませんか?」


「面白い推測です。流石は次期大魔女と言われているだけありますね」


「貴方が大魔女の座を退いた時にまだ、我々が生き残っていれば……の話ですが」


あくまでガルの言っていることは憶測の域を出ないと言いたげな大魔女は、ガルの言葉を笑った。


「いいでしょう。確かに私は人間を喰うてはおりませぬ。ですが大魔女として即位したナハティガルには、そもそも永続的な魔力の供給が行われるため、そもそも人間を食す必要がないのです」


「なるほど。歴代の大魔女も人間を食さなくとも生きていける上に、魔力も低下しない……そう仰るのですね。確かに大魔女の魔力構造的にはそうなのかもしれません。ですが、大魔女となり人間を必要としなくとも、食事はいわば我らの生態。必要としないとしても、『人間を喰いたい』という欲求は普通、抑えられるようなものではない、と認識しておりました。

 ……大魔女クレイン、貴方を見てそれが私の認識不足だと思い知りました。ありがとうございます」


ガルは最後に一礼し、カーテン越しの大魔女に背を向け、一歩二歩と帰りの歩みを進めたが、一度ふと立ち止まる。


「ああ……それと、言い忘れておりました」


「まだなにかあるのですか、ガル」


「いえ。別にどうというほどのことではありませんが……。クックーが死の間際に、【七人目のクレイン】に対して決定的な情報を入手したそうです」


ガルの話に、大魔女はカーテンの奥で眉をぴくりと動かし、その後に続くガルの言葉を待つ。


「しかし残念ながらクックーはすでに死んでしまいました。彼女が生きていれば、あの【七人目のクレイン】……さくらが何者か分かったのかもしれませんが、それももう叶わなくなりました。クックーが生き返りでもしない限り……」


大魔女の返事を聞かず、ガルは「ごきげんよう」とだけ言い残し、場を去っていった。


「……ゴホッ、ゲホッ! もう時間がないようです。さくら、あとは頼みました、よ」


ガルの姿が完全に見えなくなったのを確かめ、大魔女は前のめりに倒れ込んだ。



【人間を喰っていない】というガルの指摘は、的を得ていたのだ。

大魔女は人間を欲さない。……それは半分事実ではあるが、半分は嘘だ。


人間を喰わないという行為は魔法少女に取って、食事を取らないのと同義である。生物のごく当たり前の生態として、当然のことをしていないのだからまともに生きていけるはずがない。


だが、大魔女は頑なに人間を食すことを拒んだ。彼女は、与作を喰ってから一人の人間も食していないのだ。


「大魔女クレインと六鶴のクレイン……。名が同じというのはただの偶然にしては出来過ぎ……とは思っていましたが、本当に関係があるとは。なんと愚かで下等なのでしょうか。我らの主は」


1人城の長い廊下を歩くガルの瞳は、鋭く尖り紫色の闇を孕んでいた。それは、一つの決意を宿した強い光であった――。



「しゅしゅしゅ、ガル、戻ったっしゅね。準備は出来てるっしゅよ!」


「ええ、では始めましょう……。頼みますよ、《クックー》」


クックーのステッキを見詰め、ガルは不敵に笑った。





さくらの猛追を避けつつ自宅に辿り着いたきくは、薄暗くなった空の下、こそこそとあちらこちらと身を隠していた。


「うむ、誰もいないっすなぁ……。ここでさくらちんに見つかったら更に2時間プラスで帰れないコースっすから……」


忍者のような身のこなしで、ゴミ箱の影、電柱の影、猫に擬態、道路を往く自動車と一緒に走ったりと、とても真面目にやっているとは思えないほど真面目に聴くは自宅のドアをこっそりと開けた。


