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第8話 反省、開始。

「死ぬかと思った。二重の意味でクビが飛ぶかと」


「お疲れさん。嫌な役回りだったかもしれんが、よくやったな」


「ほんとですよ! 俺もう二度と貴族絡みの仕事には関わりたくないっす」


「そいつは無茶な注文だ。なんせ俺、人間国宝だからな。これからもバンバンお偉いさんからの仕事が来るだろうから、覚悟しとけ」


「うへー!」


 公爵が馬車を出してくれると言うのでお言葉に甘え、激動の公爵家を後にした俺たちはたっぷり弾んでもらった報酬を銀行に預け、そのままあったまった懐を抱え大衆食堂に直行した。『N亭R』の看板が燦然と輝くナイトレックス亭は親方の行きつけのお店だ。安くて美味い、しかも全ての料理と飲み物がボリュームたっぷり、というドワーフやオークの客向けの店は仲睦まじいおしどり夫婦が仲よく経営しているらしい。夜の店内には柄の悪そうなドワーフやオークや冒険者がたむろしておりパンツスーツ姿でも隠しきれない美少女オーラキラキラの俺にスケベな視線を向けてくるが、隣の親方に気付くと皆スっと目を逸らす。


「いやはやしかし。普段は投げやりなお前さんがそこまで怒ってくれるとは予想外だったぞ。俺、正直嬉しかったんだぜ?」


「投げやりって、親方、俺のことそんな風に思ってたんすか?」


「事実だろうが。羞恥心皆無で女を捨ててやがるわ音楽にも全く興味を示さんわ、おまけに俺みたいな老いぼれジジイの世話にかまけて碌に男の一つも捕まえようとしねえ。若い娘がそれじゃあ心配して当たり前だろ?」


 だって俺、見た目は13歳の美少女でも中身31歳とっくに過ぎてるおっさんだもん。男と恋愛なんかする気全然ナイモン。可愛い女の子と百合百合しいラブロマンスを、と考えようにもスマホもネットもないこの世界じゃあそんな相手どこで探せばいいのか見当もつかん。


「俺のことは別にいいんすよ。それより彼女ですよ彼女。まさか」


 公爵家のお嬢さんがあんなメンヘラ娘だったとは、と言いかけた俺の口に親方が怖い顔で焼き鳥を突っ込んでくる。


「おい、分かってるとは思うが」


「すんません、今のは俺が悪かったっす」


 おっと危ない、守秘義務守秘義務。どこから噂が漏れるか分かったもんじゃないもんな、反省反省。反省と言えば俺だよ。冷静になると恥ずかしかったのは大概俺も同じだ。なんだあれ。精神年齢アラフォーのおっさんが10代の小娘相手にガチギレマジ説教とか。今日やらかしたことを後悔しちゃいないが、字面だけ見るならキャバクラで説教かますおっさんと大差ないかもしれん。ゆめゆめ気を付けねば。頭に来たからお客さんを怒鳴り付けるとか、まあ、親方や工房の職人たちはよくやってることだが、それでもやはり、まだ10代の子供相手だったのだから冷静に諭すべきだったのでは、という気持ちがどうにも拭いきれない。今回は結果オーライだったからいいけどさ。それで済まなかった時はもうね。


「ま、何はともあれこれで今回の仕事はしまいだ。あのギターとお前さんの度胸に、乾杯」


「そっすね。親方のいい仕事に、乾杯。これが最期の晩餐にならなきゃいいけど」


「なんだ、今更怖くなってきたのか?」


「いや、別にそういうわけじゃないすけど。公爵とお嬢さんはともかくあのシスコン丸出しの弟君、露骨に俺のこと睨んでたじゃないすか。逆恨みとか買いたくねえなって」


 それから俺たちは他愛もない話をしながら夜遅くまで飲んだ。といっても俺は酒を飲めないため専らノンアルコール飲料ばかりで、親方が飲んでる酒を羨ましそうに見つめながら料理を頬張るのが関の山だったが。10代の体はいいね。どんだけ飲み食いしても胃もたれしないんだもん。おっぱいはあるけど前世ほど肩も凝らないし足取りも軽い。視力だってバッチリだ。


「なんだ、そんな熱い視線を送りやがって。とうとう俺に惚れたか?」


「まさか。親方、飲みすぎないでくださいよ。親方がぶっ倒れても俺の細腕じゃ持ち上げられませんからね?」


「なんだ、つまらん」


 危ない危ない。酒をガン見しすぎてしまったか。公爵家の馬車は銀行で返してしまったため、ここから工房と隣接した親方の家までは歩いて帰らねばならんのだ。


「なあに、その時はここに泊まっていけばいい。2階は宿屋も兼ねてるからな。俺もよくお世話に……っと、口が滑っちまった」


「あ、そっすか。それなら安心ですね。階段転げ落ちなければの話ですけど」


「まだそこまで耄碌してねえぞ!」


 何はともあれ親方は大仕事を一つやり遂げた。俺のクビも二重の意味で飛ばずに済んだ。公爵は娘の鬱が改善されてニコニコだろうし、彼女も少しは前向きになれただろう。唯一の懸念点は部屋を出ていく時に俺を睨んでいた弟君だが、そこら辺はまあ公爵たちがなんとかしてくれるに違いない。もし逆恨みされたらその時は工房の職人たちに理由を話して泣き付けば助けてはくれるだろう。それぐらいの信用はある。


「ま、なんにせよよくやった! さすがはうちの看板娘だ!」


「誰が看板娘っすか!」


 酔っ払って上機嫌になった親方が俺の頭をグリグリ撫でる。女の子、それも13歳の思春期女子の頭を許可なく撫でるとかセクハラっすよ親方、とは言わないでおいてやるか。俺の中身が中身だからな。

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