前編
「ギメイさあ…お前、本当ちゃんとやってくれよ…!」
「…コウゲさん…本当にすみません…。頑張ってはいるんですが…」
多くの人で賑わう酒場にて…
ここ半年ほど毎日言われ続けている愚痴に対し、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。
それもこれも全て僕のせいだ。僕の能力さえ上手く発動してくれれば…。
「俺はお前の“魔剣作成“の能力と、”剣術“の能力に期待してパーティに勧誘したんだ。…それなのにどうだ、お前は?!一度も能力が発動したことがないじゃないか!?ああ?!魔剣が作れるんじゃないのかよ?!」
「ほんとにすみません。自分でもよくわからなくて…」
「…はあ……これじゃあ何のために仲間になってるかがわからないじゃないか?!ほんと、勘弁してくれよ!?」
コウゲさんの愚痴は止まらない。…はあ。
「まあまあ、コウゲ。そんな怒んなくてもいいだろ?まだ彼が仲間になって一年しか経ってないじゃないか」
「そうよね。能力が発動しないってことは何か、おかしなことが起きてるんじゃない?」
「フルキ、マイ。お前らは甘やかしすぎなんだよ!!そんなんだからいつまで経っても能力が発動しないんじゃないか?!」
いつも通り、他のパーティメンバーである、フルキさんとマイさんが僕を庇ってくれている。彼らは僕がパーティに入る前からのメンバーで、コウゲさんの親友らしい。
けど、かえってその慰めが心に響いてしまう。自分が上手くできていないこと、みんなの足を引っ張っていることを実感させられ、惨めになってしまう。
「いやいや。確かに能力が発動しないなら僕らのパーティにいる意味はない。けどな、発動すればあり得ないほどのリターンを得られるんだぞ?なんせ魔剣だ。大国の宝物庫に厳重にしまってあったり、剣聖や勇者が持ってたりするぐらい貴重なんだぞ?」
「いや、だがなあフルキ。もうかれこれ1年もいるのに上手く行ったことが一度もない。ましてや、“剣術”に関しても一度もうまく発動できていないじゃないか。それに関してはどう考えるんだ?!」
「うーん…。それに関して聞かれると困っちゃうな…」
「そうね。それは私もよくわからないわ。魔力を使う能力が発動できないってことは、魔力回路がぶち壊れてるか、はたまた、魔力が全くないのどっちかだけど…。私がみた感じ、魔力が全くないってわけではないのよね〜」
そうなのだ、何故か僕の能力は発動しない。“剣術”も“魔剣作成”も。…原因は一切わからないのだ。
「…そろそろ、迷宮の攻略も最下層へと突入する。これ以上、敵が強くなると、俺たちではお前を庇いきれない。だから…」
「いや!もう一度だけ!もう一度だけチャンスをください!今度こそ成功させます!」
ここで職を失ってしまうとまずい。病気でぶっ倒れている親の薬を買うために、短期で、そしてたくさん稼げるこの迷宮探索者になったのだ。
薬は高い。まず、生産できる人材が少ない。さらに素材も希少だ。
農民では、5年働かないと買えないほどの値段になっている。
それを1日の働きで稼げるのだ。食いつかないはずがない。
…だが、現実はうまくいかない。
実際にそんな大金を1日で得ることができる人なんて一握りしかいない。
僕が参加させてもらっているこの、双柳、のパーティもそこまではいかない。けど、そこそこの稼ぎはできているらしい。
自分も、1ヶ月に一本必要な薬を買える分と、様々なことに使う分を1ヶ月に一度、配当としてもらえている。特に何もできず荷物を運んでいるだけなのに、これだけのお金を貰えているのは感謝しかない。
「そう言ってるけど、どうするの?コウゲ?」
コウゲさんは難しい顔をしている。…頼む……!
「……仕方ねえ…。明日、最下層へと突入する。その際、上手く能力を発動させろ。そこで失敗したらお前にはやめてもらう…」
「…!ありがとうございます!絶対に。絶対に成功させます!!」
「頑張れよ。最悪、失敗したとしても俺がコウゲの代わりに雇ってやるよ」
…やった…!何とかなるかもしれない…明日こそ絶対に発動させて、この仕事を続けるんだ…!
「明日、いつもの場所で集合な。それじゃ、今日は解散!」
酒場を出て、僕はいつも寝泊まりする宿へと足を進める。
喜びと不安が混じった気持ちは足取りを重くさせ、高鳴る心臓は、自信を恐怖の闇へと引き摺り込もうとする錯覚を生み出す。
夜空に浮かぶ星は、暗闇から存在をどうにかして示そうと明るく輝いているようにも見えた。
宿に着く。そして、そのままベッドに飛び込み、暗い天井を眺め、
「はぁ……明日こそ……上手くやるんだ……!」
そう決意する。
そして、浅くもなく深くもない眠りへとついた。
どうでしょうか?
この作品は、流行っていたもう遅い、というものを見て、もう遅いがあるならまだ早いがあってもいいだろう、ということでできたのがこの作品です。
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中編、後編でおわらせます。