「ママりぃ~んただいまーあ」


「おりょりょ、お帰り! 我が娘よ!」


……なぜクレイン達の母親はどれもこれも娘とこんなにも似ているのだろうか。


「ありゃありゃ! かわいいネットアイドルがお腹をぺこぺこりんで帰ってきたっすよ! さぁメシっす、メシを出すっすよ!」


わちゃわちゃと踊り狂う下鶴親子。


彼女らにはこれが日常なのだ。


「わぁああ! 本物のKickKickだぁあ!」


ぴたっ


唐突にきくを迎えた声に、きくのダンシングが制止した。


「……おぬし、どこでその名を聞きなすった? っていうか、おぬし誰ぞ」


「あ! すみません急に……あ、あのKickKickのファンで……私、半知佳音っていいます! ヴォオイ!」


「ヴォオイ!」


佳音のことは知らないが、ヴォオイ! と来たらヴォオイ! で返さなくてはKickKickが廃るとばかりにきくは初対面の佳音とハイタッチを小気味よく鳴らした。


「……で、かのんのん(今付けたあだ名)は何者っすかぁ?」



ひとしきりヴォオイヴォオイ!! と3人(きくの母も)で踊り、叫び続けたきくは改めて佳音に何者かを尋ねる。


佳音は持参した自作KickKickタオルで額の汗を拭きながら、「ファンっす! マジファンっす!」と若干キャラ崩壊を起こしながら、興奮気味に言った。


「あんたも人気者なったすなぁ!」


そっくりなきくの母がきくをちゃかし、きくも「うひょひょー」とまんざらでもなさそうな様子であった。



「そんでですね、KickKick! ききたいことがあるんですよ!」


「おりょりょ~なんでも聞くがよい。きくだけに」


すっかり気分をよくしたきくは、佳音に対し寛大になっていた。その姿はまるで越後屋と闇取引をする大名のようだ。


「KickKickのあの衣装って、オリジナルなんですか?」


「あ~あの衣装ね! あの衣装はクレインの装束をまるパクリしただけっすよぉ~!」


「……クレイン?」



佳音が聞き返した瞬間、きくときくの母がグレーになり固まった。まるで石化だ。


「クレインってなんなんですか?」


「アリャッ! 吾輩、塾ニイカナクチャ!」


「ちょっとごまかさないでくださいよ~教えてくださいよ~クレインってなんなんですかぁ~」


その場を離れようとするきくの手を引き、きくの母はというと「さぁてごはんごはん、今日は子すずめのから揚げにしましょうか」とキッチンへと逃げ込んでいく。


「ちょ、ちょい母上! 母上ぇ!」


たまらず佳音の手を振りほどき、「すぐ戻るっすから」と母の元へ走るきくは、母に向かってなぜ佳音が家にいるのかを尋ねた。


「なんか、きくりんのファンだっていうからついつい……ね」


この親にしてこの子あり……といったところだろうか。


かなり軽いノリで自宅を訪ねてきた佳音を招き入れてしまったようだ。


「ちょっと母ちん! そんなことしちゃったらうら若き乙女のきくりんが獣のような男子に襲われて操喪失とかになっちゃったらどうするんすかぁ!」


「まぁそれはそれで? ありかな? みたいな?」


きくは恐る恐る振り返ると佳音がニコニコと笑いかけていた。


……ニ、ニコ。


「(う~これ以上騒ぎが大きくなっちゃうと、ききょうちんがまたおかんむりになっちゃうだろうなぁ~……、困った、困ったぞきくりん)」


心の声も虚しく、きくの「ところで今日はいつまでおられるっすかね?」と尋ねると、佳音は「今日は泊めていただけることになってますぅ~ヴォオイ!」、ニッコリと言い放った。


「そ、そうですか……」


明後日に迫った島根銀雪だが、このトラブルに見舞われたきくは、どんな手を使った所で絶対に参加できないことを覚悟した。


というのも、きくにせよききょうにせよ、反省さえきちんとしておけば七人で銀雪の地へいけるのではないかと、少しの期待を持っていたからである。


「このままじゃききょうちんだけが参加しちゃう……みたいなこともあるかもしれないすなぁ。それはそれで超シャクす」


「ききょう? 桔梗……ってお花ですか」


佳音が覗き込んでくるのに合わせて、きくは「踊ろう! 今日は踊ろうよ! ヒーハー!」と手を取り合い、3人(きくの母も)で踊り続けた。


その夜、きくの家から『ヴォオイ! ヴォオイ!』という叫び声が絶えることはなかったという……。



翌日、きく宅の前にききょうが立っていた。


まだ午前中だったが、根は真面目なききょうである。早めにトラブルを解決しようと考えたのだ。


些か腑に落ちないが、自分は大人だと自分自身を戒め、きくに謝罪をして明日に控えた銀雪に参加しようと考えたのだ。


玄関前のインターホンに指をあてがい、深く深呼吸をする。


「(怒らない、怒らない……怒ってはいけませんわ)」


心で唱えるききょうは、意を決してインターホンのボタンを押した。


『♪』


「はぁい、お? ききょうちゃんすな、きくは部屋にいるからどうぞどうぞ」


またまた軽いノリできくの母はききょうを家の中へと招き入れた。この街の防犯とはどうなっているのか。


「ありがとうございます。それでは失礼ながらお邪魔致しますわ」


そう言って土間まで入るききょうの眼には、見慣れない女性の靴が目についた。


「どなたがいらっしゃるのでしょうか?」


ききょうが尋ねた時には既にきくの母はリビングで、コントローラーを振り回しながらゲームに夢中になっていた。


「……自分で確認いたします」


『ヴォオイ! ヴォオイ! ィヤッハァア!』


きくの部屋へと近づくにつれ聞こえてくる叫び声に、ききょうは実に嫌な予感がした。


まさかとは思うが、反省していない……なんてことはないだろう。そう思いながらゆっくりとドアを開いてみると……。


「ヴォオイ! ヴォオイ! アーイエー!」


部屋では昼前の早い時間帯であるというのに、二人で暴れまわるきくの姿が焼き付いた。


「きぃくぅううさああああああああんんんn!!」


鬼ききょう再び。


「ひぃぃいい! ききょうちぃいいん!」


「あれだけわたくしが説きましたのに、まだお分かりでないのですか! 大人げなかったと謝罪しに訪れたというのに、反省の色もなく騒いで踊り狂っているとはどういうことですか! 貴方と同じクレインだと思うと情けなく思いますわ!」


怒りに任せてききょうは怒鳴り散らし、身を震わせた。


「ちょ、ききょうちん! まずいって……!」


「はあ!? なにがおかしいのですか! 大体、銀雪で島根に明日行かなくてはならないというのに、このような……」


「クレイン?! 銀雪って……! 一体、クレインってなんなんですか!?」


「……え」


ききょうの時間が止まった。


心の中を覗いてみると、『え、誰ですのこの御方? 学友でしょうか……いえ、それにしてはわたくしどもより落ち着いた印象が……。ということはつまり、この女性はわたくしの知らない……というよりクレインと関係のない……ひぃぃいい』といったところだろうか。


これは間違いなく彼女らの危機と言って良かった。


「やっぱり! なにか隠してますね? ……まさかとは思ってましたけどKickKick……」


ずい、ときくの顔に距離を詰めた佳音は、真っ直ぐきくの瞳を見詰めた。


佳音の瞳を映すきくの瞳は涙目になり、潤み瞳に映った佳音を歪める。


「教えてください……、やっぱりKickKickはヒーローなんですよね!?」


「……へ、ヒーロー?」


「そう! ヒーローなのです! そこのききょうさんもそうなんですよね!?」


こっそりと部屋から出ていこうとしたききょうは、肩を激しく揺らし、退出するタイミングを脱してしまった。



「い、いえ……その、クレインというのはですね……あの……きくさんのコスプレのあれです」


しどろもどろで汗をかくききょうの姿はなかなか見れるものではないので、きくもドギマギしながらもそんなききょうを楽しく見詰める。


「KickKickのコスプレ……」


ききょうの歯切れの悪い話の尻を取り、佳音はその先に続く言葉を考えた。


佳音の視線から一時的に逃れたきくは、顎さきに指をあてて考えている佳音の「コスプレ」という言葉になにか閃いたように、目を見開くと「そうだ!」と叫ぶ。


「な、なんですか!? 急に大きな声出して……」


急な大声に狼狽えた佳音がきくに尋ねると、きくはさらに顔を近づけて大きな口を釣り上げてにんまりと笑った。


「ヴォォイ……バレちまいましたかぁ! そうっす! かのんのんの言う通りっす!」


「ちょっときくさ……」


ききょうがきくが乱心したのかと口を挟もうとするのを「じ・つ・は!」と上から被せて阻んだ。


「やっぱり! KickKickは悪を滅ぼすヒーローだったんですね!」


「ふほほぉ! そうなのだぁ! きくりんたちは『クレインジャー』のコスプレイヤーなのだぁ!」


「く、クレインジャーのコスプレイヤー??」


思わず反芻する佳音に詰め寄り、鼻をこすり合わせながらきくは続ける。


「そう! 『魔女っ子戦隊クレインジャー』! 説明しよう魔女っ子戦隊クレインジャーとは、地下同人世界できくりんが超ハマってる戦隊なのだ!」


ごそごそと机の引き出しを漁り、きくは誇らしげにそれを取り出すと薄い本を佳音に見せつけた。


「こ……これは……!」


そこからだと絶対に見えないだろう……と思うくらい至近距離に押し付けられた薄い本を見て、佳音は唾を呑んだ。


【魔女っ子戦隊クレインジャー】


というタイトルバックに、5人のクレインがポーズを決めている。


「ふふふ、まさかのセンターがイエローという狂った内容の新感覚戦隊ヒーローなのだよ」


自慢げに話すきくをききょうは口を半開きにして見た。


「わあすごいすっごーい!」


素直に感動する佳音はペラペラと薄い本をめくるとしきりに「すごーい!」と叫んだ。


(いつのまにあんなものを……)


ききょうはその薄い本の絵柄に見覚えがあった。

決して上手いといえない絵柄だが、妙に構図が上手くコマ割りをして書くと不思議とそれっぽく見えてしまう特殊能力を持つ女……そう、きく本人である。


時々あんな風にノートに描いていたのは知っていたが、まさか同人誌にしているなんて……。



と、ききょうはそこまで思考が辿り着いたのだ。その上で、ため息を吐いたがとりあえずはこの状況を脱せそうだと、胸を撫で下ろす。


「すごーい! そうなんだこのコスプレだったんですね! ……あれ、でもこの中にききょうさんがいなくない?」


「えっ」


思わぬところで自分の名前が飛び出し、ききょうは佳音が持つ本を見詰めた。


(あの表紙にあるのは……きくさん、ひまわりさん、ぼたんさん、さくらさん、ふじ……さん)


最近、合流したつばきがいないのは良しとしても、自分だけがいないのはどういうことか? ききょうはその理由をきくの口から聞かずとも手に取るように分かった。


「そ、それはね……ききょうのポジションは、ほら、6人目のポジションで特別だから、後で登場すんの!」


「っへー! そうなんですねー! この同人誌の作家さんも嬉しいでしょうねー! 自分の作品にこんな熱心なファンがいて! えっと、作者は……『KickKick』?」


「おりょぉおー! そう! そうっす! きくりんの『KickKick』ってハンドルネームはその人の名前を勝手にパクっちゃったってわけでぇ!」


だらだらと汗で全身をびっしょりに濡らすきくは、もはやほぼ液状化していた。


「ええー! そりゃまずいけど、でもKickKickのかわいさだったら、作者さんも楽勝で承諾っすよねぇ! すごーいすごーい!」


液状化したきくをぴちゃぴちゃと両手で叩きながら、佳音はきくの言葉を鵜呑みにするのだった。


「……けど、銀雪の空に映っていたのって、一体なんだったんだろ? KickKickじゃないとすれば」


「銀雪の空に映っていた?」


佳音の言葉をききょうは聞き逃さなかった。確かに佳音は今、『銀雪の空』と言った。それだけではなく、『映っていた』とも。


「佳音……さん、でよろしかったかしら」


「ええ。半知佳音ですヴォオイ!」


「銀雪の空とはなんでしょう? 確かに私達の住むこの葵町は全国で最も銀雪が多発する町です。その町で降る銀雪を撮影していたのですか?」



銀雪は、魔法少女の魔力に寄って降雪する謂わば、『魔法少女にとっての酸素』のようなものである。


この銀雪が降っている時、映像や記録媒体は異常をきたし真実を映せなくなる。

それは、【本当の姿を見られると死ぬ魔法少女】と、【変身を見られると力が無効化するクレイン】にとって絶対的なものだ。


それがどのようにかは分からないにせよ、クレインや魔法少女の姿が確認された……ということは、ききょうやきくらクレインたちにとっても危険なことだといえた。


そして、ききょうは想う。


自分たちの姿が映ったのならば、それは恐らく魔法少女が6体で現れたあの時。


あの時ならば、恐らく銀雪を降らせている魔力と召喚した魔法少女のつり合いが取れず、銀雪の効果がかなり弱まっていたと理解できる。


「ああ、それは仕事なんで」


ききょうの問いに佳音はそのように答え、続けて「銀雪について調査する機関で働いてんですけどね」と液状化したきく眺めながら言う。


「ちなみに……KickKickにききょうさん。明日ってちゃんと葵町に……いますよね?」


「!!」


佳音の問いに、ききょうと液状化したきくは目を合わせた。


「もちろんですとも!」


ききょうときく……。


確かに、明日は葵町に残れと言われている。それは今回のきくとききょうの衝突の責任によるものだ。

ここで仲良さをアピールし、喧嘩をしないことを挙げれば明日の島根で発生予定の銀雪に参加させてもらうつもりであった。


そしてそれは恐らく、受けいれられる。他のクレイン達は本気は本気だが、「頭を冷やして仲直りさえしてくれればよい」という姿勢だと思われていたからだ。


しかし、ここでききょうときくが明日、島根戦に合流してしまえば、確実に佳音からさらに疑問視されるだろう。


それだけは、どうにも避けなければならない。ききょうは胸の内で思うのだった。


「ですよねー! だってKickKickもききょうさんも明日、学校ですもんね!」


「そうですわ。わたくしたちは勉学が本業ですもの。クレインジョーのコスプレばかりしているわけには行きませんわ。おほほ」


「すげぇ! おほほって笑い方初めて生で聞いた!」


「おほ……っ」


徐々に液状化から戻り形を取り戻してゆくきくは、佳音に「ちなみにかのんのんはいつまでいる的な?」と葵町に滞在する期間を尋ねると、佳音は敬礼のポーズを取る。


「今晩帰るです!」



佳音の答えを聞き、ききょうときくは顔を見合わせて安堵の息を吐いた。






『どうだった』


電話の向こうで若い男の声が佳音の耳をつねるように冷たい口調で尋ねた。


その口調を聞いて機嫌を悪くした佳音は、「どうもこうもないですって!」とぶっきらぼうに答える。


『なんだ。収穫なしかよ』


「どうでしょうね。まだわからないです」


電話の向こうの主は、勝地というオペレーター仲間であった。


所属はもちろん、ミリオン。佳音にとっては『トータス』……か。


「ただ、ちょっとしどろもどろな部分があったし、全部信用できるかっていうとわかんないですね。かといってKickKickが本当にあの映像の人物だったかっていうのも微妙だし」


『自信満々で「同一人物です」ってそっちに行く前に言ってたじゃねぇか』


「……実際会うまでは同一人物だと思ったんですけどね。あ、そうだKickKickって名前で、同人作家探してみてもらっていいですか」


『なんだ、同じ人間か?』


「本人は別人だと言ってますけどね。けど、一応調べといてもらっていいですか?」


『わかった。もう帰るのか?』


「いえ……私はもう少しいることにします。調べたいこともあるんで……」


『そうか。経費は落ちんぞ』


「ぶしゃああっ!」


なにかを盛大に噴き出した佳音は、電話を切ると一駅隣のビジネスホテルへと向かうのだった。





――島根銀雪当日。


ひまわりはききょうときくを心配そうに見つめた。


そこには他のクレイン達も集まっていて、相変わらず険悪なムードのきくとききょうを見守っていた。


「ききょうちゃん、きくちゃん、本当に行かないの?」


「わたくしは行きたいのですが、この小さな小さな砂金の粒のような人が謝らないものですから」とききょう。


「ほぉほぉ、この期に及んでまだそんな空気読めない発言するっすかぁ? さすが金持ちお嬢様キャラっすな。使い古されたキャラだもんねぇ」


「使い古されたキャラですって!? このわたくしのどこが使い古されているというのです! わたくしは鶴野家の正しき長女ですのよ!」


「そういうところだってわかんないわけ? あ~りゃりゃぁこりゃまたかわいそうですなぁ」


「わたくしから言わせればかわいそうなのは貴方ですわ、きくさん。友達はネットと訳の分からない音楽、人間の友達が少なすぎて口の聞き方もわからないのですよね!」


「はぁ~あ!?」


「なにか文句でもおありで!?」


懲りずにヒートアップする二人を見て、「ほら見ろ、この二人が簡単に譲り合うわけないだろ」とふじが半ば呆れたように言う。


「まぁ、今回は最初に言った通りきくとききょうは置いていくさ。戦力的には怪しいけど、今の二人はいるだけ邪魔さね」


容赦のないぼたんのコメント。これには流石の二人も黙ってしまった。


「ちょっと待つっすよぉ! なんできくりんがこんななんちゃって★ゴージャスのせいで置いてけぼりくらわなきゃなんないっすか!」


「それはこちらのセリフですわ! なぜわたくしがこのような口の減らない幼児体型の幼児の被害を被らなければならないのです!」


二人がほぼ同時に主張し、自分を銀雪の地へ連れていくよう求め、これにはさすがに他のクレイン達も呆れてしまった。


「……行こう。この分じゃ次の銀雪んときも危ういな」


痛烈なふじの言葉を残し、ぼたんと共に他のクレインたちは出発してしまった。


「よっし、……と」


「これでひとまずは安心……といったところですわ」


皆が去った後、きくとききょうはそのように言い合うと、顔を見合わせた。


「ふんっ!」


意気投合してしまったようで二人はそう言って顔を背け合った。



「なにしてたんですかぁ?」


外に出た二人を待ち構えていたように佳音が目を細めて尋ねた。


帰るっと言っていたはずの佳音の姿を見て、二人は揃って驚いて見せた。


念のためにと、わざとふじたちの前で喧嘩をしてみせて島根行きを断念したが、結果としてそれは正解であったとききょうは思った。


「あなたには関係のないことですわ」


「そりゃそうですけど~」


そう言った佳音の背にきくが飛び乗り、衝撃で佳音は思わず「ぐほっ」と咽んだ。


「まあまあそんなことよりまだこの町にいるんならカラオケ行くっすよ! ヴォオイヴォオイ!」


「む! それは言い考えですねぇ! ヴォヴォオイ!」


「……ついていけませんわ」


ききょうの呆れる言葉に、きくと佳音が反射的に首を向かせる。


「あんたも行くんだよ!」


完全にハモった。それはもう綺麗にハモったのだった。


「え? え? わ、わたくしも……ですか?」


「ったりまえじゃんっ! ありゃ……? もしかして、ゴージャスのくせして、人前で歌うのが恥ずかしいとか……?」


「な、なにを仰いますの! 失礼な! ……行きますわ、行きますとも!」


「なんかムキになった!」


「じゃあさくらも行くー!」


「おおっ! いいっすなぁ! さくらちんも行くっち!」


「行く行くー!」


「ウリィイイ!」



「…………」


盛り上がるきくとさくらを見て、口をパクパクさせているききょうの顔色は悪かった。


それもそのはずである。


この場にいないはずの人物が、突然この場に出現したのだ。……それも、ここに居てはいけないはずの人物。



「ぬぁぜ貴方がここにいるのですかーー!!」


おおう、今日一番の大声でききょうは叫んだ。ききょうの叫んだ内容にきくもその一大事に気付く。


「はにゃわわぁああ! さ、ささ、さくらちーーん!」


「ね? ね? 早く行こー! カラオケって美味しい? ゴハン系? 麺系? おやつ系? タピオカの親戚?」


さくらはカラオケを食べ物だと思っているようで、ニコニコと嬉しそうに聞くが、誰も答えない。


「……さくら? えっと彼女もクレインジャー……」


「うん? あなたはだあれ? なぜさくらがクレインだって知ってるの? 新しいクレインの人?」


「んなぁーー! そう! そうそう! さくらちんもクレインジャーの一人なのよねぇ~! ね?」


「そうだよ! さくらはぶっ飛びのクレイン、鶴賀さくら……じゃない、もう鶴賀って使っちゃダメなんだっけ。じゃあえっと、えっと……さくらさくら!」


さくらは『さくらの思う格好良いポーズ』を取り、佳音に見せつけた。


「とう! はっ!」


「か、かか、かっこいいーー!」


「え? かっこいい?? ふふふ、じゃあもっとかっこいいの見せてあげよう! かっこよすぎてぶっ飛ぶんだから! 百花繚……」


「あほかぁあああ!」

「ぶげらっ!」


佳音の前で惜し気もなく変身しようとするさくらの鳩尾に、きくの『ぶっ飛びきくりんロケット』が炸裂し、さくらは胃液を吐き出しながら白目を剥いた。


「百花繚……乱? それって変身のときの掛け声とか?」


「そう! そうなのです! この方は少々わたくしどもの中でも思い込みが激しいほうでして……」


ききょうも慌ててフォローに回り、笑顔を引きつらせる。


「さくらさん! なぜここにいるのですか!?」


さくらの耳元でききょうが聞くと、さくらは白目のまま首をぐらんぐらんと揺らしながら


「だってぇ……なんか、わざと喧嘩してたからぁ……さくらが仲直りぃ……がくっ」


失神した。


「ちょ、ちょっときくさん! やりすぎですわ!」


「否めない」


「そ、そそ、それよりも救急車呼んだほうが……」


きくとききょうは焦る佳音の言葉に、目を合わせると「それは大丈夫」と声を重ねた。


「だ、大丈夫って……大丈夫じゃないでしょう!?」


「そんなことよりカラオケ行きましょう! カラオケ」


「だね! だぁね~! ヴォオイ!」



さくらを担ぎ、無理矢理カラオケに向かうききょうらの傍をとある親子が横切っていった。


手を引かれる少女がなにかに気付いたように空を見上げ、「ねぇママぁ」と母を呼ぶと優しく母親は相槌を打った。


掌を開いた少女が、空を見詰めながら母に言った。


「雪が降ってきたよぉ」




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